自分たちの演奏に感動できるのは、最初のテイク
──アルバム全体に言えることですが、インストでありながら、歌モノっぽいんですよね。Aメロ、Bメロ、サビになっている曲もあって。
猪股 そうなんですよね。
伊地知 宮下が「ちゃんと構成を作ろう」と言ったことがあって。メインのリフやメロディはしっかり考えて作って、ライブでも毎回再現したほうがいいと。
宮下 そうだっけ?
伊地知 そうだよ(笑)。その通りだと思ったし、そこから楽曲もコンパクトになってきたんです。
宮下 以前は「5分以上じゃないとダメ」って思ってたから、かなり意識が変わりましたね。聴いてる音楽の影響もあるかもしれないです。前はPhishみたいなジャムバンドをよく聴いてたけど、最近は曲の尺が短くて、内容が濃いものに興味があるので。
飯塚 みーやん(宮下)以外の3人は、もともと歌ありきのバンドをやってたしね。
猪股 長尺のインスト曲はPhishがやるからいいのであって、自分たちには合ってなかったんでしょうね。
──なるほど。ということは、宮下さんのペダルスティールがボーカリストの役割に?
飯塚 そういうイメージもありますね。以前は「みーやんが自由に弾ける場所を提供したい」と思ってたけど、うまくメリハリがつけられるようになってきたのかなと。
宮下 セイクリッドスティールだと、ペダルスティールがゴスペルの歌を担っていて。「この感じでもっとやってみたい」と思ったのも大きいですね。
──音楽的な振り幅も広がってますよね。
伊地知 作曲者が3人もいますからね。宮下は聴いてる音楽によって作る曲がどんどん変わるから、さらに広がりがあるんですよ。1カ月くらい経つと、モードが違ってるよね?
宮下 飽きやすいんだよね(笑)。あと楽器を変えて、カッティング奏法ができるようになったことも影響していると思います。ペダルスティールでカッティングする人ってあまりいないんですけど、やり方がわかってきて。「これを使って、ファンクやソウルっぽい曲をやりたい」と思って作ったのが、2曲目の「Jack Russell」とか10曲目の「Blood, Sweat & Tears」なんですよ。「katorisenko」は純さんの曲ですけど、ワウを踏みながらカッティングすることで、リズムのアタック感を出しています。
伊地知 「楽器を変えたら曲ができる」って言ってたよね。
──猪股さんが作曲したのは?
猪股 4曲目の「Dangerous Cops In Kannai」、7曲目の「Youth」、9曲目の「Hisagi reprise」ですね。テーマ(主旋律)やリフを作って、宮下に投げることが多いんだけど。
飯塚 どの曲も“猪股節”があるけどね。
宮下 うん。ペンタトニックスケールのメロディやリフなんだけど、リズムに個性があって。耳に残るリフレインも多いんですよね。
──独特のオルタナ感もありますよね。
猪股 うれしいですね、オルタナの人間としては(笑)。けっこうベタに作ってるつもりなんだけど、人柄が出てくるのかも。あと、宮下が俺とバンドの調整役になってくれてるんですよ。純くんの曲にもけっこう手を入れるし、潔さんのドラムに対しても意見することあるでしょ。
宮下 そんなに言わないけどね(笑)。
──アレンジはどうしているんですか?
伊地知 スタジオで演奏しながらアレンジすることが多いですね。デモ音源を作ったとしても、演奏してみないと着地できないというか。セッションし直す感覚もあります。
猪股 ジャムセッションで決めてるわけではないんですけどね。
宮下 「Jack Russell」は、ちょっとそんな感じだったかも。俺がリフを持ってきて、全員で演奏してるときに、自然とブレイクができたり。
伊地知 うん。あと、全体的にかなりシンプルになってますね。このバンドを始めたときは細かいフレーズを叩くのが好きだったんですけど、曲のことを考えると「ジャマだな」と思うことが増えてきて、手数がどんどん減ってきたんです。曲作りと同じように、ドラムのプレイも削ぎ落しました。細かいフレーズよりノリでしょ!っていう。
猪股 そうだね。
伊地知 かっちりした演奏を録るつもりもなくて。実際、ほとんどが1テイク、多くても3テイクくらいしか演奏してないんです。それ以上やってもよさが出ないよねって、エンジニアの方とも話をして。もっと研ぎ澄ますこともできたんだけど、あえてやりませんでした。
猪股 自分たちの演奏に感動できるのは、最初のテイクだからね。もともと複雑なこともやれないし。
伊地知 その結果、ロックなアルバムになりました。当初はもっとジャズになるはずだったんだけど、最初のセッションで違うなと。
宮下 ジャズになるはずだったなんて、今の今まで知らなかった(笑)。
伊地知 まあ、ジャンルは関係ないからね。
猪股 1曲目から、ロックやろうぜ(「Shall we rock?」)って言っちゃってるし(笑)。
──確かに(笑)。しかも「Shall we rock?」はかなりオーソドックスなロックンロールというか。
猪股 ストーンズですよね。
伊地知 モロです(笑)。
宮下 今使ってるペダルスティールは、以前よりも低音弦が多くて。それを使ってリフを弾きたいというところから始まった曲です。
「あぶない刑事」に「北の国から」
──なるほど。ちなみに曲名はどうやって決めてるんですか?
