パスピエ結成10年の意地
──ここからはアルバムの話を聞かせてください。このアルバムはバンドが新境地にたどり着いたことが明らかにわかる1枚だと思います。バンドの気迫や意地を強く感じさせる……ストレートに言えば「なめんなよ感」があるというか。結成10周年を迎えたこのタイミングであえてパブリックイメージを壊そうという気概も感じました。
成田 そうですね。やっぱり意地はありますよね。10年やってきて、自分たちの音楽のキャリアとしてもいろんなグラデーションを見てきて。僕らにとって音楽は生業だし人生そのもので、その中で今までも変化はしてきたんだけど、今作に関して意地だったり覚悟だったりを持って作った10曲だなと思います。
──そうですよね。手グセを捨てたなとも思うんですよ。ナリハネくんは多作家だし、今まで築いたパスピエの方法論に乗っかればいくらでも曲を作れると思う。でも、それを解除したんだなと思いました。
成田 ああ、そうですね。死ぬほど曲を書いたんですよ。メンバーに聴かせてないものも含めると90以上デモがありました。制作を始めて4カ月半でそれくらい書いて。
──そのうえで全10曲というのも潔いですよね。
成田 本当は11曲の予定だったんですよ。アルバム全体のバランスを見たときに「いらないね」と削った曲があって。この曲が入るとアルバムのとがり方がまろやかになっちゃうなと思ったんです。ミックスまで済ませていたんですけど今作からは外しました。
──なつきさん、今作の手応えはどうですか?
大胡田 さっき成田さんが意地とか覚悟って言っていて……(涙で言葉が詰まる)本当にこのアルバムはそういうものだったなと思って。
成田 どうした(笑)。
大胡田 いや、ミックスを終えたときに本当に曲に命が入ったなと実感できて、初めてミックスで感動したんですよ。
成田 デモからアレンジしていったときも、そこに歌が入ったときも、ミックスが終わったときも、1つひとつの段階で曲が変わっていったよね。
曲を理想の形に近付けるなら、いらないこだわりは捨てなきゃいけない
──なつきさんの歌詞の筆致も昔より生々しくなったし、ボーカルもグッとオケとの一体感が増したと思います。
大胡田 根本的な考え方が変わりましたね。今までも「変える、新しいことをやる」と言ってきたけれど、今作は本当に変わった。新しいことがこの1枚で表現できたと思います。今作は歌を聴かせようとかじゃなくて、曲全体をよくしようと思ったんです。曲を理想の形に近付けようと思ったら、自分のいらないこだわりは捨てなきゃいけないし、余分なものは排除しようと思って。
──ミックスで感動できたのはそういう要因もあるでしょうね。
大胡田 そうかもしれないです。私はいつも歌録りが終わったら自分の仕事が終わったという感覚だったんですけど、今回はミックスも含めてやり遂げたという感覚があって。自分でもビックリしました。
──三澤くんはどうですか?
三澤 手グセの話で言うと、手グセを使って曲を作っていくのは気持ちがいいし、ラクなことでもあるんですよね。ただ、今回はそうじゃなくて「パスピエの新しい音楽を作りたい」という強い思いがまずあったので。だからこそ、手グセを切り捨てたというか、もっと違うベクトルで自分たちが面白いと思うものを手探りで探していく制作でしたね。だから、ある意味今作の制作が今までで一番苦しかったかもしれない。本当に手探りなんで、例えば100アイデアがあったら100全部試して、それがハマらなかったら、もう50作るみたいな制作でした。だから、なおさら曲が完成したときの喜びがあって、アルバムが完成したときにものすごい達成感がありました。
露崎 90曲を超えるデモだったり、ミックスまでいった幻の1曲を捨てたこともそうですけど、制作において気合いの入り方がバンド内はもちろん、チーム全体で格段に違ったなと思います。僕もそうですけど、それ以上に作詞、作曲、歌を担当している2人(成田と大胡田)から「大丈夫かな?」と思うくらいの気迫を感じました。今作で提示できた新しさは今後のパスピエのベーシックにつながっていくような気がしているんです。だから達成感もあるんですけど、パスピエというバンドのこれからに対して安心できた部分も大きくて。
今までの10年も嘘は1つもない
──では、5年後、10年後に向かってここからどんな力を手に入れていきたいですか?
