晶太くんの人間臭さと温かさがよく出てる
──続く「方位磁針」は、一転してポップ路線。非常にさわやかなミディアムチューンですね。
堀江 「千載一遇」以外の3曲は、「『敗者』の路線に飽きたからいろいろやってみよう」って気持ちが起点になってるんです。でも「方位磁針」の原型は、実は2016年の秋頃からあって。とある専門学校の作編曲の授業に僕が講師として呼ばれたときに、生徒さんの前で実演する中でできちゃった曲なんです。
──できちゃった曲。
堀江 そう。イメージとしては3rdシングル「ボタン」(2016年9月発売)のカップリング曲「旅人の唄」と対になるような曲にしたかったんです。音に関しては「旅人の唄」がシンセをフィーチャーしたソリッドな音だとすれば、「方位磁針」はより温かい、人間味のある音がいいかなと。ちょうど最近「旅人の唄」がペンギンにとっても重要な曲になってきたので、歌詞についても同じ方向を向いたものにしようと思って。
──「方位磁針」も旅をテーマにしていて、人生を旅に見立てるならばその指針となるものは何か、といったことを歌われていますね。
堀江 この曲も、詳しくは言いたくないんですけど、かなり個人的なことを書いてますね。あと、それとは別に自分の中では「近日公開」と「方位磁針」もワンセットにしているところがあって。どちらも似たようなことを歌ってるけど、表現としては“光と影”みたいに対比させたかったんです。要は、「近日公開」は前向きで強気な視点で先を見てる。一方で「方位磁針」は弱い心を持つ人が、それでも「迷いながら 旅に出る」ことを見つめている曲で。
神田 ペンギンの歌詞って「敗者」とか「千載一遇」みたいに「いくぞオラァ!」って発破をかけるタイプが多いんですけど、「方位磁針」はペンギンにしては優しく背中を押してくれる歌詞だなと思います。それも晶太くんの詞のいいところと言うか、人間臭さと温かさがよく出てるなって。
ちょっと伏し目がちな「方位磁針」
──この曲は演奏はもちろん、ミックスも非常にいいですよね。アレンジとしては非常に凝ってるのに、あくまで歌モノとして機能するように整えられていて。
神田 うん。変えようがないくらい完璧だと思います。
堀江 まさにボーカルを聴いてほしい曲だったので、楽器パートは変に主張しすぎず……って言うかこれ、ベース弾いた記憶がないんです。ミックスのときも「これ俺のベースですよね?」って聞いたくらい。
一同 ははは(笑)。
──「千載一遇」では手数が多かったドラムも、ここではサビ以外はキックで四つ打ちのビートをキープしつつ、ポイントポイントでスネアとタムを挟んでいく程度です。
新保 あとはハットでアコギのニュアンスを助長するような感じを出しつつ。この曲は隙間が多いし、ドラムも引き算のプレイを意識して。言ってしまえばドラムの音があまり気にならないような、アンサンブルに溶け込むような演奏を目指しました。
堀江 この曲は、鍵盤を2回レコーディングしてるんですよ。
柴﨑 そう。最初にスタジオで生ピアノで録ったんですけど、よりバンドサウンドになじむ音にするために、その生ピの音源を自宅に持ち帰って、それを聴きながらまったく同じフレーズをシンセピアノで弾いて、両方の音を重ねてるんです。だから生ピの質感を残しつつ、シンセピアノのちょっと硬質な音色もブレンドされて、いい感じに仕上がったと思います。
──そして、主役であるボーカルは?
