音楽ナタリー Power Push - Poet-type.M

「夜しかない街」で笑えるように

本気で何かを言いたいのであれば、徒党を組んじゃいけない

──そのほかの収録曲についても聞かせてください。「接続されたままで(I can not Dance)」「快楽(Overdose)」には世界を肯定する以前の感情が反映されてますよね。

その2曲は秋盤の雰囲気を引きずってますよね。 “Dark & Dark”の世界観が明確に出ているというか。

──つまり現在の社会のムードが強く反映されていると。

門田匡陽

はい。「接続されたままで」というキーワードは自分の中でも非常に強かったんです。秋盤では「画一化される状況に抗いたい」という気持ちがあった反面、冬盤の「接続されたままで」は、一種、敗北を歌ってるんですよね。

──「I can not Dance」という副題については?

人同士接続されたままでは踊れないですから(笑)。あとは「これはダンスミュージックです」と言わないと、ダンスミュージックとして成立しないおかしさですよね。「これはダンスミュージックです」なんて言われなくても、踊りたかったら踊ればいいんです。踊ってない人の隣で。

──「快楽(Overdose)」の歌詞には「地下室でデモクラシー」「政治的 快楽」というフレーズが並んでいて。これも現在の社会に対する批評ですよね。

この曲、ホントは何も届ける気がない、現実のデモクラシーについて触れてるんですね。制作当時盛んだったデモは、ただその行為に酔ってるだけだなって印象があったし。僕は世間的にそういう雰囲気が強くなっていた気がしていて、その感じが嫌いだったんです。本気で何かを言いたいのであれば、徒党を組んじゃいけないんですよ。音楽って政治性や社会活動とは本質的に違うものなので、本来交わらないものだと考えています。でもそういった事象に音楽は「使われる」ことが多く、ミュージシャンやその周りの人たちが意味のない、インスタントな徒党を組む行為に走ってしまう危険性はあって。音楽は「個」のものです。発するのも、受け取るのも。

──でも、門田さんはニヒリズムに逃避しているわけではないですよね?

そうですね。3.11以降、僕が思っていることは「それぞれの人が、今置かれている立場で本気になってやる」ということなんです。それで世界は変わるんだから、わざわざ「世界を変えよう」なんて言わなくていいんですよ。僕自身のことで言えば、音楽をやっている以上、そこに誠実に向き合うということですよね。アーティストというのはセルフィッシュじゃないといけないんです。リサーチ、マーケティングで音楽を作ってしまったら、誠実でいられないだろうし。僕は世界中の誰が聴いても、「これが自分の作った音楽だ」と誇れるものを作りたいんですよ。そうするためには、聴き手を信頼して、自分に正直に生きるしかないので。

過去を脱却して、生き直さなくちゃいけない

──リード曲の「氷の皿(Ave Maria)」はどういう位置付けの曲なんですか?

これは「festival M.O.N」で体感したこととつながっていますね。あのフェスで僕は自分の過去、自分の音楽的足跡をたどったわけですが、曲を演奏するとその頃の日々を細かく思い出すんです。Good Dog Happy Menの曲を演奏すれば「みんなに愛してもらってたんだな」って実感できるし、BURGER NUDSの曲では「なんであんなに仲が悪かったんだろう?」って思うし(笑)。そして、1日たりとも幸せじゃなかった日はなかったんですよね。BURGER NUDSの日々もGood Dog Happy Menの日々も、僕はずっと幸せだった。「氷の皿」というのは、そんな僕の過去の象徴なんですよね。透明で美しく、非常に危ういっていう。それを砕くことで、過去を脱却して、生き直さなくちゃいけないという気持ちがあったのかもしれないですね。

──「Dark & Dark」4部作は今回のミニアルバムで完結します。門田さんにとって、「Dark & Dark」とは何だったと思いますか?

そうですね……。僕の中では“Dark & Dark”という街の器作りが完結したという感じで。その最後に「永遠の終わりまで、『YES』を」を届けられてよかったなと思うし、同時に思うのはPtMというアーティストはもう現実の世界に帰ってこないだろうなということなんです。

──“音楽による新しいおとぎ話の構築”というテーマについてはどうですか?

