たぶん青春してたんだろうな
──「醒めないで、青春」は先ほどもおっしゃっていた通り「全日本高等学校・全日本中学校チアリーディング選手権大会」のCMソングとして書き下ろされた楽曲です。こちらは曲に合わせて小説を書き進めたのでしょうか?
歌詞と小説は同じくらいのタイミングで考えていたと思います。まずタイアップ先の大塚製薬さんから「青マット・青春・汗・最後まで笑顔」というワードをいただいて、それを元に歌詞を書いていきました。チアリーディングの競技用マットって青くて、“青マット”って呼ばれているそうなんです。あと、競技時間が1分30秒というのを聞いて。
──へえ、それは知らなかったです。
私も知らなくてYouTubeでチアリーディングを観ていったんですけど、1分30秒の中にそれまで練習してきた成果、青春が詰め込まれているんだなって……例えば自分に置き換えたとして、あと1分30秒で自分のライブが終わってしまうと想像したら、ずーっとこのままでいたい、終わらないでほしいなという気持ちになると思ったんですよね。そういうふうに終わりが近付いてくるにつれて感じる寂しさや、今この瞬間を愛おしく思う気持ちが、きっと競技の中でもあるんじゃないかなって。これってまさに三パシがプロジェクトのテーマにしている“終わりと始まりの物語”だなと思ったんです。
──歌詞とこの曲の小説「青い春の少女たち」では、卒業を控えた女子高生2人の心情が描かれています。「青マット・青春・汗・最後まで笑顔」と聞いて青春真っ只中の歌を書くという発想もあると思うんですけど、今おっしゃったようにその終わりを想像して、青春の出口にいる人の物語になっているのが三パシらしいなと。
歌詞を書くにあたって小説はどういう物語にしようかなと考えていったときに、卒業という終わりに向かっていく2人の女の子の物語が思い浮かんで。さよならの話だけど、新しい明日に向かって歩んで行くという物語にもなったら面白いんじゃないかなと思って書いていきました。
──「醒めないで、青春」というフレーズはどういうふうに生まれたんですか?
サビの最後に「タッタッタッタタッタッタタ♪」という印象的なメロがあったので、もう絶対ここがタイトルになるなと思って(笑)。何かいいフレーズをハメなきゃいけないと考えたときに、「ずっと醒めない、このままでいたい」という思いを表すワードがちょうど思い浮かびました。ここは自分でもいいフレーズがハマったなと思っています。
──この曲にはみあさん自身の高校時代の経験も反映されていますか?
ああ、そうですね。まさにこの小説のように、私には高校1年生のときに知り合って3年間ですごく深い仲になって、今でも会ったり連絡を取ったりする友達がいるんです。本当に3年間ずっと一緒にいたんですよ。一緒にいないと先生たちからも「あれ? 今日は隣がいないじゃん」と言われるくらい、2人でセットと認識されていて。
──周りから見てもそれくらい仲がよかったんですね。
そうだったんだと思います。その子は地元から広島の大学に行って、私は東京に上京してバラバラになって。お互いの進路はもっと前からわかっていたんですけど、いざ卒業のときがくると「あ、本当に明日からもう学校で会えなくなるんだ」ってめちゃくちゃ寂しくなったんですよね。この曲と小説はそういうことを思い出しながら書きました。
──当時はなんでもなかった日々が、みあさんの中でキラッと光って見えているんだろうなと。
今思い返すとなんであんなに笑ってたのかわからないけど、1日中ずっと笑ってたんですよ。そういうのばっかり思い出しちゃいます。あのときは何も思ってなかったけど、たぶん青春してたんだろうなって。
愛というものの温かさ
──続く「たべてあげる」もタイアップ曲で、Nintendo Switch専用ソフト「毎日♪ 衛宮さんちの今日のごはん」の主題歌として書き下ろされています。
先に曲があって、そこから小説を書き下ろして。そして小説を書いたあとに曲のアレンジが入るというちょっと複雑な順番で作っていきました。「毎日♪ 衛宮さんちの今日のごはん」の優しくて温かい世界観、日常の中にある安心感や癒しみたいなものをテーマにして小説を書いたんですけど、それをもとに編曲の江口亮(Stereo Fabrication of Youth / MIM / la la larks)さんがとても優しく神聖な雰囲気のあるアレンジを施してくださって。この曲はアレンジの前後で大きく印象が変わりましたね。
──「君を悩ますものは私が何だって すべてたべてあげるよ」というフレーズが出てくるくらい、包容力や余裕のある曲は三パシの中では比較的珍しいなと思ったんですが、どういうことを意識しながら歌詞を書いたんですか?
