美しくて、呪いにも似た愛
──「あいらぶゆー」は「叶わない恋とはわかっていても、心の中では相手のことが一生好き」という気持ちを歌っている曲です。「御呪い」という小説と紐付いた曲ですが、みあさんとしては、この主人公はどういうイメージの子ですか?
たった1人を一生手放しで愛し続けることができるのって、私は美しいなと思うんです。歌詞の中に「あなたと違う苗字をもらっても私きっと」という1行があるんですけど、これは要するに、違う人と結婚してもあなたのことを愛し続けるということ。別の人と結婚して愛を誓っていても、それとはまた別の枠が心の中にあって、忘れられない人がいる。そのくらい強い思慕を抱ける女の子。だからもう、“あきらめることをあきらめてる”というか。それって美しいけど、呪いにも似てるなと思うんです。
──一生解けない呪い。
そう。この曲の種になったのは、友達の話なんです。その子にはずっと好きな人がいて。話を聞いてる限り、その相手の人は恋人にするにはよくなさそうな男性で。それを友達もわかっていて「付き合ったら絶対苦労するから、別に付き合いたいわけじゃない」と言っていて、違う男の子と恋をしたりもしている。それなのに、「それでもやっぱり今でも一番好きなんだよね」と話してきたことがあったんです。その気持ちって私にはすごくきれいに見えたし、気高いなと思った。これを物語にして、歌ってみたいなって。
──サビの「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるよ」という「愛してる」6連発のフレーズが耳に残りますが、これは相手に向かって実際に言葉にしている訳ではなく、自分の中であふれ返ってる感情ということですよね?
そうですね。相手に言ったとしても取り合ってもらえない。口にしても届かない。絶対に無理だとわかってるんです。相手も悪い人だと思うんですよね。主人公に優しくしてるから。優しくされるから主人公は離れられないし、たぶん相手もそれをわかってる。主人公はそういった相手のずるさも理解しつつ、嫌いになりきれない……でも、そのくらい誰かのことを好きになれるって、すごく素敵なことだなと思いますね。側から見たら否定されるような恋なのかもしれないけど、本人にとっては、“ボロボロだけどキラキラ”みたいな。
──“ボロボロだけどキラキラ”というのは三月のパンタシアの作品作りにおいて、1つのテーマになってますよね(参照:三月のパンタシア「8時33分、夏がまた輝く」インタビュー)。
はい。そういう愛の形があってもいいんじゃないかなって。
──重たい愛の曲でありながら、サウンドや歌い方は決してダークな感じではなく、軽やかなギターロックになっています。
この曲の主人公は歪んでるというよりは、ただまっすぐに相手を思い続けているというピュアな子なので、狂気やグロテスクさみたいなものは歌唱にいらないのかなって。歌に関してはまっすぐで、軽やかさがあるほうが聞き心地がよくなりそうだなと思って、そこはレコーディングでも意識しました。サウンドに関しては、作曲してくださった雪乃イトさんに「こういう物語にしたいです」という簡単なプロットをお渡しして。その段階で「リズミカルな曲にしていただけたら」というのはリクエストさせてもらいました。
──雪乃イトさんとは初タッグですよね。
実は2年前くらい前に雪乃さんがライブに遊びに来てくれたんです。私はそれ以前から雪乃さんのことは存じ上げていてボカロ曲も聴いていたので、来てくださったのがうれしくて。そのときから「どこかのタイミングでご一緒できたらうれしいです」という話もしていました。今回アルバムを作るにあたって「こういう曲が欲しい」と新曲を並べていく中で、かわいい感じの曲もあったらいいなと思って。そのときに雪乃さんが作られるキャッチーでかわいらしいイメージのサウンドが思い浮かんだんです。
──これまでも三月のパンタシアはいろんな曲を通して、叶わない恋の物語を描いてきましたが、あきらめることなく「一生かけて想ってあげるね」と貫いていくタイプの主人公はちょっと珍しいと思いました。
確かに。今まで三月のパンタシアの曲の主人公は、叶わなかったらあきらめる女の子が多かったかもしれません。歌の中で感情を完結させていました。「あなたと違う苗字をもらっても私きっと」というフレーズに集約されていますけど、この子は死ぬまで相手のことが好きだと思ってる。でも、それって幼さがゆえの感情な気もするんですよね。もしかしたらこの先、全然違う誰かを心から好きになって、その相手のことを忘れちゃうこともあるかもしれない。ただ、今は「あなたのことが本当に好きで、一生の愛情」と信じ切ってる。その幼さを「あいらぶゆー」と、あえてタイトルをひらがなにすることで表現してみました。
愛を与えてくれた出会い
──5曲の新録曲のうち、「完璧彼女」と「あいらぶゆー」は小説を軸にした、どちらかというと愛の影の部分を感じる曲でしたが、ほかの3曲に関しては物語というよりは、三月のパンタシアにとって、そしてみあさん自身にとっての愛が表現されているように感じました。昨年3月に行われた「君の海、有機体としての青」からライブでのみ披露されていた「March」がついに音源化されますが、これは“三月”と“マーチ=行進曲”を掛けて作った曲ですよね?
