三月のパンタシアが展開するプロジェクト「ガールズブルー」の最新作「8時33分、夏がまた輝く」が発表された。
昨年8月にスタートした「ガールズブルー」は、みあ(Vo)が書き下ろす小説、イラストレーターのダイスケリチャードが描くイラスト、そしてクリエイター陣が手がける楽曲を連動させたプロジェクト。これまでも“四季”をテーマにした作品を通して、思春期の女の子が抱える切なさや不安定な感情が描かれてきた。最新作の小説では瀬戸内海に浮かぶ小豆島を舞台に、東京育ちの消極的な性格の主人公・葵と、天真爛漫でマイペースな“悠ちゃん”の物語が展開されている。本作の主題歌はbuzzGが制作した疾走感あふれるナンバー「いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら」。今回初の試みとしてエンディングテーマも作られ、作詞および編曲を堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)、作曲を堀江とhiraoが担当した「恋はキライだ」が淡く切ない物語を彩っている。
音楽ナタリーでは2度目の夏を迎えた「ガールズブルー」の最新作について、みあに話を聞いた。
取材・文 / 中川麻梨花 イラスト / ダイスケリチャード
“島”にドラマを感じました
──昨年8月に「ガールズブルー」を始動させた趣旨の1つとして、「三月のパンタシアの色をもっと濃く出せるような作品作りをしていきたい」という気持ちがあったとおっしゃっていましたが(参照:三月のパンタシア「ガールズブルー・ハッピーサッド」インタビュー)、1年間このプロジェクトを展開してきて、その意図に対する手応えはありますか?
前と比べて、そういった作品作りができている感覚はありますね。自分で書いた物語をもとにクリエイターと話し合いながら楽曲を作っているので、物語を作っているときにイメージしていたサウンドが実際に曲になったり、歌詞についても物語のこういった部分を表現したいとか、こういうことを歌いたいという自分の意思をしっかりと落とし込めていると思います。
──6月には「ガールズブルー」を軸としたワンマンライブ「ガールズブルー・ハッピーサッド」がありました(参照:三月のパンタシア、オーディエンスと四季を旅したワンマンライブ)。“四季”をテーマにしたコンセプチュアルなライブでしたね。
“夏”から始まって、“秋”“冬”と進んで、“春”で終わるような演出やセットリストを考えて。その中で三月のパンタシアがいつも伝えようとしている“言いたくても言えない切なさ”や“素直になれないもどかしさ”といった女の子の気持ちを表現できたんじゃないかなと。季節を旅しながら、皆さんと一緒にいろんな物語を紡ぐことができたと思っています。
──そしてこのライブの最後に「ガールズブルー」の最新作「8時33分、夏がまた輝く」の告知がありました。「ガールズブルー」の2度目の夏に向けて、いつ頃動き出したんでしょうか?
「悠ちゃん、買い出し行かないと」
— 三月のパンタシア(みあ) (@3_phantasia) July 14, 2019
「待ってー。まだ日焼け止め塗ってない」
午前10時5分。
短い髪をひとつに束ねて、その真っ白なうなじにのんびりクリームをのばし始める悠ちゃん。小さくため息を吐く私。店の開店時間まであと1時間を切っている。1 #三パシ夏2
ゴールデンウィークのちょっと前くらいだったと思います。まず、今回は島を舞台にした物語がいいんじゃないか、どの島にするかというところから話が広がっていったんですよ。島という閉鎖的で非日常感のある場所に、どこかドラマを感じる部分があったというか。
──日本にはけっこうな数の島があると思いますが、その中から香川の小豆島を選ばれています。
島って本当にたくさんあるんですよ(笑)。鹿児島の屋久島とか、沖縄の宮古島とか、いろんな島をネットで調べて、その中で小豆島の穏やかな景色や雰囲気が三パシに合いそうだなと思ったんです。それで、ゴールデンウィークにスタッフさんたちとイラストレーターのダイスケリチャードさんと一緒に小豆島に取材に行きました。
──ダイスケリチャードさんも一緒に行かれたんですね。
そうなんですよ。小豆島で見たものをいっぱいイラストに詰め込んでもらいました。イラストのカフェは、実際に小豆島のカフェを何軒か回った中で見つけた、オシャレな古民家カフェを参考に描いてもらったもので。「あのカフェのイメージなんですけど」とダイスケさんに具体的なイメージを共有できたので、今回は特にやりやすかったですね。
途中の1行で物語の見方がガラッと変わるような作品を
──島に取材に行く時点で、みあさんの中にざっくりとしたストーリーはあったんですか?
