過酷さが全然伝わらない

──「無限未来」の話からちょっと脱線してしまいましたが、この曲のMV撮影は初の海外ロケをしたとのことで。

かしゆか　グアムに行ってきました。

のっち　ドコモさんの企画で私がニューヨーク、かしゆかがロンドンに行ったときもそれぞれものすごいスケジュールだったんですけど（参照：Perfumeの3人が世界3都市で同時にダンス、1万km離れてもタイムラグなくシンクロ）、今回はそのときの経験が生かされました。弾丸ツアーはもう慣れっこだね。

かしゆか　スキルを積んでます。

のっち　かしゆかもすごかったもんね。夜の23時にホテルに着いて。

かしゆか　「じゃあ3時からメイクお願いします」「えっ4時間後？」みたいな（笑）。朝焼けを撮りたいんだけど、ホテルから遠い場所だから移動時間を逆算すると3時からメイクするしかなかったんですよ。

──結局どれくらい寝れたんですか？

かしゆか　寝坊しちゃうのが怖くて全然寝れないですよね（笑）。今回ソロカットを別々の遠い場所で撮ったので、お互いの撮影にあんまり立ち会ってないんですよ。で、1日目の朝に私、2日目の朝にあ～ちゃんが撮って、のっちは「私まだなんもしてねえ。朝は2日共ゆっくり寝てたわ」って言ってて（笑）。

あ～ちゃん　2人が「オールアップでーす」って言われてるときに「私まだなんにもやってないんだけど大丈夫ですか？」ってね（笑）。

のっち　そうそう。私のソロシーンは最後に、日が沈むまでの間に2時間くらいで撮りました。

かしゆか　やっぱり外だと日差しが大事で、雲がかかると撮れないんですけど、グアムの日差しはめっちゃ暑くてまぶしいんですよ。「まぶしい！」ってなった瞬間に「撮ります！」って言われるんで、みんな険しい顔で映ってます。

──風が強いのでむしろ涼しそうに見えました。

あ～ちゃん　じゃあよかった（笑）。

かしゆか　映像ではわからないけど、風が強くて湿度も高くてカンカン照りで、すごかったよね？

あ～ちゃん　ヤバかった。逃げ場がなくてずっと浴び続けてたから、「あー暑さで倒れるときってこういう感じなんだなー」って考えながら撮ってた。

かしゆか　「これが熱中症ってやつかー」ってね（笑）。のっちが撮ったのは「よくそんなところまでロケハンに行きましたね」っていうような山奥の崖だったんだよね。

のっち　崖の先端に岩がポコッと出てて、そこで踊ってるんです。

かしゆか　MVでは使われてないけど、足元が映ると「恐ろしいところで踊ってるな……」ってビックリする。

のっち　過酷さが全然伝わらない。

あ～ちゃん　MVを観てもわかんないことめっちゃあるよね。私は赤土の地層みたいなところで撮ったんですけど、風が強くて砂が舞うんですよ。あと、斜面なので地層の山に片足を置いて、その不安定なところで豪快な足回しをしてたんだけど、ワンシーンも使われてなかった（笑）。

かしゆか　私も水辺にある苔が生えた岩の上で、ちっちゃなスペースで滑りそうになりながら踊ってたんですけど、ほぼ使われてないです（笑）。みんなけっこう過酷なところでがんばって踊ってたんですよ。

別の国にいても、踊ってると2人の気配を感じることがあるんですよ

──シングルのカップリング曲「FUSION」は、先ほどのっちさんが話していたNTTドコモのプロジェクトで使用された曲です。僕は取材のため、あ～ちゃんさんがいた新宿会場であれを観ていたんですが……。

のっち　あ、目撃者！ すげー！

──目撃者なんですけど、何も説明なく1人で出てきて踊り始めたので、現場にいると何が起こってるのか全然わからなくて。

あ～ちゃん　わかんないよねえ（笑）。

──貴重な体験でしたけどね。メンバーが1人だけで1曲通してパフォーマンスするところなんて観たことがなかったから。

のっち　お客さんの前で3人そろってないことなんてないですもんね。

かしゆか　うん、本番で1人だけっていうのは今までなかったです。

あ～ちゃん　撮影では1人ずつ踊ることは全然あるんですよ。でもお客様が観てる前で1人っていうのは初めてです。

かしゆか　「同じ時間に別の国にいる3人が映像の中で1つになる」っていう試みだから、実際にはいない2人の存在を感じて踊らなきゃいけないので、素材撮影で1人になるのとは全然違いますね。それぞれの国に着いてリハーサルしたら、3人の振りがバラバラになっちゃったんですよ。どれだけ普段、2人の空気を横に感じて踊ってたのか実感しました。そのリハが本番12時間前で、みんな「どうしよう！」ってなりながら、モニタに映るタイムラグありまくりの2人と「ここで腕の角度を上げて」みたいにちょっとずつ合わせていったんです。

──3人一緒に踊ればきれいに動きが合ったように見せられるけど、1人ずつ踊った映像を重ねてもそうはいかなかったと。

あ～ちゃん　そうです。ああいうふうに同じ構図でカメラを置いて撮ったものを合成すると、ちょっとした体の位置の違いがはっきり見えちゃうんですよ。3人で踊る練習は何回もやってたんだけど、みんな不安だから家でけっこう個人練習しちゃって、それをやりすぎたから癖が付いて合わなくなったんじゃないか説も（笑）。

