BiSHとPEDRO、二足のわらじで駆け抜ける日々
──アユニさんは今年の「WACK合同オーディション」に参加していて、マラソンで他を圧倒する力走を見せてました。キレのあるダンスを見ても、運動能力の高さが伺えましたし。
チッチ 運動神経はもともといいですよ。
モモコ うん。足は一番速いと思う。
チッチ パルクール(跳躍や壁のぼりなど身体能力を頼りに建物などを乗り越える運動術)をやってたんですって。実は好奇心旺盛だからなんでもやるし、そういうのがもともと好きなんだと思う。合宿のマラソンに関してはめっちゃ負けず嫌いだから、とにかく誰にも負けたくなかったんだと思います。
モモコ BiSHの中で運動神経がいいとされていて、それでほかの子に負けるのは悔しいですよね。それ私だったらたぶんそう思うし。アユニはマラソンだけでも勝とうと思ってたのかなって思ってたから。
チッチ でも「余裕だった」って言ってた(笑)。
──PEDROの活動について、アユニさんと何か会話したことはありますか?
チッチ 私はけっこう相談されるんですよ。私がバンドのライブをたくさん観ているから「もしバンドでこういうライブがあったらどうやるの?」「SEってあるの?」「フェスでもSEって出すの?」とかって。
──いろいろ気になってきますよね。
チッチ 「MCって何しゃべったらいいかな?」とか細かいことまで相談してきて。いつも「好きなようにやりな」って返してるけど(笑)。アルバムの制作に関してもメロディを考えなきゃいけないから「どうしよう」みたいな感じになってたのがBiSHの「LiFE is COMEDY TOUR」の最中、4月とか5月あたりで。「期間が短くてどうしよう」みたいになりながら、一生懸命やってた記憶はあります。でもなんとなくしか知らないですよ。アユニはアユニのことをやってるから、そんなに聞かないですもん。
モモコ めちゃめちゃ忙しそうにはしてましたけどね。私でさえ「LiFE is COMEDY TOUR」中はすごく忙しかったんですけど、それに加えPEDROの活動も進めていたからか楽屋で寝ているみたいなときがあって、「寝る時間ないのかな?」って心配してました。
チッチ 「寝てないの?」と聞いたら「あんまり寝てない」と言ってた。「やることが山積み」「やってもやってもやることが終わらない」って。バンドの練習しなきゃいけないのにBiSHのツアーもあって。「結局ベース練習し切れないままライブに出たら恥ずかしい思いをする」みたいなことを言っていて。「確かにそれめちゃくちゃ嫌だね」なんて話をしていたけど、「やるしかないからがんばる」と言ってたかな。がんばってるのは見てるから知ってるけど、私たちが何かできるわけではないので、BiSHはBiSHとしてうちらはちゃんとやるしかなかった。
田渕ひさ子との出会いで変化し始めたアユニ・Dの音楽観
──チッチさんは自身の音楽愛を主催フェス「THAT is YOUTH!!!!FES」という形で表現したり、モモコさんは著書「目を合わせるということ」を出版するだけでなくメンバー内で誰よりも作詞をしていたりしています。BiSHは皆さんにとって“自己実現の場”になっているんでしょうか?
チッチ 自己実現の場って思っちゃダメな気がする。そう思っちゃったら、BiSHという本質を見失いそうで。でもBiSHがあって、今やりたいことができていることは全員わかっているので、それはみんな思っていると思う。BiSHがあるからこそ、モモコが本を書いたり、私が自主企画をやったり、最近ではハシヤスメ(・アツコ)がソロ曲「ア・ラ・モード」を出したりできている……まあ自己実現と言えば自己実現ですけど、「本質はBiSHにある」ということです。BiSHである私たちだからこそできていることだし、アユニもそう思っているんじゃないかな。
──レコーディングやツアーには田渕ひさ子さんが参加していることもPEDROの大きなトピックです。アユニさんはBiSHで経験を重ねてきたからこそ、このチャンスをつかんだんだろうなと。
チッチ 「BiSHじゃなかったら田渕ひさ子さんにも出会えなかった」と言ってました。アユニはPEDROをやることになってから田渕ひさ子さんのことを知って、NUMBER GIRLをすごく好きになったみたいで。それまで知らなかったんですって。そこからより音楽を好きになったみたいなので、いいきっかけになったと思います。
──それまでは違ったんですか?
