三月のパンタシア特集|みあ×の子(神聖かまってちゃん)対談+みあ単独インタビューでニューアルバムを紐解く (3/4)

みあ 単独インタビュー

みんなになら自分の気持ちを素直に吐露してみたい

──の子さんとの対談で顔出しについてのお話がありましたが、いつ頃から具体的に考えるようになったんですか?

みあ いつぐらいかと言われると明確な時期は思い浮かばないんですけど、コロナ禍に三月のパンタシアの音楽をこれまでよりも深く見つめて、今この状況でどんな音楽を伝えたいんだろう、今後どういうふうに活動していきたいんだろうとじっくり考える時間があって。そこで素顔を公開することに具体性が帯びていった気がします。どこで素顔を公開するかもいろんな打ち出し方があったと思うんですが、私は三月のパンタシアに期待してくれているファンのみんなにまずは顔を見せて、直接自分の気持ちを伝えたいなと思ってワンマンライブという場所を選びました(参照:三月のパンタシアの新たな物語が始まる、再会の場所で見せた“ありのままの姿”)。

──ライブ中盤に紗幕が落ち、ステージに照明が当たって素顔が明らかになるという演出でしたが、その瞬間、みあさんの表情は晴れ晴れしいものに見えました。

よかったです(笑)。ライブは緊張もしてたし、不安な気持ちも込み上げていたんですけど、1年10カ月ぶりの有観客ライブというのもあって、1曲目からフロアのお客さんの熱がすごかった。それで、どう思われるかわからないけど、このみんなになら自分の気持ちを素直に吐露してみたいと前向きに捉えることができたんです。紗幕が落ちた瞬間は不安や緊張を追い越して、感慨深さみたいなものが一番突き上げてきた感じはします。一緒に歩んできたファンのみんなの前だからこそ。

「三月のパンタシア LIVE2021『物語はまだまだ続いていく』」の様子。

「三月のパンタシア LIVE2021『物語はまだまだ続いていく』」の様子。

──今回のアルバムのジャケットには、2人のみあさんが映し出されていますね。

自分の写真をジャケットにしたのはもちろん初めてで。「邂逅少女」というタイトルにはイラストのみあと現実のみあが出会うという意味も込めていたので、そのテーマをもとにデザイナーさんと打ち合わせをしてこういったビジュアルになりました。

三月のパンタシア「邂逅少女」通常盤ジャケット

三月のパンタシア「邂逅少女」通常盤ジャケット

1本の小説を軸にした理由

──みあさんは2018年から小説を書き始めて、「ガールズブルー・ハッピーサッド」(2019年3月発売の2ndアルバム)、「ブルーポップは鳴りやまない」(2020年9月発売の3rdアルバム)では短編小説をもとに、各小説に紐付けて楽曲を制作していました。でも、今作では「再会」という1つの長編小説からメインテーマ2曲、エンディングテーマ1曲、サイドのキャラクターにスポットを当てた2曲、計5曲の新曲を作っています。今回どうしてこういった作り方になったんでしょうか?

これまでは短編集のような形で楽曲を楽しんでいただいていたと思うんですけど、例えば1つの物語をいろんな作家さんと共有して、同じテーマで曲を作っていただいたら、作家さんによって完成する楽曲が全然違ってくるんだろうなと思って。その場合、どういう違いが生まれるんだろうと、純粋に興味があったんです。最初はそれをやってみようかなと漠然と考えて、今回は1本の小説を軸にしようと決めました。

──小説を書き始めた最初の段階からそういう構想だったんですね。

そう思って小説を書き始めたんですけど、今回に関しては自分で書き下ろした小説の中の情景や思いを自分の言葉で歌詞にしてみたいなという意思があって。そう考えたときに、同じテーマで5曲の歌詞を書き分けるというのが自分の中でうまくイメージできなかったんです。というところでちょっと視点を変えて、メインテーマという形でそれぞれ毛色の違う主題歌を2曲、エンディングテーマが1曲あったらいいなと思ったのと、あとは主人公の気持ちだけじゃなくて脇にいる少女たちの気持ちを描いてみることで物語により深みを持たせることができるんじゃないかなと考えて、最終的にこういった形になりました。

──なるほど。去年の7月にリリースされたシングル「101 / 夜光」のカップリング曲「パインドロップ」が長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」のサブストーリー的な楽曲だったので、それに近い発想ですね。

まさにその経験が種になっていました。あのときも「主人公の脇にいるキャラクターが実はこういうことを思ってたんじゃないかな」というのがサイドストーリーとして湧き出てきて、これも楽曲にできたらきっと物語をより濃密に楽しんでもらえるだろうと思っていたので。それを今回のアルバムでも実践してみたという流れですね。

人間の生々しい部分を表現したかった

──小説「再会」では林麻莉と永山春翔という2人のキャラクターが出会いと別れを繰り返していく様が描かれていますが、全体的にはどういった空気感の物語をイメージして書いていったんでしょうか?

