4.恋愛
──三月のパンタシアの音楽を語るにあたって、“恋愛”というテーマは切り離せないですよね。
そうですね。でも、今でこそクリエイターさんと楽曲の打ち合わせをするときに「恋愛の甘酸っぱさを表現したい」ということをお伝えすることもあるんですけど、インディーズ時代の曲はそういうふうには伝えていなくて。作家さんの感性で自由に作ってもらっていました。
──当初から恋愛の繊細な心の揺れを歌うような楽曲が多かったということは、クリエイターさんたちも、みあさんの歌声に切ない恋の歌が合うと思っていたんでしょうか?
そうなんですかね? 今は私自身が一番リアリティを持って発信できるのって、そういう切なさなのかもしれないと思って、意図的に恋愛にフォーカスを当てて書いています。
──ハッピーエンドの作品もありますが、叶わない恋の歌のほうが多い印象があります。みあさん自身、そういう物語のほうが惹かれるんでしょうか?
ハッピーエンドもそうじゃない結末もどっちもよさはあるとは思うんですが、「2人は絶対に惹かれ合っていて、でもどうしてもそばにいられなかった」みたいな物語がやっぱり自分に刺さるんですよね。そこにものすごくエモーショナルさを感じるというか。でも、三月のパンタシアの作品としては、切なくても何か希望のある終わり方にしたいという気持ちがあって。歌詞にしても小説にしても最初に始まりと終わりを最初に考えるんですけど、そこは意識しています。
──まだまだ恋愛の物語のネタも尽きないですか?
創作においては想像で書いていることも多いんですけど、日常の中で「今のキュンとしたな……」みたいな瞬間をメモに残して、しこしこ溜めています(笑)。
──友達の体験談も参考にしていると前におっしゃっていましたよね。
「大恋愛とかしたことありますか?」って、けっこう自分から人に聞いちゃいます(笑)。とはいえプライバシーがあるので人の話をそのままは書けないんですけど、そこから着想を得ることはありますね。
5.ブルー
──自身の音楽を“ブルーポップ”という言葉で表現されていますが、改めてみあさんにとってブルーってどういう色ですか?
さわやかだけど、切ない色ですよね。「きれい」という1つの言葉じゃ言い表せられないような……いろんな情感をにじませることができる、物語性のある色だなと思います。青にもいろんな濃度がありますし。
──ブルーはご自身にとっていつ頃から特別な色だったんでしょうか? 「ガールズブルー」という企画を始める前にも「青に水底」や「群青世界」といった青にまつわる楽曲はありました。
昔から青色を特別意識していたというわけではないんですが、三月のパンタシアの活動を始めて、最初に「day break」という楽曲ができて、そのイメージからイラストレーターの浅見なつさんにビジュアルを描いてもらったら、淡い水色みたいな色彩だったんです。こちらから「こういう色彩にしてください」とお願いしたわけではなかったんですけど、自分の歌声と楽曲からそういう色を連想して、ビジュアルを描いてくださって。そこから、三月のパンタシアには青色が似合うんじゃないかなと思うようになりました。次の曲「青に水底」も「青がテーマカラーです」とお伝えしていたわけではないんですけど、n-bunaさんが青をテーマに楽曲を書いてくださって。そういうふうに、活動していく中でどんどん青色が三月のパンタシアのテーマカラーになっていきました。
──5年間さまざまな濃度の“ブルー”を音楽で表現してきた中で、三月のパンタシアにとって一番の転機はいつでしたか?
「青春なんていらないわ」をYouTube上で発表したときですかね。あの曲からバンドサウンド感が強くなったり、音楽性に変化があったので。当時は作品自体はとてもいいものができたという手応えがありつつ、これまでとちょっとポップの種類も違うから、リスナーの方々にどういうふうに受け取ってもらえるのかなという不安もあったんです。でも、いざYouTubeにアップしたら、これまでにないくらいリアクションがよくて、YouTubeの登録者数が一気に10万人くらい増えたんですよ。あの曲は大きなターニングポイントだったかなと思います。
──ブルーポップと掲げる通り、三月のパンタシアは“ポップである”ということもずっと大切にしていますよね。
「青春なんていらないわ」が入っている2ndアルバム(「ガールズブルー・ハッピーサッド」)から、より意識するようになりました。ポップなメロディに切ない歌詞を乗せると、なおさら切なく感じるんですよね。
6.幸福なわがまま
──5月に新曲「幸福なわがまま」が配信リリースされました。テレビドラマ「あのときキスしておけば」のオープニングテーマとして、みあさんが作詞、堀江さんが作編曲で書き下ろした楽曲ですが、自分の小説に歌詞を付けるのとはまた違う感覚でしたか?
違うところといえば……曲を作り始めたときは、まだ台本が途中までしかできていなくて。「あのときキスしておけば」は原作がないオリジナルドラマなので、結末がわからないというところから始まったんです。それでも結末を知ったうえで歌詞を書きたいなと思ったので、プロデューサーの方に「ヒロインは、最終的にどうなってしまうんですか?」と聞きました。1話の台本がめちゃくちゃ面白くてファンになっちゃったので、いち視聴者としてリアルタイムで楽しみたいという気持ちもありつつ(笑)、いただいた情報をもとに物語を組み立てていきました。
──ドラマの制作サイドから音や歌詞に関するリクエストはありましたか? 跳ねるような鍵盤の音色がキラッとしていて印象的です。
ラブコメディなのでアップテンポで明るめの曲調がいいというお話がありました。私、堀江さんの鍵盤がめちゃくちゃ好きなんですよ。だから今回も印象的なピアノのフレーズを入れてほしいとお願いしたんです。そしたら、すごく素敵な曲をいただいて。ポップだけど、ちゃんと切なさもにじんでいて、「これこれ!」みたいな(笑)。
──歌詞に関してはどうでしたか?
