三月のパンタシア|大きな一歩を踏み出した“新しい夏”

歌いたかったのはこれだ!

──歌詞はみあさんとホリエさんの共作ですね。

ホリエ 歌詞に関しては、共作しましょうと言ってもらえて。僕は小説の中からいくつか言葉をピックアップして書いていきました。みあちゃんの言葉の巧みさみたいなところが面白くて、その中から使いたい言葉や表現があったんです。作中では主人公がこの曲の歌詞を書いているんですが、僕も小説に感情移入してるから、だんだんバンド像が見えてきて、「主人公はこういうふうに歌詞を書くかな」というイメージもふくらんでいって。

みあ JKの気持ちですね!

ホリエ (笑)。これがバンドの曲になっていくんだなあと思ってました。

──前にみあさんがみきとPさんと「不揃いな脈拍」を共作をしたときは1番をみきとPさん、2番をみあさんという書き方をしていましたが、今回みあさんとホリエさんはどういうふうに歌詞を書いていったんでしょうか?

ホリエ Aメロとサビの半分を僕が書いて、サビのもう半分とBメロ、Dメロをみあちゃんに書いてもらいました。僕が先に書いて歌詞を渡しましたね。僕はたぶんメロディに対する言葉の乗せ方の癖があると思うので、まず先にその癖を知ってもらったほうがいいかなと思って。

みあ ちょうどきれいに歌詞の半分だけ埋まった状態でした。物語の中でこの部分を歌いたい、こういうフレーズを拾ってほしいというのは特にお伝えしていなかったんですが、ホリエさんは「歌いたかったのはこれだ!」みたいな歌詞を最初から書いてくれていて。あとから書く身としては、完璧な道筋が決まっていたからすごく書きやすかったですね。

──みあさんの中では、どういうことを歌いたいと思っていたんですか?

みあ ホリエさんにお会いするよりも前に、小説を書きながらなんとなく物語の中からこのあたりが歌詞になるのかなというフレーズをいくつか拾ってスマホのメモ帳に残していたんですよ。それを最近まで忘れていたんですけど、その発見したメモ帳を見たら「向かい風」と書いてあって。

ホリエ へえー!

──まさにサビが「向かい風の中へ 一歩ずつ歩き出した」という。

みあ 向かい風の中でも負けずに、なんとか一歩だけでも踏み出そうという主人公の少女の信念がサビにくるといいなと思っていたんです。そのメモを発見したときは「すごい!」とびっくりしました!

「夜光」ミュージックビデオより。

ホリエ すごかったんだ(笑)。ちゃんと物語を読み解けていてよかったよ。

みあ これはもう完全にJKの気持ちです!

ホリエ JKに感情移入してました(笑)。

──ホリエさんの歌詞を受けて、みあさんとしてはどういうイメージで書いていったんですか?

みあ 歌い出しの部分は私が書いているんですけど、曲の最後に「夜が動いていた」という情景描写があったから、最後に夜が動くなら最初は動いていなかったのかなと思って。だから最初の部分は、暗い夜に1人で寂しそうにしているようなイメージで書きました。ちょうどブロックごとにここはホリエさん、ここは私という感じで空白を作ってもらっていたから、国語の問題みたいな感じでしたね。「こういう気持ちになっているから、その前はどういう情緒でここに至るのか?」みたいな(笑)。

ホリエ あははは。

みあ そういう歌詞の書き方は初めてだったので面白かったです。

新鮮な言葉選び

──歌詞を作っていく中では、LINEなどで頻繁にやりとりされていたんですか?

ホリエ そうですね。「僕はここはこういうふうに思ったけど、みあちゃんはどうですか?」って、思ったことを率直に伝えました。それでみあちゃんから「確かにそうかもしれない」と返ってきて表現が変わったり、「ここはこういう意図があるからこのままでいきたいです」という箇所もあったり。そういうやりとりはわりとありました。

みあ ホリエさんには「ここをこうすると韻が踏めます」という韻の指摘をいくつかしてもらって。私はこれまで物語のほうを意識して詞を書いていたので、そういう角度から歌詞を見るというのは勉強になりました。中には「このままでいきたい」というところもあったんですけど、ホリエさんは優しいから、私が「こうしたい」と言ったら、納得できてなくてもたぶん「いいですよ」と言っちゃうと思って。文面だけだとホリエさんがどう思っているのかわからなくて不安だったから、通話で確認したこともありました。