おとぎ話、夢、ファンタジーを音楽で体現できたと思うし、「ファンタジーのふりしたリアル」でもあるんですよね。今はファンタジーのような世界を描こうとするアーティストも多いですけど、ほとんどは音だけではなくて、ビジュアルや舞台装置などで補填していると思うんです。そうじゃなくて、音楽だけでこれだけのことができるんだということは示せたんじゃないかなと。

──門田さん自身にとっても、極めて意義深いプロジェクトだったと。

鮮明に個を打ち出すことができたという意味では、「Dark & Dark」に感謝していますね。そう言えば秋盤に「双子座のミステリー、孤児のシンパシー」という曲があって、その副題が「GPS」だったんですね。「なんでGPSって付けたんだろう?」って振り返ってみたら、要するに現在地だったんです。周りに誰もいない地点に「ここに自分がいる」というピンをちゃんと刺せたなって。それは非常にラッキーだったと思います。

──“周りに誰もいない地点”というのが重要なんですね。先ほどの「アーティストはセルフィッシュであるべき」という話につながりますね。

門田匡陽

フィンセント・ファン・ゴッホが「どういう色彩がいいだろう?」って誰かに相談していたら、ああいう絵にはならなかったはずですからね。ヒエロニムス・ボスが「悦楽の園」を描いたのも、自分の中のイマジネーションと向き合ったからだろうし、パブロ・ピカソの「ゲルニカ」もそう。1人の世界なんです、あれは。

──狂気すれすれの画家ばかりですね。

そこに身を捧げる行為も必要ですからね。実は「Dark & Dark」のレコーディングが終わったあと、完全に虚脱して、立てなくなってしまい1カ月くらい寝込んだんです。今はもう大丈夫ですけど。

── BURGER NUDSの制作も進んでいるそうですが、しばらくはバーガーとPtMの両輪で進むことになりそうですか?

うん、そうですね。「Dark & Dark」をやっている間はほかのことがまったく考えられなかったんですけど、PtMは深く深く潜る作業なので、ずっとやってたらホントに頭がおかしくなるなって(笑)。現実に対して語りかける音楽は、BURGER NUDSでやればいいと思っているんですよね。

──楽しみです。最後に4月17日にMt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで行われるライブ「A Place, Dark & Dark Public Performance『God Bless, Dark & Dark』」について。まさに「Dark & Dark」の世界観を体感できるライブになりそうですね。

はい。理想を言えばリラックスしつつ、緊張感を持って観てもらいたいです。すべての観客が1人で観られる環境を整えて、終わったあとに何も言わないで帰るようなライブにしたいなと。僕もそういうライブが好きなんですよ。「楽しかった」とかではなく、ライブが終わったあと、現実世界とのギャップにフラフラしてしまうような。それをぜひ達成したいし、それまでは自分の中で「Dark & Dark」は終わらないんですよね。

Poet-type.M ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -永遠の終わりまでYESを-」
2016年2月17日発売 / 1620円 / I WILL MUSIC / PtM-1033
CD収録曲
  1. もう、夢の無い夢の終わり(From Here to Eternity)
  2. 氷の皿(Ave Maria)
  3. 接続されたままで(I can not Dance)
  4. 快楽(Overdose)
  5. 「ただいま」と「おやすみ」の間に(Nursery Rhymes ep1)
  6. 永遠の終わりまで、「YES」を(A Place, Dark & Dark)
Poet-type.M(ポエットタイプエム)
Poet-type.M

BURGER NUDS、Good Dog Happy Menの門田匡陽によるソロプロジェクト。2013年4月に活動を開始し、同年10月にアルバム「White White White」を発表した。2015年1月に行われた“独演会”「A Place, Dark & Dark -prologue-」では、「夜しかない街の物語」というコンセプトを掲げ演奏。さらに同コンセプトを反映し、春夏秋冬の4部作で展開される作品集「A Place, Dark & Dark」の制作をスタート。4月に「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」、7月に「A Place, Dark & Dark -ダイヤモンドは傷つかない-」、10月に「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」を発表した。2016年2月17日には4部作最後の作品となる「A Place, Dark & Dark -永遠の終わりまでYESを-」をリリース。そして物語の集大成となる独演会「God Bless, Dark & Dark」を4月17日に東京・Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで開催し、物語を終結させる。