ほかの人と同じものを作りたくない

──「アイノリユニオン」は展開が多く、面白い曲ですね。イントロからカウントが取りづらくて。

音山　カウントはだいたいでいいと思いますけどね。俺もまだあんまり取れなくて、けっこう入り損ねたりしてます（笑）。

さなえ　難しいですよね。

音山　でも変拍子は一切ないので。

──4で割れますからね。そこにこだわりを感じました。トリッキーだけど、ある程度の普遍性は保っているというか。

音山　「みんなが気持ちよく聴ける範囲で、ほかの人と同じものを作りたくない」という気持ちは常に持ってます。そのうえで「アイノリユニオン」が特に展開の多い曲になったのは、 やっぱりタイアップの作品の影響が大きくて。「妻、小学生になる。」の物語にもいろいろな展開があるから、この曲も展開を多くして、感情の浮き沈みや変化を曲調でも表せたらアニメにマッチするんじゃないかと思いました。結果、かなり変な曲になりましたね。「ここでこうなるのは理論的におかしい」「このジャンルでこの展開はありえない」と言ってくる人もおるかもしれないですけど、「なんでもええやろ」という気持ちで。俺がいいと思ったものをとにかくぶち込んでいるので、急にわけわからないセクションが来ることもあるという。

音山大亮（Vo, G）

──ゲーム音楽っぽいフレーズもあるし、ファンクかと思えば、ボサノバに変化する。本当にさまざまなジャンルが取り入れられていますよね。音山さんの幅広い音楽ルーツを感じます。

音山　特に2番以降は「ここからはpachaeの世界だ！」という意識を持って作りました。アニメをきっかけに初めてpachaeを知ってくれた人からは、最初は「『アイノリユニオン』のバンド」として認識されるわけじゃないですか。アニメで流れる89秒を聴いて気に入ってくれた人はフルサイズを聴きにきてくれると思うから、そうなったときに1番と同じようなことを繰り返すんじゃなくて、変わり種のアレンジにしたほうが、またほかの曲も聴こうという気持ちになってくれるのかなと思って。だから、だいぶいろいろな要素を入れましたね。間奏のサンバみたいなところとか、わけわからんと思うんですけど。

バンバ　あの謎のまったりパートね（笑）。

さなえ　どこまで本場っぽくできるか、みんなで練習したよね。

音山　そうそう。「跳ねが難しい」って言いながら。このギターソロは僕が弾いているんですけど、異常に難しくて、ゆっくりじゃないとまだ弾けないですね……。ライブまでにいっぱい練習しなあかんなと思ってます。

ある意味ロックな曲

──「アイノリユニオン」の歌詞では愛情が描かれています。歌詞の内容についてはどのように考えていきましたか？

音山　アニメの物語にいろいろな展開があるので、どのエピソードのときに聴いても作品とマッチする歌詞がどういうものなのか、考えるのに時間がかかりました。最初に書いていたものを全部ボツにしたり、原作を全部読んでからバーッとセリフを書き出してみたりしましたね。恋愛に限らない愛をテーマにした歌詞にできればと思っていたんですけど、そういうものにちゃんとできたんじゃないかと。

──「僕らは僕らの愛には敵わない」というフレーズが印象的でした。

音山　自分の精神が幼いと感じる瞬間は、たぶん大人にもある。きっと「妻、小学生になる。」の主人公たちもそうで、このアニメの中では愛をきっかけに彼らが大切なことに気付くシーンがたくさん登場するから、愛が彼らのことを成長させてくれているんだろうなと思って。幼い自分のことを愛が引っ張ってくれている、だから愛には敵わないんだ、というイメージです。

さなえ　「アイノリユニオン」は明るくて楽しい曲やけど、歌詞を読むと「つらい気持ちを持ちながらも強く生きていこう」という思いを感じるんですよ。だから聴いていると不思議な感情になるときがあります。この前も、車の中で聴いていたらふと歌詞が耳に入ってきて、ポロポロって涙が出てきちゃったんですよ。

さなえ（Key）

音山　まるでファンやん（笑）。

さなえ　私にとっては、そのくらい感情的にさせられる曲なんです。

バンバ　僕は、ある意味ロックな曲だと思ってます。最近のチャートで上位の曲とか、世間で流行ってる曲は、ミニマムな構成のものも多いじゃないですか。これだけいろいろな展開のある構成で、愛のことを歌ってるなんて、ある意味めちゃくちゃロックやんと。意図せずかもしれないけど、実は最近の音楽シーンへのカウンターになっている気がする。

音山　そこは意図してなかったかも。

バンバ　都会の人ほど、ごちゃごちゃしてるところに住んでるのに、音楽は削ぎ落としまくってるなって思うんですよ。あれはなぜなんですかね？

音山　なんでだろう？（笑） 今をときめくアーティストの曲を聴いても、「ベースとドラムしかおらんやん」みたいな曲はけっこうあるし、引き算の美学は確かにあると思うんですよ。だけど「アイノリユニオン」は引き算の“ひ”の字もない曲やし、今のpachaeは足し算から逃れられない運命に入りつつあって。僕はもともとジャズやフュージョンをやっていたので、詰め込みすぎてしょうもない音楽になる危険性もわかっているんですよ。だから考えなしに足すような、ナンセンスな曲にならないようには気を付けたい。

バンバ　ちゃんと中身の詰まった、ジューシーな音楽にしたいよね。

バンバ（G）

音山　そうそう。いつか引き算の曲も作り始めるかもしれないけど、今は足し算しまくりのジューシーフルーツでいたいです（笑）。

──最後に、今後の活動のビジョンについて教えてください。実現させたい夢や目標はありますか？

音山　最近は目標をあんまり決めすぎないほうがいいのかなと思っていて。アニメをきっかけに、普段ライブハウスに行かない人にも知ってもらえたらうれしいなと思いつつ、基本的には自然に身を任せたいと思っています。

バンバ　ライブとか、目の前のことを堅実にやりつつね。

さなえ　何事にも全力で向かっていくのが大事なんじゃないかと。

音山　うん。今できることを全員が最大限やっていれば、それにふさわしい景色が見られるはずだから、大きな野望を持つ必要はないんじゃないかと思ってます。やっぱり自分たちが楽しむことが一番。今まで憧れてきたアーティストと肩を並べたうえで、その人たちとは全然違う個性を、音楽を通じて“ハナテン”していけたらなと思っています。

pachae