三月のパンタシア「愛の不可思議」インタビュー|愛に向き合うための光と影の物語 (3/3)

自分の愛は今どこに向かってるんだろう?

──「ノンフィクション」はライブの光景がパーッと頭に広がっていくような、ときめきに満ちあふれた楽曲です。作曲はゆーまお(ヒトリエ)さん、編曲は“ばんぱし”です。

ばんぱしというのは、三月のパンタシアのライブをサポートしてくれてるバンドメンバーで。

「三月のパンタシア LIVE 2024『ブルーアワーを飛び越えて』」の様子。(Photo by Kana Tarumi)

「三月のパンタシア LIVE 2024『ブルーアワーを飛び越えて』」の様子。(Photo by Kana Tarumi)

──堀江晶太(G)さん、YUTAKA(G)さん、Kei Nakamura(B)さん、ゆーまお(Dr)さん、金井央希(Key)さんですね。

はい。これまでも個人個人でレコーディングに参加してもらったことはあったんですけど、ばんぱしのみんなで曲作りをしたことはなかったので、ずっと作ってみたいなと思っていて。ゆーまおさんも「三パシの曲を作ってみたい」と前から言ってくれていたので、やりたかったことがようやく叶った曲です。ばんぱしと曲を作るんだから、やっぱりライブで盛り上がる曲というのが最初のテーマとしてあって、“愛”というアルバムのテーマも決まってて。三月のパンタシアは基本的に小説と紐付けて楽曲を書いてるので、じゃあどんな物語にしようかなと考えたときに、「ランデヴー」(2020年9月発表のアルバム「ブルーポップは鳴りやまない」収録曲)のことを思い出したんです。

──「ランデヴー」はファンの方々へのストレートなメッセージソングでした(参照:三月のパンタシア「ブルーポップは鳴りやまない」特集)。

はい。「ランデヴー」はまさにライブで盛り上がる曲を作りたいという意図から生まれた曲で。ライブで歌うんだったら自分とファンの1対1の曲にしたいと思って、「じゃあファンへの思いを物語にするのか?」と考えたときに、その純然たる愛情をわざわざ物語に変えること自体がちょっと野暮かなと感じたんです。歌詞に直接自分の気持ちを書くのが一番伝わるんじゃないかなと思ったので、「ランデヴー」は小説なしで制作して。「ノンフィクション」に関しても、そうするのがいいんじゃないかなと思って、同じ形で制作していきました。

──なるほど。

アルバムタイトルが「愛の不可思議」ということで、「自分にとっての愛は今どこに向かってるんだろう?」と考えながら歌詞を書いていって。この曲に出てくる「君」には、自分の中で3つの意味合いがあるんです。1つは音楽。もう1つは自分たちが奏でる音楽を愛してくれるファン。そして、ライブシーンをずっと一緒に支えてくれて、一緒に戦ってきてくれたばんぱし。その3つに対する思いを込めました。

──「ランデヴー」には「その笑い顔を 私が守ってあげたい」「この先も あなたを守れますように」というフレーズがありましたが、「ノンフィクション」では「私が君を守るよ」と歌っていて。より自信を持って言い切ってる感じがしました。

確かに「ランデヴー」を書いたときよりは、もう少し自信を持って言えるようになったのかなと思います。年月を重ねていく中でファンのみんなとの絆の深まりを実感しますし、いろんな経験をしたことで自分の精神的な部分もだいぶ強くなれているのかな。

──「ノンフィクション」の制作において、ばんぱしのメンバーの皆さんとのやりとりで印象的なことはありましたか?

堀江さんのお家がスタジオのようになっていて、そこにみんなで集まって作ってたらしいです。

──めちゃめちゃバンドっぽい作り方ですね。みあさんはそこにいなかったんですか?

集まってるのを知らなかったんです(笑)。

──どんな話し合いが行われて制作されたのかは……。

わからない(笑)。今度作るときは、私も遊びに行きたいです!

愛は希望であってほしい

──ラストナンバー「愛の不可思議」はアルバムのテーマである“愛”について、みあさんがゆったりと語っているような曲です。

今回のアルバムではさまざまな曲を通して、愛にはいろんな種類があって、人を幸福にする愛情もあるし、逆に人をもろく弱くさせてしまう愛情もあるということを伝えているんですけど、全体の軸になる曲が欲しかったんです。「愛ってなんなんだろう?」と愛について考える主人公の曲を作りたかった。だから、ゆっくり歩きながら考えているようなイメージで、ゆったりとしたテンポの曲になっています。最初はもうちょっと、ふわふわした感情を浮遊感のあるサウンドに乗せて歌おうと思っていたんですけど、作っていくにつれて、明るさがあるほうがいいなと感じて。ふわふわしているよりも、テーマ曲としてアルバムを引っ張っていく力がある、そんな曲になったほうがいいのかなと考えました。歌詞に関しても、最後ははっきりと力強くストレートな感情を伝えていて。

──「君のことを、愛しています」という言葉でアルバムが締めくくられています。

愛というものについて今回改めて考えてみて、私はやっぱり、愛は希望であってほしいなと思ったんです。愛って恋愛だけじゃない。自分が生涯好きでい続けるんだろうなと思えるものに出会えたときにも芽生えるし、パワーをもらえるものでもある。それがやっぱり希望で、自分にとっては音楽がそうだった。今自分の人生の一番真ん中には音楽がある。それによって苦しめられることも、傷付くこともたくさんあるし、手放してあきらめたほうが楽になれるんじゃないかなと思うこともたくさんあるけど、やっぱり自分に一番幸福をもたらしてくれるのは、音楽を愛する気持ち。そして、その音楽を受け取ってくれるファンへの感謝と愛情。その希望をこれからも信じてみたいなという思いを最後に書きました。私は歌詞の中でよく「光」というフレーズを使っていて。

──この曲にも「優しい光に涙がでて」というフレーズがありますね。

愛と光は自分の中ですごく密接で、愛に触れたときにあふれるものが光なのかなと思っていて。自分にとって美しい光があふれるものがもっと増えていったら、人生が豊かになれるのかなと思うんです。このアルバムがみんなにとって、「自分にとっての愛ってなんだろう? 光ってなんだろう?」と考えるきっかけになったらうれしいし、光になれたら幸せだなと思います。

ライブ情報

三月のパンタシア SUMMER LIVE 2024 -愛の不可思議-

2024年8月24日(土)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)

プロフィール

三月のパンタシア(サンガツノパンタシア)

「終わりと始まりの物語を空想する」をコンセプトに、ボーカルのみあを中心に結成されたプロジェクト。2015年8月に活動を開始し、2016年6月にシングル「はじまりの速度」でメジャーデビューした。その後、みあによる小説、さまざまなクリエイターの楽曲、イラストを掛け合わせてストーリーを描き、思春期の切ない恋心や憂鬱な気分といった繊細な心の揺れを表現。2020年7月には初の長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」を発表した。顔出しをせずに活動していたが、同年11月に東京・チームスマイル・豊洲PITで行ったワンマンライブ「三月のパンタシア LIVE2021『物語はまだまだ続いていく』」で素顔を解禁。2022年3月に4thアルバム「邂逅少女」をリリースした。2023年4月より「青春を、暴く」という新たなテーマを掲げて活動し、8月にアニメ「ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~」のオープニングテーマなどを収録したEP「ゴールデンレイ -解体新章-」をリリース。2024年8月に5thアルバム「愛の不可思議」をリリースし、東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)でワンマンライブ「三月のパンタシア SUMMER LIVE 2024 -愛の不可思議-」を行う。