Petit Brabancon「a humble border」特集|獰猛で緻密なyukihiro曲を徹底解剖 

京(Vo / DIR EN GREY、sukekiyo)、yukihiro(Dr / L'Arc-en-Ciel、ACID ANDROID)、ミヤ(G / MUCC)、antz(G / Tokyo Shoegazer)、高松浩史(B / The Novembers)がステージにそろい、美しさを孕んだ凶暴な音で日本武道館を飲み込み、目の前のオーディエンスの脳裏に爪痕を残したのが2年前──強烈な個性を持つ5人によって2021年冬に結成されたPetit Brabanconが、新曲「a humble border」を発表した。

始動から3年目を迎えたタイミングで世に放たれた「a humble border」とはいったいどんな曲なのか? Petit Brabanconを結成当初より追うライターの冬将軍に仔細にわたって解説してもらった。

文 / 冬将軍ライブ写真撮影 / 青木カズロー、尾形隆夫(尾形隆夫写真事務所)

Petit Brabancon「a humble border」レビュー

京(Vo)がどんなに獰猛に吠えようが、ミヤ(G)とantz(G)が歪んだ分厚い音の壁で覆い尽くそうが、高松浩史(B)が地を這うグルーヴでアンサンブルをかき乱そうが、yukihiro(Dr)はうつむきながら淡々とビートを刻んでいく──。それこそがPetit Brabanconというバンドであり、他の追随を許さぬ特異性であるだろう。聴いているとそんなライブの情景が脳裏に浮かび上がってくる。それが「a humble border」という楽曲だ。

yukihiro(Dr)

yukihiro(Dr)

京(Vo)

京(Vo)

ぴちょぴちょと湿った電子音がまるで生きているようにうごめきながら楽曲を侵食していく。これまでPetit Brabanconを聴いてきたリスナーであれば、そのイントロだけでyukihiro楽曲であることがわかるはず。これまでPetit Brabanconにおけるyukihiro楽曲は「come to a screaming halt」「surely」といった、ダークなニューウェイブテイストにあふれたミディアムテンポものだった。エッジィなバンドサウンドが猛り狂うPetit Brabancon楽曲群の中で異世界観を持ちながらも耳馴染みのよさを持っている。無機質で不穏なデジタルサウンドにどこかノスタルジーを感じさせるのは、ロックもパンクもニューウェイブものみ込んできたyukihiroだからこそ成せる業。しかし、「a humble border」はアップテンポの攻撃的なPetit Brabanconらしいヘヴィミュージックのナンバーだ。それでいて、しっかりとyukihiroらしさを孕んだ不思議な楽曲である。

ミヤ(G)

ミヤ(G)

antz(G)

antz(G)

高松浩史(B)

高松浩史(B)

イントロで鳴っていた湿った電子音が楽曲を支配しようとするも、そこから逃れるように楽曲は加速していく。インダストリアルな金属音のパーカッションがフックにもなっている。デジタルシーケンスと人間が奏でるビートの融合は、これまで数多くのアーティストが目指してきたことだ。だが、Petit Brabanconの楽曲はそうした融合とは別のベクトルであり、デジタルとアナログとのせめぎ合いになっている。「a humble border」は電子音がなくとも成立する楽曲であるし、むしろないほうがヘヴィミュージックとしてふさわしい気がしてならない。しかし、あえて電子音を入れることによって生じる不気味さ、禍々しさこそが、ドラマーでありながらデジタルを変幻自在に操るマニピュレーターの顔を持つyukihiroの作家性である。

潰れたギターサウンドがタイトに迫り来る、京のニヒルな歌声が猟奇性を帯びて豹変する。キャッチーなパートを挟みつつ、リズムがひっくり返るように楽曲は緩急をつけながら展開していくも、yukihiroのビートは表情を変えずに飄々と刻まれる。それは的確で精確で、アップテンポでありながらもアンサンブルをまくし立てるようなドラミングではなく、どちらかといえば熱を帯びて狂乱する京と、前のめり気味の弦楽器部隊を引き戻していくような、クールな司令塔の役割を果たしている。ヘヴィサウンドを鳴らす多くのバンドのドラマーのように、大きく振りかぶったスネアのストロークも、派手なタム回しも、目を見張るようなフィルも見せない。ただただ、寡黙にビートを刻み続ける。もうそれはビートやリズムではなく、無機的に徹する旋律と言うべきものだろう。そのyukihiroが奏でる旋律がサウンドの根幹となり、アンサンブルの要となり、yukihiroの存在自体が他メンバーにとっての精神的な支柱になっている。Petit Brabanconを単にヘヴィロックやラウドロックにくくりたくない理由がここにある。