ホリエ あったね! 「19時頃に電話してもいいですか?」というLINEがきて。確か17時頃にLINEがきたんですけど、「全部嫌だ」って言われたらどうしようと思って不安になっちゃって、2時間お酒を飲んでました(笑)。

みあ 私、そんなこと言いそうですか?(笑)

ホリエ いや、最初の頃のやりとりだったからわからなくて(笑)。

みあ 確かに最初はお互い探り合いみたいなのはあったかもしれない。でも、やりとりを重ねていく中で、文面でも「これは本当に納得してもらえているな」と思えたり、通じ合えている感じはありました。あと、ホリエさんからいくつか譜割に関して「こういうパターンもありますけど、いかがですか?」という提案をいただいたりして。実際にホリエさんが歌ったものが届くんですけど、どんどんホリエさんがこの曲を歌いこなしてきていて(笑)。

ホリエ ただ提案するためだけのデモで、そこのフレーズだけを弾き語りで歌って送ったんですけど、聴かれて恥ずかしいものにしたくないから10テイクくらい録ったんですよ。だから、どんどんうまくなっていくという(笑)。

みあ どっちがいいとかじゃないけど、ちゃんと三パシの歌にしないといけないって、変にプレッシャーを感じちゃいましたよ。

ホリエ あははは。

──ホリエさんから見て、みあさんの歌詞の特徴はどういうところにあると思いますか?

ホリエ 一般的に、歌詞で使われる言葉って小説と違って多くはないというか。作詞をする人たちの間で、同じ意味の言葉でも歌詞だとこの言葉を選ぶみたいな定石がなんとなくあると思うんですよ。でもみあちゃんはそうじゃない言葉をけっこう使うから、それがすごく新鮮でした。こういう小説っぽい言葉や表現は僕には書けないですね。

みあ うれしいです。自分らしい1行を焼き付けるみたいな気持ちはどの曲に対してもあるんですけど、今回は共作だったので特にあったかもしれないです。

「夜光」ミュージックビデオより。

はみ出すくらいの大胆さを持って歌った

──みあさんはレコーディングでどういうイメージで歌っていきましたか?

みあ この曲は上手に歌おうとするよりも、はみ出すくらいの大胆さを持って歌ったほうが小説の物語にもサウンドの感じにもハマるんじゃないかなと思って。歌うよりも叫ぶに近いイメージでレコーディングしました。

ホリエ 自分でもさんざん歌って送り付けていましたけど、やっぱりみあちゃんの歌になっているところが面白かったですね。僕の作った曲って言葉が強く出るというよりは、まずメロディを感じてもらうようなところが大きいので、一聴しただけだとあんまり歌詞が耳に入ってこないかもしれないなと思っていたんです。でも、みあちゃんの歌はちゃんと言葉が入ってくるような印象を受けました。アタックの強さなのかな。僕は子音をはっきり歌わないタイプなんですけど、みあちゃんは子音をはっきり発声するから。

みあ なるほど。いつも歌詞の中で立たせたい言葉を意識して歌っているので、そういうふうに感じてもらえたのかもしれないです。

──改めて、制作を振り返ってみていかがですか?

ホリエ 知り合ってこんなにとんとん拍子で進んで形になって、しかも素晴らしい小説の曲作りに参加できたことがうれしかったです。あと、僕もなんですけど、みあちゃんは判断が早いんですよ。ほぼLINEのメッセージでのやりとりだったけど、「そこはこういう意図でこうしたい」みたいに明確で、お互いのやりとりがすごく簡潔でやりやすかったですね。

みあ 私はギター1本の弾き語りの状態から曲ができあがっていく過程を見たのが初めてだったので、それが一番新鮮でした。これまでずっと、ある程度バンドでのアレンジができている状態のデモをもらってきたので。でも、弾き語りのデモの時点でなんとなくドラマティックな展開になっていくんだろうなというのはわかって、編曲の堀江さんもたぶんそう感じていたと思うんですよね。そのくらい最初のデモがすごくよかったので、そこにアレンジが入って完成していく過程を近くで見れて面白かったです。

ホリエ 制作自体にバンド感があったよね。

──そのバンド感も、小説の内容とリンクしているところなのかもしれないですね。

みあ 確かに。バンド色が強い曲を歌うのは、やっぱりすごく楽しかったです。制作過程も、自分がその中で歌うのも。今後もこういう曲にチャレンジしていきたいなと今回の制作を経て思いました。またホリエさんと何かご一緒できたらうれしいです。

ホリエ はい! なんでも。

みあ なんでも(笑)。引き続きよろしくお願いします!