ナタリー PowerPush - PES from RIP SLYME
ソロデビュー特集第2弾 パーソナリティ徹底解剖
話し合いの基本は説得力と代案
──じゃあ「自分はアーティストになろう」と決心した瞬間は特にない?
「アーティストになろう」とはいまだに思ってないかもしれないです。アーティストの定義がいまいちわかんないんですよ。その場にいて、自分に求められてることをするべきだと思ってやってるだけなので、求められなくなったら辞めると思う。
──グループの中で自分は求められてるという実感はずっとありました?
ありましたね。「ここのサビ作って」とか言われることが“求められてる”のであれば。自分にとっては、音楽に取り組むのはアートというより生活の糧というか、いい意味でビジネスとしてやっている部分があるんです。今、自分の中では芸術的な何かを音楽にぶつけるみたいな感覚は全くないですね。昔一瞬そんなことを思った時期もあったけど、そっちのセンスはあんまりねえなと思って。
──芸術寄りの表現を模索して、実践してみたときもあったんですか?
そうですね。まあ確率の問題で、あまり行けなさそうだからやめとこう、ここに時間かけても生活にはつながらなさそうだなって。
──うまくいく確率を考えるなんて、音楽家としては保守的ですよね。
余裕がないですからね、生活に、人生に(笑)。
──そのようにPESさんが客観性や冷静さを保って取り組んでいるのは、何か理由があるんでしょうか。
多分グループでやってきたからかな。グループの中で自分から何か提案するときは、説得力のある論拠がないと。例えば「俺がこれを良いと思うのはこういう理由で」とか、「ここの音は○○だからあの時代のネタが合うはず」とか。センスだけで物を言うとセンス同士のぶつかり合いになるから、「俺はこれがカッコいいと思う」「いや、そうでもないと思う」で話が終わっちゃうじゃないですか。最初にみんなを説得することがグループでは必要だったので、そういうやり方が身に付いたんでしょうね。あと話し合いの基本は代案。何かを否定するときは代案を用意する。じゃないと進まないですから。
──そういった手法は今のソロプロジェクトでも活用されていますか?
はい。ただ、ソロでいろんなスタッフと話してるときに自分が代案を言い過ぎると、それが全部採用されてみんなの持ち味が出ないっていうか。あんまり1人でポンポン進めるのも違うのかなと。だからやり方は一緒だけど、度合いが違いますね。RIP SLYMEだと5人でまず揉んでからスタッフに言いますけど、ソロだともうちょっと僕とスタッフとの相談が増えていくのかなと思います。
──つまりPESさんはグループでもソロでもチーム感を大事にしてるんですね。
スタッフの意見を受け入れたほうが勉強になるんですよね。映像とかデザインとか、みんなその道のプロだし、僕の知らないカテゴリですからね。まず聞いて自分で1回消化してから、自分に合う形に変えていく。だから結局は僕のセンスも入るんですけど、勉強のために、なるたけみんなの意見を頭に入れるようにしてます。
EAST ENDを初めてテレビで観て衝撃を受けた
──PESさんの音楽性にフォーカスしたお話も聞きたいと思います。再び幼少の頃の話になりますが、記憶に残っている音楽体験というのは?
小2のときに観た「Thriller」(マイケル・ジャクソン)のPVは驚異的でしたね。ビビって泣きました。ほかに小学生のときはミポリン(中山美穂)とか光GENJIとかアイドルも普通に好きで歌謡曲を聴いていて、中1のときにバンドブームがあって、JUN SKY WALKER(S)とかユニコーンとかTHE BOOMとかを知るわけです。で、それに影響されて友達とバンド組んでみて、周りが飽きたあとも自分だけギター触ってた、みたいな。
──ラップに興味を持ち始めるのはもう少しあとのことですか?
そうですね。EAST ENDとかを初めてテレビで観たのが15歳くらい。日本語でラップするなんて考えたことなかったし、そもそもラップ自体をよく知らなかったんで、衝撃を受けました。で、カッコいいなーと思ってたら、RYO-ZくんとILMARIくんがよく行ってるイベントにEAST ENDが出るというので行って、すぐ近くで会うことができ、その後もいろんな現場でライブ観させてもらい……もう半年もかからないうちにいろんなことが起きました。
──自分でラップを始めたのはどんな思いから?
その当時、音楽をやってる知り合いが短い期間で一気に増えて、急速に新しいことを知ったんですね。ブレイクビーツに出会って「これあればラップ書けるじゃん」とか、MTRに触れてみて「これだけで録音できるじゃん」とか。以前は音楽ってバンドやらないと作れないって思ってたけど、それ以外のやり方で形にできるんじゃないかって考え始めたんです。
──サンプリングだったら楽器を演奏しなくてもいいですしね。
そう、サンプリングで曲を作れるって知ったとき、コードとかベースとかルートとか関係ないんだ!?ってホント衝撃的で。それがなくてもこんなにカッコいいの作れるんだったら、別に学ぶ必要ないんじゃないのっていう。だから楽器で作る細かい制作作業をやらなくなって。今も昔も一応曲作りはギターでしてますけどね。
──そうなんですか。
それが良いと思ってやってきましたけど、ソロが始まって「これじゃダメだ」っていうことになりましたね(笑)。1人で弾いて歌うにはコードとかちゃんと考えないと。
PES from RIP SLYME(ぺす)
RIP SLYMEのMCとして、2001年にシングル「STEPPER'S DELIGHT」でメジャーデビュー。RIP SLYMEは日本のヒップホップグループとしては初の日本武道館単独公演、海外公演、野外5万人ライブなど、数々の記録を作り続けている。PESは「One」「Hot Chocolate」「Tales」「SCAR」といったRIP SLYMEの楽曲のソングライティングを多数手がけ、SMAP、JUJUをはじめとする他のアーティストへの楽曲提供や歌詞提供も行う。また音楽活動以外にも、デザイン関連へのアプローチなど、その活動は多岐にわたる。2012年5月、シングル「女神のKISS」でソロデビュー。表題曲はフジテレビ系火曜夜9時ドラマ「リーガル・ハイ」の主題歌に起用された。