青春の裏側を暴き出していきたい
──三月のパンタシアは今年の4月に「青春を、暴く」というプロジェクトの新テーマを発表しました(参照:三月のパンタシア、新テーマ「青春を、暴く」掲げて新曲「ピアスを飲む」配信リリース)。「解体新章」というEPのタイトルからも新しいモードを感じます。
「青春を暴く」というテーマは、青春時代を“解剖する”感覚に近くて。青春のキラキラしたさわやかな部分だけではなく、実はその裏側にある人間のみっともなさ、滑稽さ、気持ち悪さみたいな部分も暴き出していきたいんです。そういうニュアンスのタイトルを考えていたときに、教科書に出てきた「解体新書」を思い出して、今回のEPにぴったりだなと。それで「解体新章」という造語を付けました。
──3月のライブでも「これからは明るいだけじゃない、仄暗さもはらむような新しいブルーポップの世界を描いてみたい」とおっしゃっていましたが、なぜそういう思いに至ったんでしょうか?(参照:三月のパンタシアが“海”の明暗を表現、新しいブルーポップの世界へ)
三月のパンタシアはインディーズ時代から一貫して青春時代の情景を描いていて。青春の青さというところから、ブルーをテーマカラーに活動してきたんですけど、どちらかと言うと明度の高い青のイメージが強かったと思うんです。もの悲しい情景も歌ってきたけど、どこかさわやかな味わいがあるというか。
──確かに、淡い青色のイメージがあります。
でも、人間って多面的なものだなと最近強く感じていて。きれいな部分もあるけど、実は心の底でちょっと腹黒いことを考えていたり、気持ち悪い熱情をはらませていたり。これまでもそういういくつもの感情を内包しているのが人間だとわかりつつ、あまりにもダークすぎると三月のパンタシアの世界観とはちょっと違うかなと思って、実はこれまで歌うのを避けていた感情もたくさんあるんです。やっぱりリスナーの方々がどう受け取るのかなという不安があったから。“三パシ病み曲”として、ダークさに近しいものは発表してきたことはあったんですけど。
──2019年発売の2ndアルバム「ガールズブルー・ハッピーサッド」から“1アルバム1病み曲”と謳っていますよね。
はい。でも、それよりもさらに深く踏み込んで青春の明部と暗部の両側を描くことで、青春という得体の知れないものの解像度がより上がるんじゃないかなと。そういう意図があり、一面だけじゃなく多面的に青春を描いていこうと決断をして、「青春を暴く」という新しいテーマを掲げました。でも、新しいテーマを掲げたからといって、これまでの物語が分断されるわけではまったくなくて。パレットに新しい色味が増えたような感覚です。増えたからこそ、作れる色の濃度の幅が広がると思っています。
ピアスを奪って飲むしかない
──このEPも、キラキラとした淡い青を彷彿とさせる1曲目「ゴールデンレイ」と2曲目「ピアスを飲む」とのギャップが激しいです。「ピアスを飲む」は青と言っても、ほとんど黒に近いような。病み曲を超えて狂気を感じます。
うれしいです。今回まさに“狂気”を表現したかったので。
──主人公が病み狂って、付き合ってる男性の耳から、ほかの女性の気配を感じるピアスを奪い取ってそのまま飲み込むという……改めて言葉にするとすごい曲ですね。
男の人が聴いたらかなり怖いと思う(笑)。「ピアスを飲む」は小説をもとに制作した楽曲で。
──Twitterで小説を公開していましたよね。
はい。小説を書く時点で、報われない不毛な恋に右往左往している女の子の話にしたいなと思って。でもそういう女の子の物語はよくあるし、その普遍的な物語の中で自分が感じる人間の本質的な気持ち悪さみたいなものをどうやって書けるのかなと考えました。なんで主人公がピアスを飲んだのかと言うと……相手の気持ちが自分から離れていることを感じて「別れなきゃ」と思ってるけど、ずっとずるずる別れられなくて。でも、どうしたって幸せになれないことはわかっているから、自分から別れを告げようとするんですけど、ただあっさり別れてやるだけだと悔しいというか。別れ際、相手に自分の何かを残したいと私は思うんですよね。自分がやってあげたことを覚えていてほしいとか、あなたに初めてこれをやってあげたのは私だよ、みたいな。それで、最後にトラウマでも傷でもいいから相手に何か残してやりたい、ドン引かれるようなことでもいいから何かやってやろうと思ったときに、「ピアスを奪って飲むしかない」と思って(笑)。
