PEOPLE 1が1stアルバム「PEOPLE」をリリースした。
PEOPLE 1は、東京を拠点に活動する音楽家・Deu(Vo, G, B, Other)がTakeuchi(Dr)、Ito(Vo, G)とともに結成した3ピースバンド。これまでに「大衆音楽」「GANG AGE」「Something Sweet, Something Excellent」の3作の音源集をリリースしており、Deuが手がけるジャンルレスかつ文学的な楽曲と、独創的な世界観を表現したミュージックビデオ / アートワークで若いリスナーを中心に注目を浴びている。
ただPEOPLE 1は2019年のデビュー以降、メンバーの経歴など情報を一貫して明かしてこなかった。音楽ナタリーでは、謎に包まれた彼らの素顔に迫るべくDeu、Takeuchi、Itoの3人に初インタビューを実施。バンド結成の経緯から創作におけるアティテュード、「PEOPLE」の収録曲について話を聞いた。
取材・文 / 天野史彬撮影 / Yoshio Nakaiso
3人の出会い
──PEOPLE 1は現状、バンドのことも、皆さんのパーソナルなことも情報がほとんど明かされていないので基本的なことから伺えればと思います。まず、3人はどのように出会い、どういった経緯でPEOPLE 1を結成されたのでしょうか?
Takeuchi(Dr) 関係性でいうと、もともと3人は同じ大学のサークルのメンバーで、僕とDeuくんが同期、Itoが1個下です。
Ito(Vo, G) ただ、大学時代に結成したわけではなくて。卒業後にDeuさんの呼びかけで集まりました。最初に曲を出したのが2019年の12月なんですけど、そこに向けてじわじわと始まっていた感じでしたね。3人で曲を録り始めた頃はまだバンド名も決まっていなかったですし……ぬるっと始まったんですよね。
Deu(Vo, G, B, Other) だから、2019年12月の結成と同時に活動開始っていう感じですね。
──3人は音楽の趣味が合うとか、気が合うとか、そういう部分で集まったんですか?
Takeuchi 音楽の趣味はバラバラだと思います。僕はマキシマム ザ ホルモンさんのような激しめの音楽を好んで聴きますね。
Deu Itoくんは日本語ロック的な感じだよね?
Ito そうですね。僕は邦楽に偏って聴いていますね。そもそも大学に入るまで音楽を聴いたり、楽器を演奏したりもしていなくて。大学時代はDeuさんから仕入れた音楽を聴いて過ごしていました(笑)。
──Deuさんは?
Deu 僕はオールジャンル聴きますね。好みでいうと、UKガレージロック的な音楽が味としては好きです。特に2000年代以降のリバイバル的な、Arctic MonkeysやThe Libertinesとか。
セルアウトに特化した音楽
──Deuさんは、PEOPLE 1結成以前にほかのプロジェクトでも活動されていますよね。その音源を聴くと、今言っていただいたガレージロック的な志向性はすごく感じます。
Deu そうですね、はい。
──その別プロジェクトがあったうえで、DeuさんにはなぜPEOPLE 1が必要だったんですか?
Deu その別プロジェクトでは、自分が思う“カッコいい”を追求していたんです。でも、それでは売れないし、どれくらいいけるのかっていう先のビジョンも見えてしまった。それ以上先に進むにはどうしたらいいかもわかってしまって。でも、好きな音楽でセルアウトするのが嫌だったので、別のバンドを組んで、もっとセルアウトに特化したものをやろうと思ったのが、PEOPLE 1です。
──そうした方向性というのは、ItoさんとTakeuchiさんも共有していたんですか?
Ito 直接的に何か言われたというよりは、Deuさんのやりたいことを勝手に読み解いた感じでした。
Takeuchi 「日本語のバンドやろうぜ」って言われたんだよね。
Ito ああ、それは言われました。
Takeuchi 俺は、それ以上のことは何もわかってなかったです。楽しそうだったから始めました(笑)。
──Deuさんがセルアウトに特化した音楽を作ろうとしたとき、まず考えたのが日本語で歌詞を書くことだった?
Deu そうですね。客層を日本に定めて音楽をやるとしたら、日本語詞は不可避なんだろうなと思って。
闘う人間である自分への失意
──そもそも、好きな音楽でセルアウトするのが嫌だった。でも、それゆえにセルアウトに特化して別プロジェクトを作らなければならないというのは、すごく複雑ですよね。PEOPLE 1を始めたときのDeuさんの気持ちを、もう少し具体的に伺いたいです。
Deu 正直、そんなにポジティブに始めたものではないんですよ、PEOPLE 1は。最初に始めたプロジェクトがくすぶってしまったのがショックだったんですよね。その失意の中で始めたのがPEOPLE 1です。俺、落ち込んでたでしょ?
Ito ……はい、それは感じていました。
──「失意」というのは、自分の“カッコいい”を追求した前身バンドが売れないという現実に対して感じたものですか?
