ポルカドットスティングレイ特集|雫(Vo, G)ソロインタビューで紐解く「踊る様に」の魅力 (2/2)

数百人キャパのライブハウスだと緊張しちゃう

──そして10月15日のZepp Haneda公演を皮切りに、全国ツアー「ポルカドットスティングレイ 22-23 #踊る様に TOUR」がスタートします。ポルカドットスティングレイが考えるライブに対しての姿勢みたいなものを改めてお伺いしたいのですが、楽曲制作と同じく、“ユーザーのニーズに応える”というスタンスは一貫してますよね?

そうなんですけど、ライブってそれだけではなんともならないところもあって……。私のクリエイティブじゃなくて、私の素の部分というか、“人間”を見られてることを感じると、すごくテンパっちゃうんです。そもそも仕事以外のコミュニケーションが苦手だし。

──確かに会場に足を運ぶお客さんには、「メンバーの生身の姿を見たい」という気持ちがあるでしょうからね。

5月の幕張(「ポルフェス57 “幕張メッセワンマン”」)みたいに映像にすることが決まってるライブはいいんですよ。演奏しているときもカット割りのことを考えているし、“作品を作る”という脳が働いているので、むしろテンパらないっていう。逆に数百人キャパのライブハウスだと緊張しちゃうんですよね。フェスやアリーナは全然緊張しないのに、ライブハウスで最前列の人と目が合った瞬間にガチガチになる(笑)。それは一生変わらないでしょうね。ライブ自体が嫌いということではなくて、無様なところを見せたくないというか。チケ代をいただいて、スケジュールを割いて会場に来てくれた方に対して、よくない結果は絶対に見せられないので。

──じゃあ2017年の初ツアー(「ポルカドットスティングレイ 2017 TOUR 骨抜き」)は、緊張でガチガチでした?

音楽歴が浅かったし、ライブにも全然慣れてなかったので、恐怖でした(笑)。実際、「ライブが嫌だ」ってずっと言ってましたから。初期の頃はライブに対してアクティブな層に注目してもらってたので、ライブはどうしても必要だったし、やってよかったと思ってるんですけど、同時に「苦手だな」と思い知らされて。もともと「バンドなんだから、ライブやるっしょ」という考えが好きじゃないんですよ。そういう考え方があるのはわかるんですけど、私としては「“ライブこそがバンドでしょ”と決めてしまうと、ほかの手段を失うことにつながる」みたいな考えがあって。もっと視野を広く持ったほうがいいなと……ただ、それを言えるほどのパワーがなかったんです、当時の私には。

雫(Vo, G)(撮影:高田梓)

雫(Vo, G)(撮影:高田梓)

──その状況が変わってきたのはいつ頃ですか?

武道館ですね(2019年7月に東京・日本武道館で開催された「ポルカドットスティングレイ 2019 有頂天 TOUR ポルフェス45 “#有頂天 ワンマン”」)。映像化が決まっていたので、音源、映像、照明を含めて、自分のクリエイティブを見せられたというか、「これが私の得意なことです」と言えるライブができたなと。今観ると「技術が足りてない」と思うし、ちょっと悔しい気持ちになるんですけど、武道館ライブを映像作品にしたことで一皮むけた感じはありました。

チケット代以上のものをお返しいたい

──2020年の春以降はコロナのためにライブがやりづらくなって。ポルカも2020年、2021年とアリーナ公演が中止になりました。

それ自体は残念でしたけど、映像を作るのが好きなので、オンラインライブは楽しかったですね。演出、撮り方を含めて、“映像に最適なライブ”を考えればよかったので。普通のライブよりは得意です(笑)。

──それを言い切れるバンドマンは稀だと思います(笑)。

言い方に注意しなくちゃいけないんだけど、オンラインライブをやっておきながら「やっぱりライブは生のほうがいいよな」と言うのはよくないと思っていて。無料だったらいいですよ。でも、お客さんからお金を取っておきながら、「やっぱり生でしょう」はダメ。私としては、チケ代以上のものをお返しいたいと思っていて。それは生のライブもオンラインも同じですね。

──なるほど。先ほども話に出ていた5月の幕張ライブはどうでした?

楽しかったんですけど、冷静さもありましたね。裏方としての自分が6割くらいの状態なので、思わず走り出しちゃったり、盛り上がりすぎて「うわー!」みたいなことがなくて(笑)。その代わり、クリエイターとしての感動があるんですよ。「お客さんがこんなに入ってくれて、いい感じでカメラに映ってるな」とか「この演出に対して、こんな顔をしてくれるのね」とか。

──ゲストも豪華でしたからね。花澤香菜さんも登場しましたが、先日別の取材でお会いしたときに「演出がすごくて、本当に楽しかった」とおっしゃってました。

よかったです。花澤さんが登場したのは5曲目、6曲目だったんですよ。お客さんはたぶん「序盤でこんなにすごいゲストが! このあとどうなるんだ?」という感じだったと思うんですけど、そのあとにコウメ太夫さんが登場するっていう(笑)。いろいろ詰め込みましたけど、お客さんが喜んでいる姿を見れるのが本当にうれしくて。“自分についてきてもらう”ではなくて、自分が仕込んだものが響いている様子をリアルタイムで見ることができるのはすごい感動なんですよ。歌ったり演奏するのはオプションみたいなもので(笑)、クリエイティブに反応してもらえるのが一番の喜びですね。そういうのってバンドマンとしては珍しいタイプかもしれないですけど、ライブに対しては真摯に向き合っているし、ぬかりないものを作りたいという気持ちがすごく強いんですよ。

その場所に足を運ばないと得られない体験を

──今回のツアー会場はライブハウスが中心ですよね。内容はどうなりそうですか?

