音楽ナタリー PowerPush -→Pia-no-jaC←

節目の作品で振り返る “クラシックへの敬意”と“遊び心”の5年

「指パッチン」と「ピアノ弦が切れる音」

──ほかにレコーディングで苦労した部分ってありましたか?

HAYATO(Piano)

HAYATO 「アイネクライネ」に指パッチンが入ってるんですけど、ピアノを弾きながらやるのに苦労しました。個人的にはアルバムの中で一番苦労したのはそこだと思います(笑)。

樫原 簡単そうに見えて意外と難しいっていう。

HAYATO 片手で鍵盤でベースを刻みながら、もう片方でパッチンを刻むっていうのがね。僕だけなのかな?

樫原 俺もできなかったから。彼らは難しいことを今まで死ぬほどやってるから「これはお茶の子さいさいだろ?」と思ってたら、固まっちゃって。

HAYATO 同時にできなかったんですよ。全然できなかった。指の動きが違うからですかね? 一番練習したんちゃうかな。これ、ツアーでは皆さんにパッチンしてもらいたいと思ってるんで、ぜひ練習してほしいなと。

HIRO あのテンポでやるのは意外と大変なんで。

HAYATO あ、あと「アイネクライネ」にめっちゃレアな音が入ってます。レコーディングでベーゼンドルファーのピアノを使ったんですけど、ピアノ弦が途中で切れたんですよ。その切れた音もそのまま生かされてます。

──ピアノ弦が切れる音なんてあまり聴く機会がないですよね。

HIRO(Cajon)

HIRO 切れ方によってだと思うんですけど、今回はウィンドチャイムみたいな音がしたんです。エンジニアさんは「HIRO、なんでこのタイミングでウィンドチャイムを叩くんだ!」と思ってたらしいんですけど、俺はそもそもウィンドチャイムをセッティングしてなくて。それで音を調べていったら、ちょうどそのときにピアノの弦が切れていたという。

樫原 しかもタイミングがいいところで切れたから、その音にエフェクトをかけてそのまま生かそうと。「ベーゼンドルファーの弦を切った日」の記念にね(笑)。

──偶然をすべて曲の要素にしつつ。

HAYATO そうですね、ライブ感というか。

──とは言っても、さすがに今後ライブでは再現できないですよね(笑)。

HIRO 毎回そこで「パチン!」ってね。

HAYATO いやいやいや、それはアカンな。

HIRO でもそのうちに「こうやったら弦が切れるんですよ」みたいなコツを覚えるかもしれんし。

HAYATO めっちゃ嫌われるけどな(笑)。でも今回のアルバムは特にヘッドフォンを使って聴いてもらいたいです。いろんなエフェクトもかかってますし、偶然入った音とかなかなか聴けない音も入ってるので。HIROの掛け声もかなりバージョンアップしてるので、ぜひ(笑)。

「なんで君たち、これを録らせてくれなかったの?」

──新作と同時にこれまでの「EAT A CLASSIC」シリーズをまとめたBOXセット「EAC 5th Memorial Box」もリリース。ここだけで聴ける「EAC Retakes 2014」と称したディスクに、過去にカバーしたクラシックの楽曲を再録音したものが収められています。

HAYATO(Piano)

HAYATO プレイはだいぶ進化したと思いますよ。デビューして6年経ちますけど、初期にカバーした第九とかはやっぱりテンポ感とかグルーヴとかが今とは全然別ものなので、そのへんも楽しんでもらいたいなと。それと去年の野音で初披露した「EAT A CLASSICメドレー」も今回初めてレコーディングしたんです。BOXセットにはそのメドレーのピアノスコアも付いているので、ぜひコピーしてもらいたいなと(笑)。

──なるほど。樫原さんはサウンドプロデューサーとして、今回の再録音では原曲からどう変化を付けようと思いましたか?

樫原 まず……これは「EAT A CLASSIC」だけじゃなくてオリジナル作品でもそうなんですけども、レコーディングの1年後くらいに彼らに必ず言うセリフがあって。「なんで君たち、これを録らせてくれなかったの?」と。レコーディングしてからライブを経験して、その曲をどんどん自分たちのものにしていく。そうすると遊びの部分も含めてパーフェクトになっていって、だいたい1年後に完成するんですよ。そういう意味で、今回はそのパーフェクトなものを5作目という節目のタイミングに録りたかったんですよ。