大胡田 バンドにもっと引力を付けたいな。発信は常にしているから惹き付ける力が欲しい。それが何かというのはまだ言葉にできないんですけど……。
──ライブの演出も変わっていきそうですよね。
大胡田 そうですね。この10曲が新たに加わることによって、いろいろな可能性が広がると思います。
成田 ライブのスケールを大きくしていくのであれば、やっぱり大胡田が言うような引力が必要だと思いますね。今は自分たちで人を惹き付けている実感を覚えながら活動を展開していかなければいけないと強く感じていて。今までの10年も嘘は1つもないんだけど、なんとなく気付いたら10周年を迎えていたというところもあったから。ここから自分たちで聴き手のことを手繰り寄せていくことが、外から見ても本当のキャリアになると思うんですよ。10年目でようやく1つ確立したものが見えた気もするから。それを自分たちの力にしてバンドを動かしていきたいです。
- パスピエ「more humor」
- 2019年5月22日発売 / Atlantic / Warner Music Japan Inc.
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初回限定盤 [CD+DVD]
3500円 / WPZL-31587~8 -
通常盤 [CD]
2700円 / WPCL-13027
- CD収録曲
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- グラフィティー
- ONE
- resonance
- 煙
- R138
- だ
- waltz
- ユモレスク
- BTB
- 始まりはいつも
- 初回限定盤 DVD収録内容
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パスピエ 野音ワンマンライブ “印象H” 2018.10.6 at 日比谷野外大音楽堂
- OPENING SE~素顔
- ネオンと虎
- トロイメライ
- (dis)communication
- 脳内戦争
- マッカメッカ
- ON THE AIR
- MATATABISTEP
- 最終電車
- S.S
- 正しいままではいられない
ツアー情報
- パスピエ TOUR 2019 "more You more"
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- 2019年6月12日(水)東京都 WWW X
- 2019年6月16日(日)広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2019年6月20日(木)宮城県 darwin
- 2019年6月22日(土)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
- 2019年6月28日(金)兵庫県 神戸VARIT.
- 2019年6月30日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- 2019年7月6日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2019年7月12日(金)愛知県 DIAMOND HALL
- 2019年7月13日(土)大阪府 BIGCAT
- 2019年7月15日(月・祝)東京都 Zepp Tokyo
- パスピエ
- 2009年に成田ハネダ(Key)を中心に結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、成田、三澤勝洸(G)、露崎義邦(B)の4名。都内を中心にライブを行い、2010年3月に自主制作盤「ブンシンノジュツ」をライブ会場限定で発表。2011年に1stミニアルバム「わたし開花したわ」、2012年に2ndミニアルバム「ONOMIMONO」をリリースし、卓越した音楽理論とテクニック、ポップセンスで音楽ファンの話題をさらう。2013年3月に初のシングル「フィーバー」、6月にメジャー1stフルアルバム「演出家出演」、2014年6月に「幕の内ISM」と続々と作品を発表し、数々の大型ロックフェスに出演。2015年は9月にアルバム「娑婆ラバ」をリリースしたあと全国ツアーを行い、12月に初の日本武道館単独公演を成功に収めた。2016年7月発売のシングル「永すぎた春 / ハイパーリアリスト」のタイミングで、これまで隠していた素顔を明らかに。2017年1月に4thフルアルバム「&DNA」を発表し、3月より全国ツアー「パスピエ TOUR 2017 “DANDANANDDNA”」を開催した。10月に「OTONARIさん」、翌2018年4月に「ネオンと虎」とミニアルバムを相次いでリリース。5月よりキャリア史上最多公演の全国ツアー「TOUR 2018 “カムフラージュ”」を実施した。2018年10月には初の野音ライブ企画「パスピエ野音ワンマンライブ “印象H”」を東京・日比谷野外大音楽堂と、大阪・服部緑地野外音楽堂で開催。2019年5月に5thフルアルバム「more humor」をリリースし、6月からライブツアー「パスピエ TOUR 2019 “more You more”」を行う。