ピロカルピン|現実を見せることで生まれた“非現実の世界”

最初は収録するのを拒んでいた「小人の世界」

──アルバムのコンセプトは最初から決めていなかったとのことですが、今作は「ノーム」という言葉が示すように妖精がいるような雰囲気が全体を通して感じられました。「ノームの世界」というタイトルは先にあったんですか?

松木 いや、最初は6曲目の「小人の世界」がサウンドの中心的な存在としてあったので、それもあって当初はアルバムタイトルも「小人の世界」にしようと思っていたんですが、諸事情がありアルバム名は「ノームの世界」になりました。

──ではその「小人の世界」という楽曲について教えてください。

岡田 この曲は最初に僕がアルバムに入れることを提案しました。でも松木は「こんな曲入れるの? 入れなくていいでしょ」ってあまり乗り気じゃなくて。それでも僕はこの曲が絶対カッコいいと思うからどうしても入れたかったんです。で、僕のごり押しでとりあえず仮で入れることにして、松木はしょうがなく歌詞を書き始めたんですね。

──しょうがなく(笑)。

岡田 そしたら意外といい歌詞ができちゃって、今度は松木が「すごくいい歌詞が書けたからこの曲はアルバムに入れたい」って言い始めて。なぜいい歌詞が書けたのか理由を聞いたら「どうでもいいやって思って好き勝手書いたらいい歌詞になっちゃった」って(笑)。

松木 なんの制約もなく何も考えずに自由に書けました(笑)。

岡田 「じゃあ正式にアルバムに入れましょう」と丸く収まったんですけど、当初は「『小人の世界』はアルバムの中の1曲」くらいの考えだった松木が、ミックスが進むにつれだんだんと「これ、すごくいいかも」ってなってきて。もともと松木のイチオシは「ピノキオ」って曲だったんですけど、アルバムが完成する頃には「『小人の世界』が一番いい!」と。

松木智恵子(Vo, G)(提供:miracle oasis music)

松木 マスタリング後の「小人の世界」を聴いたときの衝撃がすごくて。音の魔法って言うんですかね、いろんな要素が絡み合っていいものができていくんだってことをこの曲に教えられました。

──歌詞の視点がユニークですよね。自由に書いた結果こうなったんですか?

松木 そうですね。歌詞は聴く人の解釈が大事だと思うのであまり説明はしたくはないんですが、「小人の世界」の歌詞は自分がちっぽけな存在に思えたことが根底にあって生まれたんだと思います。

自分を含めたさまざまな人に対する応援の歌

──今作は全体的にポップな印象を受けます。松木さんはあまり暗い世界観の曲を歌わなくなった気もしますが。

松木 今回はより音の世界に入り込んで歌詞が書けたからだと思います。私は曲を聴きながら歌詞を書くのですが、今回の音や曲のアレンジが非現実に連れて行ってくれるようなものだったので、現実から切り離されて、私がやりたい物語や絵本の一場面のような前向きな歌詞が書けたのかなと思います。

岡田 はたから見ていると、この作品の歌詞を作っているとき松木は個人的に大変な時期だったので、自分を含めた人に対する応援歌になっていたのかなと思います。「本当はもっと明るく楽しく前向きにがんばりたいんだ」っていう気持ちが歌詞に出てきたのかなと。

──歌詞を書いたり歌ったりすることで松木さんご自身が救われている部分もある?

松木 そうですね……特に「ピノキオ」なんて落とし穴に落ちたような気持ちのときにレコーディングをしたので。でも今はそのタイミングでよかったって思いました。ただ楽しく何も考えずに生きている感じの歌声ではなくて、すごく深みのある歌声になったので。

岡田 歌詞を書くにしてもただ薄っぺらなことを書いているわけじゃなくて、自分自身の救いのために書いているところがあるからより感情がこもるんじゃないですかね。

──なるほど。そうした曲がある中で、リード曲は「グローイングローイン」です。この曲はYouTubeでミュージックビデオが公開されています。

岡田 この曲はもともとデモを作るときに、リード曲になるだろうと思って最初に用意していた曲です。メロディもアレンジもピロカルピンっぽいんだけど、新しさもあってキャッチーだし、ちょうどいいかなと。ただ制作が進むにつれてほかの曲もよくなっていったので、今となってはどれがリード曲でもいいくらいなんですけど(笑)。

ピロカルピン「ノームの世界」
2017年5月10日発売 / miracle oasis music
ピロカルピン「ノームの世界」

[CD+DVD-ROM]
2160円 / DDCZ-2155

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CD収録曲
  1. 精霊の宴
  2. 赤色のダンサー
  3. ピノキオ
  4. 流星群
  5. 小人の世界
  6. グローイングローイン
  7. 風立ちぬ
DVD-ROM(※初回生産分のみ)
アルバム全曲分のハイレゾ音源データ(96kHz / 24bit)
ピロカルピン「『ノームの世界』リリースワンマンツアー『small small world!!』」
  • 2017年6月3日(土)東京都 下北沢CLUB Que
  • 2017年6月10日(土)大阪府 ROCKTOWN
  • 2017年6月11日(日)愛知県 ell.SIZE
ピロカルピン
松木智恵子(Vo, G)と岡田慎二郎(G)によるロックバンド。2003年に松木によって結成され、2009年7月にタワーレコード限定シングル「人間進化論」とHMV限定シングル「京都」を同時発売しインディーズデビュー。2010年11月から2カ月連続でシングル「存在証明」「終焉間際のシンポジウム」を発売し、繊細な世界観とダイナミックなサウンドで話題を集める。2012年5月にはアルバム「蜃気楼」でユニバーサルJよりメジャーデビュー。2014年12月に自主レーベル「miracle oasis music」を設立し、翌2015年5月にアルバム「a new philosophy」をリリース。2016年8月から10月にかけてアルバム制作のクラウドファンディングを実施し、176%の達成率で大成功に。この資金をもとに制作されたニューアルバム「ノームの世界」を2017年5月10日に発表した。