ポルノグラフィティ|岡野昭仁と新藤晴一が徹底解説 全15曲解説インタビューで迫るニューアルバム「暁」

ポルノグラフィティが約5年ぶりとなるニューアルバム「暁」をリリースしたことを記念して、音楽ナタリーでは特集を2回にわたって展開中。第1弾ではアルバム完成に至るまでの過程やバンドのこれからについて聞いたが、第2弾では岡野昭仁(Vo)と新藤晴一(G)による全曲解説を公開する。2人の解説を副読本に、各楽曲をじっくり楽しんでほしい。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / SEIYA FUJII(W inc.)取材協力 / Amazon Music Studio Tokyo

01

[作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁、tasuku / 編曲:tasuku、PORNOGRAFFITTI]

岡野昭仁(Vo) アルバム制作の最後ぐらいのタイミングにできた曲。アルバムのラインナップがある程度そろった段階で、僕らの強みであるテンポの速いマイナー調の曲を入れておくべきだなと思ったんです。僕1人で曲を書くのでもよかったのですが、楽曲をよりレベルの高いものにするためにまずtasukuくんにトラックを作ってもらって。そこにメロディを乗せていく作り方をしました。「クラウド」や「悪霊少女」の平歌で見えた自分の新しい低い声のトーンを、この曲では意識的に盛り込んだところもありましたね。

新藤晴一(G) 作詞をするうえで、自分の中に新しい発想が必要だなと毎回思ってはいて。なので、この曲では韻を踏んだ歌詞の書き方をしてみたんですよ。韻を踏むという縛りを自分に設けたことで、最初に思い描いていたストーリーの行く先が少し変わっていくところがあったのが新鮮で面白かったです。タイトルと同じ読みの“赤月”というワードを思い付いたのはラッキーパンチでしたね(笑)。

02

カメレオン・レンズ

[作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:篤志、PORNOGRAFFITTI]

新藤 アルバムに収録された既発曲の中で一番古い曲。改めて聴き返してもすごく好きですね。篤志と一緒にアレンジの骨格やギターフレーズを決めていったりしたことも鮮明に覚えています。僕らなりにイメージしたEDMを、エンジニアのD.O.I.さんが本物のEDMにしてくれたのもすごかった。この曲のキックは今聴いてもすごくいい音だと思います。

岡野 いい意味での懐かしさを持ったメロディに、新しさを感じさせる洋楽的な音色がうまく融合した曲ですね。デビュー以来、ロック的な部分でのチャレンジはいろいろしてきましたけど、この曲ではそことはまた別軸で面白いことができた。ポルノとして新しい引き出しを開けられたと思います。

03

テーマソング

[作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁 / 編曲:立崎優介、田中ユウスケ、PORNOGRAFFITTI]

岡野 ずっと頭の中にあった「みんながユニゾンで歌える曲」というイメージをようやく形にできた曲です。制作する過程で、メロがどんどん変わっていったりとか、けっこう難産ではあったんですけど、J-POPのいい部分をてんこ盛りにすることができました。コロナ禍の鬱屈とした空気感を少しでも打破したい、そんな狙いにフォーカスして作れたのもよかったと思います。

新藤 コロナ禍という時世を踏まえて、ポピュラーソングだからこそできるメッセージをてらいなく届けることができたと思います。世の中に必要なタイミングが来れば、いちミュージシャンとしてこういった曲は今後も作っていきたいですね。

04

悪霊少女

[作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:江口亮、PORNOGRAFFITTI / ストリングスアレンジ:江口亮、友野美里]

新藤 今回、「少女」が出てくる曲が多くなった気がするけど、なんでだろう(笑)。これも表題曲の「暁」同様、ポルノの強みであるマイナー調の速い曲という立ち位置ですね。昭仁の歌が入ったことで、自分が思っていた以上にいい仕上がりになったと思う。歌詞に関しては、喜劇を書きたかったので、そこを徹底して大真面目に書いていった感じ。年頃の子が恋をしたっていう、話自体は大したことじゃないんだけど、それを思いきりデフォルメして、劇画タッチで描いた感じ。こういう手法は自分らしくて好きですね。

岡野 「館」とか「悪霊」とかってワードが出てくるとね、聖飢魔Ⅱが好きだった人間としてはたまらない感じがあります(笑)。新藤が書いたグッドメロディを、江口(亮)くんが最高のアレンジで引き立ててくれたのが素晴らしくて。ポルノに似合うサウンドをちゃんと理解してくれているのがありがたいです。自分としてはかなり低いトーンになった平歌や、フェイクやロングトーンみたいな部分も江口くんがディレクションして引き出してくれましたね。

