みあ単独インタビュー
やっぱりこの場所が一番好きなんだな
──デビュー6周年、おめでとうございます(取材はデビュー記念日の6月1日に行われた)。心境はいかがですか?
“6年”と聞くと、ものすごく時間が経ったようにも思えるんですけど、メジャーデビューシングル「はじまりの速度」をリリースしてからは、毎日が挑戦と試行錯誤の繰り返しで。「もう6年経ったの?」「あっという間だったな」という気持ちもするし、でもたまに過去のライブ映像を観ると、6年間でちゃんと成長してるんだなとも思いますね。今は「ここから先、また進んでいくぞ」という前向きな気持ちでいます。
──デビュー5周年イヤーはターニングポイントでしたよね。素顔を解禁したことはもちろん(参照:三月のパンタシアの新たな物語が始まる、再会の場所で見せた“ありのままの姿”)、長編小説を発表したり、ストレイテナーのホリエアツシさんや神聖かまってちゃん・の子さん、フジファブリックといった方々とコラボをしたり。
やっぱり三月のパンタシアのテーマとして、「変わらないまま、生まれ変わり続ける」というのがあって。“ブルーポップ”という概念を軸にしっかり持ちつつ、それをより豊かにリスナーのみんなに楽しんでもらいたいなという思いで、日々「じゃあどうしたらいいんだろう?」と考えて、挑戦を続ける。今はまさにその真っただ中にいるのかなと思います。
──去年の秋と春に有観客ライブができたことも大きな出来事だったと思います。春に行った東阪ワンマンライブ「三月のパンタシア LIVE 2022『邂逅少女』」はいかがでしたか?
「邂逅少女」ツアーは、改めて自分が歌う理由を強く実感できたライブでした。というのも、本来であれば3月に大阪公演を行う予定だったんですが、ライブの1週間前に私が新型コロナウイルス陽性になってしまい、4月に延期することになったんです。そういった状況の中で、不甲斐ないなと凹んでしまう部分もあって。大阪でライブをするのは初めてだったので、三パシのライブを初めて観るのを楽しみに待っていてくれていた人たちに対して申し訳ないなと思ったり。でも、気持ち的にちょっと沈んじゃっている期間に、SNSを通してファンの方々が「自分たちはみあさんが元気いっぱいになって帰ってくる姿をいつまでも待っています」というようなメッセージをくれて、その言葉の1つひとつにものすごく救われました。そうやって待っていてくれる人がいるということのありがたさを強く感じることができたし、だからこそ特別なライブを披露したいという気持ちも強くて。いざお客さんの前に立った瞬間、やっぱりこの場所が一番好きなんだなっていうことを再確認しました(参照:三月のパンタシアが”再会”のアルバム携えて少女たちの物語を表現、新曲「四角運命」初パフォーマンス)。今回は東阪ツアーだったんですけど、今後いろんな場所にいてくれるファンのもとに音楽を届けに行くことを目標にまたがんばっていきたいです。
3人の女の子の繊細な情感を投影
──その大阪公演で新曲「四角運命」が初披露されました。この曲は「カッコウの許嫁」のエンディングテーマとしてオンエア中ですが、アニメサイドから曲調や歌詞について何かオーダーはありましたか? グルーヴィなロックナンバーで、ちょっとダークな感じというか、シリアスさがありますよね。
歌詞に関してはメインヒロインである(天野)エリカの心情を書くのがいいんじゃないかという話をいただいて。サウンドやメロディの部分に関しては、一度自由に考えさせてもらい、三パシ側から2曲提案させていただきました。1曲は「四角運命」なんですけど、もう1曲は王道ラブコメのエンディングテーマというイメージで、テンポがゆったりしていて柔らかい印象で物語を締められるような楽曲でした。それで選ばれたのが、ダークでエッジの効いたロックナンバーのほうで。ということは本編のラブコメドタバタ展開では見られない、ヒロインたちの胸の内の切ない葛藤を描くのが面白いんじゃないかということで歌詞を書いていきました。
──なるほど。「カッコウの許嫁」のエンディングは本編とは雰囲気がガラッと変わって、シリアスでカッコいい映像に仕上がっていますが、曲調の指定がなかったということは、おそらく「四角運命」の雰囲気に合わせてこういう絵になったということですかね。
映像に関しては聞いていないんですが、もしかしたらそうなのかな。歌詞に関しては「エリカの心情を」ということだったんですけど、私は原作を何度も読んでいく中で、エリカの思いはもちろん、(海野)幸だったり(瀬川)ひろだったり、ほかの女の子たちの思いも何かしら楽曲に落とし込むことはできないかなと考えるようになって。この3人って立場はそれぞれ異なるけど、切ない思いを抱いているのは共通しているんですよね。主人公の(海野)凪くんに対して気持ちを言いたくても素直に言うことができない苦しさがあったり。恋のような気持ちを自覚しかけてるけど、それを認めることで今の関係性が変わっちゃうのを恐れて気付かないふりをしてるのかなと思うところもあったり。そういう3人の女の子の繊細な情感を投影して歌詞を書こうと思いました。
──個人的にはエリカの気持ちだと解釈して聴いていたのですが、YouTubeのコメント欄を読んでいたら、ひろに似合う曲だと感じている方もいらっしゃって。聴いた人によって「この子の曲だ」といろんな解釈ができるのは面白いですね。
みんなそれぞれ思い入れのあるキャラクターに歌詞を投影しながら聴いてくれているのかなと思うと、すごくうれしいです。そうやってアニメや原作のファンの方にも愛される楽曲になってくれたらなと思います。
ここまで激情的に歌っちゃっても三パシになるんだな
──「四角運命」の作編曲は片山将太さんが手がけています。片山さんとご一緒したのは今回が初めてですよね?
