三月のパンタシアが新作EP「ゴールデンレイ -解体新章-」を8月23日にリリースした。
EPのタイトルトラック「ゴールデンレイ」はテレビアニメ「ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~」のオープニングテーマで、作詞、作曲、編曲、ミュージックビデオの制作をはるまきごはんが担当している。楽曲のテーマは“光”。アコースティックギターが刻む軽やかな音色とともに「止まらないで行こう 光る方へ行こう」と歌う透明感のあるボーカルが、まだ見ぬ未来への高揚感と、少しの切なさを感じさせる。
今年の4月から“青春を暴く”という新たなテーマを掲げて活動している三月のパンタシア。EPは、このテーマのもと4月に配信された「ピアスを飲む」「レモンの花」、ペイントアプリ・CLIP STUDIO PAINTとのコラボレーション企画「創作応援プロジェクト」の楽曲「マイワンダー」、Souをゲストアーティストに招いたデュエットソング「まぼろし feat. Sou」も収録した充実の内容だ。
音楽ナタリーでは、みあとはるまきごはんの対談と、みあの単独インタビューの2本立て特集を展開。新章に突入した三月のパンタシアの思いを紐解いていく。
取材・文 / 中川麻梨花
実は古参なんです
──お二人は今まで親交はあったんですか?
はるまきごはん いや、今回ご一緒するまではまったくなかったですね。
みあ こうやってお話ししたり会ったりするのは、今回の制作が初めてで。でも、私は「銀河録」を聴いてから、ずっとはるまきさんのファンでした。
はるまきごはん けっこう昔ですね。2016年に発表した曲なので。
みあ 実は古参なんです(笑)。「銀河録」は冷たくて寂しい雰囲気もあるけど、いくつもの感情を内包している作品だなと思ったんです。人間はそうやっていくつもの感情を同時に抱えているもので、「銀河録」はそんな人の心にどこか寄り添ってくれる感じがあるというか。作品とリスナーの間の特別な関係性みたいなものを築けるクリエイターさんなんだなと思って。
はるまきごはん めっちゃうれしいです。ありがとうございます。冒頭でこんなに褒められると思ってなかったので不意打ちを食らいました(笑)。
みあ (笑)。それからずっとはるまきさんの曲を聴いています。
はるまきごはん 僕も三パシの曲を聴いていますよ。特に三パシ×n-bunaさんの曲がすごく好きで。今でこそボカロPとコラボして歌っているシンガーさんは多いけど、僕の中ではそのパイオニア的な存在が三パシというイメージがあるんです。当初からボカロPと組むというコンセプトがあったじゃないですか。それが当時新しいなと思った記憶があります。
みあ 確かにその当時は、ボカロシーン自体は盛り上がってましたけど、ボカロPと一緒にクリエイティブなユニット活動をするシンガーはそんなにいなかったかもしれない。そもそも自分がボカロカルチャーが大好きで、一緒に音楽をやってみたいと思ったボカロPの方にお声がけするところから三パシのプロジェクトが始まっていて。はるまきさんともずっとご一緒したい気持ちがあって、お声がけするタイミングを見計らっていたんですよ。
はるまきごはん ありがたいです。
みあ 今回「ライザのアトリエ」のオープニングテーマを担当することになって作品のことを調べていくうちに、はるまきさんの、透明感のある美しい情景が浮かぶポップロックサウンドや、物語性の強いミュージックビデオが頭に浮かんで。「ライザのアトリエ」にすごく合うんじゃないかなと思って、満を持してオファーさせていただきました。
新しいブルーを生み出せるんじゃないか
──はるまきさんは「ライザのアトリエ」のゲームをもともとプレイしていたそうですね。
はるまきごはん そうなんですよ。だからオファーをいただいたときは、びっくりしました。
みあ でも、私ははるまきさんが「ライザのアトリエ」のゲームをやってることは知らなかったです。「原作のファンらしいからぜひ」ということではなく、お声がけしたら、打ち合わせでたまたまプレイしていたことがわかったという。
はるまきごはん 偶然でしたね。ただ、僕は今まで三パシとお仕事で交わることがなかったから、自分が三パシのサウンドに入っていくことへのイメージが最初はあまりパッと思い浮かばなくて、正直不安もあったんです。n-bunaさん、じんさん、堀江晶太さん、buzzGさんといった先輩方が楽曲提供している中で、自分が曲を作るのはちょっと緊張感がありました。
みあ 三月のパンタシアは青春の“ブルー”をテーマに活動しているんですが、はるまきさんも青が似合う楽曲が多いイメージがあって。その三パシの青さとはるまきさんの青さが合わさることによって、新しいブルーを生み出せるんじゃないかなと私は期待していました。実際にデモをいただいたとき、これまでの三月のパンタシアの曲には吹いたことのなかったようなオリエンタルな風を感じて、すごくうれしかったです。
はるまきごはん よかったです。オファーを受けたときは今までの三パシのサウンドの流れに自分が乗れるのか不安だったんですけど、最初の打ち合わせで「これまでのものをなぞるんじゃなくて、今までやってこなかった新しいものを作りたい」というお話があって。それならやれそうだなって、そこからは不安もなくなりましたね。
──作詞、作曲、編曲、そしてMVまでまるっとはるまきさんにお願いしたのは、全部依頼してこそはるまきさんの世界観が作られると思っていたからですか?
