“そういう気分になれる”チャイニーズ風ファンク
──そのほかの5曲(「GOLD」「LSF」「Joyful Sounds」「China Town Traffic」「A walk with the colors」)は宮下さん作の楽曲なんですね。
宮下 はい。「Joyful Sounds」はカバーなんです。セイクリッドスティール(スティールギターによる教会音楽)というジャンルがあるんですよ。ロバート・ランドルフなどが有名なんですけど、そのジャンルのスタンダードナンバーですね。
──この曲も宮下さん自身の音楽的ルーツの1つなんですか?
宮下 いえ。ただ自分の弾き方に合うだろうなと思って、「これはやっておかねば」という感じですね。ロバート・ランドルフより前の世代のプレイヤーの曲がサブスクに上がっていて。録音状態がよくなくて、すごく雑なんだけど、楽しさにあふれててすごくいいんですよ。それに近いものができたのかどうか(笑)。
──まさに楽しさにあふれたテイクだと思います! 「GOLD」のようなキャッチーな曲も印象的でした。宮下さんはこういう曲を作るのも好きなんですか?
宮下 もともとフュージョンが好きで音楽を始めたので、その影響があるのかもしれないですね。僕は1982年生まれなんですけど、母親がT-SQUAREのカバーバンドでドラムをやってて。「TRUTH」(1987年4月発表。フジテレビ系「F1グランプリ」テーマ曲)を弾けるようになりたくて、ピアノを習い始めたんですよ。
──そうだったんですね。「China Town Traffic」は“チャイニーズ風のファンク”という佇まいの楽曲です。
宮下 この曲はちょっとほかとは作り方が違っていて。別の仕事でDAWを使ってトラックを作ってた時期の副産物みたいな感じなんです。ギターのループやシンセを入れてみんなに聴いてもらったら、「いいじゃない」と言ってくれて。
飯塚 みーやん(宮下)が作ったデモを再現するようなレコーディングでしたね。鍵盤の音色もできるだけ近付けて。
猪股 うん。この曲、歩くスピードにピッタリなんですよ。なのでこの曲を聴きながら中華街を歩くと、そういう気分になれます。
飯塚 どういう気分?(笑)
猪股 青龍刀を持ったヤツらが出てくる感じ?
PHONO TONESメンバーのキャラクター
──メンバー皆さんの個性やルーツがさらに色濃く出ているアルバムですよね。4人のキャラクターについても改めて聞いてみたいのですが、伊地知さんから見て猪股さんはどんな人ですか?
伊地知 だいぶ昔から知ってるんですけど、一緒にバンドやってみて、思った通りの人でしたね。やさぐれているように見えて、実は繊細で、純粋なところもあって。自分の作風もそうだけど、スタイルを大事にしているというか。
猪股 やめろよ、そういうの。
伊地知 褒めてないから(笑)。
──では、猪股さんから見た宮下さんは?
猪股 宮下とは2年くらい一緒に住んでたんですよ。もう7年くらい前なんですけど。
宮下 もうそんな前か。
猪股 俺が昼くらいに起きてリビングに行くと、「味噌汁作った」ってメモが残ってたり。
伊地知 何それ?(笑)
宮下 缶ビールの空き缶が山のようになってたから、「シジミの味噌汁でも飲んだほうがよかろう」と思って。
猪股 優しいんですよ。プレイヤーとしては本当にいろんなところで弾いていて。うまいのはもちろん、人望があるんだと思います。
伊地知 ロックバンド界隈からも「宮下くんとぜひ一緒にやりたい」という声をよく聞くんですよ。Nothing's Carved In Stoneの拓ちゃん(村松拓)も「1回セッションしたら最高だった。またぜひやりたい」って言ってました。
宮下 村松さんの弾き語りワンマンに呼んでもらったんですよ。ありがたいです。
──では、宮下さんから見た飯塚さんはどんなミュージシャンですか?
宮下 「こういう音を出したい」という意思をはっきり持っている人だなと思いますね。ちゃんと自分の世界を持っているし、それが一緒にやってて楽しいところでもあります。
飯塚 そんなに引き出しが多くないのかも(笑)。自分としては、このバンドにいることで身に付くことがすごく多いんですよ。
宮下 度量が広いというか、「こういうオルガンの音が欲しい」と言ったら、実際にオルガンを買ったりするんですよ。それも自分の引き出しの中に入れたうえで「自分はこうしたい」と提案してくれる。
伊地知 うん。本当にその通り。
飯塚 オルガンもそうですけど、調べてると欲しくなっちゃうんですよ(笑)。とりあえず購入して、手探りで音を研究して。
宮下 しかもほかの人が持ってるような流行ってる機種ではなくて、ちょっと変わったものを欲しがる(笑)。
飯塚 いろんな音が作れる万能な楽器よりも、「これしか出ない」という機種が好きなので(笑)。
──なるほど。では、伊地知さんはどういう立ち位置なんですか?