その時点では、確か4つくらいストーリーの候補があったと思います。それで実際に島に行ってみて、「やっぱりこれかな」と話を決めました。
──全体としてはどういった空気感の物語をイメージしていたんでしょうか?
まず、“ボロボロだけどキラキラ”というイメージが、私の中になんとなくあって。どうやったってうまくいかなくてボロボロになるけど、それってあとから考えるとすごくキラキラした思い出だな、みたいな……そんな物語がいいと思っていました。だから恋が叶わないで終わるのもいいんじゃないかと思っていたんですが、最終的には少し救いがあるというか、未来に光があるような結末になりましたね。
──小説では東京育ちの主人公・葵が夏休みの1カ月限定で小豆島に住む叔母さんのカフェを手伝うことになり、そのカフェで出会った天真爛漫でマイペースな“悠ちゃん”に惹かれていく様子が描かれています。実際に小豆島に行き、4つの物語の中からこのストーリーを選んだ決め手はなんだったんでしょう?
レンタカーを借りて小豆島のいろんな場所を巡ったんですが、島全体から穏やかさというか、色彩の柔らかい印象を受けて。その柔らかさが、葵と悠ちゃんの物語に合うんじゃないかなと思ったんです。あと、この物語の設定はリリックビデオにしたときに面白いんじゃないかとも考えていました。悠ちゃんが中性的な雰囲気の男の子なので、オープニング映像で「今回は女の子同士の物語なんだ」とミスリードができるような……。
──小説の描写やリリックビデオによって、多くの読者が最初は女の子同士の物語だと捉えていたと思います。
もともと、途中の1行で物語の見方がガラッと変わるようなものを書きたいと思っていたんです。だから小説の前半で、どれだけ悠ちゃんが女の子だと思わせられるかというところは考えましたね。今はまだ、その1行を公開していないので(取材は7月下旬に実施)、YouTubeのコメント欄やTwitterでみんなの反応を見ながら「よし!」と思っています(笑)。
音楽を通して、縮まる距離
──小豆島という舞台をはじめ、小説には具体的な地名やイベント、小豆島ならではの名産が登場します。ここまで具体的なものを小説に取り入れているのは、「ガールズブルー」で初めての試みなのでは?
最初は架空の島にしようかと迷ったところもあったんですけど、読者の方が話に入りやすいように、今回は実在するものを意識して書いていきました。Twitterで小説を投稿していく中で、みんなが想像しやすいように写真を貼ったりもして。そうやってイメージを共有しながら、楽しめるようなことができたらなと思いました。
──作中で葵と悠ちゃんが訪れる「瀬戸内国際芸術祭」や、叔母さんのカフェで売られている「小豆島塩サイダー」は、実際にみあさんが小豆島で出会ったものですか?
「瀬戸内国際芸術祭」は5、6年前に小豆島の隣にある直島に行ったときにちょうど開催されていたんですよ。そこで見た芸術作品がすごく素敵で、今年小豆島に行ったときにもたまたまやっていたので、話の中に入れてみました。「小豆島塩サイダー」も飲みましたよ。けっこう塩が効いてて、海水みたいな味のサイダーなんです(笑)。ほかにもオリーブだったり風車だったり、島のものはとにかく書こうと思って。
──葵ちゃんと悠ちゃんは音楽の趣味が合うことから距離を縮めていきますが、そこでスピッツやくるり、サカナクション、相対性理論、フジファブリックといった実在するアーティストの名前やアルバム、曲名が登場します。人選と選曲が小説からあふれ出る透明感の大事なキーになっていると思ったんですが、これは葵ちゃんのイメージで決めていったんですか?
ああ、そうですね。言葉にするのが難しいんですけど、私の中で葵ちゃんは“スピッツが好きそうな女の子”というイメージで。「スピッツが好きならくるりも好きかな、フジファブリックも好きそうだな」と、葵ちゃんのイメージから広げていきました。
──カフェにミュージシャンが来て、弾き語りライブをするところは物語で重要なシーンになっていますし、音楽はこの物語の大事な要素になっていますね。
多分、私自身が音楽を通して仲よくなる出会いって素敵だなと、心のどこかで憧れているのかもしれないです(笑)。弾き語りライブのシーンは、そのミュージシャンが香川出身で、「MONSTER baSH」(毎年夏に香川で行われている野外ロックフェスティバル)に出演する前日に、カフェでライブをしてくれたという裏設定もあったりします。
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完全に失恋にはしたくないな