ナタリー PowerPush - ピロカルピン
新しいチャレンジに満ちた新作「青い月」
バンドにとって新しい実験的な曲をやってみたかった
──2曲目の「オペラ座」は、アバンギャルドなサウンドが心地良い、ピロカルピンの新たな一面を押し出したナンバーですね。
岡田 曲としては新しいと思いますが、元々サイケ、シューゲイザー、ニューレイブなんかは松木や僕が好きで聴いてるジャンルで。ただ、それを前面に押し出した曲をアルバムに入れるのは難しかったんですが、今回のような3曲入りシングルの1曲であればってことで、収録することにしたんです。
──それにしても、最初に聴いたときは本当にビックリしました。こういう曲もやるんだなっていう意外性があって。
松木 それは入れた甲斐があります! 私自身、こういうピロカルピンにとって新しい実験的な曲をずっとやってみたかったんです。
岡田 でも実はこの曲はすごく難産でした。最初は「このデモにはアバンギャルドな雰囲気が合うんじゃないか?」とか軽く考えてたんですけど、いざ始めたらなかなかまとまらなくて。結構ギリギリまでかかりました。
松木 各パートが「これでいいのか?」ってずっと迷ってて。最終的にインストっぽいイメージを取り入れたことで糸口が見つかって、まとまっていきましたね。
岡田 手探り状態の時間が結構あって、でも、そのおかげでメンバー全員が成長できたのかなって気はしています。アウトロなんてまさに実験してる感じのサウンドなので、早くライブでやりたいです。
歌声が7年前と全然変わっていなかった
──3曲目の「祈り」は、既に廃盤となった自主制作CD-R「夕暮れ」に収録されていた楽曲のリテイク。今回、この作品を入れようと思ったのは?
松木 「祈り」は約7年前に発表した、ピロカルピンの中でもかなり古い曲で。今はもう廃盤ですが、自主制作時代の曲はどれもすごく気に入っているので、いつか出したいと思っていたんです。その中で「祈り」を選んだのは、「青い月」「オペラ座」の2曲を考えたときに、もう1曲はシンプルな曲がいいなって。
──リテイクということで、松木さんは歌声に変化は感じましたか?
松木 それが、あまり変わってなかったことに驚いたんですよね。何年も経っているし、少しは成長してるかなと思ったんですが(笑)。もっと言うと、歌詞にちょっと恥ずかしさや違和感があるかもって思ったんですが、それも全くなくて。普通にすんなり曲の世界観に入り込めたので、自分の根底にあるものはやっぱり変わってないんだなって思いました。
──当時はどんな思いでこの曲を書いたんでしょう?
松木 多分、今よりずっとピュアだったと思うんです(笑)。音楽に対する変な欲もないし、純粋に曲を作ってライブができるだけで幸せ!っていう。もちろん、今もライブができることはうれしいし、感謝してるんですけど、初期衝動みたいなところは今よりも強かったと思うので。
岡田 今の歌詞って、例えば一度くじけたり、もがいたりしてから復活するみたいな表現が多いもんね。でも、初期の頃の歌詞は、つまづいたりする場面があまりないんですよ。
松木 そうですね。あと、昔の歌詞はやや天真爛漫な感じがします。今じゃこれは絶対書けないっていう部分もあるし。でも、メロディが活きる言葉を選んで書いてるってところは一貫してるなと思います。
未来への弾みをつけるシングルになった
──そして、12月13日からは「青い月」のレコ発ツアーがスタートします。東京会場のWWWは、とても音のいいハコですよね。
松木 それを聴いてすごく楽しみになりました。
岡田 バンド全体としても、今はそんなに不安を感じてることがなくて。むしろ、今のメンバーになってQUATTROも経験して、もっと面白いことができないかなっていろいろ考えているところなんです。
──それは頼もしいですね、楽しみです。ちなみに、少し気が早いですが2012年はどんな年にしたいですか?
岡田 今はバンドがすごくポジティブなモードにあるし、今回のシングルもそういう3曲が入ったのかなって思うんです。「青い月」はまさに“ありえないことを実現したい思い”を歌っているし、「オペラ座」はサウンド面で新たなことに挑戦してる。「祈り」も、純粋に前を向いている楽曲ですし。うまく言えないんですが、この作品は、ピロカルピンが未来へ発展していくための弾みになる1枚なのかなって気はしています。ボクシングでいうなら、ストレートを出す前のジャブって感じですね。
松木 メンバーも新しくなって、新たな気持ちで、まずは曲をいっぱい作っていきたいと思います。それと、いろいろな意味でスタートの年にしたいです。「青い月」の歌詞じゃないけど、ありえないと思っていたことをたくさん実現していきたいですね。
ピロカルピン(ぴろかるぴん)
松木智恵子(Vo, G)、岡田慎二郎(G)、スズキヒサシ(B)、荒内塁(Dr)からなる4ピースバンド。2003年に松木と岡田が出会い、バンドの原型が誕生。2009年7月にタワーレコード限定シングル「人間進化論」とHMV限定シングル「京都」を同時発売しデビューした。
2010年11月から2カ月連続でシングル「存在証明」「終焉間際のシンポジウム」を発表し、繊細な世界観とダイナミックなサウンドで話題を集める。2011年3月、3rdアルバム「宇宙のみなしご」をリリース。このアルバムのタイトルは森絵都の同名小説にちなんだもので、森の快諾により名付けられた。
2011年5月にはドラムが荒内にメンバーチェンジ。7月3日に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブ「幻聴シンポジウム vol.1」を行い、成功を収めた。11月には初の3曲入りシングル「青い月」を発表。精力的な活動を続けている。