三月のパンタシア|大きな一歩を踏み出した“新しい夏”

三月のパンタシアが両A面シングル「101 / 夜光」を7月21日にリリースした。

表題曲の1つ「101」はテレビアニメ「魔法科高校の優等生」のオープニングテーマ。じんが提供した、三パシ史上もっとも攻撃的なアッパーチューンとなっている。一方「夜光」はボーカル・みあによる初の長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」の主題歌で、作曲をホリエアツシ(ストレイテナー)、作詞をみあとホリエが共作で手がけた。小説は高校生バンドをテーマに、少年少女たちが葛藤しながらも自分の未来を選択していく青春物語。「夜光」は作中で主人公たちが披露する大切な楽曲という位置付けを担うエモーショナルなロックナンバーだ。

音楽ナタリーでは、みあとホリエの対談と、みあの単独インタビューの2本立てでこのシングルを紐解く。

取材・文 / 中川麻梨花

みあ×ホリエアツシ対談

みあのプレゼンで始まったコラボ

──みあさんが書き下ろした長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」の主題歌をホリエさんが提供しています。このコラボはどういう経緯で実現したんでしょうか?

みあ(三月のパンタシア) そもそも私がストレイテナーのファンで、ずっと楽曲を聴いていたんです。去年の9月にJ-WAVEの番組でオリジナル小説を書き下ろして朗読をするというマンスリー企画をやったんですけど、その小説の中にも主人公の女の子がテナーの「REMINDER」を聴いて励まされるというシーンを入れさせてもらいました。そのことをTwitterでつぶやいたら、三パシがずっとお世話になっているミュージシャンの江口亮さんが「テナー好きなの? ときどきホリエくんと会うよ」と気にかけてくださって。それで江口さんを介して初めてホリエさんにご挨拶させていただく機会があったんです。そのときに「ぜひ何かご一緒できたらうれしいです」という話をしたら、ホリエさんが「一緒に何か作れたらいいね」と言ってくださったので、そのあとに私がものすごいプレゼンをして(笑)。

ホリエアツシ(ストレイテナー)

ホリエアツシ(ストレイテナー) (笑)。

みあ そのときはまだ「さよ花」を執筆している途中で、8割くらい書けたところでした。これまで三パシがやってきたように、小説の主題歌的な楽曲を作りたいなというのは最初から考えていたんですけど、具体的にどなたに曲を書いていただくのかというところまでは決めていなかったんです。でも、ホリエさんにご挨拶できたあと、小説の内容が高校生バンドをテーマにしているということもあり、「はっ! ホリエさんに書いてもらえたら絶対にカッコいい曲になる!」と思い、改めて「今こういう小説を書いていて、こういう曲を作りたくて……」というプレゼンをさせてもらいました。

ホリエ ラジオの物語で「REMINDER」を出してくれたことに僕は気付けていなかったので、そういう話を初対面でしてもらって、とにかく純粋にめちゃくちゃうれしくて。出身が九州だという共通点もあったり。それで、みあちゃんと僕の間では話が展開していったんですけど、大人の方々の意向で話がなくならなければいいなあとドキドキしてました。でも、みあちゃんは「やりたい」という感じだったから、僕は「やれるならがんばります」という(笑)。

──みあさんはストレイテナーの音楽のどういうところに惹かれていたんですか?

みあ テナーの音楽は衝動的でダイナミックでカッコよくて、かつ、どこか繊細さもあって。ナイーブな曲の中にも明るい曲の中にも、私はいつもひと粒の切なさみたいなものを感じます。まるで物語みたいに、1曲にいくつもの感情が凝縮されていて、聴くたびにエモーショナルな気持ちを掻き立てられるんですよね。

──特にお気に入りの曲や思い入れのある曲はありますか?

みあ ホリエさんにもお伝えしたんですけど、私は「シーグラス」がすごく好きです。ただ、「シーグラス」はすごく有名でみんなが好きな曲だし、ホリエさんにこの話をするときにもっと玄人っぽい違う曲を挙げようかなとも思ったんですけど……それでも自分が一番好きな曲を正直にお伝えさせてもらいました。

──今回の小説の中にも、高校生バンドの会話の中で「シーグラス」が登場していますもんね。

ホリエ 原稿で読んで、あれはかなり照れました(笑)。

みあ ホリエさんに「書いても大丈夫ですか?」って確認しようと思っていたんですけど、聞くのをすっかり忘れて、そのまま校了しちゃったんですよね。

ホリエ (笑)。でも、ほかのバンドの楽曲も登場していて、いい選曲でしたね。僕自身、大好きでカバーしている楽曲も含まれていましたし。

──ホリエさんはみあさんの歌声や、これまでの三月のパンタシアの音楽にどういう印象を受けましたか?

