自分たちが楽しめる音楽を!多彩な6人組バンドPenthouseがビクターから発信するメジャーデビュー作品を語る

6人組バンドPenthouseがビクターへ移籍し、11月24日にメジャーデビュー作品「Living Room」を配信リリースした。

東京大学内の音楽サークル「東大POMP」に所属していた浪岡真太郎(Vo, G)、大島真帆(Vo)、Cateen(Piano)、矢野慎太郎(G)、大原拓真(B)、平井辰典(Dr)によって結成されたPenthouse。2019年6月に活動を開始して間もなくコロナ禍に突入するも、自らYouTubeやSNSを使って精力的に音楽を発信。日本テレビ系「スッキリ」のワンコーナー「#SHOWCASE」でピアニストの清塚信也に紹介され、テレビ初出演を果たすなど、その高い音楽性で着実にリスナーを増やしてきた。

音楽ナタリーでは6人にインタビューし、これまでの経緯やバンドに懸ける思い、コロナ禍の中での活動について話を聞いた。なおCateenは、10月にポーランドで行われた「第18回ショパン国際ピアノ・コンクール」に出場し、帰国後の隔離期間中だったためリモートでインタビューに参加している。

取材・文 / 宇野維正インタビューカット撮影 / 臼杵成晃

パンデミック期でも結果オーライ

──Penthouseが初めて音源を発表したのは2019年6月ということで、活動が本格化して間もなくパンデミック期に入ってしまったわけですよね。今回ビクターからメジャーデビューするまでの期間は、ライブ活動でファンベースを築き、そこから口コミを広げていくことができない時代に、どうやってバンドの音楽を伝えていくのかという課題に向き合った時間だったと思うんですけど。

浪岡真太郎(Vo, G) インディーズで活動していた時期は、もともとライブをたくさんやっていこうという感じではなかったんですよ。どちらかというと、SNSやYouTubeにも力を入れて、インターネットを通じて広げていけたらと思っていて。

──これは音源だけでもはっきりと伝わってきますが、とにかくバンドの基礎体力というか、各メンバーのプレイヤビリティや歌唱力がものすごく高いバンドじゃないですか。こういうバンドがライブをあまり念頭に置いてなかったというのはちょっと意外ですね。

浪岡 パンデミック期になる前は、東京オリンピックを観に世界中から人が来るから、そこで路上ライブをしようとか、そういう話はメンバーとしていたんです。でも、その代わりにYouTubeに注力することができて、そこでいろんなつながりもできて、こうしてビクターから声をかけてもらったりもしたので、結果オーライという感じですね。

浪岡真太郎(Vo, G)

浪岡真太郎(Vo, G)

大原拓真(B) これは僕だけじゃなくてたぶんメンバーにも共通して言えることだと思うんですけど、みんな悩んでも仕方ないことは悩まないタイプなんです。もちろん、コロナのせいでできなかったこともたくさんありましたけど、できることをまずやっていこうという感じで。そもそもこのバンドの活動自体始まったばかりだったので、インターネットを通して、まったく知らない人たちに自分たちの音楽が届くだけで新鮮だし、うれしいことでした。できなかったことでネガティブになる気持ちよりも、できたことがうれしい、楽しい、っていう気持ちが常に勝っちゃうんですよね。

──なるほど。

大原 みんな大学時代からの仲間なんですけど、個人的に言うと、人生の中で大学時代の友人というのはすごく大事な人たちだったので、そういう友人たちと、大学を卒業したあともこうして1つのチームとして何かを作り上げていくことができるだけで、自分にとってすごく気持ちの入ることで。

──皆さんはバンドサークルの仲間なんですよね?

大原 そうです。学年はバラバラですけど。

──話を聞いていて思ったんですけど、これまで精力的に活動してきたバンドがコロナによって足踏みせざるを得なくなったというのは違って、そもそもほぼ始まりの時点でこういう状況だったということは大きいんでしょうね。

矢野慎太郎(G) もちろんコロナに関してというか、それに応じた世の中の動きに対しては個人的にいろいろ思うところはありますけど、このバンドの場合、それと音楽活動はそんなに結び付いていないというか。むしろ時間ができたことによって、バンドの基盤となる制作活動や、YouTubeでの活動に注力できたという側面のほうが大きいかもしれないです。そもそもコロナになる前にお客さんの前でライブをやったのは1回だけなので。

矢野慎太郎(G)

矢野慎太郎(G)

──えっ、そうなんですか? じゃあ、これまでトータルでライブをやった回数は?