はい。
──作編曲はこれまでも三月のパンタシアの楽曲を手がけてきた堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さんですが、どういうイメージを伝えて作っていったんでしょうか。
そうですね……今だから話せるんですけど、この曲を制作してる時期に、自分にとってものすごく大切な人を失ってしまって、とても落ち込んでいたんです。どうしてもキツくて、泣いてばかりで。周りのスタッフからも心配されるくらい、しばらく何も手につかなくなっちゃって。そういう状況の中で、ちょうどその数カ月後に「君の海、有機体としての青」のライブを控えていて、こんな気持ちでライブができるのかなと不安だった。どうしたらこれから自分がまたここから立ち上がっていけるのかなと考えたときに、この苦しみとやるせなさを音楽に変えて、それを前に進む力にして歌っていくことでもう一度立ち上がれるのかなと思って制作したのが「March」です。なので、サビの「行かなくちゃ 行かなくちゃ」というフレーズは、もう一度立ち上がらなくちゃって自分に言い聞かせているところがあります。こんなに喪失の苦しみや痛みを感じるのは、すごく大切な人だったからで。大切だからこそこんなに痛いし、この痛みもその人がくれた感情なんだろうなということを思いながら書きました。
──マーチングしているような音から始まる、サウンド的に明るくて歌詞も前向きな曲に思えるけど、それはみあさん自身が前に進むために、自分を奮い立たせるために作った曲だったからなんですね。
この内実も一緒に制作した堀江さんには全部お話ししていました。「明るいサウンドの曲にしてください」ということだけは伝えた記憶があるんですけど、「三月」と「行進曲」を掛けてマーチングバンドのような曲調を持ってきてくれたのは、こちらからのリクエストじゃなくて堀江さんのアイデアです。「March」というタイトルを付けたのも堀江さんなので。
──じゃあ堀江さんからみあさんへのメッセージとして、背中を押すような気持ちもあったのかもしれないですね。今まで三月のパンタシアをずっと見てきた、堀江さんだからこそ書ける曲。
うん、そうですね。そういう意図でお声がけさせてもらったというか。この気持ちを託してみたいって思ったのは、やっぱり堀江さんでした。
──デモが上がってきたときはどう感じましたか?
最初の歌い出しのあとの間奏がすごく明るくて、三パシらしさもあって。ここからまた始まっていく……そんな予感を感じさせてくれるサウンド感に、「やっぱりまたがんばっていかなくちゃな」と励まされました。途中で曲調がガラッと変わって、不穏な感じになっていくパートもあったり、1曲の中でいろんな物語が詰め込まれている楽曲で。私の心情に寄り添ったサウンドメイクをしていただいてうれしかったですね。自分の心の形をそのまま音楽にしてもらった感覚がありました。
──聴いていて、歌詞とアレンジがぴったり一致しているような印象を受けました。Bメロの「光降る音がした 温かい匂いがした 君がいたんだ」というところの柔らかい曲調だったり、「行かなくちゃ 行かなくちゃ」というサビで一気に開けていくようなサウンドだったり。それは堀江さんからのサウンドに導かれるように、みあさんが歌詞を書いていったからなんでしょうか。
そうですね。歌詞はデモをいただいてから書きました。最初に綿密に話し合ったうえで作ってもらったので、音を聴いたら「これを歌いたい」という歌詞が自分の中にはっきりあって。ただ、サビだけは5回ぐらい書き直したんですけどね。あふれ出る気持ちを1つのフレーズに集約するのが難しくて。「恥ずかしくて優しい 愛に似た想い」というフレーズを書いてるんですけど、そういう優しい気持ちもあるし、照れ臭さもあるし、でも痛みも伴うような……そういう1つの言葉では表現できない、明るさも暗さも含んだこの感情って愛なんじゃないかなと思った。大切な人との出会いは自分に愛を与えてくれたと信じたいなと思ったことを、最終的にサビでは書きました。
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自分の愛は今どこに向かってるんだろう?