生田 僕は歌うときに、さっき言った擬人化じゃないですけど、曲の表情を思い浮かべることが多いんです。この曲は、穏やかな表情をしてるんですけど、ちょっと伏し目がちなイメージ。それが、ラスサビの後半から前を向いて微笑んでいるのをイメージして歌ってたなって、今思い出しました。その柔らかさと優しさの微妙なニュアンスを感じてもらえるとうれしいです。
レコーディング当日に「ごめん歌詞変わった」って
──そして3曲目の「ハートビートスナップ」は、今までは見られなかったブラックミュージック的なアプローチをされています。
堀江 自分自身もそういう音楽がけっこう好きだし、そもそもペンギンはコンセプトを決めていない、何をやってもいいバンドだから、こういう曲があってもなんら不思議ではないと思っていて。ただバンドとしては、曲が忙しければ忙しいほど安定した演奏をするメンバーばかりなので、こういう肩の力の抜けた、シンプルだけどちょっとシャッフルしててグルーヴのある曲は絶対難航するだろうなって。で、案の定難航しました。
──難航しましたか。
堀江 まず演奏とは関係なく、僕が作詞で思い切りつまずきまして。最初に、今とは全然違う詞をフルで書いて鷹司に送ってて。
生田 レコーディングの2日前に、変更前の詞をもらったね。
堀江 その翌日にプロデューサーと会う機会があって、歌詞の話をしてるうちに「この詞じゃないかもね」となって。それでレコーディング前日の夜中に、鷹司に送った歌詞を全部ナシにして、また一から書き始めたんです。時間がなかったのもあって、昔なら絶対ありえない判断なんですけど「これ、自分だけで書かないほうがいいな」と思ってプロデューサーを巻き込んで、朝まで2人でスタジオにこもって。で、まず1番だけ自分でババッと書いて、2番以降は大喜利みたいな感じで作りました。
──大喜利?
堀江 2人で歌詞に使いたい言葉を言い合って、「こんなのどう?」「それ面白いね」「じゃあ採用」みたいなやりとりをした結果、曲と同様に肩の力の抜けた詞が書けたんです。そのプロデューサーは、自分が高校生のときから面倒を見てもらってる音楽の先生みたいな人でもあるんですよ。だから今までペンギンではやらなかったような曲の詞を、原点に立ち返って、信頼のおける人と共作できたという点でもよかったなと。まあ無事に書けたからいいですけど、ボーカルからしたら地獄ですよね。
生田 レコーディング当日、朝起きてLINEを見ると晶太から「ごめん歌詞変わった」って。「まじかー!」って頭抱えました(笑)。
一同 ははは(笑)。
生田 だからぶっつけ本番だったんですけど、「ハートビート」は僕にとってはすごく洋楽感のある曲で、最近好きで聴いてるMaroon 5とかブルーノ・マーズに近いノリを感じたんですよね。だからそのノリをみんなと共有できるように、普段よりリズム重視で歌って、なんとか乗り切りました。
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職人ごっこをするつもりはない
- PENGUIN RESEARCH「近日公開第二章」
- 2018年1月10日発売 / SACRA MUSIC
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[CD+DVD] 3000円
VVCL-1140~1 -
[CD] 1600円
VVCL-1142
- CD収録曲
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- 近日公開第二章
- 方位磁針
- ハートビートスナップ
- 千載一遇きたりて好機
- CD+DVD盤付属DVD収録内容
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- ジョーカーに宜しく
- 嘘まみれの街で
- 八月の流星
- 雷鳴
- Alternative (PGR Ver.)
- 敗者復活戦自由形
- シニバショダンス(Lyric Video)
- PENGUIN RESEARCH TOUR 2017-2018「PENGUIN QUEST~お台場に導かれし者たち~」(※終了分は割愛)
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- 2018年3月25日(日)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- PENGUIN RESEARCH(ペンギンリサーチ)
- 生田鷹司(Vo)、堀江晶太(B)、神田ジョン(G)、新保恵大(Dr)、柴﨑洋輔(Key)からなるロックバンド。LiSA、茅原実里、ベイビーレイズJAPANらの楽曲の作編曲を手がける堀江が生田に声をかけ2015年に結成される。2016年1月にシングル「ジョーカーに宜しく」でメジャーデビューを果たし、3月に初のワンマンライブを東京・新代田FEVERにて開催した。3月に1stミニアルバム「WILL」、6月にアニメ「マギ シンドバッドの冒険」のオープニングテーマ「スポットライト」を収録したシングルを、9月にアニメ「ReLIFE」のオープニングテーマ「ボタン」をシングルとして発売するなどコンスタントにリリースを重ねる。2017年3月に1stフルアルバム「敗者復活戦自由形」を発表。8月には配信シングル「千載一遇きたりて好機」をリリース、11月よりライブツアー「PENGUIN QUEST~お台場に導かれし者たち~」を開催する。2018年1月10日に4曲入りCD「近日公開第二章」を発売した。