ナタリー PowerPush - パスピエ

これぞ「幕の内ISM」、コミック&お笑い異世界のあの人と邂逅

パスピエインタビュー

デビュー当初のイメージを払拭したかった「演出家出演」

──まさに、その2曲が象徴的なように、今回の「幕の内ISM」というアルバムは、これまで踏み込んだことのなかったこの国のポップスのど真ん中に、パスピエが大きく踏み出したアルバムだと思ったんですよ。

成田 僕は音楽を作っていく上で、カテゴライズされることにすごく抵抗を感じるんですね。何かにカテゴライズしてもらえるのは素晴らしいことだとわかりつつも、そのことにいつもコンプレックスを抱えていて。「顔を出さないバンド」だとか「肉体じゃなくて頭で聴くバンド」だとか、そういうデビュー当初のイメージは自分たちの打ち出し方のせいでもあったんですけど、僕らの実像以上に知的なバンドに捉えられたりしてきて。それを払拭したいと思って作ったのが、前回の「演出家出演」っていうアルバムで。今まで積み上げてきた完成された美みたいなのを1回取り払って、その瞬間瞬間に生まれるものだったり、フィジカルなものを表現しようと思って。完全に逆に張った作品だったんですけど。

──想像以上に、その逆張りが多くの人に受け入れられてしまった?

パスピエ

成田 いや、それは本当によかったんです。僕は今のバンドシーンって、すごく独自のカルチャーだと思っていて。今はそこがメインストリームみたいに見えることもあって、お客さんがどんどん集まってきているのも実感してるんですけど。ただ、僕はそのカルチャーっていうのは、もともとメインストリームの場所ではないとも思っていて。それぞれのバンドのファンが大切にしてきたコミュニティが、何かをきっかけにして大きくなったものが今のJ-ROCKの音楽シーンだと思うんですよ。

──そして、今度はそこにカテゴライズされそうになってきたから、また逆張りをしたくなった(笑)。

成田 そうなんです(笑)。そういうシーンの中で、今みんなが「いい!」と言うに違いないものを出していくのは、ちょっと僕のやりたいこととは違っていて。例えば、今のJ-ROCKのシーンでキャッチーとされているリフと、過去の日本のポップシーンでキャッチーなメロディとされているものって、明らかに違うものじゃないですか。だから、今あえてそっちのほうのキャッチーなメロディ、具体的に言うなら今回の「七色の少年」だとか「わすれもの」だとか、こういう時代だからこそそういう曲を出していくことが面白いんじゃないかなと思っていて。「MATATABISTEP」と「あの青と青と青」ができたときに、その方向性が見えてきたんですよね。

──逆張りの逆張りは、必ずしも同じ場所に戻ることではないということですね。

成田 そうです。

リスナーがだんだん発信する側になってきてる

──ライブでの表現に焦点を当てた「演出家出演」の狙いはバッチリ当たったと思うんですよ。ただ、その狙いが当たりすぎたことによって、フェスやイベントに出演したときに現場で感じた戸惑いのようなものも、もしかしたらあったのかなって。

パスピエ

成田 いや、僕はリスナーやオーディエンスがそのときにするアクションというのは、常に正解だと思ってるんです。僕らもライブの現場ではできるだけ盛り上げようとするし、その結果どんなアクションが返ってきても、それを肯定して、分析していくことでしか前には進めないから。ただ、最近よく感じるのは、これまでのリスナーやオーディエンスというのは常に受信する側だったけど、それがだんだん発信する側になってきてるなってことで。それ自体はいいことだと思うんですけど、ステージに立っている以上、その発信力においてアーティスト側が負けてるようだとダメだと思っているので。リスナーやオーディエンスにはどう楽しんでもらっても構わないけど、その反応にアーティストが飲み込まれてしまう危険性は確かにあるだろうし、自分たちがそうならないようにってことは思ってますね。

──パスピエというバンド、成田さんというミュージシャンの特徴は、異常なまでに学習能力の高いところにあると自分は思っているんですけど。この1年でインプットしたもので、もっとも大きかったものはなんでしたか?