伊地知 宣伝隊長かな。プロモーションになると急に立ち上がる(笑)。曲はこの3人が書いてくれるので、それ以外のことですよね。ディレクター的なこともやるし、マネージャーの役割もあるかもしれないし。
猪股 ドラムも叩くしね(笑)。潔さんは全体をまとめてくれるんですよ。アレンジしているときも、それが必要かどうか判断してくれるし、「この曲のポイントはここじゃない?」と客観視してくれて。「ここを生かしたほうがいい」みたいなことも的確に言ってくれますね。
伊地知 レコーディングでは最初にリズムを録るので、「この楽器がグリッドからズレてる」みたいなことも最初に気付くんですよ。楽器の鳴りとかはわからないので、そこはチーム全体でやってるんですけどね。
ユニークだけど王道、楽しませる自信がある
──お互いの理解が深まって、役割が明確になっていることもアルバム「SHARE」の充実につながっていると思います。制作を続けることで、バンドのカラーも濃くなってますよね。
伊地知 それは本当に思いましたね。休んでたら何も変わらないし、熟成もしないんだなってわかりました(笑)。あと、こういう編成のバンドって日本にはPHONO TONESしかいないなと改めて思った。それはすごい強みだし、自信を持って打ち出していきたいですね。そもそもペダルスティールの演奏者の人口自体が少ないし。
宮下 そうだね(笑)。
伊地知 ロックバンドみたいなスタイルだとなおさら。それと歌詞がない分、海外のリスナーにも聴いてもらえる可能性があると思うんですよ。最近、友達のバンドがよくアジア圏でツアーをやってるんですけど、自分たちもやっていきたいと思ってます。
猪股 確かに編成はユニークだけど、やっていること自体はニッチではないというか、王道だという感覚もあって。なので素直に売れたいなと思ってます。LIQUIDROOMくらいは満員にしたいし、フェスにも出たい。特に今回のアルバムは自信を持ってカッコいいと思うし、いろんな人に聴いてもらいたいですね。
飯塚 本当にそうだよね。まずは「SHARE」をたくさんの人に聴いてもらいたいし、さっき潔くんが言ってたように、海外の人たちがどう捉えてくれるかも興味があります。自分は海外の音楽が好きで、海外の音に囲まれてきましたけど、このアルバムを作って、「日本で育って、日本人として作った音楽にもうちょっと誇りを持っていい」と思えたし。
宮下 テレビやラジオのちょっとした隙間に自分たちの曲を使ってもらえる機会が増えてきて。そうやっていろんな人に聴いてもらえるのはいいことだと思うし、アルバムもコンスタントに出していきたいです。あとはライブですね。この前、COEDOクラフトビールのフェス(キャンプ型音楽フェス「麦ノ秋音楽祭2023」)に出させてもらったとき、たぶん初見のお客さんがほとんどだったと思うんですけど、ライブのあと、いろんな方から「よかった」と声をかけてもらって。少しずつ手応えも出てきてるので、ライブも続けたいです。
猪股 そうだね。自分たちのことを全然知らない人がたくさんいる会場でも、みんなを楽しませる自信が今はあります。
ライブ情報
NEW ALBUM "SHARE" ONE MAN LIVE 2023
- 2023年7月27日(木)東京都 下北沢440
プロフィール
PHONO TONES(フォノトーンズ)
伊地知潔(Dr / ASIAN KUNG-FU GENERATION)、猪股ヨウスケ(B / Dr.DOWNER)、飯塚純(Key / UNDER LIFE)、宮下広輔(Pedal Steel Guitar)の4人が2011年に活動をスタートさせたインストゥルメンタルバンド。2012年1月に1stアルバム「PHONO TONES has come!」でデビューを果たす。2017年7月にはADAM atとのスプリットEP「Dr. Jekyll」「Mr. Hyde」を2作同時にリリース。2022年4月に前作から約7年ぶりとなるアルバム「BUBBLE」を発表し、2023年7月にニューアルバム「SHARE」をリリースした。
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衣装協力
Franklin Climbing