ナタリー PowerPush - PES from RIP SLYME
ソロデビュー特集第2弾 パーソナリティ徹底解剖
「俺が俺が」みたいな自分目線がなくなった
──PESさんはかれこれ20年近く曲を作り続けていて、相当長いキャリアになっていますよね。RIP SLYMEを含めたこれまでの活動で、自分自身の成長したと思う点があれば教えていただけますか。
リップではほとんど作詞においての成長ですね。大きすぎず小さすぎないテーマ感だったり、言葉のシンプルさだったり、歌いやすさ、聴き取りやすさ、キャッチーさ……そういういろんなことを学びました。
──自分の書く詞を分析すると、どんな傾向があると思いますか?
うーん、あるテーマを進展させることは得意だけど、それに対して元々持ってる自分の意見ってあまりないんですよね。新しいPVの相談をするときも、「こういうテーマの中で何をしましょうか?」って訊かれたらいくらでも答えられるけど、元々こういうコンセプトのものを撮りたいっていう熱い思いはないというか。あとはリップの楽曲でも、ササッとまとめるのが好きだなとは思います。
──例えば10年前こうだったものが今こうなった、という変化の具体例はありますか?
自分目線がなくなりましたね。「俺が俺が」みたいなもの。あと、今回の「女神のKISS」っていう曲名もそうであるように、見てくれにこだわらなくなった。前はちょっとひねった面白いタイトルだったり、ヒップホップっぽい言葉使いだったり、何かにこだわりを感じさせるものを足したりしてて。言い換えれば照れがなくなったっていうことですね。
──昔は照れの気持ちから誇張気味の言葉を使っていたんでしょうか。
そういうのは往々にして、男子の音楽にはあると思いますよ。若いときは自意識過剰というかね、ナルシストだったり中2病だったり変な意地を張ってる部分がきっとあると思うんで。まあだんだんと節操がなくなるっていうか(笑)、思ってるより人は自分のこと気にしてないんだから、何してもいいかって思えてくるんですよね。
肯定してこそ周りとやってる意味がある
──では照れも意地もなくなり、フラットになった今のPESさんが作る詞は、どんな手触りのものが多いですか?
どういうの?(近くにいるスタッフに向かって)
スタッフ 全体的に感じるのは、今までの話にも通じますけど、自分自身というより自分含めみんなのことを考えてる。それからすごく肯定的な印象を受けます。
──確かにPESさんの楽曲って肯定的ですよね。逆に、DISや社会風刺といった類のメッセージソングはあまりないような。
否定的なことを歌うのはすごくテクニカルですからね。怒ったり、揚げ足取ったり、何かを批判することでポジティブな評価を得るにはすごく説得力が要る。相当札を持ってて、すごくネガティブだけどうっすら希望を抱いているみたいな根っこの精神がないと、テクニックがどうこうっていう領域にすらたどり着けない気がするんですよ。それは俺には難しいなと。根本的な人間性の問題でしょうね。
──逆に肯定的なメッセージだったらたくさん出てくる?
そうですね。議論の場でも「それはちょっとどうなんだろうな」と思うことがあっても、ネガティブにならないように一度自分の中で揉んでから言葉を発するようにしてます。肯定してこそ周りとやってる意味があるっていうか、否定するなら1人でやれよって思われかねないから。
──なるほど。最後に、改めてPES from RIP SLYMEプロジェクトの全体について教えてください。前回のインタビューでは「これで自分のアイデンティティが見出せたら最高だなと思う」とおっしゃっていましたが、今はソロプロジェクトのテーマやコンセプトをどんなふうに考えてますか?
テーマ……楽しく飽きのこないものを残せたらいいな、ですかね。周りのスタッフにも楽しんでもらうことと、長く聴いてもらえること。だから今まで話した内容もそこに付随してるのかな。みんなに楽しんでもらうには自分のセンスに固執するだけじゃいけないし、長く聴いてもらうには人の意見も大事。楽曲制作だけじゃなくてPV、ジャケット、衣装も含め全体像をみんなで話し合って共有して、1個1個納得しながらやっていけたらいいなと思ってます。
【MV】PES from RIP SLYME - 女神のKISS
PES from RIP SLYME(ぺす)
RIP SLYMEのMCとして、2001年にシングル「STEPPER'S DELIGHT」でメジャーデビュー。RIP SLYMEは日本のヒップホップグループとしては初の日本武道館単独公演、海外公演、野外5万人ライブなど、数々の記録を作り続けている。PESは「One」「Hot Chocolate」「Tales」「SCAR」といったRIP SLYMEの楽曲のソングライティングを多数手がけ、SMAP、JUJUをはじめとする他のアーティストへの楽曲提供や歌詞提供も行う。また音楽活動以外にも、デザイン関連へのアプローチなど、その活動は多岐にわたる。2012年5月、シングル「女神のKISS」でソロデビュー。表題曲はフジテレビ系火曜夜9時ドラマ「リーガル・ハイ」の主題歌に起用された。