ナタリー PowerPush - ピロカルピン
時間と生をテーマにした渾身作「宇宙のみなしご」
“自分がどう生きていくか”を歌ってる歌詞がほとんど
──最新アルバム「宇宙のみなしご」には、先行シングル「存在証明」と「終焉間際のシンポジウム」を含む全7曲が収められています。今作はどんなコンセプトで制作されたんですか?
松木 今回は「時間」というテーマを設けていて、CDジャケットも、2枚の先行シングルと今作を並べると時間の流れが感じられるものになっているんです。
──なぜ「時間」をテーマにしようと思ったんですか?
松木 今回伝えたかったのは、人は命に限りがあるし、はかない存在だけど、そんな1人ひとりの人生が終わっても、その人がやったことや作ってきたものは次の世代に影響を与えて、新しい時代ができていくってこと。命は終わってしまっても、終わらないものがあるって感じです。そういう意味においての「時間」なんです。
──今おっしゃったような時間に対する観念って、ずっと松木さんが抱いているものなんですか?
松木 子供の頃に人は死ぬって知ったときから、どうしようもない寂しさというか、無常感みたいなものを感じてた気はしますね。今もそういうことを常に感じながら生きてるところはあるし、逆にそういう気持ちが音楽に向かわせてくれてると思います。
──岡田さんは、いかがですか?
岡田 僕はそういう気持ちもわかるんですけど、どちらかと言えば、死んでからのことより今この先をどうするか?っていうほうが主眼です。でも松木さんが常々言っている、終わり間際をどうするか、終わってからどうするかっていうのは、僕もなるほどって思うところはありますね。でも……できればもうちょっと明るくなってもいいのかなって(笑)。
松木 もちろんそんな死ぬことばかり考えてるわけじゃないですよ! この作品で言いたいのは、そういう事実を踏まえた上で、どういう姿勢で生きるかが大事だってこと。そういう姿勢を問う、という意味です。
──例えば「存在証明」は、確かにはかない命を歌ってるんだけど、すごく前を見てる感じもありますもんね。
岡田 「存在証明」は一般的な“生と死”をテーマにしてるように見えるかもしれないけど、確かに今おっしゃっていただいたとおり前を見てる曲なんです。アルバム全体を見ても、自分がどう生きていくかを歌ってる歌詞がほとんどなのかなって思います。
──ということは、今作はまず「時間」というテーマがありつつ、「生きる」という言葉も大きなキーワードですかね?
松木 そうだと思います。さっきも言ったように、限られた時間でどう生きるかを問うた部分もあるし、あと私の歌詞はわりと本来の自分より理想を反映させているところがあって。自分の中にある綺麗なものを結晶化させて書いてきたい、というんですかね。なので、普段はあまりポジティブな発言をしないんですが(笑)、歌詞ではわりと前向きな感じが出てると思います。
ライブでの松木の歌声は、かなり気合が入った感じ
──今回のCDジャケットですが、この素敵な点描画はイラストレーターの吉田利一さんが描かれているそうですね。
松木 そうなんです。全国流通盤の1枚目から吉田さんにお願いしてるんですが、毎回ものすごく時間をかけて描いてくださってるんです。
──点描画ということは、すべてが“点”で描かれてるってことですよね?
松本 はい。だから時間は本当にかかると思うんですが、私たちはその点の1つひとつにこめられた執念や緻密さが、ピロカルピンの理想とするものに重なる部分があると思ってるんです。
岡田 今ではピロカルピンのCDとは切り離せないアートワークですね。
──あと、皆さんの楽曲はPVも個性的ですよね。過去の作品も含めて、とても完成度の高い映像ばかりだと思いました。
岡田 PVに関しては基本は制作サイドにお任せしてるんですが、こちらから要望を伝えたり、その返事をもらってまた意見を戻したり……っていうことはありますね。
松木 楽曲の大まかなイメージは、先にお伝えすることが多いです。例えば今作の「見えざる手」は、月が見えていて、でも時間帯的には夜明け前で暗い感じ……とか。PVはもちろん楽曲の世界観がうまく伝わるようなツールであってほしいと思います。
──ピロカルピンの音楽は、どれもCDとジャケット、そしてPVのトライアングルで楽しみたくなりますね。みんなすごく素敵だから。
松木 どうもありがとうございます。そうやって楽しんでいただけると、私たちもうれしいですね。
──ところで、4月には初の全国ワンマンツアーが控えています。
岡田 そうなんです。東京ではワンマン経験があるんですが、名古屋、大阪では初めてで。ツアーという形も初だし、特に名古屋と大阪では今まで約3~40分のセットでしかお見せできていなかったので、ぜひたくさんの方に遊びに来てもらえたらと思います。
松木 皆さんをピロカルピンの世界観に引きずりこめるようなライブにしたいですね。
──なんとなくですが、CDで聴くのとライブではまた違ったイメージを受けそうですね。
岡田 たぶんそうだと思います。松木の声はCDだと綺麗めな感じですが、ライブではかなり気合が入った感じなんで(笑)。
松木 そうですね、気合は入り過ぎてると思います。かなり念を込めて、それが届くように!って歌っています(笑)。
ピロカルピン
松木智恵子(Vo, G)、岡田慎二郎(G)、スズキヒサシ(B)、鈴木雅人(Dr)からなる4ピースバンド。2003年に松木と岡田が出会い、バンドの原型が誕生。その後何度かのメンバーチェンジを経て、2010年8月に現在の編成となる。
2009年7月にタワーレコード限定シングル「人間進化論」とHMV限定シングル「京都」を同時発売しデビュー。2010年11月から2カ月連続でシングル「存在証明」「終焉間際のシンポジウム」を発表し、その繊細な世界観とダイナミックなサウンドで話題を集める。2011年3月、3rdアルバム「宇宙のみなしご」をリリース。このアルバムのタイトルは森絵都の同名小説にちなんだもので、森の快諾により名付けられた。