三月のパンタシアは恋愛をテーマにした曲が多いですが、この楽曲は恋愛のドキドキ感や甘酸っぱさじゃなくて、友愛や親愛といった広義的な愛の温かさについて書けたらいいなと思っていました。
──みあさんの歌い方も優しい歌い方になっているかと思います。
日常の中にあるなんでもない幸せを感じられるような、ちょっとホッとしてもらえる曲になったらいいなという思いがあったので。たぶん一番柔らかくて温かみのある歌い方になっていると思います。
夢と現実の狭間
──ブルーポップをテーマにしたアルバムの中でも、Norさんが作曲を手がけたエレクトロポップ調の「ミッドナイトブルー」には驚きました。これまで三パシにはなかった新しいタイプの曲ですよね。
ああ、驚いてもらえてよかったです(笑)。アルバムの制作にあたって、変化球的な曲を作りたいなと考えていて。じゃあどういう楽曲にするかと考えたときに、“ザ・打ち込み”という感じの、冷たい電子音が折り重なるエレクトロっぽい楽曲が1曲収録されたら面白いんじゃないかなと思ったんです。夢と現実の狭間をふわふわと漂っているような……それでNor君のサウンド感というか、冷たい電子音の感じが合うんじゃないかなって。
──三パシでポップというと疾走感のあるギターロックやピアノロックのイメージがあるので、とても新鮮でした。
今回のアルバムを制作していく中で何か新しいことにチャレンジしてみたいなと思うようになって、ふとエレクトロポップはどうかなと。やったことないし面白そうかもというところでチャレンジさせてもらいました。歌い方も、これまでにないくらいウィスパーボイスを駆使していて。
──そのウィスパーボイスと幻想的な歌詞、エレクトロで浮遊感のあるサウンドが一体になって不思議な世界観が生み出されています。ささやくような歌い方がみあさんの声にとても合っていますね。
プリプロの段階でウィスパーボイスをやってみようという方向性は決めていたんです。あとから歌ったものを聴いたときに、自分でもめちゃめちゃいいなと思いました。これからもこういった新しい歌唱にもチャレンジしていけたら面白いのかもな、と新たな発見につながった楽曲ですね。
──歌詞はどういうイメージで書いていきましたか?
こちらからお伝えした通りNor君が水の中にいるような浮遊感のあるサウンドにしてくれたので、真夜中でまどろんでいる状態を歌詞にしたいなと思っていました。夢にたどり着く手前にいる感じだったり、夜に溶けていくような感覚だったり、記憶の海に沈んでいくみたいな……そういうイメージで「深く深く沈んでゆく 青い青い夜のなかで 」や「あなたの海にもぐる」というワードで紡いでいきました。
ああ、受け入れてもらえたな
──ストリングスを大々的に導入したバラード曲「青い雨は降りやまない」も三パシにとっては新たな挑戦だったのではないでしょうか。資料によるとネットミュージック界隈のトレンドに対して、あえて逆のことをやってみようという思いがあったそうですね。
三月のパンタシアとして楽曲を発表するにあたって、やっぱりあまり人がやっていないことをやりたいという思いはあって。こういう王道のバラードがネットミュージックシーンでどういう聴かれ方をするのか未知ではあったんですけど……。
──確かに音が多くて言葉が詰まっている楽曲が主流ではあるかと思います。
だからこそ、今この曲を発表することでどういうふうに広がっていくのかなというチャレンジをしてみました。
──すでにリリックビデオが公開されていますが、SNSの反応を見ているとかなり手応えがあるのではないでしょうか。
もしかしたら捉え方によっては三パシっぽくないというか、毛色が違うと受け取られてしまうかなという想像もしていたんですけど、「こういう曲、珍しいけどすごくいいと思った」という感想をもらったり、ずっと聴いてくれているファンの方は「バラード待ってました」という反応をしてくれたり。「ああ、受け入れてもらえたな」という手応えはあります。
──「青い雨は降りやまない」にしても「ミッドナイトブルー」にしても、新しい曲調にチャレンジしつつも歌っていることがずっとブレていないから、三パシらしい“青色”の楽曲になっているのかなと。
三パシはやっぱり恋心や日常の中での繊細な心の揺れみたいなものにスポットを当てていきたくて。これまでも歌ってきた“想いを伝えたくても伝えられなかった切なさ”を今こういうストレートなバラードソングで表現できたのは、何か意味があったんじゃないかなと思います。
──特に大サビではその伝えられなかった思いが「あなたのものになってみたかった」「“特別なひと”として触れ合いたかった」とあふれ出ていますね。
この曲の歌詞は心がずっと泣いているみたいなイメージで書いていきました。伝えられなかった思いだからこそ、歌詞ではしっかりと書きたいというところもあって。歌にすることで、聴いてくれた人が「自分も思いを伝えられなかったけど、代わりに歌ってくれたから少し気持ちが優しくなった」みたいな気分になってもらえたらいいなって……そういう思いを込めて書きました。
──最後は少し希望が持てるような終わり方になっていますよね。「憂鬱な心をあたためる青空が ちっぽけな胸を照らし いつの日かそっと輝くかな」と。
もっとトーンを落として、叶わなかった恋をひたすら切なく歌う楽曲にもできたと思うんです。でもそうじゃなくて、やっぱり最後には希望の光を感じてもらえるような楽曲にしたかったんですよね。なのでストリングスをバンバン入れてもらって、サウンドも華やかな仕上がりになっているかなと思います。
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どこまで落ちていっても大丈夫です