男女ツインボーカルを擁する6人組バンド、Penthouseによるメジャー2ndアルバム「Laundry」がリリースされた。
前作「Balcony」からおよそ1年半ぶりのアルバムとなる本作は、6人の鉄壁なバンドアンサンブルを主軸としつつもホーンやストリングスを大々的に導入し、ライブにおけるシンガロングやコール&レスポンスを想定した楽曲が数多く収められている。もともとはYouTubeなど配信での活動がメインだった彼ら。2019年のメジャーデビューからの5年間、精力的に行ってきたライブ活動がここにきてベストな形で身を結んだといっても過言ではないだろう。今回音楽ナタリーでは、海外を拠点とするCateenこと角野隼斗(Piano)を除く5人にインタビューを行い、アルバム制作のエピソードなどを詳しく聞いた。
また、取材に参加できなかったCateenからのコメントも到着。本文の最後に、彼が寄せたアルバムの総括、聴きどころとなる自身のプレイ解説、印象的な制作エピソードを掲載している。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 山崎玲士
できるだけホーンを入れたい
──およそ1年半ぶりのアルバム「Laundry」ですが、まずはタイトルの由来やアルバムのテーマについて教えてもらえますか?
浪岡真太郎(Vo, G) 普段から僕たちはPenthouseというバンド名にちなんで、家の間取りや家具からアルバムのタイトルを付けるルールのようなものがあるんです。前作「Balcony」もそうですし、メジャーデビューEP「Living Room」も然り。今回も音の響きから「Laundry」に決めたのですが、理由は完全に後付けですね。僕たちのバラバラな個性が洗濯物のように洗濯機の中に詰め込まれ、それがいい香りになって、きれいになって出てくる、みたいな(笑)。そんなアルバムであってほしいという願いを込めたことにしています。
──なるほど。前作に比べ、ホーンセクションやストリングスが大々的に導入され、サウンド全体がさらに豊かになっている印象を受けました。
浪岡 メジャーになって、制作費に少し余裕が出てきたのも理由の1つかもしれないです。僕たちはもともと大学の音楽サークルに所属していて、そこでホーンのメンバーと一緒に演奏することがよくあったんです。だから、入れられる余地があれば、できるだけホーンを入れたいという気持ちはずっと持っていました。いつも一緒にやってくださっているトランペット奏者の真砂陽地さんにはアレンジの仕上げもお願いしていて関係性も深まりましたし、より自分たちのやりたい音楽を作りやすくなってきたのも大きいですね。
──ホーンやストリングスが加わることで、フレージングやアレンジの仕方に変化はありましたか?
大原拓真(B) ホーンのフレーズやリズムとしっかり合わせることで、より楽曲が引き締まるので、そこはレコーディングの際に強く意識していました。例えばホーンが軽快に“裏、裏”といったフレーズを奏でているときなど、僕も同じようなフレーズを弾くことがあるので、そのタイミングをしっかり合わせるのがポイントになります。
平井辰典(Dr) 特にドラムはホーンセクションの“キメ”に合わせて叩くことが多いですし、そこが少しでもズレてしまうと曲全体がまとまらなくなってしまう。そういう意味でも、いつも以上にタイトな演奏を意識するようになりましたね。
矢野慎太郎(G) ギターに関しては、浪岡がデモの段階でフレーズまでかなり作り込んでいることが多いのですが、そこにホーンが加わった際、デモのフレーズでは少し噛み合わない部分が出てくる場合もあって。そこは自分なりに調整しています。さらにCateenのピアノも動くから、その中でギターのパートをどのように置くか試行錯誤しました。
──ボーカルの歌い分けについても、前作よりさらに複雑さや工夫が増している印象があります。
大島真帆(Vo, Cho) 歌い分けも、基本的には浪岡がメインでディレクションをしてくれるのですが、おっしゃるように曲ごとにスタイルが異なっています。例えば、浪岡がメインで私がコーラスに専念する曲もあれば、2人がツインリードとして前面に出てバチバチにやり合う曲や、かっちりとハーモニーで重なり合う曲もある。このアルバムでは、そうしたツインボーカルならではの多様な魅力を味わってもらえると思います。
──結成当初はYouTubeなどでの配信が多かったかと思いますが、メジャーデビューしてライブ活動を積極的に行うようになり、それが今回のアルバムのアレンジに反映されている部分はありますか?
