気持ちよければそれでいい
──「フライデーズハイ」はストリングスやホーンが入った、鉄壁のソウルチューンですね。ありとあらゆるアイデアが詰め込まれている印象です。
浪岡 サビのメロディは以前からあったアイデアなのですが、英語じゃないとしっくりこないと思っていたんです。でも、日本語の曲を英語でカバーする試みをやってきたこともあり、「逆に英語っぽく聞こえる日本語にしてみようか」と試行錯誤しながら作り上げました。結果として、英語と日本語で韻を踏んでいる部分も多くなりましたし、どうしても日本語にすると違和感が出るところはそのまま英語を使うなどして、バランスを取りながら仕上げていきましたね。
──ストリングスやホーンも非常に豪華ですね。このプログレッシブともいえるアレンジは、浪岡さんのどんな引き出しから出てきたんですか?
浪岡 実際のところ、勢いで作った部分もあります(笑)。ただ、ハーモニーに関しては、YouTubeで活動していたときにアカペラ系の人たちと仲よくなった影響も大きい。僕自身、アカペラのアレンジを作った経験があり、そのときのやり方が今のアレンジに生かされている気がしますね。
平井 確かに、アカペラを手がけるようになってから、ホーンやストリングスのアイデアも生まれやすくなったんじゃない?
浪岡 そうですね。1本のメロディラインは昔から書けたのですが、それをハーモニーにしてセクションを組み立てることは、アカペラの経験がなければ難しかったかもしれません。音楽的に詳しい人から見たら「これはちょっと……」と思われる響きもあるのかもしれないけれど、五度の平行移動も中世の頃は“よし”とされていなかったわけだし、「聴いて気持ちよければそれでいい」という考えでやっています(笑)。
矢野 ちなみにAメロのギターは、ピック弾きと指弾きを交互に使い分けています。浪岡から「ここは指で、ここはピックで」というディレクションがあって、レコーディングでは「了解!」って感じでやりましたけど、ライブで弾こうとしたときに「これ、どうやってやるんだ?」って(笑)。最近はピックを口に咥えたりしてなんとか弾けるようになりました。
平井 僕はAメロで、スネアの代わりにクラップシンバルを使いました。最近導入した楽器なので、浪岡がそれに合わせてくれたのかなと。
──新しい楽器や機材を導入すると、楽曲のアイデアが生まれやすくなりますよね。
浪岡 それは確かにそうですね。これまでは借り物のギターで済ませていたんですが、前回のツアー前に「ちゃんとしたギターを買おう」と思って新しいのを購入したんですよ。そうしたら、自然とギターを使った曲を書きたくなって、「Whiskey And Coke」みたいな曲が生まれました。
矢野 ちなみに、その「借り物」というのは僕のギターだし、「ちゃんとしたやつ」と言うけど、僕のも40万円くらいしましたからね(笑)。
一同 (笑)。
しっかり届いている
──「花束のような人生を君に」では浪岡さんと大島さんの歌い分けに、すごくこだわりを感じました。
大島 おっしゃる通り、ツインリードボーカルのよさを存分に生かした曲です。1番は浪岡がメインで、2番は私がメイン、そして最後に2人の声が交わって1つの曲として完成する。しかもバラードなので、互いの声がしっかりと伸びて、感情を込めて歌い上げることができました。それにより歌詞の意味や思いをリスナーの方々にしっかりと届けられる楽曲になったと思います。
浪岡 この曲はドラマ「そんな家族なら捨てちゃえば?」の主題歌で、歌詞を作るのが本当に難しかったですね。僕らにはまだ子供がいないので。でも、ドラマのテーマに合わせて子供時代の自分を思い出しながら書いてみたところ、子供を持つ方々から「感動した」という反響をいただけて。がんばって書いてよかったなと思っています。
大島 私は、友人がちょうど子供を産んだ時期で。母親になる人が多い世代なので、個人的にたくさん連絡をもらいました。「保育園に子供を送り出したあとに聴いて涙が出ました」なんてメッセージもいただいたりして、メッセージがしっかり届いていることを感じましたね。
「真帆さんにラップさせる曲を作ってくれ」
──ラテンビートを導入した「一難」は、メロディと歌詞のインパクトが強いです。
浪岡 この曲は、最初にサビのメロディがあって、そこから広げていきました。いわゆる「丸サ進行」の循環コード(椎名林檎「丸の内サディスティック」などで使われているVIM7-III7-VIm7-V7-I7というコード進行)を使った曲ですが、コード進行に頼りすぎず、どうやっていいメロディを作るかがテーマでした。丸サ進行の曲はサウンドやコード進行の力で押し切るパターンが多いのですが、あくまでメロディを主役にしたいという意識で取り組んでいます。
大原 歌詞は浪岡との共作ですが、今流行りの言葉遣いを取り入れることができたと思います。ボーカロイドなどの流行を意識しつつ、浪岡が歌うことでしっくりくるような、ちょっとキザでカッコいい言い回しに仕上げました。韻を踏む部分も多く、言葉遊びが随所に盛り込まれていて、浪岡と何度もやり取りしながら作り上げたので、そこに注目して聴いてもらえるとうれしいですね。
──大島さんの歌い方も、すごくドスが効いていて。
大島 そうですね(笑)。浪岡の声がとにかく特徴的で耳に残る強い声なので、この曲ではそれに負けないようにという意志で歌いました。浪岡からも「もっと前に声を出してほしい」とリクエストがありましたし、今までにない発声や歌い方に挑戦しています。Penthouseらしい、ツインボーカルのバチバチな曲に仕上がったと思います。