矢野 配信を除くと2回だけですね。

──2回! ボカロPとかならわかりますけど、こんな肉体的で生々しいサウンドを鳴らしているバンドが2回しかライブをしていないというのは、すごい時代だな(笑)。

大島真帆(Vo, Cho) でも、Penthouseになる前にも各々で音を合わせていたから。

浪岡 そう、学生時代にこの6人で音を合わせたことはないんですけど、みんなバンドをかけ持ちしたりして、イベントで同じステージに立ったりはしてきているので。

──そういう意味では、セッションミュージシャンが集まった的なバンドでもあるわけですね。Cateenさんは、ピアニストとしてYouTubeでも大人気ですし。

Cateen(Piano) ちょうど大学院を卒業したのが2020年の3月で、その頃は数万人だった僕のチャンネル登録者数が、今では86万人を超えました。だから個人的にもコロナになってからの1年ちょっとの間は、ものすごく変化のあった時期なんですよね。今年になってからは、ショパン国際ピアノコンクールで海外の人たちに知ってもらえる機会もあったりして。

──Cateenさんの中では、このPenthouseというバンドはどのような位置付けになるんですか?

Cateen 僕はクラシックをずっとやってきたんですけど、クラシックだけをずっとやっていきたいわけじゃなくて。この21世紀にはいろんな音楽ジャンルがあるわけで、それとどんどん組み合わせていったら化学反応として面白いんじゃないかと思っているんです。その1つとして、このPenthouseというバンドがあるという感じです。ずっとクラシックのピアノをやってきた人間がJ-POPのバンドにいるということ自体があまりないことだと思うので。そのことによってほかのバンドとは違うアプローチができたらいいなと。

Penthouse

Penthouse

バンドに固執しないメンバー

──浪岡さんはボーカリストでもあり、メインのソングライターでもあるわけですけど、かつてはハードロックのバンドをされてたんですよね?

浪岡 はい。そのときの反省を生かしてやってるのがこのバンドです(笑)。

──反省というと?

浪岡 Penthouseでは、もっとみんなに受け入れられやすい音楽をやりたいということです。それこそライブの話でいうと、前のバンドではめちゃくちゃライブをやっていたんですけど、やれどもやれども広がる気配はなく(笑)。もちろんハードロックという今の時代にはあまり受け入れられにくい音楽をやっていたからということもあるんでしょうけど、「そもそもライブってプロモーションとしてそんなに効率的なのかな?」という思いもあって。

──なるほど。

浪岡 音楽性によって、プロモーションの仕方も変わってくると思うんですよね。少なくとも今の段階では、ネットを通じてPenthouseの認知が広がってきてるから、これでよかったのかなと。曲作りに関しても、確かにメンバーで集まってアレンジをしていくみたいなことはある程度は制限されましたけど、そこまで影響なくやってこれているので。

──前のバンドの時は、髪型も長髪だったりしたんですか?

浪岡 はい。

──レザーとか着て?

浪岡 裸にレザーでした(笑)。

──ちょっと今の姿からは想像できないですね(笑)。

大島 そういうメンバーの人となりを知ってもらううえで、SNSって応援してくれている方たちと直接コミュニケーションができるからすごく有効で。例えばインスタライブで私がインタビュアーになってメンバー1人ひとりにインタビューしてみたりとか。

大島真帆(Vo, Cho)

大島真帆(Vo, Cho)

──バンドがメディアとしての機能を内包しているわけですね。

大島 そうかもしれないですね。どんな状況下でも、そこで自分たちができることは何かということはよく話し合ってきましたし、このメンバーはそういう作戦を練ることがみんなわりと好きなんですよ。

──でも、そこまで自分たちでできてしまうと、レコード会社をはじめとする音楽業界の大人たちと仕事をする中で、いろいろアドバイスをされたりしても、「わかってないなあ」みたいになりませんか?

Cateen このバンドは、そういうミュージシャン特有の“扱いづらさ”みたいところはないと思います。みんな、そのあたりはすごく柔軟な人たちなので。

平井辰典(Dr) 今までも言われたことを頭ごなしにはねのけるんじゃなくて、そのアドバイスをどうしたら自分たちにうまく生かしていけるのか前向きな方向で話し合いをしてこれたので、それはすごくいい部分だなと思いますね。

──皆さんミュージシャンとしても、あるいは1人の人間としても、それぞれ本質的な意味で独立しているからなのかもしれませんね。

浪岡 確かに、やるからには売れたいですけど、楽しくなかったら意味がないという思いはみんな持ってるんじゃないですかね。あるいはどうやって売れていくかということを考えること自体が楽しいというか。

大原 メンバーみんなが音楽的に納得できるもので、なおかつたくさんの人に届くもの。それを考えながら音楽を作っていく作業が今は楽しいし、それがつまらなくなったらバンドに固執しないようなメンバーが集まってるのかもしれませんね。