Petit Brabancon「Seven Garbage Born of Hatred」特集|ミヤとantzの言葉で探るプチブラの現在地 (2/2)

ミヤ、antzは作家気質

──収録曲7曲のうち、ミヤさんが3曲、antzさんが2曲と、ギタリストのお二人が収録曲の5/7の作曲を担当しています。やはり作曲の骨子はギタリストが担当するべき、という感覚がありますか?

ミヤ うーん、自分がドラマーでも曲は作っていたと思いますね。それと、今回作った曲については「俺に歌詩書かせてくれませんか?」と京さんに言ったんです。そしたら「俺が書きたい」って返されて(笑)。だからギタリストっていうよりかは作家という感覚。

antz 僕もそれに近くて、ギタリストだからというか、普通に作曲でも貢献できればいいなという。

──1人でどれくらいまで作り込むんですか?

ミヤ 歌とメロディまですべて入っている状態でデモは作ります。ただ、京さんはDIR EN GREYやsukekiyoで、ずっと自分でメロディを作ってきたので、人のメロディを歌ったことがないんですよ。でも僕は自分の曲は自分のメロディじゃないと作曲クレジットに載せないぐらいの気持ちなんで、最初はそこがうまく折り合わず作業が進まなかったりもして。

ミヤ(G)

ミヤ(G)

──デモ通りに歌ってください的なやりとりもあったり?

ミヤ 「自分のメロディがゼロなんでプラスして戻してください」とか、そういうやりとりはけっこうありましたね。でも京さんは人のメロディだから歌いづらかったり、こっちも自分のメロディじゃないから違和感があったりで。

──それをネットを介して差し戻し合うわけですね。

ミヤ ただ、今は俺が作った原曲のメロディが採用される場合もあるし、逆に自分がクレジットされている曲でも京さんが書いたメロディに変わったところもあるし、そこの垣根がなくなって単純にいいもの、曲に合っているものを選ぶという形になってきています。

“1+1=3”になるように

──今回のEPの中でご自身の原曲に近いもの、逆に変わっていったものというと?

ミヤ 「BATMAN」は最初、コーラスくらいしか入っていなくて、ほかのパートは逆に全部お任せでメンバーに投げましたね。「Vendetta」はハイトーンボーカルと普通のボーカルでデモを作っていたところ、京さんが入ってきて普通のボーカルとロートーンボーカルになりました。以前よりは、任せられるところの範囲値がわかってきたのかな。だからボーカルに関しての要望は、全体的に今までの中で一番少なかったです。

──「Vendetta」はジャパニーズグラインドコア的な要素があって、京さんの歌唱スタイルとすごくマッチしている印象です。

ミヤ まさにそうです。まさかリード曲になるとは思っていなかったんですけど(笑)。

──バンドの今現在のパワーを一番体現している曲ということなんでしょうか。

ミヤ 選曲中に「もうちょっとサウンドが偏ったものが欲しいよね」という話になり、「だったらコレどうですか?」って出した曲なんで。

──よりカオティックな曲でアルバムの色をハッキリ出そうという。

ミヤ 自分としては、別に激しいアルバムというイメージで曲を作ってはいなくて、いろいろなタイプを用意していたんですけど、「こういう曲たちが選ばれるんだったら、こういうのもあったほうがいいと思います」とバンドに持っていったんです。あとは「ジャパニーズハードコア」「90年代」と、自分の中で焦点が定まっていたというのもありますね。

──完成までは早かった?

ミヤ たぶん1時間くらいでできました。基本的に作り始めると2、3時間でできる。ほかの曲に関しても、1日でできなかったら捨てるくらいの感じでやっているので。作曲で長い期間をかけるのは苦手かも。冷めちゃうというか。

antz 自分の曲に関しても、あまり揉んだ感じはなかったです。例えば「dub driving」に関しては、「Automata」(2023年6月発表の1st EP)のデモの段階くらいからあった曲なんです。だから僕は出したい曲を出して、ほかのメンバーのリアクションを見てからレコーディングで「こういうパートを入れてみよう」といろいろ試してます。

antz(G)

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──中盤には浮遊系のトレモロパートがあったり緩急の大きい曲ですが、そのあたりもアレンジの際に加えていったんですか?

antz そうですね。“浮遊パート”はミヤさんに弾いてもらうという前提があって、あとは途中で考えようみたいな。

ミヤ 昔より打ち合わせは減ったんですよ。その後の感覚でアイデアをポンポンって追加していく感じで楽しいです。最初はリフなんかもクセがつかみきれなくて。

antz 1stアルバムを作ってたときはこのメンバーが作るフレーズに慣れていないから、1日で弾き切れなくて。レコーディングから帰ってまた練習して、次に挑むみたいな。

──お互いのギターに対してのリクエストはあるんですか?