Deu もっと細かい心模様の話をすると、もともと僕はいい歌詞を書ける自覚がずっとあったんですよ。でも、性格的に天邪鬼なので、得意なことをやりたくなくて。それゆえに日本語で歌詞を書きたくなかったんです。そういう気持ちからその別プロジェクトでは英語で歌詞を書いて歌っていたんですけど……この日本という国で英語詞の曲をやるのはなかなか難しくて。
──まあ、ハードルは上がるというか。共感されづらかったり、受け入れられづらくなる、という面はありますよね。
Deu 別プロジェクトの活動の中盤くらいからそれに気付き始めて、けっこう落ち込んだんです。そのときは厭世観というか、諦観が強くなっちゃっていましたね。しかも、そのプロジェクトで1回だけライブをやったんですけど、そのライブも全然よくなくて。お客さんも全然音楽を聴いてないし、僕はそういう状況に対してムキになっちゃったんですよ。そんな自分に対して落ち込んだことが僕の失意です。「自分は闘う人間なんだ」ということを自覚したことへの失意。「僕は音楽をやらなきゃ生きていけないんだ」と気付いてしまって、めちゃくちゃ落ち込んだんです。
──「受け入れられないこと」による失意というよりは、「受け入れられないという現実に対して抗ってしまう自分自身」に対する失意だった。
Deu 自分の中の膿みたいなものを作品にしないと前に進めない人種なんだと気付いた……それがショックだったんですよね。「真面目に音楽を作らないといけないんだな」と思って(笑)。僕はどちらかと言うと、穏やかな日々が好きなんですよ。でも、穏やかな日々を過ごしていくことを、自分自身が許してくれなかった、ということですね。
──結果として、PEOPLE 1はこの2年ほどの間で認知をすごく広げましたよね。この現状というのは、Deuさんはどう受け止めているんですか?
Deu 客観的に見たら「がんばっているな」と思います。でも個人的には絶望ですね。「ああ、もう、本当に売れるかも」って。
──でも、PEOPLE 1はセルアウトを意識したとはいえ、そこまで「作りたくないものを作っている」という感じでもないんじゃないですか?
Deu うーん……わりと、作りたくないものを作っているかもしれないです。
Ito マジですか(笑)。
Deu 作りたくないものの中で、まだ自分が好きなように細工して作っている感じですね。だから、どんどん曲が暗くなっていくんですよ。
Ito んん……。
Deu そんな感じしない?(笑)
Ito そうでもないですよ。例えば「魔法の歌」とかは人の解釈によってはハッピーエンドに持っていける歌だし、「怪獣」もDeuさんを知っている我々が聴くと覚悟の歌に聞こえますけど、自分を鼓舞する歌にも聞こえる。1つの答えにならないように工夫して歌詞は書かれているのかなと思いながら、僕は聴いていましたけどね。
それぞれにとってのPEOPLE 1
──DeuさんにとってPEPLE 1は、失意から生まれた闘いの場所である。では、ItoさんとTakeuchiさんにとっては、PEOPLE 1はどういう場所なんですか?
Takeuchi なんというか……Deuくんが面白い船に乗っけてくれたので、俺はひたすらいい感じで、楽しくやらせてもらっています。ただ、その横でつらそうにしているDeuくんを見て、「申し訳ないな」と思う部分もあるにはあるんですけど(笑)。
一同 (笑)。
Takeuchi でも、個人的にはものすごく楽しんでいます。
Ito 僕は完全にパラレルワールドというか。そもそも、自分が人前に立って表現をするとか、創造的なことをするなんて考えたこともなかった。本来の自分であれば選択しない道なので、いつも不思議な気持ちでいます。正直、まだあまり実感もないんですよね。音楽でどうこうするなんて、本当に考えたこともなかったので。なので、Takeuchiさんと一緒かもしれないです。船があったから乗ったし、乗った以上はがんばるしかないという。
──今の状況に対してはどうですか?
Ito 困惑しているといえば、困惑しています。今後の自分の人生がどうなるのか、何をどう選択していけばいいのか、ぶっちゃけめちゃくちゃ悩んでいます。でも、PEOPLE 1としてみればありがたいことですよね。
Takeuchi たくさんの人に聴いてもらえるようになって、聴いてくれた人から「よかった」とか「励まされた」という声をもらうことも多くて。聴いた人が喜んでいる姿を見ると、うれしいです。バンド冥利に尽きると言いますか。……本当はこれ、彼(Deu)が言うべきセリフだと思うんですけど(笑)。
──(笑)。Deuさんはお客さんの好意的な声に関してはどうなんですか?
Deu ありがたいのは本当です。本当に「ありがとう」と思います。……でも、もっと本当のことを言っちゃうと、放っておいてほしいです。何も言わないでほしい。褒めも貶しもしないでほしい。言うのなら、僕の耳に届かないところで言ってほしい。
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Deuにとっての楽曲制作とは