自分の過去にライトを当てることができた
──今作の特徴の1つとして、フューチャーベースへの接近が挙げられると思います。特に「儀式東京」や「星座して二人 feat. 牛丸ありさ」はその要素が濃いですが、この2曲のアレンジを作っていた時期にはどのような音楽を聴いていましたか?
当時よく聴いていたのはThe Chemical Brothersですね。普段から聴いていたものの、The Chemical Brothersはエレクトロユニットで僕らはロックバンドなので、別の土俵だと思っていたんです。だけどさっきも言ったように、感覚がボーダーレスになってきたということもあり、かなり身近なものとして捉えられるようになって。作る音楽にも影響しましたね。あとは、BandcampやSoundCloudをサーフィンしながら、ナードコアやヴェイパーウェイヴといったインターネットミュージックをいろいろと聴いていました。オーストラリアにあるヴェイパーウェイヴのインディーズレーベル・SUNSET GRIDの音源がBandcampで売られていたりするんですよ。そのレーベルから出ている作品などを好んで聴いていましたね。
──ナードコアもヴェイパーウェイヴもサンプリングやコラージュ文化があるジャンルですよね。
はい。例えばヴェイパーウェイヴは80年代の日本の歌謡曲をサンプリングしている文化で、そこに自分が作ったビートをミックスさせて、BPMを落として、ボーカルのピッチも12キーくらい下げて……という感じなんですけど、「じゃあそれをPELICAN FANCLUBで演奏したらどうなるんだろう?」「インターネットから派生したカルチャーをバンドというフィルターで表現したらどうなるだろう?」と思ったんです。そこで最初にできたのが「儀式東京」。「儀式東京」はフューチャーベースと言いつつ、トレモロアームを用いたシューゲイザー的なアプローチも導入しているし、ダンスミュージックにトラップにシューゲイザーに……いろいろなものが組み合わさっています。さまざまな要素をハイブリッドさせてPELICAN FANCLUBの音を作るということが意識的にできるようになったのがそこからで。そのあと、同じようなコラージュ感覚で作ったのが「星座して二人」。それ以降、デジタル寄りのアプローチが増えていきました。
──なるほど。バンドを介して表現してみたいと思ったということは、インターネットはエンドウさんにとって身近なものなのでしょうか?
そうですね。インターネット発祥のカルチャーはもともと触れてきたものだし、近年ではある意味ロックよりも触れているものです。
──「儀式東京」や「Amulet Song」など、今作には“都市”を描いた曲が多いように思いました。
あー、確かに多いですね。都市と自分というのは日々生活の中でかなり意識していますし……たぶん、インターネットやSNSがもう都市になってしまっていると思うんですよ。
──というと?
僕は昔、現実に居場所というものをあまり感じられなかったので、インターネットという非現実の中ではなりたい自分になりきって、オンラインゲームをやったり誰かと会話をしたりしていました。でも、それって今はできないことのように感じるんですよね。もちろんアバターみたいなものは今でもありますけど、そもそもインターネット上に現実とつながるような社会ができてしまっているじゃないですか。
──わかります。現実のコミュニティとさほど変わらないように感じる瞬間が多いですよね。
東京で感じるようなことをそのままインターネット上でも感じることがある。僕は非現実に現実が介入してきたなとすごくがっかりしたし、それが危険だなとも思ったんですけど……だからこそ、現実の中に非現実を作りたいと思っていて。その1つが音楽であり、ライブなのかもしれないです。
──そうなんですね。
僕、人が生きるために一番必要なことは忘れることだと思っているんですよ。大事なものとそうではないものを自分で判断するためには、忘れるということを意図的にしなければならない。じゃあライブって何なのかというと、「この空間を大事にしたいから、ほかのことを忘れよう」と思える空間なんじゃないかと思うんです。この曲を聴いているときだけはコンプレックスすらも忘れられる。そう思えるものを僕は音源でも表現しようと思っているし、「新世解」はまさにそういう楽曲です。
──「ひとりにさせて せめていまだけ 全て景色になってしまえばいいのに」と歌っている楽曲ですね。
この曲の主人公は、普段自分のことをモブキャラだと思っている人なんですけど、音楽を聴いて夜の街を歩いているときは、自分にスポットライトが当たっているように感じている。厭世観の漂うどうしようもない世の中でも「自分は主役でいられるんだ」と思ってくれたらもっと平和なのになって……無責任かもしれないですけど、無責任だからそう言えるんですよね。
──ここまでの話から考えると、アルバムを作るうえで設定した“もう1人の自分”というのは、つまり過去のエンドウさんですか?
そうです。過去の自分を救い出したいという気持ちは確かにありました。僕は闇にいるような小・中学生時代を過ごしていたので、別の人格を1つ作るような感覚で、現実から目を背けるようにして音楽を始めたんです。その中で曲を作ったり、ライブをしたりしているうちに、いろいろなヒントを見つけて、自分の過去にライトを当てることができるようになった。過去を受け入れたことで、今の自分の立ち位置がわかるようになったし、だからこそ見られた未来もあった。そうやって自分を解放できるようになったからこそ、こういうタイトルのアルバムになったんです。で、僕は基本的に人に対して「死んでほしくない」「自ら命を絶たなくていいのに」と思っているんですけど……とはいえ、「自分を愛せ」と言っても、それは正直難しいことじゃないですか。だけど、少なくとも僕は今まで歩んできた道も愛せたから、聴く人にもそう思ってほしい。そうして自分を愛するための空間、居場所のような立ち位置にこのアルバムがなってほしいという願いが込められています。
2022年に何を残したいか
──もう1つ聞かせてください。エンドウさんの書く歌詞といえばSF的な表現が特徴的で、今作にも天体のモチーフが多数登場しますよね。そもそもなぜSFに惹かれるのでしょうか?
