ナタリー PowerPush - パスピエ
これぞ「幕の内ISM」、コミック&お笑い異世界のあの人と邂逅
成田ハネダ×うしろシティ対談
パスピエとコント芸人の共通点
──うしろシティも、ちょうど結成から5年ですよね。
金子 そうです。ちょうど5年。
──両者ともそれぞれのジャンルで以前は別の人とやっていて、現在のメンバーになってから5年を経て、今の場所に立っている。それぞれ、先行する世代に対して、自分たちのやり方でどう攻めていくかを考えているタイミングだと思うんですけど。
金子 音楽の世界みたいに、いきなりポーン!っていくのはすごく難しいですよね。音楽の世界って、常に「今、これキテるよ」みたいなのが話題になるじゃないですか。
成田 そうですねー。あと、伝えるツールもたくさんありますね。CDショップがあって、ネットがあって、メディアがあって、フェスがあって。
金子 それがお笑いの場合は、さっきも言ったように、どうしてもまだテレビになっちゃうんですよね。
成田 それに通じる話かもしれないですけど、僕、最初にコントをすごく好きになったきっかけがバナナマンさんだったんですよ。で、昔バナナマンさんが、コント職人がテレビに出ていくときの難しさについてラジオで話してて。漫才だったら最初から「どうも○○ですー」って出てるから、ざっくりキャラをわかってもらってる。でも、コントの場合は、自分を説明せずにキャラクターになりきってネタを見せてるから、テレビに出てフリートークになったときに、そこでまた自己紹介から始めなきゃいけない。伝わるスピードが遅いから難しいんだよねってことを言ってて。そういう難しさを、うしろシティさんも感じたりしますか?
金子 うーん。笑いをとる上で説明が早いのは、たぶんコントのほうだと思うんです。変な格好して出てくれば、変なヤツだって思ってくれるから。でも、1回そのコントで笑いをとったとしても、素で出ていくときには、もう一度初めから説明しなきゃいけないという難しさは確かにあると思います。
成田 僕らも普段はあまり顔を出してないので、初めてのお客さんが多い場所でライブをやるとき、ステージからお客さんの表情を観ると、みんなクエスチョンマークみたいな感じなんですよね(笑)。「どういうヤツが実際にやってるんだろう?」みたいな。音源とは別に、ライブの場でまた改めてお客さんと初めて出会わなくちゃいけない。そこがわりと近いかもなって、勝手に思ってたりするんですけど。
みんなが知ってるネタ / 曲の反応
金子 でも、顔を出さないって、それができるところが音楽ってすごいですよね。それって最初は誰が決めたんですか?
成田 もともとは、大胡田の描く絵がいいねってことで、普通だったら宣材写真を出すところをイラストでやったら面白いんじゃないってやり始めたら、それが認識されちゃって。そこから正体不明のバンドみたいな感じで見られるようになって、それはそれでいいかなって。
阿諏訪 音楽は、そういうところが自由ですよね。あと、僕がいつも思うのは、芸人って一度テレビでやったのと同じネタをライブでやったりすると、「それ、見たことあるよ」って言われるじゃないですか。でも、ミュージシャンはみんなが知ってる曲だったら知ってる曲ほど、ライブだと盛り上がるじゃないですか。それがずるい(笑)。
成田 確かに!(笑)
阿諏訪 あんなに苦労して作ったネタなのに、もうやれないのかよみたいな(笑)。そこは本当に嫉妬しますね。音楽だとイントロだけで「キャー!」みたいなことになるのに、ネタだと出だしの時点で「それ、オチ知ってるよ」みたいな顔をされる。
成田 でも、昔のネタを全部捨てていくわけじゃないですよね? ちょっとアレンジしたりは?
金子 しますします。あれはテレビでやったから、しばらく寝かしておこうみたいな。
阿諏訪 しばらくやってなかったネタなのに、ひさびさにやってみたら急に旬が来てすごいウケるとか、そういうこともありますね。
成田 あー、それは音楽でもありますね。
金子 その逆で、自分たちにとっては鉄板のネタなのに全然ウケないときもありますけどね。その日のお客さんと合わなかったっていうのもあるでしょうし。というか、そういうときはお客さんと合わなかっただけだって信じたい(笑)。
成田 コントのネタは、完全に2人で一緒に作っていく感じなんですか?
金子 そうですね、お互いアイデアだけ持ち寄って。
阿諏訪 1人の頭の中でやったものを押し進めていっても、そんなに面白くならないと思ってて。
金子 脳みそが2つあったほうが楽しいし。思ってもない方向にいったりして。
阿諏訪 あと、完全に一緒に作ってるから、相手に教えるっていう作業がいらないんですよ。だからミスが少ないというか、基本、覚える作業がないし、ネタを飛ばすっていうこともない。結果的に楽だし、そのほうが自分たちには合ってるんですよね。
人前に出て何かをやるなら伝わってなんぼだろ
──うしろシティのお2人は、いつもはどんな音楽をいつも聴いてるんですか?