──ラップの部分でのハモりもすごくユニークでした。
大島 そうなんですよ。初めてラップでハモることに挑戦しました。このアイデアは平井さんからのリクエストがきっかけなんです。
平井 普段から大島さんは口がすごく回るので(笑)、ラップをやらないのはもったいないなと思って。飲み会のとき浪岡に「真帆さんにラップさせる曲を作ってくれ」とお願いしたところ、すぐデモに反映されていたのでうれしかった。
矢野 実質、平井さんのための曲じゃん(笑)。
──「Kitchen feat. 9m88」は、台湾のシンガーソングライター9m88さんとのコラボ曲ですね。
浪岡 この曲のアイデア自体はけっこう前からあって、レコーディングもかなり早い段階で始めていました。「9m88さんがこの曲を歌ったら絶対によくなる」という確信があったので、ぜひフィーチャリングボーカルとして参加してほしいと依頼しました。メロディ自体は僕が指定してデモを送ったのですが、返ってきたものが想像を超えるフィールやグルーヴで感激しましたね。
大島 初めて3人の声が合わさったものを聴いたとき、本当に驚きました。ハーモニーのバランスが絶妙で、9m88さんの声が私たちの声をさらに引き立ててくれています。
魅力が120%伝わるライブ
──アルバムが完成しましたが、これからのツアーや今後の展開について抱負を聞かせてください。
浪岡 抱負とか苦手なタイプなんですけど……とにかく、日々がんばるという感じですね。ヒット曲を生み出したいという思いは常にあるので、これからもいい曲を書いて、それをどう広めていくかをしっかり考えていきたいです。
平井 僕らがやりたいことと、多くの人に聴いてもらうこと、そのバランスをうまく取りながら進んでいきたいですね。
大島 「Balcony」に続き、今作でもいろいろなジャンルの曲がそろいましたが、やはりライブでこそ私たちの魅力が120%伝わると思います。ライブ映えする曲もたくさん生まれましたし、これからの展開が本当に楽しみです。
大原 浪岡を中心にいい曲を作り、発信していくことで、まずは音楽を好きになってもらい、そこからライブに来てくれたらもっと好きになってもらえる。その流れを作るために、曲作りとライブの演出、どちらもしっかりがんばっていきたいと思います。
──初回限定盤にはライブ映像も収録されていますよね。
大原 はい。「tapestry」ツアーの映像が収録されていますが、このツアーでライブのクオリティがぐんと上がった実感があります。バンドとして非常にいいパフォーマンスができたライブなので、ぜひ初回限定盤を手に取っていただきたいです。
矢野 僕の役割的には、ライブの盛り上げ担当みたいなところがあるので(笑)、これからもお客さんが楽しめるようなライブを続けていきたいですね。
Cateen(Piano)コメント
アルバム「Laundry」全体の感想
全体的に1枚目より編成も多様化 / スケールアップし、色々な角度から魅力を楽しめるようになっているように思います。何度聴いても新たな発見があるような1枚になったのではないでしょうか。
「ここが聴きどころ」だと思う自身のプレイやこだわった部分
「Raise Your Hands Up」はボーカル浪岡と共作したこともあり、自分のやりたいことが詰め込まれている感じがします。打ち込みっぽいフレーズを敢えて生演奏で弾いている「我愛你」や、気怠げで自由な「Kitchen feat. 9m88」もぜひ注目してもらえると嬉しいです。
レコーディングや制作時の印象的なエピソード
僕が基本的に海外にいるのでレコーディングのスケジュール組みには苦労しました。2曲ほど、ニューヨークのパワー・ステーション・レコーディング・スタジオで録音し、リモートで東京と繋いでやりとりをしたことがありました。とても良いピアノの音でした。
ライブ情報
Penthouse ONE MAN LIVE 2024 "Laundry"
2024年12月19日(木)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
Penthouse "The Rooftop After-Party" Vol.2
2024年12月21日(土)神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA
[1st]OPEN 15:00 / START 16:00
[2nd]OPEN 18:00 / START 19:00
プロフィール
Penthouse(ペントハウス)
浪岡真太郎(Vo, G)、大島真帆(Vo)、Cateen(Piano)、矢野慎太郎(G)、大原拓真(B)、平井辰典(Dr)からなるツインリードボーカルバンド。東京大学内のバンドサークル・東大POMPのOB、OGによって結成され、2019年6月に活動を始める。2020年9月にリリースされたV6のシングル「It's my life / PINEAPPLE」に浪岡作曲による「ただこのまま」を提供。2021年5月に配信したオリジナル楽曲「...恋に落ちたら」で注目を浴び、同年11月にEP「Living Room」でビクターからメジャーデビューを果たす。2023年3月に1stアルバム「Balcony」をリリース。2024年11月に2ndアルバム「Laundry」を発表した。
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