1月よりTOKYO MX、BS11、AT-Xほかで放送され、Amazonプライム・ビデオでも配信されるアニメ「pet」は、三宅乱丈の同名マンガが原作のサイキックサスペンス。他者の脳内に潜り込み、記憶を操作することができる特殊能力を持った“ペット”と呼ばれる少年たちの生き様が描かれる。
このアニメにはTK from 凛として時雨がオープニングテーマとして「蝶の飛ぶ水槽」、眩暈SIRENがエンディングテーマとして「image _____」をそれぞれ提供している。さらにTKは「image _____」のサウンドプロデュースも手がけた。音楽ナタリーではTKと眩暈SIRENから京寺(Vo)とウル(Piano, Vo)、アニメ「pet」の企画およびプロデュースを手がけるツインエンジンの山本幸治プロデューサーを迎えてインタビューを実施。楽曲制作の裏話や音楽とアニメというジャンルを越えたクリエイティブのあり方について、じっくりと語ってもらった。
取材・文 / 金子厚武
必要な“トガリ”
──山本さんとTKさんは、アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」でタッグを組んだのが最初ですよね。音楽ナタリーでも取材を行いました(参照:TK(凛として時雨)×山本幸治(フジテレビ「ノイタミナ」プロデューサー)対談)。
山本幸治 7年ほど前ですね。ちょうどフジテレビを辞めようかと考えていた頃で、自分の悩み相談みたいなものが7割だった気がします(笑)。
TK 確かに、あんまり作品の話をした記憶がないですね(笑)。
山本 クリエイティブと売れることのバランスとか、そんな話ばかりでした。
──今や「PSYCHO-PASS サイコパス」とTKさんの結び付きはすごく強いものになりましたし、実際に山本さんはそれから独立して会社を作られて、今回こうして再びタッグを組まれるというのはなかなか胸アツですよね。
TK 山本さんが会社を立ち上げられたときに、「また一緒にやりましょう」とご連絡をいただいていたのですが、それから全然オファーがなくて。やっと思い出してくれたのかと(笑)。
山本 お忙しいかと思って(笑)。劇伴もお願いしたいな、とか、そういうものを含めてオファーしたかったんですけど。
──では、山本さんが今回TKさんと眩暈SIRENにオファーした経緯を教えてください。
山本 先に眩暈SIRENさんから言わせていただくと、以前「からくりサーカス」をアニメ化した際にエンディングテーマを提供していただいたことが大きいですね。TKさんに関しては、最初は凛として時雨にオファーしたいなと考えていたんです。ただ、時雨の楽曲は音の密度が高いというか隙間がないイメージなんですけど、今回のアニメはけっこう静寂も必要なんですよね……静寂というか、考える余地というか。TK from 凛として時雨の方がそれがあるように感じられて。どちらの曲も「pet」に必要な“トガリ”がきちんとあって、すごくキレイにハマったなと思ってます。
ウル(Piano, Vo) 「pet」という名前だけ聞いたときは「ほのぼの系?」って思いました(笑)。
山本 検索すると動物の映画が出てきますもんね(笑)。
ウル でも我々もこういう世界観が好きなので、関わることができて本当にうれしかったです。
──実際に「pet」の原作を読んでみて、その印象をどのように楽曲に落とし込もうと考えていったのでしょうか?
TK 最初1回読んだときは正直全然入ってこなくて。
山本 難解ですもんね。
TK そもそもアニメとして表現できるのかなと思ったし、できたとしても、それがちゃんと伝わるのかなっていうのがあって。読み進めていくうちに「これは面白いかもしれない」みたいな、どっぷり浸かっていくタイプのマンガだと思ったんです。なのでオープニングから物語に引き込みたいなと。イントロはそういう空気感で作りましたね。
──「そもそもアニメ化できるのか」というところに関して、山本さんはどうお考えでしたか?
