三月のパンタシア|淡く透き通った、ひと夏の物語

「ガールズブルー」初のエンディングテーマ

──エンディングテーマを作るのは、「ガールズブルー」というプロジェクトにおいて新しい試みですね。

新作に向けた打ち合わせの中で、「2曲あってもいいんじゃない?」という意見がスタッフさんからサラッと出てきて。じゃあ今回は2曲作ってみようかという話になりました。

──ノスタルジックなギターリフが印象的な楽曲に仕上がりました。

自然と口ずさんじゃうようなリフですよね。あと、やっぱりメロディがすごくキャッチーだなって。堀江さんらしくて、大好きな曲です。

──この曲には東京に帰る葵を見送る、悠ちゃん側の気持ちが書かれていますよね?

そうなんですよ。主人公の葵目線の曲だと思って聴いていると、途中で「あ、これ悠ちゃん目線の曲だったんだ」と気付くような展開になっています。堀江さんが小説を読んでくださったうえで「こういうのどうですか?」って。

──堀江さんからの提案だったんですか。小説ではほとんど書かれていなかった悠ちゃん視点の感情がものすごく繊細に描かれているので、みあさんからエンディングで悠ちゃんの気持ちがわかるような仕掛けを入れたいと、心情描写や裏設定も含めてかなり細かく堀江さんにお話しているんだと思っていました。

堀江さんがご自身でここまで考えて書いてくださったんですよ。堀江さんには悠ちゃんが実はこのシーンで葵のことをこういうふうに思っていたというようなことはほとんど話していなくて。私の中では裏設定として、決定的なシーンとかはあるんですが。

──と言いますと?

例えば小説の中盤の堤防のシーンで、葵が悠ちゃんに渡された万華鏡を反対にのぞいちゃって、悠ちゃんに「意外と抜けてるところあるよね」と言われるシーンがあるんですけど、そこで悠ちゃんの心も「葵ちゃんって面白い子だな」って動いているんです。でも、そういった裏側の感情はお伝えしていないですね。

三月のパンタシア「8時33分、夏がまた輝く」より。

──堀江さんの解釈でここまで完成度の高いものが上がってきたということですね。

本当に感動しました。2番に「アイラブユーとか何とか それどころじゃないよ」というフレーズがあるんですけど、ここも実は「葵 ラブ 悠」という意味が隠れているらしいんですよ(笑)。

──それは気付きませんでした……!

私も全然気付かず、トラックダウンのときに説明していただいて。「えっ、そうだったんですね!」って驚きました(笑)。

素直になれない、複雑な気持ちがわかる1行

──そもそもエンディングテーマは、みあさんの中でどういった曲をイメージしていたんですか?

ミドルテンポで、フジファブリックの「若者のすべて」のような、夏の終わりの切ない雰囲気があるような曲をイメージしていました。夏真っただ中のイメージの主題歌とは打って変わって、エンディングテーマは夕暮れの景色で、風もちょっと涼しくなりかけていて……もう叶わない恋の切なさ、言いたくても言えない感情が歌詞になればと堀江さんにお伝えしていましたね。

──その時点での“言いたくても言えない感情”は、みあさんの中では葵の気持ちをイメージされていたと思いますが、堀江さんによって「呼んでみたけどやっぱ来ないや」「見送る方がずっとイヤでした」と、置いていかれる側の切ない感情が描かれました。

特に落ちサビの「夕色の海に呼んでみたけど やっぱ来ないや もういいや 来年もどうせ 再来年もどうせ 僕は泣いてるよ」という歌詞がすごく切なくて。この先会えるのかどうかもわからないし、という。すごく素敵で、印象的に残っているフレーズです。

──「恋はキライだ」という言葉はそのままの意味ではなく、そのひと言に強がりだったり、複雑な感情が詰まっているような、三月のパンタシアの世界観を表すようなフレーズですね。昨年夏に発表された「青春なんていらないわ」に通じるところもあると思うんですが。

きっと本当はこういうふうに言いたいわけじゃないのに、つい反対の言葉を言っちゃう強がりな部分とか、素直になれなさとか……そういったフレーズは、三パシの中でも一番大切にしているかもしれないです。この曲も一度いただいてから、その点に関してはご相談させてもらって。

──やり取りされたんですね。

それで「恋はキライだ」というフレーズをサビの頭に持ってきてもらったんです。素直になれない複雑な気持ちがわかるような1行は、どの曲の中でもこだわっている部分だと思います。三パシの物語の登場人物は、「恋はキライだ」ってつい反対の言葉を言っちゃうような子たちなんですよね(笑)。

切ない歌を、あえて前向きに歌う

──切ない楽曲ですが、みあさんの歌い方は沈んだものにはなっていなくて。むしろ澄んだ歌声と軽やかな歌い方が、楽曲の切なさを増幅させているように感じます。

私の思いとして、切なさや悲しさをマインドとしてはすごく大切にしているんですけど、それをあえて振り切って明るく歌い飛ばそうとするのが、逆に切ないんじゃないかというのがあって。例えば映画のラストシーンでも、寂しくて苦しい別れなのに、笑って手を振られるほうが切なくなるというか。だから、切ない歌をあえてちょっと前向きに歌っています。

──悠ちゃん視点のエンディングテーマを聴いてから小説をもう1回読むと、また違った楽しみ方ができますね。

まさにそうやって楽曲、イラスト、小説を合わせて何度も楽しんでもらえるようなことが、「ガールズブルー」でずっとできたらいいなと思っています。

──来年の1月には東京・チームスマイル・豊洲PITでワンマンライブ「18時33分、冬もまた輝く」があります。

18時33分開演ということで、押し巻きできません!(笑)

──(笑)。具体的なライブのビジョンはこれから考えていくところですか?

そうですね、今はまだタイトルしか決まっていなくて。ライブの頃にはもしかしたら新曲も増えているかもしれないし、そういった曲も踏まえて、また新しいステージをお見せできればと思っています!