伊地知 作曲者が決めてます。
──じゃあ「Dangerous Cops In Kannai」は、横浜の関内に危険な警官がいたっていう……?
猪股 「あぶない刑事」ですね(笑)。前から大好きなんですけど、最近再放送しているのを観ても、やっぱり面白くて。
──「katorisenko」も変わったタイトルですが、これはどなたが?
飯塚 僕がボコーダー系のエフェクターを手に入れたんですけど、それを使って「きくけこ、きくけこ」って言いながら遊んでたんですよ。
──“か”がない……。
飯塚 はい(笑)。イメージは「北の国から」なんですけど。
伊地知 蚊取り線香は出てこなそうだけど(笑)。インスト音楽って、映像シーンに付けるBGM的なものでもあるから、そういう発想は面白いですね。
──アルバムのタイトル「BUBBLE」は誰の発案なんですか?
伊地知 それは僕ですね、なぜか(笑)。スタッフから「それぞれタイトル案を出してください」とメールが来て、全員で出し合ったんですけど、「BUBBLE」が採用になりました。タイトルを決める前にジャケットの打ち合わせをやって、マンガっぽいのがいいということになって。イラストをケイタイモさんにお願いしたら、「マンガの吹き出しを使ったデザインはどうかな?」というアイデアをくれたんですけど、そのときに「吹き出しって、バブルじゃん」って思ったんです。ニュージーランドの首相が、ロックダウンが始まるときに「Stay in your bubble」って言ったじゃないですか。「あなたが滞在している場所にいて」という意味だったんですけど、「家族で一緒にいて」みたいなメッセージもあるし、優しい言い方だなと。このアルバムもコロナ禍の中で制作したんですけど、メンバー4人でバブルに入ってた感じもあったし、この時期ならではのタイトルじゃないかなって。宮下からは、すぐに「いいじゃん!」と連絡が来ました(笑)。
宮下 俺だけ?
伊地知 そう(笑)。
猪股 俺もいいなと思ってたよ(笑)。
飯塚 ははは。
──「BUBBLE」という題名には“2021年に作ったアルバム”という意味が込められているんですね。
伊地知 そうですね。ジャケットを見たときに、「この頃は……」って思い出せるのもいいじゃないですか。
──メンバーの足並みもそろい、アルバムも完成して、ここからがスタートですね。
伊地知 4人で話したりはしてないんですけど、レコ―ディングや取材を通して、少しずつ意思統一できてる気がしますね。ライブもよくしたいし。
宮下 ステージの立ち位置も変えようと思ってるんですよ。俺がちょっと前に出ることになりそうです。
伊地知 お願いします(笑)。ライブは積み重ねも大事じゃないですか。このバンドはメンバーそれぞれの活動があるし、いつも一緒にいるわけではないので、そこは考えていかないと。あと、次の制作も始まってるんですよ。
飯塚 けっこういい曲が上がってきて。来年には新作を出したいと思ってます。
伊地知 今回のアルバムまでに7年かかってますからね。その時間を取り戻さないと(笑)。
ライブ情報
NEW ALBUM "BUBBLE" ONE MAN LIVE 2022
- 2022年4月20日(水)東京都 新代田FEVER
プロフィール
PHONO TONES(フォノトーンズ)
伊地知潔(Dr / ASIAN KUNG-FU GENERATION)、猪股ヨウスケ(B / Dr.DOWNER)、飯塚純(Key / UNDER LIFE)、宮下広輔(Pedal Steel)の4人が2011年に活動をスタートさせたインストゥルメンタルバンド。2012年1月に1stアルバム「PHONO TONES has come!」でデビューを果たす。2013年8月に2ndアルバム「LOOSE CRUISE」、2015年6月に3rdアルバム「Along the 134」を発表した。2017年7月にはADAM atとのスプリットCD「Dr. Jekyll」「Mr. Hyde」を2作同時にリリース。2022年4月に前作から約7年ぶりとなるアルバム「BUBBLE」を発表する。
PHONO TONES (@PHONOTONES) | Twitter
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