のっち　「3人の体のパーツが組み合わさって1人の人間みたいになる」っていう演出になることを知らなかったんです。だからそれを知ったとき「あ、そこまでシビアにいくのね！」って、ちょっとシビレましたね……。

かしゆか　事前に大きいスタジオを借りて、三角形のセットに1人ずつ入って機材チームの人たちと本番同様にやったときも、私たちは合成した映像がどうなるのか、はっきりとは知らされてなかったんですよ。

あ～ちゃん　5G（タイムラグが少ない第5世代移動通信システム）の技術は本番でしか使えないから、リハーサルでは遅延があるまま振りを揃えなくちゃいけなかったのも大変で。一緒に踊りながら「あっ！ その角度！」って言っても、2人にその声が聞こえたときには曲が先に進んでるので「え？ どの振りのこと？」ってなっちゃう。

かしゆか　歌詞がほとんどない曲だから余計に難しかったですね。どこの振りの話をしてるのか歌詞で伝えられないから、リハーサルの映像を巻き戻して「ここ！ ここのこと！」って画面で見せたりして、けっこう大変でした。本番前に3人で「がんばるぞ！ オー！」って気合い入れをしても、それも遅延でズレズレだったし。

──でも本番前の12時間だけで合わせられるようになったんですね。

かしゆか　やるしかないんですよ。Rhizomatiksさんとやるときはいつもそうなんですけど、「Perfumeは100％やれるから、うまくいくかどうかは機械の調子次第」と思われてるので。

──「Perfumeは必ず要望に応えられる」という前提で話が進んでいると。

かしゆか　そうですそうです。私たちはできて当たり前で失敗はあり得ない、という状況だからプレッシャーは大きいです。1人でスタンバイして、静まり返った三角形のセットに1人で入っていったとき、異様な空気でしたよ。

──「できて当たり前」と言うには要求のレベルが高すぎる気もしますが……。

かしゆか　でも、その難しいことに挑戦するためにPerfumeを選んでくれたというのはすごくうれしいから、なおさら「期待に応えたい」って気持ちが強まるんですよね。

のっち　自分では「そこまで期待されるような人じゃないです」って思ってるんですけど、「Perfumeならできるっしょ？」って信頼されてることはうれしいので。

──別の国で踊ってる2人の様子が見えないので、本番中はかなり不安だったのでは？

あ～ちゃん　最後は自分を信じました。「こんなに練習したのに合ってないんだ」って12時間前に思い知ってから、そろえるためにいろんなことを試したし、あとはもう信じるしかないなと。でもホントに不思議なんだけど、踊ってると2人の気配を感じることがあるんですよ。「うわ！ 今、超そろってる！」って。

のっち　そう！ あるんだよねえ！

かしゆか　貴重な経験でした。

あ～ちゃん　2人の息遣いとかを感じて、ビリビリってくる瞬間があったんです。本当に涙が出そうだった。これを体験して、自分たちの表現のステージが1個上がったような気がします。絆も強くなったと思います。

初めて中田さんのご両親と私たちの家族が対面したんです

──「FUSION」はドコモのプロジェクトで使用されたほか、2017年12月に金沢で開催された中田さんプロデュースのフェス「OTONOKO 2017」でも、中田さんのDJをバックにパフォーマンスしています。Perfumeと中田さんが一緒にステージに立ったのは初めてということで、非常に話題になりましたね。

のっち　中田さんのイベントにPerfumeが出ることも今までなかったもんね。NGなのかと勝手に思ってた。私たちが中田さんと同じステージに立つことを特別に思ってるのと同じように、意外にも中田さんも特別なことだと思ってくれてたみたいです。で、そこで初めて中田さんのご両親と、私たちの家族が対面したんですよ。

かしゆか　「いつもありがとうございます……！」みたいな（笑）。

あ～ちゃん　泣きながら話してた（笑）。

のっち　「やっとお会いできた」ってね（笑）。うちの家族は中田さんに会うこと自体が初めてだったみたいで、すごく感動してました。

あ～ちゃん　私たちは中田さんとはある程度の距離感があるんですよ。それをわざと保ってるところがあって。だからそのときも淡白な楽しい会話のやり取りをしてたんですが、家族みんなおいおい泣いてて。

かしゆか　話が止まんなくて。

あ～ちゃん　ずっとしゃべってた。中田さんのお母さんは息子と正反対で感情的で熱い方なんですよ。すごく品もあって。それを見て「ああ、中田さんも人の子なんだな、ちゃんと人の血が流れてるんだな」って感動しちゃったな。

──出会って15年経ってもPerfumeの中では中田さんはそういうイメージなんですね（笑）。

あ～ちゃん　そう言えばこの間中田さんと私たちで話してるときに、「これからは一緒に共演していくのもいいよね」みたいな話になって。そのときに「どこで共演したら面白いかね？」「ナタリーさんとか超面白くない？」って言ってたんですよ。

──えっ!? それはうれしいです！

かしゆか　ぜひ今度ナタリーさんで何かできたら。

のっち　ね、絶対楽しいと思う。