出会いは不意に訪れるもの
──40mPさんが制作された「ラフスケッチ」は憂いや切なさを描いたほかの曲とはちょっと色が異なる、温かな楽曲になっていますね。原案の「バスとコスモス」では恋をすることに億劫になっていた女の子が、前に向かってゆっくりと踏み出していく様子が書かれています。
アルバムにエッジィな曲が多いので、優しくて温かみのある曲がほしいなと思っていたんです。どういう物語がいいのかなと考えていたときに、イメージとして浮かんだのが“始まりの歌”でした。これまでもなんとなく恋愛はしてきたけどそこで疲れちゃって、恋愛に真剣に向き合うことに億劫になっている……そんな女の子がふとした瞬間に見つけた小さなきらめき、静かに生まれる気持ちを物語にしてみようと。そういう出会いって恋人を作らなきゃと相手を探しているときよりも、不意に訪れるものなんだろうなと思っていて。私は相手を見た瞬間に「この人、もしかして私と付き合うことになるのかも」と感じる瞬間があるんですよ。だから、この曲は自分との距離が近いかもしれないです。
──楽曲も原案に忠実に、そういったふとした瞬間のきらめきや、1歩踏み出していく繊細な心の動きが丁寧に描かれています。
小説の中に出てきたワードを歌詞に取り入れてくださっているんですよ。私もすごく素直な気持ちで歌えました。
──40mPさんがこれほどゆったりとした曲を作ることは多くないかと思いますが、この曲調もイメージとして伝えていたんでしょうか?
はい。確かに40mPさんはアップテンポの楽曲が多いかもしれませんが、このアルバムにも入っているシングル曲「風の声を聴きながら」を書き下ろしてくださったときに、優しい感じ、温かみのある感じもすごく素敵だなと思って。音数が少なく、その中でやわやわと温かさが広がっていくような、イメージ通りの曲を書いてくださいました。
孤独な夜に思い出すのは
──アルバムのラストを飾る「東京」は作曲をゆうゆさん、そして作詞をみあさんが担当されています。みあさんが作詞をするのは「サイレン」(2018年11月発売のシングル「ピンクレモネード」カップリング曲)に続いて2度目になりますが、この曲だけ自分で歌詞を付けたのはなぜですか?
もともとアルバムのうち1曲は自分で歌詞を書いてみようかなと思っていたんです。どの物語がいいのかなと小説を並べてみたときに、自分に一番近いところにあるのが「東京」でした。
──小説には東京で夢を追う女の子の物語が描かれていますが、その世界観に自分の物語が重なったと。
私も地方出身で、やりたいことがあって東京の大学を受験して上京したんです。根拠のない期待ばかり胸に抱いて東京に出てきて、楽しいこともいっぱいあるけど、思うようにいかないこともたくさんある。明日が来るのがすごく怖くて、昨日や一昨日の自分からちゃんと進めてるのかな、私ばかり置いていかれているんじゃないかなと思うと涙が止まらなくなる夜もあったり。将来はいつになっても見えないものだけど、見えなくても前に進んでいかなきゃいけない。そんな東京にある希望と、ある種の絶望みたいなものを素直に書いたような小説と歌詞になりました。
──希望と不安が入り交ざった、みあさんの“東京観”が反映されているんですね。
曲自体は地元にいる大切な人のことを思う内容になっていますが、私は歌詞を書きながらファンの方々のことが思い浮かびました。不安なときや孤独な夜に思い出すのは、ライブでみんなが見せてくれる笑顔だったり、泣いてくれている姿や声だから。それを思い出すと、もっとがんばらなきゃと思えるんです。“君”というワードにはそういったみんなへの思いも乗せています。
──「サイレン」とはまた作風が違った、等身大で素直な歌詞になりました。「淡くて幼い夢 語り合いましたね」「大丈夫 笑っていられます」など、ですます口調の部分もあって。
君に対する距離感、よそよそしさが伝わるように意識的に書きました。でもサビだけは正直な気持ちがこぼれちゃっているので、ですます口調を使っていないんです。
──緩急を付けたエモーショナルなバラード調の楽曲になっていますが、ゆうゆさんからこの曲が上がってきたときはどういった印象を受けましたか?
すごくエモーショナルな曲がきたなと思って、純粋に感動しました。バラード調でエンディング感のある曲にしたいとお伝えしていたんですけど、私は明るく開かれた方向でイメージをしていたんです。そしたらとても胸に刺さるようなエモーショナルな曲をいただいて、すごくいいなと意表を突かれました。この名曲を殺さないように、がんばって歌詞を書きましたね。
三月のパンタシアの中で、みあが心臓にならなければ
──三月のパンタシアはこれまで1本芯の通った世界観を表現してきましたが、3年半の活動の中で変化を感じている部分はありますか?
音楽活動を始めた頃はまだ右も左もわからなかったので、自分はともかく“ボーカル”というところで表現をしていたんです。新曲を作るときも「こういう楽曲が好きなので歌ってみたいです」とお伝えして、そこからスタッフさんに汲み取ってもらって曲を発注していただき、私は受け取ったものの中で歌を創造していくという流れでした。でも、最近はボーカル以外のところでも、もっと自分の色を出していってもいいんだなと思うようになって。みあの色というものをもっと深いところまで作品全体に落としていきたいし、三月のパンタシアの中でみあが心臓になって、血を通わせていかないといけない。そういった作品に対する向き合い方は、この3年半の中で変わったと思います。
──アルバムリリース後、6月には東京・EX THEATER ROPPONGIでワンマンライブ「ガールズブルー・ハッピーサッド」が控えています。ライブで披露することで、さらに新曲の世界観が深まっていきそうですね。
私はワンマンライブが大好きだなって、この間のライブ(参照:三月のパンタシア、みんなの心に“きらめき”届けたワンマンライブ)で改めて思いました。レコーディングでも一生懸命誰かを想像しながら“君”に向かって自分の思いを伝えるんですけど、やっぱりライブでしか生まれない感情があって、そういった生の感情を伝えられるのはライブの一番の面白みだなと感じていて。新曲をお客さんの前で歌ったときにどういった感情が生まれるのか、それをお客さんがどう受け取ってくれるのか、音楽を通していろんな会話ができるのを楽しみにしています。
ライブ情報
- ガールズブルー・ハッピーサッド
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- 2019年6月9日(日)東京都 EX THEATER ROPPONGI