浪岡 かなりあります。ライブでお客さんと一緒に盛り上がることを意識して曲を作ることが増えました。例えば1曲目の「Taxi to the Moon」では、サビの頭の「TAXI!」という部分はきっとみんなで歌えるだろうなとイメージしながらアレンジをしていきました。
──「Taxi to the Moon」はイントロが1小節で、すぐに歌に入るところも印象的です。これはやはり、サブスクで聴かれることを意識したアイデア?
浪岡 その通りです。イントロが短いほうが歌で印象付けられますし、耳に残りやすい。Penthouseの曲は、全体的にイントロ短めの曲が多いのはそのためです。この曲はイントロだけでなく、サビ前で印象的なフレーズを繰り返すなど、聴く人がすぐ覚えてくれるような工夫を凝らしていますね。
他言語でも韻を踏む
──続く「我愛你」は、間髪いれずメドレーのように曲が始まります。
浪岡 曲間をほぼゼロにして、余韻を感じる暇もなく次の曲へジャンプするような流れを作りました。聴いている人が、「あ、終わったから別の曲を聴こう」と思う時間をなるべく少なくしようと(笑)。
──「我愛你」を「All I need」や「往来に」など英語や日本語で韻を踏む言葉遊びも聴いていて楽しいです。こうした歌詞の世界観はどこから影響を受けているのでしょうか?
浪岡 僕はInstagramやTikTokに日本語の曲を英語でカバーする動画をよく投稿していて、その中で一部、日本語の歌詞の響きを残したまま英語詞にするという工夫をしています。そういう試みを重ねていくうちに、日本語だけでなく、他言語でも韻を踏む発想が生まれたんです。今回の「我愛你」や「Taxi to the Moon」でも、その影響が出ていますね。特に「Taxi to the Moon」は、サビ部分が日本語で書かれているのですが、実はそのまま意味の通った英語の歌詞にもなる、という仕掛けがあります。どのくらい母音を英語に寄せるかで、日本語も英語のように聞こえるんです。
こういう音楽もどうですか?
──「夏に願いを」は疾走感あふれる楽曲で、Penthouseのポップス感覚が炸裂しています。
浪岡 これは、PenthouseなりのJ-POPを目指しました。もともと所属していたサークルでも、僕らはいろいろな音楽に触れてきたこともあって、1つのジャンルを極めるよりも幅広いジャンルを取り入れることで、より多くの人に届く音楽を目指しているんです。「夏に願いを」もその一環として、「こういう音楽もどうですか?」という感じで作りました。平井さんは嫌がっていたけどね(笑)。
平井 いやいや(笑)。確かにこういう曲は、サークル時代も含めて僕が一番やってこなかったジャンルだけど、ハードロック出身の浪岡はもっとやってなかったよね。実際に曲ができあがったときは、「本当にこのバンドでやるのか?」と少し迷いましたが、結果的には浪岡が言うように反響がかなり大きく、間口を広げるという意味ではやる価値があったのではないかと。
浪岡 いい曲ですよ。
──そう思います。「Raise Your Hands Up」も、タイトルからしてライブを意識した楽曲だと感じました。
浪岡 まさにそうです。前回のアルバムでも「Live In This Way」でゴスペル曲を1曲入れていましたが、今回もぜひ制作したかったので、そのときに一緒にできたアイデアの種を形にしました。「Live In This Way」はCateenによる少しダークでジャジーなピアノのリフが特徴的でしたが、今回はもう少し明るめにして、キャッチーなゴスペル曲に仕上げています。ギターリフにはロックの要素もありつつ、みんなで歌えるような曲を目指しましたね。
大原 この曲はCateenも構成やリフ作りに深く関わっていて、彼の得意な音楽的要素がしっかり生かされています。アルバムのほかの曲に比べてCateenが主導権を握った部分も多く、そのおかげでより新鮮なサウンドになりました。
矢野 Cateenは本当に“飛び道具”みたいな存在で、普通では思いつかないような展開やアイデアを出してくれるんですよ。
大島 レコーディングのときに、予想以上のアイデアが出てくるのはいつもCateenです。それが制作に生かされたり、次の新曲にもつながったりして、浪岡とのシナジーが生まれている感じがしますね。
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