音楽ナタリー PowerPush - 原田郁子 × Salyu × 畠山美由紀
野音ライブ「ピアノと謳う。」直前座談会
ピアノは“よくできた楽器”
──今回はピアノをメインにしたイベントということなので、ピアノという楽器についても聞いてみたいんですが。皆さんにとってピアノはどんな存在ですか?
畠山 ……まさかそんな質問をされるとは(笑)。
原田 うーん、考えたことないなあ。
Salyu そういえば郁ちゃん、「あらゆる要素を含んだ総合的な楽器」って言ってたよね? ベース、旋律、ハーモニー、あとは打楽器にもなるって。
原田 あー、そんなすごいこと言ってたっけ。
Salyu 「ピアノがあればいろんなことができるからさ」って。そういう意味ではよくできた楽器ですよね……って、なんだかエラそうだけど(笑)。
──原田さんには「ピアノ」というタイトルのアルバムもありますが。
原田 うん。「ピアノとは」ってうまく言い当てたいんだけどなー、全然思い付かない(笑)。私の場合は“ほかに弾ける楽器がない”っていうのもあるんですけどね。だけど、音が好きかな、やっぱり。不思議な響きだと思うんですよね、ピアノって。グルッと包まれる感じもあるし、上に上がっていくような感じもあって。弦楽器でも、リズム楽器でもあるし……いやあ、非常によくできた楽器です(笑)。美由紀は? いろんな楽器と歌っていると思うけど、何か違いますか?
畠山 ピアノだよね? 違うといえば違うけど……。昔からピアノは好きだけど、自分がうまく演奏できないっていうのもあって。
原田 小さいときからやってた?
畠山 うん、4歳のときから。今も曲を作るときはほとんどピアノなんだけど、思うように弾けないっていうジレンマもあるんだよね。でも、いてくれないと困るっていう。全然弾けないのに、こんなにもインスピレーションを与えてくれて……。やっぱり、よくできた楽器ですね(笑)。
Salyu 相対的にピアニストが作るフレーズって、1つひとつが長いんですよね。息をたくさん吸わないと歌えないというか。ギターを弾く人が作る曲は、おしゃべりしてるような感じがあるんですよ。ビートもあるし、フレーズもわりと短くて。小林さんが作る曲と小山田(圭吾)さんが作る曲は、やっぱり全然違いますからね。
原田 面白いね。
Salyu ピアニストの方が作る曲って、ときどき「ブレスのことを考えてないな」って思ったり(笑)。
畠山 そうかも。自分で作ってるのに「歌えない……」っていうフレーズがあるからね、私も。どうしてもレンジ(音域)が広くなるし。
Salyu そうそう。楽器によって変わるんだなって。
原田 ピアノって、ペダルがあるじゃない? 例えば1音ポーンと鳴らしてペダルを踏みっぱなしにすると、ふぁーっと音が響きながら、膨らんでいって、だんだん消えていくんですけど、その間に新しい音が聴こえてくることがあって。そうすると次に行きたくなるんだよね、自然と。もしかして、倍音成分っていろんなイメージが膨らむっていうことかもしれないね。
自分たちにとってもごほうびみたいなイベントになる
──歌に関してはどうですか? 3人で歌について話したりとか……。
Salyu いつもそこにあるものですからね。何気なく話していても、いつの間にか歌とか音楽のことにつながったり。そういうのもうれしいんですよね。
──歌い手だからこそわかり合えることもある?
Salyu ありますよー。
原田 この前、3人で集まって1杯目の生ビール飲んでるときに、美由紀が「泣きそう」って言ってね。「私たちさー、がんばってるんだねー」って。仕草とかを見てて、そう思った、って。
畠山 ものすごくうれしいんですよね、それが。
原田 ひさしぶりにパッと会うだけで、ここ最近のことがパッパッと交換されるような……この感じ、説明しづらいね(笑)。
畠山 皮膚の奥の感覚みたいなものだからね。
Salyu もうしょうがないですよね(笑)。動物と同じですよ。動物って、自分の形を知らないはずなのに仲間がわかるじゃないですか。
──この3人が集まったときの雰囲気は、イベントにもそのまま反映されそうですね。
Salyu こういうイベントって、あんまりないと思うんですよ。中心になってくれる方がいて、(出演者が)「こういうことをやったら楽しそう」ってワーワー話して、足並みをそろえてモチベーションを上げていって。ヘンに気取らず、素直な気持ちで楽しめるんじゃないかなって。
畠山 そうだよね。全然仕事じゃない感じがするというか……。
原田 うん。
畠山 アマチュアのときみたいに、仲間と好きなことをやってるような。そういう感じはなかなか味わえないし、根源的な楽しみがあるんじゃないかなって。そこからどんなものが生まれるか、私も楽しみだし。
原田 好きなようにワーッとやるのも、たまにはいいよね。自分たちにとってもごほうびみたいなイベントになると思うし、それをお客さんも楽しんでもらえたらなって。
Salyu うん。
畠山 ホント、とっても楽しみ。あとは雨が降らなければ最高だね。
2014年7月26日(土)東京都 日比谷野外大音楽堂
<出演者>
原田郁子 / Salyu / 畠山美由紀
左:原田郁子(ハラダイクコ)
3ピースバンド・クラムボンのボーカル&キーボード担当として、1999年にシングル「はなればなれ」でメジャーデビュー。自由で浮遊感のあるサウンドとポップでありながら実験的な側面も強い楽曲、強力なライブパフォーマンスで人気を集め、コアな音楽ファンを中心に高い支持を得る。2011年4月には2枚のベストアルバムをリリース。来年で結成20周年を迎えるにあたり、2014年よりさまざまなアニバーサリー企画を予定している。第1弾に初のPV集、第2弾にメンバー監修のバンドスコアを発売。2015年初頭には5年ぶりとなるオリジナルアルバムをリリースする。
中央:Salyu(サリュ)
2001年公開の映画「リリィ・シュシュのすべて」に、Lily Chou-Chou名義で楽曲を提供。2004年6月に小林武史プロデュースのシングル「VALON-1」で、Salyuとしてデビューを果たす。2008年11月には初のベストアルバム「Merkmal」をリリース。2009年2月には初の日本武道館公演も成功させた。 また、2011年からは新プロジェクト「salyu x salyu」としての活動を開始し、Cornelius=小山田圭吾との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を完成させた。以降2つの名義で並行してリリース活動、ライブ活動を行っている。
右:畠山美由紀(ハタケヤマミユキ)
男女ユニット・Port of Notes、エキゾ系楽団・Double Famousのボーカリストととして活動しながら、2001年、シングル「輝く月が照らす夜」でソロデビュー。近年の主な活動として、2011年3月、東日本大震災で被害を受けた故郷・気仙沼を思い「わが美しき故郷よ」と題した詩を雑誌、自身のブログにて発表。その詩は被災した人たちだけでなく、故郷を持つ全国の人々の心に届き、話題に。2013年6月、中島ノブユキをプロデューサーに迎え、アルバム「rain falls」をリリース。同年11月、日本製紙クリネックススタジアム宮城にて開催された「コナミ日本シリーズ2013」にて国歌斉唱を担当。2014年9月3日、演歌や歌謡曲をカバーしたアルバム 「歌で逢いましょう」をリリース予定。現在は、FMヨコハマ「Travelin' Light」(毎週土曜日11~13時生放送)のDJとしても活動中。