ポップしなないで|人生上々を信じて “総決算”の1stアルバム完成

かめがいあやこ(Key, Vo)とかわむら(Dr)によるバンド・ポップしなないでのフルアルバム「上々」が完成。11月11日にリリースされる。

2人にとって初のフルアルバムとなる今作は、新曲はもちろん2015年の結成初期の楽曲「エレ樫」やTikTokでも人気を博した2018年発表の「魔法使いのマキちゃん」が収録され、ポップしなないでのベスト盤とも言えるような1枚に。さらに新曲「夢見る熱帯夜」では初めてピアノとドラム以外の楽器を楽曲に取り入れるなど、今後のさらなる可能性も感じられるような内容となっている。

5年間の活動の中でかめがいとかわむらが培ってきたポップしなないでの音楽の独自性、さらにはバンドの存在意義とはいったいどんなものなのか。音楽ナタリー初登場となる今回のインタビューで、2人にじっくりと話を聞いた。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / 山崎玲士

夜のゲームセンターのような存在

──かわむらさんはTHIS IS JAPAN、かめがいさんは声優や舞台と、お二人にはポップしなないで以外の表現の場もありますよね。ポップしなないでというアウトプットを持つことによって、何を得ているという感覚があるのでしょうか?

ポップしなないで

かわむら(Dr) THIS IS JAPANはいわゆるオルタナティブロックで、音楽の性質自体は自分のルーツに根付いたものですし、バンドの世界観はボーカリストの世界観に直結しているんです。なので、自分はドラムと作詞を少し担当していますけど、バンドの中の僕はあくまで一部というか、自分の精神性が如実に表に出るものではないんです。でもポップしなないでは作曲と作詞両方を担当しているし、音楽的にも、精神性という面でも、かなりわがままに僕自身の内面を出している感覚があります。

──ポップしなないでを始めた理由も、ご自身の内面をもっと世に出したいという欲求が大きかったんですか?

かわむら 「自分の内面性を世に出したい」というのとはまた少し違うかもしれないです。僕はそもそも古いゲームやアニメがすごく好きなんですけど、そういったカルチャーから与えてもらったものが、僕の人生の中ですごく大きかったんですね。自分の人生に直結するような価値観を、そうしたカルチャーを通して得てきました。救いや支えのようなものが、そこにはあったんです。ポップしなないでは、僕が自分の手で、そういった“救いや支え”を生み出そうとするバンドだと思っています。なので、自分を知ってもらうというより、自分を救ってくれたカルチャーに通ずるものを自分の手で作り出したい、という欲求が大きいような気がしますね。

──だとすると、ポップしなないでとして作品を作ることは、誰かを救うことと結び付いているとも言えますかね?

かわむら そこまで大それたことでもないんですけどね。でも、自分たちが美しいと思うものが、ほかの誰かの好きなものになったり、人生をよりよくするためのものになっていく。そういうことが、僕が音楽をやる原動力になっているとは思います。

──かわむらさんはポップしなないでとして作品を作り続けてきたことで、自分はどういうものに人生を救われたり、変えられたりしてきたのか、改めて見えたものはありましたか?

かわむら 僕は、学生時代は家に帰るのが好きではなくて。家に問題があったわけではないんですけど、1人で殻に閉じこもってしまうというか。家族と交流したり、人と関わりを持つことよりも、夜のゲームセンターでぼーっとしたり、自室で昔のスーパーファミコンをやり続けることのほうが、とにかく心地よかったんです。そういう体験が、今でも自分の根底にあるような気がしていて。逃げだったのか、能動的な選択だったのかはわからないですけど、強く何かを伝えようとしてくるものより、説教臭くなくて、確固たる存在としてそこにいてくれるもの。飄々とそこにあるもの。そういうものに僕は支えらえてきたし、憧れ続けているんだと思います。ポップしなないでも、夜のゲームセンターのような存在でありたいと思っているんです。

──ではかめがいさんにとって、ポップしなないではどういったアウトプットになっていますか?