青春時代に素直になれなくてすれ違ってしまうつらさ、あのときこういう選択をしていたら今は変わっていたかもしれないのになという後悔……そういった中でもう一度相手と再会できるチャンスが訪れたときに主人公がどんな選択をするのか。怖さもあるけど勇気をかき集めて会いに行くのか。それとも傷を抱いたまま会わないのか。その選択のエモーショナルさみたいなものが描けたらいいなと思っていました。主人公以外のキャラクターにスポットを当てたサイドストーリー的な楽曲では、人間の本質的な部分といいますか、きれいごとだけじゃない、青春のキラキラした部分以外の生々しい部分を表現したいという意図がありました。人って誰かと話しているときはそういう部分を見せたくないから隠してるけど、心の内ではけっこう冷酷なことを考えながら生きていると思っていて、そういう部分も描けたらいいなって。人間の執着心とか。

小説「再会」より。

小説「再会」より。

──主人公の友人・琴絵の内面を描いた「君の幸せ喜べない、ごめんね」ではまさにそういったドロッとした気持ちが描かれていますね。作編曲はボカロPの遼遼さんですが、どういう経緯で提供してもらうことになったんでしょうか。

もともと私がリスナーとして遼遼さんの音楽を聴いていて、ダークなトーンの楽曲が特に好きだったんです。それでお声がけさせてもらって書き下ろしていただきました。

──不思議な雰囲気のある曲ですよね。葛藤をわーっと解放するのではなく、四つ打ちのミディアムテンポのビートに乗せて歌うからこそ、逆に複雑な感じが浮き彫りになっているような。

激情をそのままサウンドやメロディで表現するというよりは、訥々した感じのちょっと外した雰囲気の曲にしたいなというお話をさせていただきました。あと、これまでもインタビューでお話しさせてもらっているんですが、三パシは2ndアルバム以降、“1アルバム1病み曲”という裏テーマを掲げていて(笑)。

──「君の幸せ喜べない、ごめんね」がその枠だったわけですね。

はい。最初から決めていたので、それもお伝えさせてもらいました。

──自分の気持ちを「毒の花」と表しているのが印象的でした。

きれいに咲けないとわかってるし、自分の感情がいびつで毒々しいものとわかってるけど、それでも咲いちゃダメという決まりはない、みたいな。「友達の枠はみ出してむせ返るこの想い」という歌詞もありますが、基本的には親友の女の子に対する自分の感情の扱い方に迷ってる曲ですね。胸に宿っている気持ちって友情よりももっと深い気がするけど、じゃあ恋愛感情かと言われるとわからない。この思いを自分の中でどう対処していいのか本人自身もまだわかっていないというか。小説ではこの子がそうやって悶々としてるうちにいろんな感情が爆発して、大事件になってしまうんですけどね。

──もう一方のサイドストーリー的な楽曲「シリアス」は容姿端麗で大人びたように見えるキャラクター・美紀にスポットを当てた曲で、彼女の内側にある余裕のない狂おしい恋心が衝動的に歌われています。

この曲のデモはもともと手元にあって。以前ボカロPのにっけいさんさんからいただいて、素敵な曲だなと思って温めていたんです。アルバムに収録するにあたって、ご本人に小説を共有して、アレンジしてもらいました。にっけいさんはすごく大切に小説を読んでくださって、「おとなしくて生真面目な性格かと思いきや、案外大胆で突拍子もないことをする子ですよね。それをサウンドで表現してみてもいいですか?」と提案していただいて。途中でリズムが変わるところで、そういうキャラクター性が表れているのかなと思います。

──「私本気の恋をしてる」というフレーズが印象的だったんですが、「シリアス」というタイトルはそういう美紀の気持ちから来ているんですか?

そうですね。本気、誠実みたいな意味合いを込めています。私は「本気の恋は 白か黒かだけじゃないよ」という歌詞が気に入っていて。グレーゾーンでもいいからそばにいたいというくらい頭がのぼせ上がってる状態の恋心に、女子高生だからこその全能感を感じます。大人になるとグレーゾーンの恋なんて手を出したくないって思っちゃうので。「絶対に私はうまくいく自信がある」みたいな若さゆえの突破力を楽曲で表現してみました。