──確かにここで聴ける再録バージョンって、今の→Pia-no-jaC←のライブで聴けるものに近いですもんね。

樫原 そうですね。彼らの代表曲がこれだけ変わりましたよっていうのを世の中に記録として残して、聴いてもらいたいんです。思い出のアルバムとしてね。あと、→Pia-no-jaC←の楽曲ってけっこういろんなエフェクトを試していて、過去4作で使ったエフェクト方法をここで全部見せちゃおうと。全部ネタを出しちゃった、さあ次はどうしよう、と自分たちにプレッシャーとして課してるところもあります。2人にばかり新しいことを要求するんじゃなくて、制作する側もまた次の作品で新しいエフェクト方法を考えないとダメだぞと。細かいですけど、音楽マニアの人にそういうところにも注意して聴いてもらえたらうれしいですね。

10枚目では原曲の欠片もないアレンジになってるかも

──こうなると、将来制作されるであろう「EAT A CLASSIC 6」がどうなってしまうのか……。

左からHAYATO(Piano)、HIRO(Cajon)。

全員 あはははは!(笑)

樫原 ここからまた、カバーしてほしい曲のリクエストを募集します。

HAYATO 本当にたくさんリクエストをいただいて5作目まできたので、もうリクエストが届く限りはその声に応えていきたいなと。

──次も「まだこれが残ってたのか!」という驚きの曲と、悪ふざけに期待しつつ(笑)。

HAYATO そうですね(笑)。でもこれが10枚目まで行ったら、原曲の欠片もないアレンジになってるかもしれないけど。

HIRO もうそれ、オリジナルとして出そうや!(笑)

──下手したらタイトルだけが残ってるみたいな。

樫原 中身には“思い”だけ残して、とかね。

HIRO 「ベートーベンの思いを受け継いだこの曲です!」みたいな(笑)。

HAYATO それもう、訳わからんやろな(笑)。「タイトルを見て、イメージで作りました」とか。大喜利にもほどがありますよ(笑)。

HIRO でも5作やってきて、みんながあり得ると思ってるわけですから。

──やっぱり積み重ねって大事なんですね。

HAYATO 大事ですよね(笑)。これからもいい意味で周りの期待を裏切れるようにがんばります。

左からHAYATO(Piano)、HIRO(Cajon)。
ニューアルバム「EAT A CLASSIC 5」/ 2014年11月19日発売 / PEACEFULL RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD]2400円 / QIJ-91008
通常盤 [CD]1900円 / XQIJ-1010
ヴィレッジヴァンガード盤[CD+DVD]2300円 / XQIJ-91009
CD収録曲
  1. アイネクライネ / モーツァルト
  2. G線上のアリア / J.S.バッハ
  3. トルコ行進曲 / モーツァルト
  4. グリーンスリーブ / スイングランド民謡
  5. ハッピーバースデー / ミルドレット・ヒル, パティ・ヒル
  6. ラデツキー行進曲 / ヨハン・シュトラウス1世
初回限定盤DVD収録内容
  • 「アイネクライネ」PV
  • ニューヨークロケPVメイキング映像
ヴィレッジヴァンガード限定盤DVD収録内容
  • 2014.9.14 Zepp Tokyo「→PJ←ワンダーランド」LIVE ダイジェスト
→Pia-no-jaC←(ピアノジャック)

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HAYATO(Piano)、HIRO(Cajon)の2人で構成されるインストゥルメンタルユニット。名前の由来は左から読むとピアノ、右から読むとカホンとなることから。鍵盤と打楽器という至ってシンプルな編成ながら、重厚かつ多彩な音を鳴らすのが特徴。その独自の音楽性が各方面から注目を受け、ディズニーやスクウェア・エニックス、ショパンなど多数のトリビュートアルバムに楽曲提供。2010年発売の嵐のアルバム「僕の見ている風景」では、二宮和也から熱いオファーを受けゲストミュージシャンとして参加した。さらに宝塚歌劇団への楽曲提供、ラジオのジングル制作など幅広い活動を展開。ライブではオリジナル楽曲やクラシックなどのカバーを武器に、迫力満点のパフォーマンスを披露し、国内外の幅広い層から絶大な支持を受けている。2012年7月には葉加瀬太郎とのコラボレーションアルバム「BATTLE NOTES」を発表し、大きな反響を呼んだ。2014年10月から11月にかけて、ベルギー、フランス、イタリア、スペインの4カ国8都市でヨーロッパツアーを敢行。各地でのライブの様子がさまざまなメディアで取り上げられ、話題を集めた。そして同年11月、クラシックのカバーアルバム「EAT A CLASSIC 5」とBOXセット「EAC 5th Memorial Box」を同時リリース。