みあ そうですね。今回はさまざまな要素を踏まえて、はるまきさんの独特な世界観にすべて委ねてみたいと思い。
はるまきごはん 楽曲提供するとき、MVまで作ることはあまりないので、最初に「MVもお願いしたいです」と頼んでもらえたのはすごくうれしかったですね。
みあ はるまきさんは音楽を作り始めたのと、イラストを描き始めたのは、どっちが先だったんですか?
はるまきごはん イラストですね。もともとマンガ家になりたくて。
みあ へえー!
はるまきごはん イラストを描くようになって、それでパソコンを買ってもらってから音楽を作るようになるという流れでした。
みあ 何がきっかけでパソコンで音楽を作ってみようと思ったんですか?
はるまきごはん パソコンで何かをすることが好きだったんですよね。音楽とかイラストの前に、そもそもパソコンが大好きだった(笑)。
みあ それは「パソコンがカッコいい」みたいな気持ちですか?
はるまきごはん いや、現実世界って消しゴムを使わないと文字が消えなかったり、めんどくさいじゃないですか。でも、パソコンだとすぐに消せる。最初はすべての操作が楽しすぎて。もともと物を作ることは好きだったんですけど、パソコンを使うのが楽しいというのが、一番根底にあるモチベーションです(笑)。
みあ 面白い(笑)。
──音楽活動を始めた時期は、はるまきさんが2014年、三月のパンタシアが2015年というところでけっこう近いんですよね。
はるまきごはん だいたい同時期なんですけど、みあさんのほうが早いようなイメージがあるんですよね。三月のパンタシアは多くの人に知られていたし、ライブとかも自分より早くやっていたから。僕のほうが活動を始めるのは早かったけど、みあさんのほうが先輩な印象があります。
みあ ええー(笑)。
「ライザのアトリエ」に対して、お互いが感じたのは“光”
──楽曲制作に取りかかる際に、最初の打ち合わせではどのようなことを話し合ったんでしょうか?
はるまきごはん 楽曲に関しては、みあさんが考えていることを最初の打ち合わせで話してもらいましたよね。
みあ そこで今回の楽曲のテーマにもなった“光”について語った記憶があります。私は“自ら選択すること”が大事だなと日頃から思っていて。「ライザのアトリエ」の主人公・ライザたちも物語が進んでいくにつれて、1つずつ決断と選択をしていくんです。人間が自分の意思で選択をする瞬間、ちょっと強い気持ちになれる感じがするというか、心の内が小さく強く光るようなイメージがあるんですよね。だからライザたちが物語の中で選択をするごとに、小さな光が一瞬一瞬灯っていく。そういうイメージや、夢中になれるものを見つけた瞬間にバッと発散される美しい光のイメージがサウンドや歌詞になるとうれしいですと最初にお伝えさせてもらいました。「ライザのアトリエ」の舞台が、夏の日差しがさんさんと降り注ぐ湖のある田舎の島なので、その情景にも光のイメージがあったかもしれません。
はるまきごはん “キラキラ”という表現をされていましたよね。その場でも話してもらいましたけど、後日みあさんが「ライザのアトリエ」に対して思ったことや感じたことを文章でまとめたPDFも送ってくださって。いっぱい書いてもらっていたんですけど、そこから一番テーマとしてしっくりきそうなもの、「ライザのアトリエ」という作品に対してお互いが感じたものが“光”でした。
──「ゴールデンレイ」というタイトルも光のイメージから?
はるまきごはん それは「ライザのアトリエ」に登場するクラウディアの金色の髪に太陽の光が反射してまぶしく見える、ライザの視点のイメージがあって。あと、タイトルを考えているときにちょうどゲーム内の「ゴールデンアックス」という斧のことを思い出したんですよね。「ゴールデン」って響き、よくないですか?(笑)
みあ 確かに。なんだか強そうな響き(笑)。タイトルを考えるときや作詞をするときに、そうやってたまたまパッと目についたものがモチーフになることはよくあるんですか?
はるまきごはん 多いですね。タイトルを決めるのって自分の中ではけっこう難しいんです。普通の単語にするのはタイトルっぽくない感じがして、でも奇をてらいすぎてもくどくなってしまうので。そのちょうどいい場所の単語って、自分から検索して探すんじゃなくて、ふと目にしていたものや記憶の中に見つかることが多いですね。
みあ 「メルティランドナイトメア」(2018年2月に発表された楽曲)は、どうやって決めたんですか?
はるまきごはん あれは全然悩んでないです(笑)。楽曲にもともと「溶ける」とか「悪夢」みたいなテーマがあったので。あの頃は今ほどタイトルに悩まず、けっこう直観的に決めていました。今のほうが悩むことが多いです。
みあ 私もタイトルってすごく悩むんですよね。最初から「これをテーマにするぞ」というものがあるときは、最初にタイトルを決めることもあるんですけど、あとから決めることが多いです。
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今まで聴いたことのなかった“夏のパンタシア”