Petit Brabancon

Petit Brabancon

では、改めてPetit Brabanconとはなんなのだろうか。

獣のごときシャウトからグロウル、艶やかな低音から伸びやかな高音、けたたましい奇声……変幻自在に声を操る強烈なボーカリスト・京(DIR EN GREY、sukekiyo)と、人間離れしたドラミングで90年代の音楽シーンに衝撃を与えたyukihiro(L'Arc-en-Ciel、ACID ANDROID)の邂逅に始まったPetit Brabancon。そこに音楽探求に貪欲すぎるギタリスト・ミヤ(MUCC)と、シューゲイザーからメタルまで網羅し、何よりもyukihiroがacid androidの活動において信頼を寄せていたギタリスト・antz(Tokyo Shoegazer)、そして、L'Arc-en-CielやDIR EN GREYが自身のロックにおける初期衝動でありながらも別のフィールドで独自の音楽を鳴らしてきたベーシスト・高松浩史(The Novembers)が合流した。世代を超え、シーンを超え、普通ではそろうことのないであろう面々が集い、鳴らされる重轟音の美しさがPetit Brabanconの大きな魅力だ。

京(Vo)

京(Vo)

yukihiro(Dr)

yukihiro(Dr)

1990年代の世界的なオルタナティブロックの隆盛、2000年代のポストメタル、10年代から現在に至るメタルコアやジェントといった、ヘヴィネスサウンドをのみ込みながら、新時代のヘヴィミュージックを切り拓かんとする。海外でニューメタルと呼ばれたロックは日本ではモダンヘヴィネスなどと呼ばれ、ミクスチャーロックやラウドロックといった日本独自の発展を遂げてきた。ダウンチューニングや歪んだギターサウンドがシーンに根付いている一方で、ジャンルとして形骸化している側面もある。そんな日本のヘヴィミュージックへのアンチテーゼ、それがPetit Brabanconだ。

ミヤ(G)

ミヤ(G)

antz(G)

antz(G)

高松浩史(B)

高松浩史(B)

バンド始動のとき、一度きりのオールスターバンドだとも思ったし、メンバーそれぞれの活動がある中でこれほどまでコンスタントに活動することになるとは思ってもいなかった。作品もライブも回を重ねるごとに深化している。メインストリームとはかけ離れた音楽を鳴らしながらも、1st EP「Automata」のリード曲「孤動」における90'sロックをかぐわすキャッチー性にはこのバンドのどデカい懐を垣間見た。セッションには程遠いバンドだと思っていたが、オフィシャルYouTubeには「surely - Studio Session Ver.-」という動画もアップされている。活動で得た手応えゆえのものだろう。

2024年1月に「EXPLODE -02-」と題したライブが東京と大阪で開催される。これは2023年1月に豊洲PITで行われた「EXPLODE -01-」に続くもの、新たなフェーズへの幕開けだと思われる。しかも東京会場はLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)。Petit Brabancon初となる席のあるホール会場だ。フロアを含め混沌とした狂気を作り上げてきた彼らがホールでどんなライブを展開するのかは想像がつかない。ただ、観客が声を出せない、コロナ禍における制約のあるライブから活動を開始してきた彼らにとって、“魅せつける”のは得意なことだ。オーディエンスのパワーに頼ることのできない2022年のツアー「Resonance of the corpse」に始まり、2023年は1月の「EXPLODE -01-」、スリップノット主宰のフェス「KNOTFEST JAPAN 2023」への出演、そして声出し解禁となったツアー「INDENTED BITE MARK」と、活動しながらライブへの向き合い方も変わってきた。そこから次なる舞台として選んだ場所がホールというのも興味深い。

対して、オーディエンスがPetit Brabanconのライブに求めるものも定まってきているようにも思える。轟音に身を委ね、体を揺らし、拳を上げ、声を上げ、叫ぶだけに収まらない、じっくりとPetit Brabanconの創り出すステージに浸るという愉しみ方。彼らの奥深い音楽世界を堪能する、腰を据えて観る聴くことのできるホールでのライブは、Petit Brabanconのさらなる魅力を知ることができる最適解なのかもしれない。

Petit Brabancon

Petit Brabancon

ライブ情報

EXPLODE -02-

  • Petit Brabancon EXPLODE -02- Gushing Blood
    2024年1月2日(火)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • Petit Brabancon EXPLODE -02- Neglected Human
    2024年1月3日(水)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • Petit Brabancon EXPLODE -02- 暴獣
    2024年1月7日(日)大阪府 なんばHatch
    <ゲスト>
    ROTTENGRAFFTY
  • Petit Brabancon EXPLODE -02- SRBM
    2024年1月8日(月・祝)大阪府 なんばHatch

プロフィール

Petit Brabancon(プチブラバンソン)

京(Vo / DIR EN GREY、sukekiyo)、yukihiro(Dr / L'Arc-en-Ciel、ACID ANDROID)、ミヤ(G / MUCC)、antz(G / Tokyo Shoegazer)、高松浩史(B / The Novembers)からなる5人組。メンバーそれぞれが各バンドでの長いキャリアと実績を持つ。バンド名は、小さい体でボロボロになりながらも、一生懸命吠え、戦う反抗的な同名の犬種に由来。京がyukihiroに声をかけたことをきっかけに結成され、2021年12月に初音源となるシングル「刻 / 渇き」を配信リリースし、東京・日本武道館で行われたライブイベント「JACK IN THE BOX 2021」で初ライブを行った。その後もライブとリリースを重ね、2023年1月には初ツアーの模様を収めたライブBlu-ray「Resonance of the corpse」を発表。同年12月に配信シングル「a humble border」をリリースした。2024年1月に東阪で「EXPLODE -02-」と銘打ったライブを2DAYSずつ行う。