歌詞については、ドラマチームから「ヒロインの気持ちを歌詞にしてほしい」というお話があって。ちょっと頼りない男性に対してかわいげのないことや文句を言っちゃうけど、その文句の中にも愛情がある。そんな歌詞になるとうれしい、と。でも、そういう歌詞ってこれまでにあんまり書いたことがなかったかもと思って。
──確かに三パシの楽曲の主人公に、こういうツンとした感じのヒロインがいなかったので新鮮でした。
歌詞の中で「ばか!」とか「いくじなし」って言ってみたり(笑)。でも、ちょっとつんけんしていながらも、ちゃんと温かみのあるような歌詞にしたいなと思いながら書きました。
──歌詞で「いくじなし」と言われている、このドラマの主人公・桃地のぞむみたいな気弱な男性も三パシの作品にあまりいなかったタイプかなと。
そうかもしれない。プロデューサーさんとオンラインで打ち合わせをしたとき、「ヒロインは桃地のどういうところが好きなんだろう?」という話をしたんです。そこで、やっぱりヒロインを認めてくれるところとか、言葉がまっすぐなところに惹かれてるんだろうなという見解がプロデューサーさんとも一致して。彼のちょっと頼りないところすらも愛しく感じるような気持ちを歌詞で表現したつもりです。
──この曲に書かれている“わがまま”って、大層なわがままというよりは「ずっと君の隣で眺めていられたら」「忘れないでいてほしいの」という、どちらかというとささやかなことだと思うんです。それがかわいらしいと同時に、「あのときキスしておけば」はヒロインが死んでしまって、知らないおじさんの体に心が移ってしまうというストーリーなので、この先を想像するとすごく切ない感じがあって……。
この先に桃地との別れがあるんだろうな、ということをヒロインはきっと気付いているんですよね。ずっと君の隣にいられないんだけど、そういうわがままくらい言わせてほしいという。でも、私は相手に対して「忘れないでいてほしい」と思うのって、けっこう大層なわがままだと思ってるんです。自分が“忘れないでいる”のは自由だけど、相手に対してそれを求めるのは勇気がいること。「なんて、わがままかな」という言葉を付けないと私は言えない(笑)。
──なるほど、そう言われると大層なわがままのように感じてきました(笑)。ラストのその「君の左胸で幸せ願わせて 忘れないでいてほしいの なんて、わがままかな」というフレーズは、自分がいなくなっても、君の心の中で幸せを願わせてということなら、それはあまりにも切ないですね……。
そういう感じです(笑)。自分がいなくなったとしても幸せになってほしいなって、相手の幸せを願う気持ちはあるけど、やっぱり私のことは忘れないでほしいという。自分が去らなきゃいけない状況になったとしたら、私もそう思っちゃうかもしれないです
──「あのときキスしておけば」はファンタジー的な要素が強いストーリーですが、この曲のように素直になれない思いや、「ずっと君の隣で眺めていられたら」「君を守りたい」という大切な人を思う気持ちは、きっとたくさんの人に共通することですよね。
このドラマのヒロインみたいにおじさんの体で好きな人の隣にいるのってどういう気持ちになるんだろう?と思うけど、大切な人との間に何か障害があって、もどかしさを感じるような状況っていろいろあるんじゃないかなと思っていて。わがままを言えない女の子たちに寄り添えるような曲になっていたらうれしいです。
7.夢
──2021年に入って、三月のパンタシアはオーディオドラマを企画したり地上波ドラマのタイアップをやったりと、活動の幅をさらに広げています。最近の三パシの挑戦や変化に関して、ご自身としてはどう感じていますか?
三月のパンタシアはいわゆるネットミュージックのジャンルに分類されると思うんですが、インターネットでの活動を軸に置きつつ、そこから飛び出してもっと広く発信していきたいなという気持ちはあります。だから、テレビで三月のパンタシアの音楽が流れるというのはものすごくうれしいですし、10代や20代の女の子の気持ちを書いてはいるんですけど、その季節の真っただ中にいる子たちに届けたいという思いはありつつ、それより上の世代や10代前半の方々にも聴いてもらえるような機会があったらありがたいです。やりたいことはたくさんあるので、5周年以降もいろんなことにチャレンジしていきたいですね。今はまだ言えないんですが、最近もずっとやりたかったことが1つ叶いそうなんです。
──いろんなことに挑戦していく三月のパンタシアの原動力ってなんだと思いますか?
純粋に“人に楽しんでもらいたい”という気持ちですね。「これをやったら面白がってくれるかな?」って。もちろん私自身がやりたいことをやりたいという気持ちもありますけど、一番はやっぱり人の笑顔が好きなので、そのために活動していると思います。
──昔は明確な夢がなかったということですが、今の三月のパンタシアにとっての夢はなんでしょう?
夢ということで、大口を叩かせてもらうと、「カルチャーアイコンになりたい」という気持ちがあります。音楽はもちろん小説、映画といった芸術を愛する者として、文化を象徴する存在になれたらいいなと思うし、そこを目指してがんばりたいと思います。三月のパンタシアはこれからも“物語”というものを軸に音楽を届けていくつもりです。物語と音楽をより密な形で、どうやったら楽しんでもらえるのかなということをいつも考えているので、これから描いていく三月のパンタシアの新しい物語に注目してもらえたらうれしいです。