ミヤ あんまりないかな。ただ、手癖が圧倒的に違うので、そこが“ただ違う”になるとラウドミュージックじゃなくなっちゃう。同じフレーズを弾くことが多いんですけど、そこで“1+1=3”になるようなほどよいズレ……ズレているようで合っているという微妙なさじ加減は意識しています。

──ジャストすぎず、でもズレすぎずという絶妙さですね。

ミヤ あと音も違うし。それがツインギターのうま味なので、マイナス要素にならないようには気を使っています。ギターは一発録りなんですけど、その空気感を出していかないとこじんまりしちゃう。人間がステージに立っているままに聞こえてほしいんです。

──スタジオ作品ではありつつ、ライブ感も入れたいと。

ミヤ そうですね。覚えなくちゃならないし、通して弾かなくちゃならないんで、大変ではあるんですけど(笑)。

ミヤとantz、それぞれのギター論

──もう少しギターについて聞かせてください。プチブラのギターサウンドは7弦ギターを使っていることが特徴ですよね。EPに入っている7曲は楽曲ごとのキーの違いでバリエーション豊かに聞こえますが、チューニングはどれも7弦のドロップと全弦全音下げ+ドロップですか?

ミヤ はい。チューニングはそれに定まってきましたね。「a humble border」が一番下がっていて、それより下げているものはないです。

──「Vendetta」も開放ではなくて、A#音をペダルで弾いているということなんですね。「BATMAN」はあえてE音を軸に?

ミヤ そうですね。6弦のEがメインのリフになってるんですよ。あえてそうしました。

──そのおかげで、キャッチーさが高まっていると感じました。

ミヤ イメージしていたバンドがそういうキーなんで、あんまり下げちゃうとちょっと違う。ディミニッシュの曲というイメージです。

ミヤ(G)

ミヤ(G)

──レコーディングでは、ギターもいろいろ準備されたようですね。

ミヤ メインのジャクソンは今年から使い始めたんですけど、めちゃくちゃ気に入っています。メインは7弦で、ダビングで6弦のソロイストとランディV(クリスチャン・アンドリュー・シグネチャー)も使っています。MUCCで使っているメーカーもよかったんですけど、プチブラのツインギター的な極端な音作りにジャクソンがうまくハマって。

antz 僕は7弦だと、今はバラゲール・ギターズという、アメリカの比較的新しいメーカーのギターを使っています。7弦をまともに弾いたのってプチブラに入ってからで、1stのレコーディングではバリトンのテレキャスターでチューニングを下げて弾いていたんです。でもやっぱり7弦を弾いたときに無理がないというか、6弦から自然に低い音に行けて……なるほどと思いました。そういう意味で、7弦のよさに気付いたんですけど、みんな強そうなモデルばっかりで(笑)。

──イカツさを前面に出したギターばかりであると(笑)。

antz 強そうなルックスのギターが個人的にどうもダメで、どこもかしこもそんな感じなので、選択肢が全然なかったんですよ。そんな中、バラゲール・ギターズはオーダーができて……。とはいえ全然聞いたこともないメーカーで、見てくれだけでオーダーできないよね、どういう音質なんだろう?と実際に弾いてみて今のメインになっているんですが、今も自分に合うギターを探しています。

──まだ模索中ではあるんですね。

antz バラゲール・ギターズは理想の音はあるんですけど、それでいて強くない形をした7弦がないんで、どうしようかなという。

antz(G)

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“安定”や“わかりやすさ”がタブー

──そんなお二人のこだわりのギターサウンドが入った「Seven Garbage Born of Hatred」ですが、タイトルを素直に訳すと「憎しみから生まれた7つのゴミ」となります。このあたりの皮肉っぷりも、バンドのパンク的なスタンスに直結しているように思います。

ミヤ このバンドは特にバラエティに富んでいるわけではなくて……自分の中では「怒りを投げて、それがどうなるか嘲笑って見ている」みたいな感覚があって。すごくラフで、それがサウンドのキャッチーさにもつながっているし、自分的には怒りを発散する感じですごくストレートに表現できている気がします。自分が歌詞を書いていないが故のよさも感じていて、入り込みすぎないというか。

──客観視している部分がある?