──目の前でピアスを飲まれたら、相手は生涯忘れないでしょうね。
あはは。それでいいと思って。最悪な記憶でもいいから、絶対に忘れさせないという強い意志が根底にあります。
──「相手に何か残してやりたい」と思って、「ピアスを奪って飲むしかない」というところに行き着くのは、言ってしまえばなかなかの奇行です。
小説を書くときに、まずピアスを飲むシーンが先行してあったんですよね。相手が身に着けているほかの女性の痕跡を奪ってやりたいと思ったときに、奪って捨てるだけだと悔しさを消化できないなと思って。口に含むだけでも物足りない。自分の腹の底に押し込めるしかないという。
──ここまで黒に近い青に振り切るのは勇気がいりませんでしたか?
そうですね……でも、「ピアスを飲む」に関しては振り返らずにとにかく行くところまで思いっ切り振り切ってみようと思っていたので。リスナーの方々がどう聴いてくれるのか、ドキドキもしたんですけど、やってみたいと思ったことを最後までやりきりました。
私がさらに病ませました
──2曲目の「ピアスを飲む」と、そのサイドストーリー的な3曲目「レモンの花」の作編曲は栗山夕璃さんが手がけています。栗山さんとは初めてのタッグになりますね。
ダークな物語を描くにあたって「どういう方にお願いしたらいいだろう?」と三パシチームで考えていたときに、栗山さんの世界観がすごく素敵だなと思って。「ダークな世界観が持ち味の方に」という観点でお声がけさせてもらいました。
──小説をお渡ししたうえで、みあさんから栗山さんに何か伝えていたことはありましたか?
こちらから細かく「こういう音色に」というオーダーはしなかったんですけど、栗山さんのオリジナル曲がジャジーでおしゃれな曲が多いので、その毒っ気のある艶っぽさが炸裂する曲になるとうれしいですということはお伝えしていました。逆に、栗山さんからは「感情構成を教えてほしいです」と言われまして。
──感情構成?
お互いのイメージを擦り合わせるために、「ピアスを飲む」はこの感情が何割というのを知りたかったみたいなんです。感情のパーセンテージでイメージを擦り合わせていくのは初めてだったので面白いなと思いながら、「ピアスを飲む」に関しては“怒り”が一番強くて4割、“悲しさ”が4割、“でもやっぱり好きであきらめられない”という感情が2割ということをお伝えしました。
──「ピアスを飲む」と「レモンの花」、いずれも歌詞は栗山さんとみあさんの共作になっていますが、どういう作り方をしたんですか?
「ピアスを飲む」に関しては、デモの段階で栗山さんが歌詞を書いてくださっていたんです。そのベースの歌詞に対して、「この部分はこういう情景を伝えたいので、ちょっと書き換えてみたんですけど、どうですか?」と私が少し編集させていただいて。たぶん、私がさらに歌詞を病ませましたね(笑)。もっと振り切りたいと思って。
──情景というのは具体的にどのあたり?
Aメロの「スマホの光漏れてます」という歌詞は、隣合わせで眠ってるけど、彼は自分に背中を向けてこっそりスマホをいじって、ほかの女の人とやりとりしてるなって。「こっそりやってるみたいだけど、スマホの光漏れてますよ」みたいな嫌味ですね。そういう嫌味っぽいことはけっこう書いたと思います。
──歌に関しても新しいアプローチを取っていると思います。言葉を吐き捨てるような歌い方で、巻き舌みたいな感じも取り入れていて。
歌っているときも怒りがずっとあるというか。すごくムカついてくるんですよね。
──主人公の気持ちが降りてきて?
