音楽ナタリー PowerPush -→Pia-no-jaC←
節目の作品で振り返る “クラシックへの敬意”と“遊び心”の5年
「ホルモンだったら捨てるようなところ」をループ
──悪ふざけを要所要所に入れつつも、アルバム最後の「ラデツキー行進曲」ではしっかりシリアスな側面も打ち出していて。
HAYATO そうですね。逆に「ラデツキー行進曲」の場合は、ホルモンで言うと……。
──えっ?(笑)
HAYATO 「ホルモンだったら普通捨てるようなところ」を拾って、ループさせてるんです。
HIRO あそこがおいしいのに、なんでメインのところ捨てるの!っていう(笑)。
HAYATO だから皆さん、「ラデツキー行進曲」だってわかんないかもしれないですよね。よく原曲を聴き込んでから→Pia-no-jaC←バージョンを聴けば「あ、ここか」ってわかると思うんですけど。
──だからなのか、唯一オリジナル曲っぽい雰囲気も感じられました。
HAYATO なるほど、そうかもしれないですね。今回「ラデツキー行進曲」では2人でまったく違うグルーヴを作り出していて。ピアノはボッサで……。
HIRO カホンはドラムンベースなんですよ。
──その結果、チルアウト系ダンスミュージックの色合いも感じられて、聴いていてすごく気持ちよかったです。
HAYATO また新しい世界が作れたんじゃないかなと。
HIRO カホンは今まではパワーヒットがメインだったんですけど、この曲では繊細さにすごく気を付けていて。叩く位置や角度、音色や音域にも気を遣った、カホンのおいしさがまるごと味わえる内容になってるので、たっぷり聴き込んでほしいですね。
──あのフレーズはサンプリングでループさせてるわけじゃなくて、すべて人力ループなんですね。
HIRO そうです。ドラムンベースのリズムだけど、人間が叩くからこそのリズムの揺らぎとか、そういう部分も楽しんでもらえるとうれしいです。
──さらに「G線上のアリア」ではブルーグラスにも挑戦している。ジャンルの幅は広がる一方ですね。
HAYATO そうですね。実はこの曲にはちょっとした裏話があって。よくインタビューで音楽のルーツを聞かれると、いつもX JAPANって言ってたんですよ。でも去年2人でアメリカを旅してナッシュビルに行ったとき、ストリートでバンジョーを弾いてる人がいて。そのバンジョーの音が入っているブルーグラスの曲もすごく懐かしくて……そこで、僕の父親がずっとバンジョーをやってたことを急に思い出したんです。「あ、自分のルーツってここやな、ブルーグラスやな」と。
──幼い頃の記憶がよみがえったわけですね。
HAYATO はい。それを経て新作のセッションで、「じゃあ自分のルーツ音楽をピアノで表現してみたら面白いんやないかな」と考えて。ブルーグラスのテンポ感も音数の多さもピアノにピッタリだと思いますし、だったら「G線上のアリア」をブルーグラスにしようということになったんです。
──「G線上のアリア」をブルーグラスにしようというアイデアというか、柔軟さって改めてすごいと思いますよ。
HIRO トライアンドエラーを繰り返して、エラーを恐れないというか。その繰り返しで5作目までたどり着いたわけです。
HAYATO やってることは最初から変わらず、スタジオで面白がってゲラゲラ笑ったらそれが形になっていくっていう感じなのかな。
クラシックに対するカジュアルさが増した
──樫原さんから見て、「EAT A CLASSIC」シリーズ5作を通じて2人が成長した部分ってどういうところでしょう?