阿諏訪 僕はフジファブリックが大好きですねえ。あとは、アナログフィッシュとか、SPARTA LOCALSとか、HINTOとか……。
──完全に邦楽ロックマニアじゃないですか(笑)。
阿諏訪 最近ラジオをやってて、自分の好きなCDがかけられるんですけど、局内にはないものが多いので、自分で持っていってますね(笑)。
金子 僕はスピッツと宇多田ヒカルです!
──王道とマニアック、2人でバランスがとれてますね。
金子 家に帰って、すぐに音楽をかける人っているじゃないですか。僕はそういうタイプじゃないんですよ。音楽だけじゃなくて、PVとか、そこから喚起されるイメージだとか、それすべてをひっくるめて好きになるというか。そういう意味でパスピエの今度のアルバムも、そこでいい音楽が鳴ってるって感じだけじゃなくて、むっちゃキラキラしてるじゃないですか。ジャケットも凝ってるし、イラストも面白いし、そういうすべての要素から伝わってくるポップで、でもちょっと変なところもある。そういうところが好きなんですよね。
成田 ありがとうございます。
金子 よく「ポップじゃなくてもいいや」みたいな考え方ってあるじゃないですか。お笑いでも、「伝わる人にだけ伝わればいいや」みたいな。そういうのが好きじゃないんです。やっぱり、人前に出て何かをやるなら、伝わってなんぼだろっていうのがあるので。自分が本当にやりたいことがあって、それが人からあまり受け入れられないかもしれないって思ったら、それはポップなもの、ベタなものにこっそりと忍ばせておくというか。コンビニでエロ本買うときに、別なものと一緒にさり気なくレジに出すみたいな(笑)、そういうのが好きなんですよ。
──パスピエの音楽にも、そういうところがありますよね?
成田 はい。僕も、だからメジャーデビューをしたかったんですよ。とがりまくったものって、作り手のエゴが大きいと思っていて。そういうエゴを突き詰めるミュージシャンがいい悪いではなく、それは自分のやることじゃないというか。それをやってると、常に己との闘いになってきちゃうから。そうじゃなくて、常にリスナーの反応とかを感じながら、エンタテインメントとして磨き上げていくことに興味がありますね。
- 2ndフルアルバム「幕の内ISM」 / 2014年6月18日発売 / unBORDE
- 2ndフルアルバム「幕の内ISM」
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3000円 / WPZL-30860~1
- 通常盤 [CD] / 2484円 / WPCL-11854
幕の内盤(DISC 1)
- YES/NO
- トーキョーシティ・アンダーグラウンド
- 七色の少年
- あの青と青と青
- ノルマンディー
- 世紀末ガール
- とおりゃんせ
- MATATABISTEP
- アジアン
- 誰?
- わすれもの
- 瞑想
幕の外盤(DISC 2)※初回限定盤のみ
パスピエ TOUR 2013 “印象・日の出外伝” at AKASAKA BLITZ (2013.12.21)
- OPENING ~ S.S
- デモクラシークレット
- トロイメライ
- 名前のない鳥
- とおりゃんせ
- フィーバー
パスピエ
2009年に成田ハネダを中心に結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、成田ハネダ(Key)、三澤勝洸(G)、露崎義邦(B)、やおたくや(Dr)の5名。都内を中心にライブを行い、2010年3月に自主制作盤「ブンシンノジュツ」をライブ会場限定で発表。2011年に1stミニアルバム「わたし開花したわ」、2012年に2ndミニアルバム「ONOMIMONO」をリリースし、卓越した音楽理論とテクニック、ポップセンスで音楽ファンの話題をさらう。2013年3月に初のシングル「フィーバー」、6月にメジャー1stフルアルバム「演出家出演」を発表し、その後数々の大型ロックフェスに出演。また東阪で行われたパスピエ主催によるイベント「印象A」「印象B」や初のワンマンツアーも全公演ソールドアウト。2014年は3月に両A面シングル「MATATABISTEP / あの青と青と青」、6月に2ndフルアルバム「幕の内ISM」をリリースした。
うしろシティ
写真左 / 金子学(1981年3月25日、新潟県生まれ)、写真右 / 阿諏訪泰義(1983年1月8日、神奈川県生まれ)。2009年にコンビ結成。松竹芸能所属。2012年に「平成24年度NHK新人演芸大賞」演芸部門にて大賞を受賞。「キングオブコント2012」「キングオブコント2013」では2年連続で決勝進出を果たす。現在、毎週土曜深夜にTBSラジオにてレギュラー番組「デブッタンテ」を放送中。
2014年6月26日更新