チッチ 私が知ってる限り、アユニはそれまでも音楽は聴いていたけど、ロック、パンク、オルタナとかを聴く子ではなくて、PEDROに入ってから田渕ひさ子さんに出会い、NUMBER GIRL、ZAZEN BOYS、bloodthirsty butchersとかを聴くようになったんですって。その流れで日本のロックとか昔の海外のバンドのカッコよさを知り、自分でいろんな音源を掘っていって、聴いているみたいです。前は一緒にできなかった音楽の話ができるようになったんですよ。私はそういう部分で、音楽をより好きになったんだなといつも横で感じています。
教室の片隅にいる女の子の気持ちを代弁しているような
──アユニさんの書く歌詞についてはどう思いますか?
モモコ 漠然としてますけど、「新しいな」って思います。私だったら出ないような言葉がたくさんあって、例えば「猫背矯正中」もそうだし、「浮き世で」とか「宴」とかそういう言葉の選び方がいい。アルバムにはいろんな種類の曲が入ってますけど、全体的に統一感があるように感じました。楽曲ごとに言ってることは違うのに、言いたいことに統一感があるような。教室の片隅にいるような女の子がふつふつと思っているようなことをアユニが代弁して叫んでるみたいなイメージで。
チッチ 歌詞を読んだときに、アユニの吐き捨てるような世の中に対してのヘイトな部分と、それでも人懐っこく、しがみついちゃう少女みたいな感じは、私にはないなと思いました。こういう女の子がいるんだなって思えるからすごい勉強になる。私にはわからない心情だから。私は聴いていて共感じゃなくて、新しい世界というか、こういう気持ちの女の子もいるんだなって思ったし、マンガを読んでいるような気持ちになった。
──歌詞の雰囲気はBiSHのときとPEDROで違いを感じますか?
チッチ 空気感は一緒だと思うんですけど、BiSHにいるときのアユニはBiSHのことをけっこう意識して書いている気がする。BiSHあってのアユニというか、BiSHになりきって書いているみたいな歌詞がBiSHにおけるアユニの歌詞だと思うんです。だから「S・H・i・T」とか普段のアユニとは違う感覚で書いているじゃないかな。それと比べてPEDROの歌詞を見てみると、リアルな彼女の声なんだろうなって。
モモコ そうだね。アユニはBiSHで「本当本気」「spare of despair」「S・H・i・T」とかの作詞をしていて、それはBiSHのメンバーとしてのアユニの思い。6人いる中で作詞するということは周りに5人がいて、その中で思うことを書いてるような。PEDROだとBiSH加入前のアユニからつながっている、彼女の素の一面が表れているんじゃないかなって。
──アユニさんはPEDROのトレイラー映像の中で「強がらないところが強くなった気がします」と語っていました。PEDROでの経験を積み重ねながらも、その経験をBiSHの活動に還元しているような感じがします。
チッチ PEDROのときはバンド編成でステージでの責任感が増すはずだし、これまでより人任せにしない彼女になったなと思います。BiSHにいるときもちゃんと考えるようになってきていて、自分の意見をこれまで以上にちゃんと言うようになったし。さっき話した歌い方の変化にしても、それはBiSHにとって大きな還元だと思います。PEDROが始まってからBiSHのことも楽しめているような。PEDROで音楽を好きになって、BiSHに戻ってきたときにBiSHの音楽の聴き方が変わって、楽しんでいるようにも思えるから、相乗効果を生んでいる感じがします。
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“よくわかんない、でもなんかわかる”歌詞