山本 そうだなあ……まあ、ハードル高いは高いですよね。
TK 読解力がある人はすんなり入れるのかもしれないですけど、それをアニメーションとして多くの人に伝えるときに、わかりやすくしてしまうことが果たしていいことなのか。それって難しいところじゃないですか。展開がものすごく秀逸なので、わかりやすくしてしまうと、読み進めるうちに「こう変わっていくんだ」とわかってくる面白みがなくなっちゃうような気がして。でも最初がわかりにくいほうが最後の爆発力があるかもなと思ったんです。楽曲でも同じように、あえて温度の低いところから始めて、どういうコード感かわからないようにすることで、サビに爆発力を持たせられる。反対に頭からサビみたいな楽曲はずっと高揚感があるとか、そういうコントロールができるんですよね。
水の中に沈んでいくイメージ
──実際の曲作りは、どのように進めていったのでしょうか?
TK 楽曲の全体像を作為的に作れるタイプではないので、自分の中でも“偶発的なパズル”みたいになっていたりするんですけど、それが何かの瞬間にパッと完成するときがあるんです。その瞬間に「こういう楽曲が作りたいのか」と自分で納得する。最初の段階から曲の全体像が見えてることは少なくて、違うなと思うことのほうが多いです。目の前に音や構成のドアがいっぱいあって、全部開けてみて「あ、これかも」と思ったのがあのイントロ。頭の中に潜り込んでいくというか、それがオープニングの映像にも表れてたなって。
山本 完全にシンクロしてましたね。
TK 水の中に沈んでいく、まさにあのイメージ。そこから膨らませていった感じです。
──タイトルにも「水槽」という言葉が付いていますし、まさに水槽の中、水の中のイメージですよね。
TK そうですね。作品自体がいわゆる万人受けするものとはちょっと違う、もっともっとディープなものだったので、音楽も自分の本当に深いところから表現されるものにしようと意識しました。あえてポップにするときもあるんですけど、今回はディープに行ってもいいなと思ったので、フルサイズも含めてより深く入り込んでいった感じです。
──「蝶の飛ぶ水槽」というタイトルに関しては?
TK けっこう悩みました。ソロ名義ではあまり日本語のタイトルって使ってなかったですしね。途中まで全然違うタイトル案があったんですけど、納期ギリギリで変えたんです。少し違和感が欲しかったというか。原作を読めばわかるけど、読んでない人が見たら「どんな世界なのかな?」と思うような、そんな瀬戸際をタイトルで表したかったんです。
仮タイトル「濁ってるぜ」
TK 眩暈SIRENの「image _____」もすごいタイトルだね。
ウル 僕らは英語のタイトルを付けることがほとんどないので、だいぶひさしぶりです。
TK あ、逆にそうなんだ。
ウル メンバーみんなで決めることが多いんですけど、今回は珍しく京寺から「歌詞こんな感じで書いたから、こういうタイトルがいい」と言われて。それで「めっちゃいいじゃん」と。
TK デモをもらったときの仮タイトルは「濁ってるぜ」で、僕、それも好きだったんですよ。あれは「PSYCHO-PASS サイコパス」から来てたんだよね?
ウル そうです。「PSYCHO-PASS サイコパス」の1話に出てくる頭のおかしいおじさんが言うセリフが好きで。デモの曲名は基本的にふざけなきゃいけないという我々の中のルールが……。
京寺(Vo) ないないない(笑)。
ウル だからTKさんに「『濁ってるぜ』でいいんじゃないの?」って言われたときは「冗談でしょ?」と……。
TK 普通に「濁ってるぜ」がタイトルだと思ってたんですよ。そうしたら「何言ってるんですか!」って。「pet」にも合ってると思ったけどね。
ウル でも「ぜ」はちょっと(笑)。
──タイトルの意味も気になりますが、まず原作の印象をどのように楽曲に落とし込もうと考えたのでしょうか?
ウル TKさんほど深くは考えていなかったけど、とにかくとがった曲を作ってやろうという思いはありました。あとは僕、「PSYCHO-PASS サイコパス」がすごく好きなんですけど、TKさんの曲もEGOISTさんの曲も、聴いたらあの世界観を思い出してまた観たくなるんです。それがあるので、僕らも作品の世界観を総括できるようなスケール感を出せるといいなっていうのは意識しましたね。
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自分らの曲の中でも一番好き
2020年1月7日更新