樫原 クラシックの原曲を解体してから再構築していくやり方を5作も続けると、わりとこなれてきて(笑)。そういう意味では2人とも原曲に固執しなくなったかな。1作目の頃は2人とも原曲の譜面を見つめてしかめっ面だったけど、今はスタジオに入って「どうせこの曲、そのまま弾かないし、叩かないし」って感じになっていて(笑)。
2人 あはははは!(笑)
樫原 クラシックに対するカジュアルさが増したとは思います。最初に第九をカバーしたときは「第九をやってみました」感が強かったけど、今はさっきHAYATOが「ホルモンで捨てるようなところを→Pia-no-jaC←流でやっちゃう」と言ったみたいに、より遊び重視になってきてる。そういう部分でも成長したなと思いますね。
──改めて思ったんですけど、→Pia-no-jaC←のクラシックカバーって単に原曲を自分たち流に演奏するだけじゃなくて、ヒップホップ的に曲の一部を抜き取って、それをもとに独自の音楽を作り上げているような気がするんですよね。
樫原 確かに。クラシックのカバーはいろんな人がやってるけど、そういうやり方は日本でも海外でもやってる人がほとんどいないんですよね。
HIRO あの、クラシックのカバーをするとき、最初にWikipediaで曲について調べるんですよ。例えば第九だったら、「カバーしているアーティスト」が一覧になってたりするじゃないですか。でもそこに→Pia-no-jaC←の名前が載ってなかったときがあるんですよね(笑)。
HAYATO きっとカバーとして認められてないんだよ(笑)。
樫原 まあオリジナルだよね、ここまで来ると。
──そういう意味では→Pia-no-jaC←ってヒップホップ的でもあり、その精神性はロックやパンクだと思いますよ。
HAYATO そうかもしれない。でもロックやパンクのわりに「いつ怒られるんだろう?」と心配してますけど(笑)。
プレッシャーよりも楽しさが勝ってしまう
──作品を重ねるごとに演奏面やアレンジ面のハードルもどんどん高くなってますよね。
HAYATO はい。アレンジでも今回ならスウィングジャズやブルーグラスといった要素を取り入れたり、テクニック的にもソロやアドリブで新しい要素を盛り込んだりしている。プレッシャーもありましたけど、曲が完成していくにつれてどんどん面白くなって、楽しさが勝ってしまうんです。で、そこからライブではこうしよう、ああしようっていうのが見えてくるんですよ。「トルコ行進曲」の鐘も「グリーンスリーブス」のカンフーも、ライブありきなところがありますから。特に「グリーンスリーブス」は必殺技が出て、えらいことになりますので(笑)。
HIRO もう言っちゃうの、それ? あとに引けへんやつやん(笑)。
HAYATO 先に言っちゃいます。すごいことになりますんで、ちょっとHIROの動きに注目しておいてもらえればと。飛び道具が出ますんで。
──えっ!?
樫原 演出はほぼ決まってるんで、あとは練習あるのみ(笑)。
HAYATO もうね、ホントにバカだねって言われたいんですよね。
HIRO そう言われたいがために、そこを一番真剣にやってやろうと(笑)。
──でも、そうやって真剣にふざけることがエンタテインメントには大切な要素だと思いますよ。
HAYATO 本当に大事だと思います。実は夏のファンクラブライブとか9月のZeppライブでも新曲を披露したんですけど、「トルコ行進曲」ではお客さんがかなりざわついて。
HIRO 演奏してる2人は真剣やから、「これ、笑っていいのか、真剣に聴いたほうがいいのか」でみんながざわつくっていう(笑)。
次のページ » 「指パッチン」と「ピアノ弦が切れる音」
- ニューアルバム「EAT A CLASSIC 5」/ 2014年11月19日発売 / PEACEFULL RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD]2400円 / QIJ-91008
- 通常盤 [CD]1900円 / XQIJ-1010
- ヴィレッジヴァンガード盤[CD+DVD]2300円 / XQIJ-91009
CD収録曲
- アイネクライネ / モーツァルト
- G線上のアリア / J.S.バッハ
- トルコ行進曲 / モーツァルト
- グリーンスリーブ / スイングランド民謡
- ハッピーバースデー / ミルドレット・ヒル, パティ・ヒル
- ラデツキー行進曲 / ヨハン・シュトラウス1世
初回限定盤DVD収録内容
- 「アイネクライネ」PV
- ニューヨークロケPVメイキング映像
ヴィレッジヴァンガード限定盤DVD収録内容
- 2014.9.14 Zepp Tokyo「→PJ←ワンダーランド」LIVE ダイジェスト
→Pia-no-jaC←(ピアノジャック)
HAYATO(Piano)、HIRO(Cajon)の2人で構成されるインストゥルメンタルユニット。名前の由来は左から読むとピアノ、右から読むとカホンとなることから。鍵盤と打楽器という至ってシンプルな編成ながら、重厚かつ多彩な音を鳴らすのが特徴。その独自の音楽性が各方面から注目を受け、ディズニーやスクウェア・エニックス、ショパンなど多数のトリビュートアルバムに楽曲提供。2010年発売の嵐のアルバム「僕の見ている風景」では、二宮和也から熱いオファーを受けゲストミュージシャンとして参加した。さらに宝塚歌劇団への楽曲提供、ラジオのジングル制作など幅広い活動を展開。ライブではオリジナル楽曲やクラシックなどのカバーを武器に、迫力満点のパフォーマンスを披露し、国内外の幅広い層から絶大な支持を受けている。2012年7月には葉加瀬太郎とのコラボレーションアルバム「BATTLE NOTES」を発表し、大きな反響を呼んだ。2014年10月から11月にかけて、ベルギー、フランス、イタリア、スペインの4カ国8都市でヨーロッパツアーを敢行。各地でのライブの様子がさまざまなメディアで取り上げられ、話題を集めた。そして同年11月、クラシックのカバーアルバム「EAT A CLASSIC 5」とBOXセット「EAC 5th Memorial Box」を同時リリース。