はい。でも、主人公も主人公でちょっと傲慢なところがあるんです。相手に不満があるなら、言えばいいじゃんって。話し合いで解決できる部分があるのに、言わないで勝手に爆発しているところがあるので、お互いさまなところはあるんです。主人公は相手に嫌われたくないからずっと言えなくて、「この気持ちをわかってよ」という状態になっていて。ともかく怒りを爆発させて、1曲を通して、その怒りにグラデーションを付けている感じです。終盤の「あれもこれも愛情」のあたりから、まくしたてるような怒涛の展開になっていくので、そこにピークを持ってくるというプランニングをしました。
──三パシの曲でここまで誰か特定の人に対して、こんなに怒りを爆発させる曲はなかったような気がします。
確かに。苦しい、切ないという感情は「ビタースイート」や「不揃いな脈拍」で歌っていて、その中に少し怒りもあったんですけど、ここまで全面的に怒りと愛憎を爆発させている曲はなかったので。楽しいですね。ふふふ。
──楽しいですか。
はい(笑)。普段ここまで自分が怒れない性格なので、怒れる気持ちよさがちょっとあります。リスナーの皆さんにも歌ってほしい。すごくすっきりすると思います。
ちょっと危ない男の子の歌
──サイドストーリーの「レモンの花」は曲調も歌声もとにかくさわやかなんですが、そのさわやかさが逆に狂気を感じてゾクッとするというか。
わかります。
──ストーリー的には、「ピアスを飲む」の主人公の女の子に思いを寄せる、後輩の男の子の歌なんですけど……その男の子は、実は女の子に異常に執着しているという。言わば、ストーカーの歌です。
本人はピュアな恋心だと思っているけど、傍から見たらヤバい男の子なんですよね(笑)。
──最初から2曲作る想定だったんですか?
いや、当初は「ピアスを飲む」の1曲だけ作るつもりだったんですよ。でも、「ピアスを飲む」が完成してから、せっかく「青春を暴く」という新しいコンセプトを掲げるなら、このタイミングで新曲が2曲くらいあってもいいんじゃないかという話になって。もう1曲作るとしたらどんな曲になるのかなと考えたときに、「ピアスを飲む」が怒りと愛憎を歌ったドロドロの曲なので、もう1曲は「ピアスを飲む」の主人公の女の子にずっと片思いしている後輩の男の子がいるという設定で、切ない感じの曲を作ったらいいんじゃないかなと思ったんです。だから最初はわりとこれまでの三月のパンタシアの世界観に近い、切ない片思いの曲に収束していく予定だったんですけど、この男の子にも人間としての滑稽さや気持ち悪さをはらませてみるのはどうかなということになって。
──新しい方向に振り切ったんですね。
恋人がいる女の子をめげずにずっと思い続けるって、相当な強い思いがないとできないだろうなって。だとしたら、そこがねじくれて強い執着心に変わっていくことはあり得る。そこで強すぎる執着心や独占欲をはらませた、ちょっと危ない男の子の歌にしてみようかなと思って小説と楽曲を作っていきました。
──「レモンの花」に関しても、栗山さんに感情構成をお伝えしたんですか?
はい。でも「レモンの花」は傍から見たらストーカーで恐ろしいんですけど、この男の子的には自分でストーカーだという自覚はないので。切なさ6割、悔しさ4割くらいとお伝えしました。でも、「レモンの花」の歌詞に関しては「ピアスを飲む」とは逆で、私が最初にフルコーラスを書いたものを栗山さんにお渡しして、そこに対して栗山さんが編集してくださったんです。「こういう言い回しにしたほうがリズム感が出ますよ」とか「スウィング感が出て気持ちよく聞こえますよ」という音のハマりの観点で、言葉尻をちょっと変えてもらったり。私自身、作詞をするときに音のハマりをあんまり重視できていない自覚はあったので、歌詞を書くのと小説を書くのはやっぱり明確に違うなと、今回の共作でかなり勉強させていただきました。
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花言葉は“誠実な愛”