成田 僕個人としては、ミュージックビデオをYouTubeに上げたときに、こんなにたくさん海外の方からコメントをもらえるんだなってことで。アーティストとして音楽を発信している以上、興味を持ってくれた人すべてに届けたいっていう欲が出てくるので、海外の人がなぜ僕らを面白がってくれてるのかというのを考えるようになりましたね。そこから、これは日本のリスナーに対してもそうなんですけど、日本のバンドとしての民族性というのを大事にしようって思ったんです。それは、とても幅広いのでなかなかうまく言い表せないんだけど、日本人が共通して持っている懐かしさみたいなものってあるじゃないですか。そういう部分をメロディやアレンジに色濃く出していくことで、国内のリスナーにとっても、海外のリスナーにとっても、それぞれ面白く思ってもらえるんじゃないかなって。

──バンドの新しい目標として、海外のマーケットは考えますか? 今回、「トーキョーシティ・アンダーグラウンド」で初の英語バージョンも発表しましたよね。

大胡田なつき(Vo)

成田 そこまで明確なものはないです。僕らって、いつもリアクションがあって、それにまたリアクションをしていく、その連続なんですよね。こういうふうに見られているんだとしたら、今度はそれに対してこうリアクションしていこうっていう、そんなスタンスをとっているんで。今回も、せっかく海外のリスナーが面白がってくれているんであれば、そこにもちょっと発信してみようかなっていう。それは戦略というよりも純粋な興味ですよね。で、また反応が来たときに、そこから次の展開を考えることになると思うんです。

──人によっては、成田さんって3年先や4年先まですべて見据えているみたいな、そういう策士的なイメージを持っている人もいるかもしれないですけど、実際は今の状況に対して、いかに的確なリアクションをするかという、そこに一番秀でているのかもしれないですね。

成田 もちろん、3年先、4年先にこういう音楽を作れたらいいなっていうイメージはあります。でも、作品をリリースするときには、それをどういうフォーマットにするかということを考えなきゃいけないと思っていて。リアクションというのは、そこの部分なんですね。目指している音楽というのはずっと変わってないですけど、それをどう発信していくかというのは常に考えて、変化させてますね。

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大胡田なつき×魚喃キリコ対談
成田ハネダ×うしろシティ対談
パスピエインタビュー
2ndフルアルバム「幕の内ISM」 / 2014年6月18日発売 / unBORDE
2ndフルアルバム「幕の内ISM」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3000円 / WPZL-30860~1
通常盤 [CD] / 2484円 / WPCL-11854
幕の内盤(DISC 1)
  1. YES/NO
  2. トーキョーシティ・アンダーグラウンド
  3. 七色の少年
  4. あの青と青と青
  5. ノルマンディー
  6. 世紀末ガール
  7. とおりゃんせ
  8. MATATABISTEP
  9. アジアン
  10. 誰?
  11. わすれもの
  12. 瞑想
幕の外盤(DISC 2)※初回限定盤のみ

パスピエ TOUR 2013 “印象・日の出外伝” at AKASAKA BLITZ (2013.12.21)

  1. OPENING ~ S.S
  2. デモクラシークレット
  3. トロイメライ
  4. 名前のない鳥
  5. とおりゃんせ
  6. フィーバー
パスピエ

2009年に成田ハネダを中心に結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、成田ハネダ(Key)、三澤勝洸(G)、露崎義邦(B)、やおたくや(Dr)の5名。都内を中心にライブを行い、2010年3月に自主制作盤「ブンシンノジュツ」をライブ会場限定で発表。2011年に1stミニアルバム「わたし開花したわ」、2012年に2ndミニアルバム「ONOMIMONO」をリリースし、卓越した音楽理論とテクニック、ポップセンスで音楽ファンの話題をさらう。2013年3月に初のシングル「フィーバー」、6月にメジャー1stフルアルバム「演出家出演」を発表し、その後数々の大型ロックフェスに出演。また東阪で行われたパスピエ主催によるイベント「印象A」「印象B」や初のワンマンツアーも全公演ソールドアウト。2014年は3月に両A面シングル「MATATABISTEP / あの青と青と青」、6月に2ndフルアルバム「幕の内ISM」をリリースした。


2014年6月26日更新