SFは僕にとって何なのかというと未来を考えること、そして今自分がとれる行動を考えることなんですよね。100年前の未来予想図にはスマートフォンのようなものが描かれていたんですよ。当時からしたらスマートフォンなんて本当にファンタジーだったと思うんですけど、100年後の今にはiPhoneが実在している。同じように、30年ほど前にSF小説で出てきた“メタバース”という言葉が今現実でビジネス用語として使われていたりする。つまり、ファンタジーと呼ばれているものは、現実に近付くにつれてSFに切り替わっていくんだと僕は思っていて。
──要するに、エンドウさんにとってのSFは非現実ではなく、科学技術発展ののち、数百年後には現実となるものだと。
そうです。音楽は残るものなので、僕が書いている非日常的な歌詞も、未来の人にとっては日常的なものになっているんじゃないかと。それに、僕は将来、宇宙はもっと身近になっていると思っているので、そういう舞台を描いた曲がわりと多いですね。
──最近だとどんなことに関心がありますか?
最近は、天気のことをよく考えます。毎日天気図を見ていたら、1週間での変化の仕方がだんだんわかるようになってきたんですよ。そのときの天気図を見れば翌日の天気がなんとなくわかるようになってきたし、外に出たときの湿度の感じで「あ、そろそろ雨が降る」というのもわかる。それは最近メンバーに言われて気付いたので、もっと極めようかなと思っています。
──……その話も興味深いですが、質問の意図としてはSFっぽい内容を求めていました(笑)。
あ、そうですよね(笑)。SF的なことで言えば……NFT(Non-Fungible Token)ですかね。ブロックチェーン技術というものを活用することで、デジタルデータに唯一無二の付加価値を付与させることができるんですよ(参照:Gaudiy石川裕也に聞く、NFTがエンタメ業界に起こす革命的変化)。要するに、インターネット上にアップした画像も現実の絵画のように複製ができなくなって、1つのものになる。Twitterの共同創業者(ジャック・ドーシー)が初めてのツイートをNFT化したところ、3億円で売れたらしいんです。
──すごいですね。
で、僕が何に関心があるのかというと、もしも音楽がNFT化されたら、サブスクリプションサービスがだんだん衰退して、CDが売れる時代がまた来るんじゃないかと。そこに関心を持ちながらいろいろと動向を見ています。
──そうなるとMAD文化も衰退しそうですね。エンドウさんの世代だと、例えば、ニコニコ動画にアップされていたメドレー動画で初めてバンド音楽に触れたという人も少なくないのではと思いますが。
「鬱ロックメドレー」とかありましたよね。本来は著作権的にNGですが、僕はまさにニコ動文化の中で育ってきたので、それがなくなるとすれば……インターネットにはもっと居場所がなくなっていきますよね。NFT化がもっと進めば、例えば「ネットで見るマチュピチュの景色よりも実際に見に行ったほうがやっぱりいい」と思う人が増えるだろうし、次はフィジカルの時代が来るんじゃないかと。そこで「じゃあ自分は2022年に何を残したいだろう」と考えたときに、自分がお世話になってきたインターネット文化を残したいと思ったんですよね。
──今日話していただいたこととつながりましたね。
そうなんですよ。これが2020年代に僕らが表現したいサウンドなんです。
ツアー情報
PELICAN FANCLUB ONEMAN TOUR~解放のドキュメント~
(※終了分は割愛)
- 2022年3月5日(土)愛知県 CLUB UPSET
- 2022年3月6日(日)石川県 金沢GOLD CREEK
- 2022年3月12日(土)大阪府 Shangri-La
- 2022年3月27日(日)北海道 PLANT HALL
- 2022年4月9日(土)広島県 Yise
- 2022年4月10日(日)福岡県 The Voodoo Lounge
- 2022年4月17日(日)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
- 2022年4月23日(土)香川県 高松TOONICE
- 2022年4月24日(日)京都府 KYOTO MUSE
- 2022年5月15日(日)東京都 WWW X
プロフィール
PELICAN FANCLUB(ペリカンファンクラブ)
エンドウアンリ(Vo, G)、カミヤマリョウタツ(B)、シミズヒロフミ(Dr)からなるスリーピースバンド。シューゲイザー、ドリームポップ、ポストパンクといった海外の音楽シーンとリンクしながら、日本語ロックの系譜にもつながる、洋楽と邦楽のハイブリットな感性を持つ。2018年11月にKi/oon Musicよりメジャーデビュー作「Boys just want to be culture」をリリース。2019年11月にテレビアニメ「Dr.STONE」のオープニングテーマ「三原色」をシングルとして発表し、2020年11月にはテレビアニメ「炎炎ノ消防隊 弐ノ章」のエンディング主題歌を表題曲としたシングル「ディザイア」をリリースした。2021年9月にテレビアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のエンディングテーマと、牛丸ありさ(yonige)をフィーチャリングゲストに迎えた楽曲を収めた両A面シングル「Who are you? / 星座して二人」をリリース。2022年3月にメジャー1stアルバム「解放のヒント」を発表した。2月よりワンマンツアー「PELICAN FANCLUB ONEMAN TOUR~解放のドキュメント~」を開催。
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