ミヤ そうです。歌詩の世界観を演奏でどう表現しようみたいなことにしか意識がいかないので、MUCCとは違ってちょっと面白いなって。自分が歌詩を書かないバンドをやるの、初めてなんで。

antz ジャケットももちろんなんですけど、ライブも含めてヘビーな世界観に振り切るというか、そういうテンション感とかも全部タイトルに入っている気がしています。勢いとか激しい部分とかが伝わればいいなと。

Petit Brabancon「Seven Garbage Born of Hatred」アートワーク

Petit Brabancon「Seven Garbage Born of Hatred」アートワーク

──その勢いや激しさを伝えるライブハウスツアーが9月に行われます。そこではどんな姿を見せたいと考えていますか? これまでのスタイルを突き詰めていくのか、新しい形になっていくのか。

ミヤ このバンドって“安定”とか“わかりやすい”っていう、型にハマっていることがタブーなんですよ。ちょっと怖いとか、フタを開けてみないと何が起こるかわからない感じがこのバンドの一番のよさなので。観たことのないものを観たければ、ぜひ来てほしいですね。

──なんでもあけすけになっていないところが、“あの時代”のバンドのカッコよさでもありましたからね。

ミヤ やっぱりハードコアなんで、プロフィールにも「90年代の音楽にインスパイアされて~」と書かれていますけど、音楽はもちろん、その時代のフロア感とかバンドの出している空気感のよさもすごくわかるし、よくないところも知っているので、そういうのを出していければいいなと。

antz コロナから始まって、こういう音楽性だけど規模が比較的大きめというか、お客さんとの物理的な距離が少しあった気がしていて。それがサウンドも含めてより近い、“こっちが演奏して、それを観る”みたいなところから、もうちょっと双方で感じ取り合えるライブにしたいし、そういう化学反応を生み出せたら思います。

──よりリスナーに近付いたライブになると。

antz そしてたぶんこのライブを経ないと、未来の話をするマインドにはならないかもしれない。だからより突き進もうとするのか、そうじゃなくなるのかも含めて、先が見えないというところを一緒に楽しんでもらいたいですね。

ライブ情報

Petit Brabancon Tour 2024「BURST CITY」

  • 2024年9月5日(木)東京都 Spotify O-EAST
  • 2024年9月6日(金)東京都 Spotify O-EAST
  • 2024年9月12日(木)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2024年9月13日(金)福岡県 BEAT STATION
  • 2024年9月15日(日)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
  • 2024年9月20日(金)神奈川県 CLUB CITTA'
  • 2024年9月21日(土)愛知県 DIAMOND HALL

Petit Brabancon「Seven Garbage Born of Hatred」

Petit Brabancon「Seven Garbage Born of Hatred」初回限定盤ジャケット

Petit Brabancon「Seven Garbage Born of Hatred」初回限定盤ジャケット

完全限定盤

2024年8月7日(水)発売
SENSOR
[CD+グッズ] 税込8800円 / DCCA-129

MAVERICK STORE

GALAXY BROAD SHOP

Petit Brabancon「Seven Garbage Born of Hatred」アートワーク

Petit Brabancon「Seven Garbage Born of Hatred」アートワーク

通常盤

2024年8月7日(水)発売
SENSOR
[CD] 税込2750円 / DCCA-130

Amazon.co.jp


収録曲

  1. move
    [作曲:yukihiro]
  2. dub driving
    [作詩:京 / 作曲:antz]
  3. BATMAN
    [作詩:京 / 作曲:ミヤ]
  4. 眼光
    [作詩:京 / 作曲:ミヤ]
  5. a humble border
    [作詩:京 / 作曲:yukihiro]
  6. Mickey
    [作詩:京 / 作曲:antz]
  7. Vendetta
    [作詩:京 / 作曲:ミヤ]

プロフィール

Petit Brabancon(プチブラバンソン)

京(Vo / DIR EN GREY、sukekiyo)、yukihiro(Dr / L'Arc-en-Ciel、ACID ANDROID)、ミヤ(G / MUCC)、antz(G / Tokyo Shoegazer)、高松浩史(B / The Novembers)からなる5人組。メンバーそれぞれが各バンドでの長いキャリアと実績を持つ。バンド名は、小さい体でボロボロになりながらも、一生懸命吠え、戦う反抗的な同名の犬種に由来。京がyukihiroに声をかけたことをきっかけに結成され、2021年12月に初音源となるシングル「刻 / 渇き」を配信リリースし、東京・日本武道館で行われたイベント「JACK IN THE BOX 2021」で初ライブを行った。その後もライブとリリースを重ね、2023年1月には初ツアーの模様を収めたライブBlu-ray「Resonance of the corpse」を発表。同年12月に配信シングル「a humble border」を、2024年8月に1st EP「Seven Garbage Born of Hatred」をリリースした。