ホリエ 僕の勝手なイメージかもしれないんですけど、三月のパンタシアが活動しているシーンでは、あえて声を加工して匿名性を持たせている音楽が多い印象があるんです。そんな中で、みあちゃんの歌声は赤裸々というか、ちょっと特殊だなと思って。歌い方に関しても、ボーカリストにはウィスパー系の精細な歌だったり、ソウルフルな歌だったり、いくつかざっくりと系統があると思うんですが、僕の中のどれにもハマらなくて。すごく新しくて、このコラボは自分にとってもチャレンジでもあるし面白そうだなと思いました。聴かせてもらった中で、僕は「ランデヴー」という曲が一番好きですね。

──去年の三パシの日(3月8日)に公開された、ファンの方へのストレートなメッセージソングですね。

ホリエ あの曲、サビで「ねえ」が3回出てくるんですよね。「ねえ」って歌詞の中でだいたい1回だけで使うことが多いと思うんですけど、「ねえ ねえ ねえ」と3回来るのに意表を突かれて、心をつかまれちゃって。

みあ そういう視点で感想をもらったのは初めてなので、新鮮な気持ちです(笑)。

青春時代の少年少女の物語として、感じるものがあった

「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」表紙

──ホリエさんの長いキャリアの中でも、小説をもとにして曲を書くのは初めてですよね?

ホリエ そうですね。ドラマやアニメに書き下ろすことはありましたが、小説をもとにして作品を作るのは初めてでした。1つのテーマに沿って曲を書いていくのは、やっぱりすごく楽しかったですね。小説の物語にも、まんまとのめり込んじゃって。

みあ ありがとうございます!

ホリエ 僕は主人公のお父さんがすごく好きで。みあちゃんに最初に伝えた感想は「お父さん役をやりたい」でした(笑)。

──実写ですか!

ホリエ わからないですけど(笑)。

みあ あははは。

──確かにお父さん、娘思いで素敵なキャラクターですよね。

みあ 今回は青春小説というジャンルの中で登場人物たちの人生の一部を書いていて、みんなそれぞれの立場で悩みや葛藤を抱えていたりして。その中で、誰に感情移入するのか?という中で、私はお父さん派もいてほしかったから、うれしいです(笑)。

ホリエ (笑)。この小説は大人から見ても、青春時代の少年少女の物語としてすごく感じるものがあったなあ。それって家族が絡んだエピソードの要素も大きいと思う。例えば韓国ドラマや韓国映画って、恋愛が主軸になっていても家族のエピソードも多く出てくるんですよね。それにも近いかなと思いました。

みあ そういえばホリエさんに教えてもらった韓国文学の「外は夏」、読みました!

ホリエ おお!

みあ 短編集で、全編“喪失”をテーマにした物語なんですけど、結末が読者に投げられているというか。例えば安楽死がテーマになっている犬と子供の物語とか、「何が正解だったのかな? この男の子はこれからどうなっちゃうのかな?」と、読み終えたあともずっと考えさせられました。

ホリエ 実は僕はまだ読みきれていなくて。犬と子供の物語までは読んだよ。

みあ えっ、まだ序盤じゃないですか! 早く最後まで読んでください(笑)。

弾き語りデモから浮かんだ小説の情景

──では、小説の主題歌「夜光」についてのお話を具体的にお聞きできればと思います。曲を作る前に、みあさんはホリエさんにどういうイメージをお伝えしていたんですか?

みあ そのときはまだ小説が書き終わってなかったので、物語のあらすじをホリエさんにお渡しして、作中に出てくる高校生バンドが演奏する曲だというイメージをお話しました。アップテンポで疾走感があって、夏の終わりの切なさがにじむような感じのざっくりしたイメージも最初にお話しさせてもらって。それ以外は、あえて何もお伝えしませんでした。本当は小説の中で楽曲について歌始まりであることとか、いくつか描写があったんですけど、ホリエさんの曲に合わせて書き直すこともできるから、いったん自由に作っていただけたらいいかなと思い。

ホリエ 僕はストレイテナーとしても自分のソロプロジェクトのentとしても、常に曲のネタを貯めていて。今回その中にあったネタの1つを、小説を読んでどんどんイメージを膨らませて練っていったんですけど、たまたま僕も歌始まりにしようと思って作っていたんです。だからそこは小説に合わせたというより、偶然そうなったんですよね。

──みあさんとしては、ホリエさんから曲が上がってきて、まずどういう印象を受けましたか?

みあ 最初にホリエさんがギター1本で歌った弾き語りデモが届いて。小説の中で登場人物がアコースティックギターで弾き語りをするシーンが出てくるんですけど、そのシーンとシンクロする錯覚を一瞬覚えるくらい、自分が思い描いていた作中で流れている音楽とホリエさんのデモがものすごくシンクロしていて、純粋に感動しました。静かな夜の海辺で、波音や虫の羽音が聞こえて……そういう小説の情景が浮かんだんですよね。ここからさらにアレンジが加わっていったらどんな曲になるんだろう?と、すごく楽しみでした。

──編曲は、三月のパンタシアの曲ではおなじみの堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さんですね。

ホリエ ダブルホリエです(笑)。

みあ 2人の“ホリエ”にはさまれて、すごくぜいたくでした(笑)。デモを作る前、最初に今回のお話を提案させてもらったときにホリエさんが「アレンジャーを入れてもいいかもしれないね」とおっしゃっていて。どなたに頼むのがいいんだろう?と三パシチームで考えたところ、これまでもずっとお世話になっている堀江さんはロック調のアレンジにも強いので、きっとこの曲にハマるんじゃないかなと思って名前を挙げさせてもらいました。

ホリエ 堀江さんにお会いしたことはなかったんですけど、すごく理想のアレンジに仕上げてくださって。バンド感を考えて練られた音になっていて、堀江さんも小説に感情移入してアレンジしてくれている感じがしたよね?

みあ はい。物語の中の若さや青さみたいなものが音になって表れていてうれしかったです。