05

Zombies are standing out

[作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁 / 編曲:tasuku、PORNOGRAFFITTI]

岡野 ファンの方たちがすごく気に入ってくれていて、「サウダージ」や「アゲハ蝶」のイメージが強い人たちに対して「ポルノにはこんな曲もあるんですよ!」と広めてくれていたりもする……ということを僕はエゴサをすることで認知していて(笑)。自分たちとしては好みであるヘヴィロックをやったっていう単純な気持ちだったけど、そんなふうにファンの方が評価してくれて、曲自体を育ててくれている状況がすごくうれしいですね。

新藤 ライブでやっても映えるし、純粋に気持ちいい曲ですね。そもそも好きなジャンルのサウンド感なので。ちなみにこの曲はタイアップがついていたんですけど、そこに「生きる屍」であるゾンビをテーマにした内容を持っていったので、一瞬スタッフは慌てたみたいですけどね(笑)。僕としてはもちろんそんな気持ちは一切なく、単に海外ドラマの「ウォーキング・デッド」をよく観てたからなんですけど。先方の担当者の方がゾンビ好きだったので事なきを得ました。

06

ナンバー

[作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁 / 編曲:トオミヨウ、PORNOGRAFFITTI]

岡野 昨年のツアー「17thライヴサーキット“続・ポルノグラフィティ”」でやりましたけど、そもそもはアウトプットの仕方を考えてはいなかったので、ホントに思うがまま、あふれ出るままに作っていったらこういう曲になったっていう感じで。曲のリファレンスとしては完全にThe Verve(イギリスのロックバンド)です。そんな僕の意図をアレンジャーのトオミ(ヨウ)くんが汲み取ってくれて、すごくうまく表現してくれました。自分にとっての音楽の原風景として、1990年代から2000年初期のイギリスは重要だったんだなと、この曲を通して再確認しましたね。

新藤 楽曲がUKのイメージだったので、歌詞には僕の持っているUKのイメージを乗せた感じで。「不思議の国のアリス」のようなおとぎ話のようであって、でもちょっとサイケデリックというか。ドラッギーな雰囲気を出せたらいいなと思いました。実際は盗まれることのない“数字”が盗まれるっていうのもね、ちょっと飛んでる感じがするでしょ?

07

バトロワ・ゲームズ

[作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁、トオミヨウ / 編曲:トオミヨウ、PORNOGRAFFITTI]

新藤 バトロワゲームに熱中している身近な人を見て歌詞のイメージを膨らませました。僕自身はやってないんですけどね。通信しながらやる今のゲームって、僕らが子供の頃にはない世界観じゃないですか。メタバースなんかにも通じるけど、もうどっちが現実かわからなくなってくる感じもある。ゲームの中の関係性が現実に及ぼす部分もあると思うから、これは現実世界にシンクロした曲でもあるんでしょうね。

岡野 僕がここ最近よく聴いているシティポップやブラックミュージックなんかをリファレンスとして提示したうえで、これもまたトオミくんにアレンジをうまいこと作ってもらいました。今までのポルノにはなかったようなちょっと跳ねた曲だし、キメもかなり多いトラックになったので、メロディを当てはめるのは難しかったですね。この曲でも自分としてはかなり低いトーンを使っています。平歌で自分の声を2本重ねたことで生まれた雰囲気はかなり面白いと思います。

08

メビウス

[作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁 / 編曲:tasuku、PORNOGRAFFITTI]

岡野 ありきたりなコード進行のワンループで1曲作ることができるのか、という挑戦から始まった曲。その意図をtasukuくんが汲み取ってくれて、「海外の音楽の潮流はこんな感じですよ」と言って渡してくれたアレンジが最初からカッコよくて。ギターメインの曲が少なくなっているという今の状況を踏まえつつ、ポルノとしてのギターのアプローチをめちゃくちゃ考えてくれたのもうれしかったですね。すごく面白い仕上がりになったと思います。

新藤 この曲も前回のツアーでやったんだけど、そのときのアンケートで「闇があって好きです」みたいな反応がけっこう多かったんですよ。またこれも時代の問題だけど、「オタク」「メンヘラ」「陰キャ」「闇落ち」みたいな言葉って、ひと昔前だと悪口だったものが、今は1つの個性みたいに扱われるようになってきているでしょ。それを意図してこういう歌詞にしたわけじゃないんだけど、時代による価値観の変化で受け止められ方も変わってるんだなと感じられたのがすごく面白かったですね。