ナタリー PowerPush - PERIDOTS
柔らかく豊かな2ndアルバム 独自の美学に迫る
取っ散らかっても1本の道になると思う
──そんなふうに、作者自身も意味はわからないけれど……という曲があるかと思えば、「miracles at night」では「照れくさいんじゃない 僕はnobody 人嫌いで でも寂しがり」という直球のラインもあり。
ハハハ（笑）。その曲なんかはほとんどの部分が語呂重視で、聴いてて気持ち良ければいいっていう詞なんですけど、それだけだとスカスカになっちゃうんで、どうドロドロにするかみたいなことを考えて歌詞を書いたつもりです。
──何か引っかかりを作らないと気がすまない？
う—ん、でも本当はスカスカな曲のほうが……というか軽やかなものが一番すごいと思うので、いつか作りたいとは思っています。軽やかで成立してるものを。
──それから、R&Bが持つセクシーさをPERIDOTS流に転換したように聴こえる「Smile」も新鮮でした。
ありがとうございます。そう、「Smile」も謎で（笑）。なんの前触れもなく、光太郎さんがデモを打ち込みで上げてきて「どう？」って聴かされたんです。僕はもうちょっとR.E.M.っぽいストレートなアレンジをイメージしてたんですけど、光太郎さんはドラムが抜けてからのR.E.M.みたいなものを作ってきたので、すごく興奮しましたね。
──この曲を聴いて勝手に思ったんですけど、例えばジェイムス・ブレイクのようなサウンドプロダクトと歌の組み合わせで聴きたいってリスナーから言われたらどう思いますか？
いつかやるかもっていう思いはあるんです。僕は飽きっぽいし、「こういうタイプの曲じゃなきゃダメ」みたいなこだわりがあるわけじゃないし、できればどんどん取っ散らかっていきたいという部分はあるんで。でも自分にはどういうものが向いてるのかわかってますし、今、迷走するタイミングでは絶対ないとは思うので、やらないですね（笑）。ただ、作るのは自分1人だから、取っ散らかってもどうしても1本の道にはなると思うんです。
メロディが一番のメッセージ
──1本の道って言えるのは、やはり出てくるメロディや言葉で人を驚かせることができるからですか？
まず自分が驚きたいので。年がら年中鼻歌で曲は作ってますけど、「これっていい曲だけど、まあ別にいつでも作れるわ」っていうメロディはあまり意味があると思えなくて。「なんだこれは？」って自分で思うものだけを形にしてるつもりなんですね。なので、自分が感じた興奮とか驚きみたいなものを、できるだけそのまんまみんなにも感じてもらえたら、それは最高にうれしいです。
──そのために曲作りで心がけていることはあるんですか？
なかなかコードを付けないっていうのはありますね。曲のイメージの断片ができた段階で楽器を持ったりはしない。あとは歌詞ですよね。メロディができたら、そのメロディの可能性をできるだけ殺さない歌詞を付けたい。その結果……「でんでん虫」（「andante」の一節）っていう言葉が出てきたりするんですけど。
──メロディを優先すると謎な歌詞が付くんですね。
なんかその、メロディがメッセージなんですよ、僕の場合は。一番言いたいことは、「僕はこういうメロディがいいと思うんです」っていうことなので。で、本当にいいメロディができたときって、自分で作り上げたとかコントロールしたってことじゃなくて、宝石を見つけたみたいな感覚になるからうれしいんです。
──でも自分が吸収して記憶したものからしか生まれない。
うん。例えば今から何か素晴らしい音楽を聴いて、それに影響されて何かできたとしてもすごく表面的なものだと思う。本当の意味では、思春期に聴いてきたような音楽しか血になってないと思うから、そういう意味では取り返しがつかないんですよね。でもそれがスリリングというか、音楽作りの面白いところだと思います。
収録曲
- 海と塵
- Follow the Stars（In Your Heart）
- Teenagers
- 異常気象
- I Want to Be Toby
- miracles at night
- Smile
- Raining,raining
- 歌は常に雄弁である
- andante
- EXPO
- 長かった一日が終わろうとしている
PERIDOTS（ぺりどっつ）
山形県出身のシンガー、タカハシコウキのソロユニット。高校卒業後に宅録を中心とした音楽活動をスタートし、26歳で初めてバンドを結成する。その後紆余曲折を経て、現在のソロ形態へ。2005年、ライブが評判を呼び、音源のリリースがまだないにもかかわらず初のワンマンライブはソールドアウト。2006年5月にはミニアルバム「PERIDOTS」でCDデビューを果たす。その後レーベルや事務所を移籍し、2010年11月にフルアルバム「MY MIND WANDERS」を発表。魅力的な歌声と、ブラックミュージックから90年代パンクまでを独特の切り口で消化した楽曲で、幅広い支持を得ている。
