ナタリー PowerPush - Prague
本領発揮の2ndアルバム「明け方のメタファー」
Pragueが2枚目のフルアルバム「明け方のメタファー」をリリースする。デビューから約2年、「新しい王道を作りたい」と自らの理想を語っていたスリーピースのロックバンドが、いよいよその本領を発揮した1枚だ。
ミニアルバム「花束」からシングル「バランスドール」を経て、音楽を通じて何を表現するかを深く見つめ直したという彼ら。新作では、バンドの武器である跳ねるグルーヴ感と躍動感あるアンサンブル、そして独特の色気を持った鈴木雄太(Vo, G)の歌声を通じて、深い情感が伝わってくる。
大きな成長を果たした3人に、アルバムに込めた思いを語ってもらった。
取材・文 / 柴那典
朝に始まって、また次の日の朝を迎えるような作品
──まずはタイトルの話から訊かせてください。「明け方のメタファー」というのは、曲名から取ったわけではなく、アルバムを象徴する言葉としてつけたわけですよね。
鈴木雄太(Vo, G) そうですね。曲順とタイトルを同時進行で考えていたんです。で、「メタファー(隠喩)」という言葉自体は早い段階からあって。僕は曲中で、モノや情景の描写を通して感情を表現したいと思っていて、物質が感情のメタファーになるような歌詞の書き方をしているので、そこからメタファーという言葉は出ていたんです。で、「明け方」という言葉は、曲順が決まったくらいに出てきましたね。「時の鐘」で始まって「太陽と少年」で終わる、朝に始まってまた次の日の朝を迎えるような作品になったので、「明け方」という言葉自体に深い意味合いを感じて「明け方のメタファー」というタイトルになりました。
──朝の描写で始まって朝の描写で終わるアルバムになるというのは、最初からそういうコンセプトがあったんでしょうか?
鈴木 作った楽曲を曲順どおりに並べて聴いている途中で発見したような感じです。「こういう作りになったか!」という。マンガを描いていたら自分でも思わぬ方向にストーリーが進む、みたいな。
──並べてみてアルバム1枚のストーリーが見えたという。
鈴木 そうですね。気付いたら「時の鐘」と「太陽と少年」の間にあるすべての楽曲が、明け方に向かうパワーを持っている感じがしたんです。そこに進むための力を与えてくれる楽曲になっているし。すべてが符合する感じでした。
「秋揺れ」は“越えられない壁”だった
──シングルとしてリリースされた「バランスドール」は、パーカッションを導入してバンドの新しい可能性を見せた曲でした。このアルバムを作る上で、あの曲がポイントになった部分はありました?
鈴木 作った後に気付かされる部分は多かったかな。僕たちの曲の作り方自体も、以前に比べて健康的になったと思います。僕は形を作りたがるというか、できたものを壊したくないタイプの人間で、ある種保守的なところがあるんですよね。でも、2人には「この曲にはキーボードを足すことでコード感が聴こえるようになって、もっと良くなる」というような発想もあって。そういう意思疎通をしたことで、必要なところには新しい楽器を入れることもできた。そのきっかけになったのは「バランスドール」だと思ってますね。
──アルバムを作る過程としては、「バランスドール」がとっかかりになったんでしょうか?
鈴木 「バランスドール」の前にできていた楽曲はありました。レコーディングが最初に終わったのは「スノーラン」ですね。
伊東賢佑(Dr) でも、デビュー前からずっとある楽曲は「秋揺れ」ですね。
──「秋揺れ」が一番古い曲なんですね。このスウィング感はアルバムの中でも一番わかりやすい特徴になっていると思うんですけれども。これはバンドの中ではどういう曲だったんですか?
鈴木 曲ができたのは20歳の頃だったので、それぞれ思い入れはあると思うんですけど。その当時はハーフタイムシャッフルという言葉の意図もわからず、ただ跳ねていたんですよね。で、デビューして「秋揺れ」をリリースするタイミングはいくらでもあったと思うんですけど、以前は「秋揺れ」自体をPragueとして表現できると思えなかったんですよ。でも、今になってやっとPragueとして「秋揺れ」を表現できるようになった。跳ねるということの意図もわかり、「秋揺れ」という言葉の真意もわかって、歌詞もそこから派生する文章に書き直して。若いときに作ったがゆえのリラックス感が残っている中で、曲を突き詰めて考えて、今僕らが持てる力を落とし込めたんです。今までとこれからが詰まっている楽曲だと思いますね。
金野倫仁(B) この曲は僕らにとって“越えられない壁”だったんです。まだPragueでもなかった5年前に作って、自主制作盤にも入れていた曲で。その頃は今に比べて知識もないし、演奏も下手くそだったけど、疑いがないからすごく爆発力がありました。自分の演奏にも根拠のない自信があったし。だからこそ、デビュー以降の自分には「秋揺れ」はできないんじゃないかとずっと思っていて。思い入れが補正されてデカくなってる分、勝てないと諦めてたんですよ。でも、手をつけてみたら、理性でそれを超えられた感じがしました。勢いとかよくわからない自信じゃなくて、演奏家としての達成感がすごくあった。やっと勝てた、という。
伊東 僕も2人と同じで、手をつけるのが怖かったんですよ。でも、この曲は初めて3人でセッションで作った曲だったし、曲の存在はずっと強く感じていました。アルバムの楽曲制作の合宿に入ったときも、「この曲をアルバムに入れなきゃ辞める!」というくらい「秋揺れ」を推してたんです。ずっと眠らせておくにはもったいない、そのままサヨナラしてしまうのがイヤだったんですよね。で、やっぱりレコーディングもアレンジも、昔の自分との戦いでした。あの頃持っていた冒険心と無鉄砲さが楽曲からにじみ出ていて。それを今のスキルと知識で、当時よりもどれだけいいものにできるだろうって。細かく言うと、ドラムのフィルも無茶苦茶なんですよ。効率の悪いアレンジばかりしていて。気持ちだけで勝負していたんですよね。でもそこを活かしつつ、無駄な部分を削ぎ落して、いい部分を鋭くしていく。その作業がすごく楽しかったですね。
Prague(ぷらは)
鈴木雄太(Vo, G)、伊東賢佑(Dr)、金野倫仁(B)による関東出身のスリーピースバンド。同じ高校で3年間同じクラス、軽音楽部、プライベートも一緒にいた腐れ縁の鈴木雄太と伊東賢佑の2人が、同じ音楽専門学校に進み、2006年に金野倫仁と出会って結成。自主制作盤を2枚出したところでレコード会社の目にとまる。2009年9月9日シングル「Slow Down」でキューンレコードよりメジャーデビュー。2010年7月には1stアルバム「Perspective」をリリースし、2011年5月には初のミニアルバム「花束」を発表した。同年8月リリースのシングル「バランスドール」はTVアニメ「銀魂」のエンディングテーマに起用され、大きな話題を集めた。10月には2ndアルバム「明け方のメタファー」を発売し、11月より初の全国ツアーを開催する。