そうですね。ただ、実はこの楽曲、デモとしてずっと大切に温めていた曲なんです。かなりソリッドで、いい意味で独特の世界観がある楽曲なので、どういったシチュエーションに似合うのかなとずっと考えていて。今回、満を持して見事に「カッコウの許嫁」の世界観にハマったと思います。
──イントロから引き込まれる曲だなと。疾走感のある鍵盤からの力強いスラップベースという、怒涛の展開で。
ヒロインたちのせわしない胸の内というか、自分で自分の気持ちを「いや、違う。そうじゃないかもしれない」と消したり、書き換えたりしていくような心の動きとマッチしているサウンドだなと思います。あと、ライブで披露して思ったんですけど、バンドメンバーがテクニカルなプレイをしていて、私もサウンドに飲まれまいと精一杯で、一瞬一瞬、音を紡いでいく中での必死さみたいなものがこの楽曲の雰囲気とすごく合っているんですよね。ぜひライブで聴いてもらいたい楽曲です。
──王道ラブコメをイメージした曲のほうが選ばれていたら、多分また違う内容の歌詞になっていたということですよね。でもこの曲が選ばれて、結果、三月のパンタシアが表現したいことの根底にある思春期の女の子の葛藤、言いたくても言えない気持ちを歌う曲になったという。
そうですね。ただ、気持ちを言いたくても言えない切なさや苦しみというのはこれまでもずっと歌ってきましたが、こういうサウンド感でのアプローチもあるのか、という新しい発見もありました。ここまで激情的に歌っちゃっても、案外三パシになるんだなって。
──「四角運命」というタイトルはどの段階で浮かんだものなんですか?
トラックダウンチェックのときですね。最初はタイトルを仮で「気まぐれな運命」にしていたんです。でも、スタジオで片山さんやスタッフさんも含めてみんなで話す中で、もうちょっとタイトルに楽曲のテーマ性が見えたほうがいいんじゃないかという話になって。実は作詞をするときに「カッコウの許嫁」の“四角関係”というちょっと面白い関係を取り入れたいと思っていたんですけど、歌詞の中で書き切るのがなかなか難しかったんです。でも、心の中に“四角”というワードが残っていて、タイトルに使えないかなと思って。不思議な言葉だけど、「『四角運命』ってどうですかね?」と提案して、このタイトルに決まりました。
──言葉のインパクトがありますよね。
「四角運命」という漢字の並び、全部カクカクしていて四角っぽいのも面白いなって。だからタイトルのロゴを作るときもなるべく四角にしてもらいました。アー写も正方形にして、とにかく四角を意識しています(笑)。
──歌詞を書いていく際に、この曲だからこそ意識したことはありましたか?
メロディの印象がクールで、歯切れのいい感じの歌詞が合いそうだなと思って。Aメロは特に言葉の響きのよさというか、切れ味の鋭さを意識して書いていきました。
──先ほど康司さんがおっしゃっていましたが、みあさんはこれまでにボカロPからバンドで活動するアーティストまで、いろんなジャンルの方々から楽曲を受け取ってきたわけで。みあさんらしい叙情的な表現は軸にありつつ、どんな曲調にも対応して、メロディやサウンドの世界観に合わせられる作詞における器用さはすごいなと。
それは私自身が楽しんでやってる部分もあると思います。楽曲に対して「こういう曲調なら、こんな言葉をはめてみたら面白いかもしれない」みたいな。メロディやサウンドに引っ張られて出てくる言葉というのは、私の中でものすごく大きいんです。
──それは歌の表現にも言えますよね。例えば今回のシングルに入ってい3曲は、それぞれまったく異なる歌い方をされていて。
ロック、ポップ、ふんわり優しいみたいな(笑)。「四角運命」は鋭い感じの曲調なので、声にエッジさを出して、言葉を吐き捨てるような強い歌唱を意識しました。Dメロの「無性にのどが乾く」とかメロディがちょっと落ちる部分は、声に艶っぽさが出るようなイメージで歌っていきましたね。歌っていて、ちょっと大人びた姿を見せられるような感じはありました。
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“君”がいるから、転んでも立ち上がって走ることができる