ポルノグラフィティ|母船に帰還した岡野昭仁と新藤晴一、新時代に懸ける2人の思い

ポルノグラフィティがニューシングル「テーマソング」をリリースした。

2019年9月の東京ドーム公演以降、キャリア初の充電期間としてソロ活動を展開していた岡野昭仁(Vo)と新藤晴一(G)。そこで得た経験を糧に、約2年2カ月ぶりのシングルとして届けられたのが本作となる。収録される3曲にはコロナ禍の今だからこそ強く響きうる、聴き手の心に光を灯すメッセージが込められている。音楽ナタリーでは、“新始動”をテーマに掲げ本作でポルノグラフィティとして新時代への第一歩を踏み出す岡野と新藤の2人にリモートインタビューを実施。東京ドーム公演以降の動きを振り返りつつ、新作の制作について話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき

ポルノという鎧を脱いで裸になった

──2019年9月に開催された東京ドーム公演「NIPPONロマンスポルノ'19~神vs神~」から約2年が経ちました(参照:ポルノグラフィティ20周年東京ドームで神曲連発「20年で一番素敵な景色」)。それぞれ個々の活動に集中していたこの時間はどんなものになりましたか?

新藤晴一(G) ドームで20周年という節目を迎えたことで、一度自分が着ていたポルノという鎧みたいなものを全部脱いで裸になった感覚があったんですよ。さらにその後、コロナ禍になったことで、その感覚がより強くなったところもあって。それはたぶんみんなそうだったと思うんですよね。コロナ禍という未知の出来事に直面すると、誰でもただの1人の人間になるしかないというか。そういった状況の中で新しいことに向けて充電するというのは正直、なかなか難しいところもありましたね。とは言え、ドームで見せてもらった光景が本当にすごいものだったので、ファンの方たちにしっかりお礼を言いたいなという気持ちはずっとあったんです。そのことがこの2年間においてのわかりやすい指針、道しるべになっていたような気がします。どんな形になるかはわからないけど、また絶対にポルノをやるしかないとずっと思っていましたね。

──この2年間の晴一さんはnoteで文章を発表したり、ミュージカルのための物語を書いたりと、文字での表現と向き合っている印象がありました。

新藤 そうですね。ミュージカルに関してはまだ形になってないから、あんまり大きなことは言えないんですけど、自分の中ではものすごく勉強になった実感はすでにあって。書きたいことをどこまで深く掘り下げるべきなのかということに関しては、歌詞においてはある程度、自分の中で明確になっていたつもりだったけど、ストーリーとなるとまたちょっと違うレベルのものが必要になったりもするんですよ。その発見が面白いものでしたね。

──そこでの発見は、ポルノの活動にもフィードバックしていくのでしょうか?

新藤 そもそも文字数という部分で歌詞とストーリーは違った表現にはなるので、まったく一緒ってことではないですけど、もちろんフィードバックはしていくんだろうなとは思っています。どちらも脳みその使っている部分は同じというか、表現の仕方は違っても生産しているところは一緒なので、それぞれに影響を与えるのは間違いないとは思いますね。

──昭仁さんはこの2年間についてどう感じていますか?

岡野昭仁(Vo) この20年の間にも、ソロとして違った活動をしてみてもいいのかなと思う瞬間は何度かあったんですけど、なかなか実現はしなかったんですよ。で、ドームを終えたタイミングで、そのチャンスがやっと巡ってきたというか。僕が1人で活動することが、未来のポルノにとってなんらかの力になるんじゃないかという発想がきっかけではありましたね。最初はどんなことをやろうかいろいろアイデアを出したりもしたんですけど、結局は改めて歌うことを一生懸命やるというコンセプトになって。

──「歌を抱えて、歩いていく」というコンセプトを掲げ、さまざまなアーティストとコラボしながら精力的に活動されていますよね。

岡野 いろいろな方の力を借りながらやらせてもらってます。配信で3曲リリースして、配信ライブを2回、ほかにもイベントに出させてもらったりもしました。そうやって“離れ”で活動してみると、あらためて“母屋”であるポルノの存在がいかにすごいかっていうことに気付いたりもするんですよ。我々の“母屋”はこんなに立派だったんだなって。だからこそ、“離れ”で得たさまざまなものをしっかり“母屋”に持って帰ろうという気持ちもより強くなったというか。で、実際にポルノが動き始めた今、この2年間でやってきたことはすごく自分の身になっているなって実感しているところもあるんですよね。

ミスクリックで知った岡野昭仁ボーカルの強さ

──それぞれの有意義なソロ活動をお互いにどうご覧になっていましたか?

