完全に失恋にはしたくないな
──これまでみあさんは「ガールズブルー」で女の子のいろんな物語を書かれてきましたが、みあさんから見て葵ちゃんはどういう女の子ですか?
葵ちゃんは本当に普通の女の子だと思います。超消極的なわけではないけど、自分から進んでいろんなことをやるわけではなく、周りに言われたら行動するという。わりと自分の感覚に近いかもしれません。「ガールズブルー」の主人公の女の子は、だいたいいつも普通な子が多い気もしますね。
──そんな葵とは対照的に、悠ちゃんは天真爛漫でマイペース。今まで「ガールズブルー」にあまり出てこなかったタイプの男の子ですよね。
悠ちゃんみたいな子って、いそうで意外といないような気がしていて。だから悠ちゃんのキャラクターを書くのが特に難しかったですね。すごく明るくていい子なんだけど、つかみどころがなくて、ちょっと壁を感じてしまうというか。
──そんな葵と悠ちゃんが距離を縮めていき、物語の終盤、小豆島の名所・エンジェルロードで葵が悠ちゃんと手をつなぎたいと思うも、そこで結局手をつなげない切なさ、もどかしさがすごく三月のパンタシアらしいなと……。
うん、そうですね。すぐそばにあるのに手を伸ばせないみたいな男女の繊細な情感は、一番大切に描きたいところではあります。
──そして葵が東京に帰るラストシーンは、切なさと晴れやかさの両方を感じるものになっています。この結末は早い段階で決まっていたんですか?
いや、ラストシーンは物語を書きながら考えていきましたね。完全に失恋にはしたくないなとだけ思っていて。結果、最後の最後に悠ちゃんの気持ちがわかるような形にしてみました。
──「8時33分、夏がまた輝く」というタイトルの意味も、ラストシーンで明らかになりますね。
そう、やっとわかります(笑)。本当は4つくらい案があったんですけど、全部書き終わってから、このタイトルに決めました。
あきらめに近い感情があるけど、それでも追い続けてしまう
──主題歌「いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら」の略称は「いか天」なんですよね?
はい(笑)。
──「いか天」はエモーショナルで勢いのある曲になりました。buzzGさんに制作をお願いした時点で疾走感のあるメロディとバンドサウンドを軸とした楽曲をイメージしていたのかなと思ったんですが、どういった主題歌を想定していましたか?
実はこの曲、3年くらい前にbuzzGさんが作ってくれた楽曲なんですよ。
──そんなに前から温めていた曲だったんですか。
そのときから、すごくいい曲だなと思っていたんです。スタッフさんと話をしていく中で、この曲をもっと夏っぽい感じのサウンドにしたらぴったり物語に合うんじゃないかということになって。サウンドにアレンジを加えていただいて、ブラッシュアップした形で完成しました。
──具体的には元のサウンドからどういうふうに変わっているんでしょうか?
キラキラした感じの音や、シンセのちょっとふわふわした、さわやかな感じの音がいっぱい加わっています。結果的にすごくにぎやかな夏というか、オープニング感のある曲になっていますね。
──小説を書かれる前からあった曲にも関わらず、物語とものすごくマッチしていますね。「いつか天使になって」というフレーズは、作中に登場するエンジェルロードにつながりますし。
1番の歌詞しかなかったので2番は新しく書き下ろしてもらったんですが、サビの「いつか天使になって」というフレーズはもともとあったものなんですよ。物語にぴったり合ってて、自分でもびっくりしました(笑)。
──2番を書き下ろしてもらうにあたって、buzzGさんとはどういうやり取りをされたんでしょうか?
物語の中でも序盤の、恋心に気付いたばかりの止まらない気持ちを表現できれば、というのは相談しましたね。あとは季節感というか、太陽が照っていて「夏真っただ中!」みたいな日差しが眩しい感じのイメージはお伝えしました。小説の中でもこの部分が歌詞になったらいいなという箇所をマーキングしてお渡しさせてもらって。葵と悠ちゃんが一緒に手持ち花火をするシーンだったり、葵が熱を出して悠ちゃんがお見舞いに来てくれたシーンだったり。
──みあさんの歌い方も、恋心が加速していくような、疾走感のある感じになっていますね。
アッパーな曲調で、強い感情が前面に出ているような曲なので、芯のある、地声を引っ張って出すような声を意識しました。あとはやっぱりエモーショナルさ。「いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら」のあとに「ありえないなら」と自分で言わなきゃいけないくらいあきらめに近い感情があるけど、それでもやっぱり追い続けてしまうような……そういう加速していく気持ちを持って歌いました。
──力強さもありつつ、みあさんがもともと持っている声の透明感や繊細さがこの物語の透明感を彩っている感じもあります。
自分の声のいいところを挙げるなら、儚さやちょっと切なさがにじむところだと思うので。力強さを大切にしつつ、繊細な表現を意識して、丁寧に歌うことは意識しましたね。
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「ガールズブルー」初のエンディングテーマ