PELICAN FANCLUB エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)×牛丸ありさ(yonige)|“SF”と“日常”が重なったとき、そこには何が生まれるのか?

PELICAN FANCLUBが牛丸ありさ(yonige)をゲストボーカルに迎えて新曲「星座して二人」を制作した。

「星座して二人」は9月1日にリリースされたPELICAN FANCLUBの両A面シングル「Who are you? / 星座して二人」の表題曲の1つ。非日常感のあるPELICAN FANCLUBの音楽に牛丸の歌声が重なることで、大きな化学反応が生み出された1曲だ。

エンドウアンリ(Vo, G)は牛丸が歌うことをイメージしながら、この曲を作り上げたという。音楽ナタリーでは、エンドウと牛丸の2人にこのコラボに至った経緯や楽曲制作の過程を語ってもらった。またミュージックビデオの撮影に密着した写真も掲載するので、インタビューと合わせて楽しんでほしい。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / AZUSA TAKADA

ライブに呼び合うようになったのは必然だった

──PELICAN FANCLUBとyonigeは、お互いの主催ライブに出演し合う仲ですし、年齢も近いですよね。対バンする以前から、お互いの存在は知っていたのでしょうか?

「星座して二人」ミュージックビデオの撮影の様子。

エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB) yonigeのことは2014年頃から知っていました。というのも、大学のクラスメイトが薦めてくれて。僕も音楽をやっていたので、同世代のバンドが出てきたなあという印象を持って、意識しましたね。

牛丸ありさ(yonige) 私も、対バンする前からペリカンの曲を聴いていて。楽曲がすごく好きで、純粋にファンでした。

──2組の交流はいつ頃から始まったんですか?

エンドウ 2016年の夏に、横浜のclub Lizardで共演したのがきっかけでしたね。

牛丸 対バンすることを楽しみにしていたので、当時はすごくうれしかったですね。ペリカンの曲を聴きながら、ごっきん(yonige / B, Cho)と「エンドウアンリってどういう人なんだろう?」「どういう幼少期を過ごしてきたんだろう?」という話をしていたんですよ。そこで私たちが予想したのが、エンドウくんは学生時代ずっと監禁されてて、青春を謳歌できないまま、PELICAN FANCLUBを組んで……みたいな感じで。実際会ったら、エンドウくんはイメージ通りの人でした。もちろん監禁はされてなかったですけど(笑)、やっぱり青春を謳歌できなかった人なんじゃないかなと。

エンドウ 思春期の頃は復讐心があったので、青春は音楽で謳歌していたというか。今言ってもらったことは遠からずではあると思います。僕は牛丸の、ハスキーで、下の帯域が出ている、倍音の効いた声が、当時のシーンの流れからすると新鮮に感じられて。歌声だけで景色が見えてくる人っているじゃないですか。そういう声を彼女は持っているなあと思いました。

牛丸ありさ(yonige)

──その後交流が深まっていったのは、2組にとって自然な流れだったのでしょうか?

エンドウ そうですね。横浜で競演をしたときはたくさん話をしたわけではなかったんですけど、波長がすごく合うなあとは思っていました。そのあとも頻繁に連絡を取ってはいませんでしたが、バンドの持つスタンスに対するリスペクトはあったので、お互いのライブに呼び合う感じになったのは必然だったと思います。僕らもyonigeを呼びたかったし、牛丸も当時そういうふうに言ってくれていたので。

牛丸 はい。私もペリカンの楽曲が好きで、ペリカンそのものに興味があったので。一緒にライブがやりたいとずっと思っていました。

──競演回数が増えるにつれて、メンバー同士で話す機会も増えていったのではと想像しますが、お二人は何をきっかけに仲よくなっていったのでしょうか?

エンドウ 牛丸とは好きな本をよく紹介し合っていましたね。読んでいるジャンルは違ったんですけど、やりとりをする中で、音楽に影響を与えているルーツのようなものを共有することができて。世の中に対しての姿勢、バンドとしての美学が共通しているなあと感じました。例えばどこかで祭りが行われているとしたら、祭りの中心に行くのではなく、「ああ、何かやっているね」と言いながら遠くから客観的に見ている性格というか。どこか俯瞰しているところは共通していると思います。

牛丸 yonigeとペリカンって、伝えたいことを要約したら、すごく近いものがあると思うんです。だけど、それを伝える手段が違っていて。私の中では、yonigeが“日常”だとしたら、ペリカンが“SF”というイメージがあります。

エンドウ 詞の書き方が違いますよね。牛丸の歌詞はリアリティがあって、映画的な書き方だけど、僕はそうではなく、非現実的な部分を書くことが多いので。牛丸の持つワンルームの世界観は憧れだったりします。それが今回フィーチャリングに誘った理由でもありますね。僕の書くリアリティからちょっと外れた歌詞を、牛丸の声で歌ったらどんな化学反応が起こるのか期待に胸を膨らませていました。

左からエンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)、牛丸ありさ(yonige)。

牛丸に歌ってもらうことに意味があった

──「星座して二人」はバンドサウンドにデジタルサウンドを取り入れたダンスミュージックですね。PELICAN FANCLUBの楽曲だと「プラモデル」「Black Beauty」「ハッキング・ハックイーン」などに通ずるダークさもありつつ、セクションごとにテンポやサウンドを大きく変える展開がスリリングでした。

エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)

エンドウ 僕らはこれまで楽曲を作るとき、バンドで音を合わせながら原型に肉付けして、そこにデジタルな要素やさまざまな楽器を乗せていくやり方を採っていました。だけど2020年の春以降は自宅で曲を作ることが多くなって、ギターやベースを使わずに、リズムとシンセサイザーだけで曲の原型を作るということも増えていったんですね。それが自分たちの今の気分に合ったというか。「PELICAN FANCLUBというレールの上でPELICAN FANCLUBという存在を壊す」というようなビジョンが見えてきたんです。それは新しいPELICAN FANCLUBとも捉えられるかもしれませんが、新しくなることで過去を肯定できるので。

──新しくなることで過去を肯定できる、ですか。

エンドウ はい。少し話が逸れますけど、PELICAN FANCLUBが初めて出したミニアルバムは「ANALOG」というタイトルで、そのタイトルは「連続性」という意味合いでつけたんですよ。僕は連続性というものを大事にしたいと思っていて。PELICAN FANCLUBの音楽性をアップデートするためには、一度PELICAN FANCLUBのよさを見つめ直さなきゃいけない。見つめ直したときに、必要なもの、核というものが見えてくると思うんですよね。で、僕の思う「新しく構築する」ということは、核の周りに付いているものを一度壊すこと。だから過去の楽曲を参考にして新しいものを生み出すこともあるし、すべてを壊してしまうのではなく、僕らの核にあるものはずっと続いていってほしいと思っています。

──なるほど。「星座して二人」は、フィーチャリングボーカルを入れようという前提で作った曲なのでしょうか?

左から牛丸ありさ(yonige)、エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)。

エンドウ そうですね。去年、The XXのロミーがソロデビューしたんですけど、僕がその曲(「Lifetime」)のロミーの声にすごく感化されたんですよ。それで、僕らの楽曲にも女性の声を入れたいと思って。そのとき真っ先に思い浮かんだのが牛丸だったので、僕としては「牛丸が歌うとしたら」というイメージで曲作りを進めていました。

牛丸 歌ってみてわかったのが、エンドウくんと私の声って意外と似ているんですよ。似ているけど違うというのが、この曲の面白いところだと思います。

エンドウ (頷く)

牛丸 私は最初、男女で歌うわけだから、女性ならではの声で歌ったほうがいいんじゃないかと思っていました。だから録ったものを実際聴いたとき「私でよかったのかな?」という気持ちもあったんですけど、エンドウくんはむしろ、こういうものを欲していたみたいで。

エンドウ うん、そうですね。「星座して二人」の歌詞では、僕らが空を見上げて星を見るのと同じように、僕らが生活を営むためにつけている部屋の明かりも、空から見れば星座のようにきれいに見えていた、ということを書いているんです。生活って1人で成り立つものではなくて、だからこの曲でも狭い部屋の中で2人がやりとりをしている。そのやりとりというものを表現するうえでは、1人の声ではなくて、2人の声が必要だったというのがありました。

左から牛丸ありさ(yonige)、エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)。

──自分以外のボーカルを招いたのは「別の視点が存在している」ということを表現するためだから、女性らしい声質かどうかはさほど重要ではないということですか?

エンドウ 声質というよりかは、牛丸に歌ってもらうことに意味があったということですね。さっき話したような、彼女の声から見える景色や、普段彼女が歌っているワンルームの世界観が欲しかったというか。

──牛丸さんの作家性、これまでどんな曲を書いてきたのかも踏まえてのオファーだったと。

エンドウ そうです。今回ボーカルを録るうえで、距離感をすごく重視していたんですよ。ささやくような声でお互いに掛け合って歌えば、聴いている人にも、距離感がすごく近いというふうに伝わるじゃないですか。その世界観で展開したかったので、牛丸には「少し低めで、ささやくような声で」とお願いして。ガイドボーカルを入れたデモを渡しましたけど、ボーカルディレクション的なことは本当に軽くやった程度で、ほぼ牛丸に委ねました。結果、想像以上のものが返ってきましたね。「星を数え切って知った」という歌詞から始まる最後のセクションで、牛丸の声が少し荒くなって、ひっくり返りそうになる部分があるんですよ。そういうふうに、牛丸がライブで感情的になって出す声の特徴も今回パッケージングできたので、僕はかなり手応えを感じています。