岡野昭仁(Vo)

岡野 新藤が持っている「文字を書きたい、文章を書きたい」っていう気持ちは昔から一切ブレていないところだと思うんですよ。だから、それをバンドでやろうが、ソロとしてやろうが、ホントにもう自由なんです。突き放した言い方に聞こえるかもしれないけど、ホントに好きなことを好きなようにやってもらえたら、それが一番いいことなんじゃないかなと僕は考えてますけどね。

──それは昭仁さんがソロとして歌に向き合ったのと同じ意味合いでしょうしね。

岡野 そうだと思います。自分自身を突き詰めることが大事だと思うし、それが結果的にポルノに返ってくるわけですから。

──晴一さんはどうです?

新藤 かわいいタンブラー作ってましたよね(岡野は自身の配信音楽番組「DISPATCHERS」のロゴ入りのタンブラーを制作。好評につき完売した)。ソロ活動ってそっちの話でしょ?(笑)

岡野 そうだよ(笑)。グッズを作ったんだよ。

新藤 でもね、すごく面白いなと思った。YouTubeでポルノの昔のライブ映像を観たことがあったんだけど、そうするとリコメンドで昭仁のソロの動画も出てきて。ミスクリックして1回、観たんですよ。

岡野 ミスクリック? そんなことある?(笑)

新藤 あはは。その動画ではDISH//の「猫」をカバーしてたんだけど、それが全然「猫」じゃなかったというか。原曲とはまったく違うものになっていたんですよね。そのときに、楽曲の印象というのは声の存在がものすごく強いんだなってことに改めて気付いたんですよ。

──それはつまり昭仁さんのボーカルが持つ強烈な個性を再認識したということですよね。

新藤 きっとそういうことなんだと思います。それに気付いたミスクリックでした(笑)。

僕らはポルノとしての充電期間を全うするべき

──昨年12月には東京・LINE CUBE SHIBUYAにおいて「CYBERロマンスポルノ'20~REUNION~」が有観客&配信というスタイルで開催されました(参照:ポルノグラフィティ、初の配信ライブで1年3カ月ぶりにファンと再会「全盛期はこれからです」)。東京ドームから1年3カ月ぶりとなったライブの感想を改めて聞かせてください。

新藤 正直、ライブはやっぱり歓声が聞こえたほうがいいなとも思ったけど、でもみんなの大きな手拍子や拍手で完璧に補われていたような気もしますね。とにかくステージに立てたことがうれしかったですし。あの日、あの瞬間にポルノとしてのスイッチをひさしぶりにバチンと入れたわけですけど、やっぱり悪くない光景だよなってすごく思えたかな。ギタリストとして客席を眺めるのは最高だなって。

岡野 ドーム以降、具体的な活動のインフォメーションが何もない中、長いことお待たせしている状況の中でもたくさんの方々にライブを観ていただけたことは本当にありがたかったですね。ライブが始まる瞬間の、「待ってました!」と言わんばかりの大きな拍手は本当に感動的でした。あのライブの段階でも、それ以降のポルノの活動に関しては具体的にあまり見えてはいなかったんですけど、みんなからのたくさんの拍手をもらえたことで、後ろ向きな気持ちにならなくて済んだところもあったような気がします。お待たせしているのは申し訳ないけど、もう一度、力強く前へ踏み出せるときが来たらしっかりと向き合えばいいんだなと思えたというか。ファンの方からすれば「早く始動しろよ」って思ったかもしれないですけど(笑)、僕らとしてはそんな勇気というかね、大きな力をもらえたライブになりましたね。

──あのタイミングでファンの方々としっかり向き合えたからこそ、ポルノに関しては焦らずに動くことができたと。

岡野 うん、それは間違いないと思う。あれだけ心強いファンの方たちがたくさんいてくれるのであれば、僕らはポルノとしての充電期間を全うするべきなんじゃないかなって逆に思えたところもありましたし。