Zeppクラスの大きめの会場と数百人の小さめな会場があるので、「分けたほうがいいよね」と気付きまして。私が得意とするライブ演出には、映像、レーザーが入ってるんですが、それができるのはZeppクラスの箱なんですよ。小さめのライブハウスは映像やレーザーを持ち込めないし、幕やスモークも無理だったりするので、そこはしっかり切り替えようと。

──ライブハウス用のセトリを別に作るということですか?

そうですね。映像もレーザーも幕もなく、己という人間で勝負するっていう、本来は得意じゃないことをやらなくちゃいけなくて。試練だと思って、自分と向き合うようなセトリを作ろうかなと。

ポルカドットスティングレイ(撮影:高田梓)

ポルカドットスティングレイ(撮影:高田梓)

──じゃあZeppクラスの会場とライブハウス、2カ所で観るのがいいかもしれませんね。

今回のツアーはそうですね。日替わりゾーンも用意しようと思ってるんですよ。それも初めてなので「絶対、誰かが間違える」ってドキドキしてます(笑)。あと打ち込みで制作した「odoru yo-ni」でミツヤスは何するの?という話もしていて。DJ台を入れたいって言われたんですけど、「1曲だけのために?」と思ったり(笑)。セトリ自体もかなりトリッキーになると思います。アルバムのテーマの1つである“ループ”も表現したいし、1曲目から「え、この曲で始まるの?」と驚いてもらえるんじゃないかなと。曲名を言うとネタバレになるので、ここでは言いません(笑)。大変ですけど、自分たちを必要としている人たちに会いに行けるのは楽しいし、喜んでいる顔を見るのも非常にうれしいことなので。来てもらうからには、完璧なものを見せますよ!

──完璧主義ですよね、本当に。

ライブに対する理想が高めなんですよね。アルバムに入ってる14曲を大きい音で演奏して、照明があればある程度はいい感じになるだろうし、それで満足してくれるお客さんも一定数はいると思うんです。でも、私としてはそれをやりたいわけではないし、「だったらCDを聴いたほうがいいじゃん」と思ってしまう。そうじゃなくて「まずこの曲から始まって、お客さんがこういう気持ちになるでしょ。その直後に照明を落として、キーボードの同期の音を流して、『次はこの曲か!?』と思わせておいてから暗転させて……」という体験を作り出したいんですよ。音源で聴く以上の体験、その場所に足を運ばないと得られない体験をしてもらえるかどうかを考えているし、「もっと完璧にやれるはず」と思ってしまうんですよ。ただ、やりすぎると赤字が出ちゃう(笑)。

雫(Vo, G)(撮影:高田梓)

雫(Vo, G)(撮影:高田梓)

──予算のことも考えないと(笑)。

ゲームを作ってるときもそうだったんですけど、こだわりすぎちゃうところがあって。今はセットリストを固める前にライブスタッフと打ち合わせをして、「それは技術的にやれないよ」「めちゃくちゃお金がかかるよ」と指摘してもらうようにしてます。予算が莫大にあれば、ライブなのかアトラクションなのかわからないようなことをやりたいんですけどね。

──今回のツアーは来年の春まで続きますが、次の制作も同時進行なんですか?

もちろんです。曲を作るよりも、むしろ映像やデザインの制作が忙しくて。今回のアルバムのジャケットもそうですけど、絵も描いてますし、やってもやっても終わらない(笑)。常に何かしら制作してますね。ツアー中もやってるんですよ。前乗りしたときはコンビニで飲み物とか買って、ホテルの部屋でずっと仕事して。会場に入ってからも仕事して、「あ、メイクしなくちゃ」って準備して、本番が終わったら、またすぐに仕事に戻って。それがルーティンみたいになってます(笑)。

ライブ情報

ポルカドットスティングレイ 22-23 #踊る様に TOUR

  • 2022年10月15日(土)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
  • 2022年10月27日(木)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2022年10月29日(土)新潟県 NIIGATA LOTS
  • 2022年11月11日(金)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
  • 2022年11月13日(日)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2022年11月23日(水・祝)北海道 Zepp Sapporo
  • 2022年11月25日(金)北海道 函館club COCOA
  • 2022年12月2日(金)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2022年12月4日(日)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
  • 2023年1月14日(土)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
  • 2023年1月21日(土)宮城県 SENDAI GIGS
  • 2023年2月10日(金)愛媛県 WStudioRED
  • 2023年2月12日(日)香川県 festhalle
  • 2023年2月23日(木・祝)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2023年2月25日(土)鹿児島県 CAPARVO HALL
  • 2023年3月10日(金)兵庫県 チキンジョージ
  • 2023年3月12日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside

プロフィール

ポルカドットスティングレイ

福岡出身の4人組ギターロックバンド。2015年に活動を開始し、2017年に1stフルアルバム「全知全能」でメジャーデビュー。短い活動歴の中でも、それを感じさせないバンドアンサンブルと、メンバーの存在感で早耳のリスナーを中心に人気を博す。2018年2月より開始したワンマンツアー「2018 TOUR 全知全能」のチケットは即完。翌年2019年7月に初の東京・日本武道館公演を行い、同様にチケットを即完させる。結成5周年である2020年1月に、2万枚完全生産限定盤「新世紀」をリリース。そして2020年12月に、過去最多数のタイアップ曲を収録した3rdフルアルバム「何者」をリリースした。2021年5月には音源集「赤裸々」を発表。2022年9月には4thアルバム「踊る様に」をリリースし、10月からは全国ツアー「ポルカドットスティングレイ 22-23 #踊る様に TOUR」を開催する。

※記事初出時、本文のメンバー名に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

2022年10月12日更新