音楽ナタリー Power Push - パスピエ

直球の次に放つは鋭い変化球

「境界のRINNE」連続タイアップ

──今年に入ってから「トキノワ」「裏の裏」と、「境界のRINNE」とのタイアップが続いているわけですが(参照:KEYTALK&パスピエ、高橋留美子原作アニメのテーマ曲担当 / 今度はOP!パスピエ「境界のRINNE」タイアップ再び)、アニメのエンディングテーマやオープニングテーマを手がけることで、新たに何か発見のようなものはありましたか?

成田 やっぱり地上波で流れるというのは、大きな波及力があるんだなってことは実感しますね。あとは……ワンコーラスでどう聴かせるのかというのは大きな課題でしたね。これまで自分たちは1曲フルで聴かせることしか考えてなかったし、「トキノワ」も「裏の裏」もフルで聴いてほしいという思いは変わらないんですけど、同時にイントロのど頭からワンコーラスまでという区切りで、何ができるかというのは考えなくてはいけないから。実際に、アニメで使われているバージョンはそれ用にイントロをいじったりしてますからね。

──確かに、基本的にパスピエの曲って単純な繰り返しじゃなくて、どんどん展開していきますからね(笑)。

成田 そうです。チャレンジでした(笑)。

──歌詞の面で、作品の世界に寄せていくことに苦労したりは?

大胡田 これはたまたまなのかもしれないですけど、「境界のRINNE」の世界っていうのが、もともと私が好きな世界だったり、表現したいと思っていた世界だったりととても近いところにあったんですね。だからそういう意味では苦労はなかったんですけど、「この曲で初めてパスピエに出会う」って人も多いはずだから、むしろ、いつも以上にパスピエらしい歌詞であり言葉遣いっていうのを、1分30秒という放送される尺の中に入れ込みたいと思っていろいろ工夫はしましたね。

──逆にパスピエ濃度が高くなっている。

大胡田 そうかもしれませんね。

大胡田なつきと成田ハネダの死生観

──アニメのテーマに沿ったものでもありますが、「裏の裏」で歌われている“あの世”と“この世”の境界が溶けていくこの感じというのは、確かに非常にパスピエ的でもあり、大胡田さん的でもありますね。

大胡田 死んでいくことが悲しいっていうふうには、普段から考えてないんですよね。今回書きたかったのは、こちらの世界でもあちらの世界でも、楽しいこともつらいことも両方あるだろうから、そんなに違わないっていうことで。

──「死んでいくことが悲しいとは思わない」というのは、極端と言えば極端な死生観ですよね(笑)。

大胡田 そうですか?(笑)

──生への執着が薄い?

大胡田 いや、全然生きていたいですよ(笑)。でも、死ぬことって当たり前のことだとも思うんですよ。もしかして、このインタビューが終わって「ありがとうございましたー」って挨拶をしたあと、すぐに死んだとしても、そういうこともあるだろうなって。

──それは事件ですよ(笑)。

大胡田 でも、私にとって死というのは、ごはんを食べるのと同じくらい、日常にあるものっていう考え方なんですよね。

パスピエ

──そうですか……。成田さんは?

成田 生への執着?

──はい(笑)。

成田 いや、実は僕も大胡田とわりと近いというか……。すべてのことにおいて、僕は自分が「生かされてる」という意識があるんですね。何かを一生懸命やって、それが何か意味のあることだったとしたら、自分は「生かされている」んだろうなって思うんですよ。それは、自分自身についてもそう思うし、バンドがこの先も残っていくかどうかについてもそう思うし。誰かに求められる存在だったら、それは残っていくだろうし。

──じゃあ、いつか求められなくなったら?

成田 それは、そのときになってみないとわからないですけどね。きっと、そこで自分の考え方だったり、生き方だったりが変わるんだと思う。

──「生かされている」というのは、自分に何かの役割が与えられていて、それを全うしているだけということなんですか?