かめがいあやこ(Key, Vo) かわむらくんほどちゃんとした理由ではないと思うんですけど、そもそも私は誰とでもうまく付き合っていけるタイプではないんです。でも、そんな私も歌を歌うことによって、世界とつながることができるというか。大げさな言い方ですけど、歌を歌うことが、私が世界とつながる唯一の方法だと思っているんです。ポップしなないでで歌うことは、そのことを強く実感できるというか……かわむらくんの歌詞世界とかポップしなないでの曲の世界の中で、痛烈に生きている実感を得ているっていうことだと思うんですけど。みんな、日々大変なことがありながらも生きているじゃないですか。もちろん私もいろいろありながら生きていますけど、ライブで歌っているときって、私と聴いてくれている人の間にある壁が一度全部なくなるんです。ただその場に存在して自分の好きな曲を歌うことで、聴いてくれている人とつながることができるような感覚があるんですよね。

ポップしなないで

「一緒に沈むなら本望じゃ」って気持ちで同じ舟に乗ってる

──では、かわむらさんとかめがいさんは、どういった部分で共振しながら音楽を作っていると言えますか?

かわむら 誘ったのは僕なんですけど、そもそもの精神性が僕らは似ているんですよ。かめがいさんは話していると気遣いの人だなと思う部分もあるんですけど、根源的には「あるがまま」でいるしかない人だと思うんです。隠しきれない、むき出しの部分があるというか。ライブパフォーマンスにおいても、隠しきれない感情の揺らぎが出てくることがあって。感動しいなんですかね?

かめがい 確かにね、感動屋さんだと思う、私は。

かわむら 感動しいだけど、その感動を表現することに関してはすごく不器用。でも、歌を歌うことで、1つ壁を踏み越えられる……そういうところが、かめがいさんはすごく特殊な人だと思っていて。その特殊さが魅力的な人でもあるし、同時に、生きづらさにもなっているんじゃないかと思うんです。僕もなかなか生きづらい人間ですけどね。結局、我々は嘘をつくのが得意ではないんです。やりたくないことをやれない人間ではないんだけど、それをやってしまうと、どこかにしこりが残り続けてしまう人間たちというか。この社会で生きていくには、折り合いを付けないといけないことがたくさんありますよね。

──はい。

かわむら でも、折り合いをつけるには我々はすごくわがままだし、自分の意見をずっと持ち続けてしまう。社会があり、世界がある以上、生きづらいんです。そのうえで「今の社会は生きづらいけど、いつか生きやすくなるで」という気持ちで、2人で一緒に音楽を作っているのが、ポップしなないでです。

かめがい もう、神じゃん。創造主じゃん。

──(笑)。かめがいさんは、今のかわむらさんのお話を聞いてどうですか?

ポップしなないで

かめがい 自分ではそんなに生きづらいとは思っていなかったです(笑)。でも嘘がつけないとか、感情がむき出しになるっていうことに関して言うと、この社会で暮らしていく中で、自分の感じることを感じるままに受け止めながら生きていたら、結局はしんどい思いをすることになると思うんです。だから、人は自分の感情にうまくフタをしながら生きていくことを覚えるんだと思うんですけど……私はフタをしようとしていないのかもしれないです。というか、最近はもう「しなくてもいいや」と思っています。超しんどければ、超しんどいでOK。超楽しければ、超楽しいでOK。そうやって、すべての感情を許すことにしていて。私がかわむらくんの歌詞で好きなのは、明るくがんばり続ける必要がないところなんです。しんどければしんどいままでいいと思える。

──なるほど。

かめがい そうやって生きることは、いわゆる「ちゃんとした大人」ではないのかもしれないけど、でも、それは歌を歌う自分にとってはすごく栄養になることで。だから、傷付くことは、全身で傷付くし。なので、今は「生きづらい」というよりは、「これでいいや」と思っている感じですね。

──かわむらさんと一緒に音楽を作ることについては、どんなことを感じていますか?

かめがい 私は基本的にかわむらくんのことを信用しているので。かわむらくんの言うことならなんでもアリっていうことではないですけど、「一緒に沈むなら本望じゃ」って気持ちで同じ舟に乗っているんです。私は、かわむらくんの作る世界に飛び込めばいい。よくふざけて「私は天才とバンドをやっている」って言うんですけど、私の中で表現できないものを表現できたり、何も言っていないのに私のことを書いているんじゃないかと思うような歌詞が生まれるときもあるし、やっぱりかわむらくん天才だなと思うんですよね……恥ずかしいけど。「天才」とか言われたら、恥ずかしいでしょ?

かわむら 全っ然恥ずかしくないよ。

かめがい 恥ずかしがれよ! うざっ!(笑)