成田 うーん。僕が思うのは、バンド活動でいうなら、ただやりたいことをやってるだけだったら、それはエゴでしかなくて、もしそうなったらその瞬間に終わりだなって思うんですよね。誰かに求められているというのが、エンタテインメントだと思うから。ただ、その一方で僕はずっとクラシックをやってきたから、作者が死んでも作品が残る、生きている間には認められなくても作品が後世において掘り起こされるみたいな、そういうものの美しさに惹かれる気持ちもあるんですけど(笑)。

──でも、パスピエの音楽が面白いところって、確実に変化も進化もしてきてるんだけど、昔の曲と今の曲を並べたときに、どっちが古いとかどっちが新しいとかも感じないし、いわゆる「歌は世につれ、世は歌につれ」な流行歌的な感覚もないところで。それって、ある種、作品至上主義的なクラシックの世界に通じるところがありますよね。

成田 エンタテインメントであることを目指しながらも、クラシック的な楽曲のあり方にもやっぱり憧れがあって。顔出しをしてこなかったのも、今思えばそういう気持ちの表れでもあったと思うんですよね。音楽の世界は今、すべてが飽和状態で、その飽和の密度を濃くしていくか、あるいは時代を逆行していくか、もうそのどちらかしかないところまできていると思うんですよ。新たな楽器か新たな音階が生まれない限りは。

──新たな音階って生まれ得るんですか?

成田 理論的には生まれ得ますよ。でも、僕らの目標はそれを生み出すことではないです(笑)。

ニューシングル「裏の裏」 / 2015年7月29日発売 / unBORDE
ニューシングル「裏の裏」
初回限定盤 [CD2枚組] 1500円 / WPCL-12213~4
通常盤 [CD] 1080円 / WPCL-12177
DISC 1 収録曲
  1. 裏の裏
  2. かざぐるま
  3. スパイ対スパイ(オリジナル:ピチカート・ファイヴ)
DISC 2(※初回限定盤付属)収録曲
  1. とおりゃんせ(2015.6.24 Live at STUDIO COAST)
  2. 印象Dメドレー(2015.6.26 Live at なんばHatch)シネマ~△ ~脳内戦争~デモクラシークレット
  3. 気象予報士の憂鬱(2015.6.24 Live at STUDIO COAST)
  4. MATATABISTEP(2015.6.24 Live at STUDIO COAST)
パスピエ TOUR 2015
2015年11月4日(水)
宮城県 Rensa
2015年11月6日(金)
新潟県 新潟LOTS
2015年11月11日(水)
香川県 高松オリーブホール
2015年11月13日(金)
広島県 広島CLUB QUATTRO
2015年11月14日(土)
福岡県 DRUM LOGOS
2015年11月16日(月)
鹿児島県 CAPARVO HALL
2015年11月21日(土)
大阪府 Zepp Namba
2015年11月22日(日)
愛知県 Zepp Nagoya
2015年11月26日(木)
北海道 札幌PENNY LANE24
2015年12月22日(火)
東京都 日本武道館
パスピエ

2009年に成田ハネダ(Key)を中心に結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、成田、三澤勝洸(G)、露崎義邦(B)、やおたくや(Dr)の5名。都内を中心にライブを行い、2010年3月に自主制作盤「ブンシンノジュツ」をライブ会場限定で発表。2011年に1stミニアルバム「わたし開花したわ」、2012年に2ndミニアルバム「ONOMIMONO」をリリースし、卓越した音楽理論とテクニック、ポップセンスで音楽ファンの話題をさらう。2013年3月に初のシングル「フィーバー」、6月にメジャー1stフルアルバム「演出家出演」、2014年6月に「幕の内ISM」と続々と作品を発表し、数々の大型ロックフェスに出演。2015年は4月にシングル「トキノワ」、7月にシングル「裏の裏」をリリース。秋には全国ツアーを行い、12月に初の日本武道館単独公演を予定している。