オリジナル曲を後半に持ってきた理由
──EPには裕哉さんのオリジナルも2曲収録されています。
今回はある種の合作感を出したかったんですよね。
──尾崎豊と尾崎裕哉のスプリット盤みたいな感じですよね。
そうです、そうです。自分のオリジナルを後半に持ってきた理由はすごく明確にあります。歴史をつなぐには過去がまず最初に来ないと成立しないんですよ。だから今回は父親の曲から始まって、そのあとに僕の曲が来る流れにしました。時の流れを意識した構成になっているので、けっこうナチュラルに楽しんでもらえる1枚になったと思いますね。
──「僕がつなぐ未来」「迷わず進め」はいつ頃できた曲なんですか?
これは去年の秋くらいかな。僕の知り合いが新潟ローカルのドラマを作ることになって。その主題歌とエンディング曲を書いてほしいって頼まれたんですよ。主人公が、米を炊く炊飯の道を歩んでいく「炊飯道」というドラマで、“代々”とか“受け継ぐ”というワードが作品のコンセプトにありました。それは僕の中のテーマとも合致するところでもあったので、ぜひやらせていただこうと。2曲ともいわゆる朝ドラを強くイメージしつつ、有名な作詞家の方が使いそうなキーワードをちりばめました。
──職業作家的な視点で書いたところもあったんですかね。
もちろん自分の曲ではあるんだけど、「ドラマのために」という出発点があったので、今回は思い切り遊んでやろうと思って(笑)。そのほうがドラマにもマッチするだろうなと思ったし。
──とはいえ「僕がつなぐ未来」の冒頭、“託し続けるバトン”というフレーズには、本作にも込められている尾崎豊さんとの関係性が浮かんでくるものになっています。裕哉さんの思想のようなものがしっかり込められていますよね。
そこはもう大前提というか。僕にとって音楽は、自分の思想を表現するためのものですから、ドラマのために書く曲であってもそこは変わらないんです。自分の思いがちゃんと伝わるのであれば、どんな言葉選びをしてもいい。今回はドラマとのコラボがあったから、ちょっと遊んだ部分もあったということですね。
──この曲はかなりアンセム感が強い仕上がりです。
ね! 自分で作ったときは、ここまでアンセム感が出るとは思ってなかったんですけど、トオミさんがアレンジで掛け声を入れてくれたことで、そういう印象が強まりました。ここまでポップス感が出たのは、「Glory Days」(2017年10月リリースのシングル「SEIZE THE DAY」収録曲)以来かもしれないですね。この曲はすでにライブでもやっているんですけど、みんな楽しんでくれています。歌詞にある“一歩”の部分では人差し指を上に上げてくれるんです。ファンの方は、そういった盛り上げ要素みたいなのを作るのが本当に上手ですよね。
──一方の「迷わず進め」はテンポもグッと落としたミディアムナンバーです。
この曲は書くのが難しかったんですよ。曲自体はけっこう前からあって、そこに仮の歌詞が乗っている状態でした。当初は「似たもの同士」という曲だったんです。それを改めてドラマのエンディングテーマとして作り替えるのに苦戦しました。ドラマの主人公が挫折する瞬間の心情に寄せて歌詞を書いていったんですけど、あまりに寄りすぎたのかどんどん自分自身が暗くなっていっちゃって。真っ暗闇で何も見えない、みたいな(笑)。でも、音楽は明るい要素、希望を感じる要素を持ったものでないとダメだと思って何度も書き直していきました。そのときの感情が冒頭のAメロに色濃く出てると思います。
──「誰にも言えなかったような 暗い話題じゃ誰も喜ばないから」「冗談ばかりの明るい性格 悲しみは笑顔で隠せるから」のところですね。このパートも含め、「迷わず進め」には裕哉さんの本音が詰まっているような印象も受けました。
確かにそうだと思います。冒頭のパートに関して言えば、僕は基本、誰かに相談ごとをするような人間ではないので、悲しいことや悩んでることがあったとしても、全部1人で抱えて解決しようとするタイプなんですよね。
──対外的には笑顔を見せて。
そう。なんでそうなのかなって考えると、結局、人に気を使いすぎてるんだと思うんです。「ごめんね、こんな話つまんないよね」ってすぐ思っちゃう。そんな自分自身がこの曲には素直に出てると思いますね。ドラマきっかけの曲ではあるけど、何回も推敲していく中から出た言葉なので、より自分という人間の本質に近い歌詞になりました。
──おしゃれで雰囲気のあるサウンドと、その上を流れていく温かなボーカルが印象的です。
ギター1本で作ったデモをトオミさんがアレンジしてくれたんですけど、頭からキャッチーなフレーズを作ってくださってすごくうれしかったです。僕の中でトオミさんは“イントロ天才”。歌はあまり意識せず録ったんですけど、本当に温かな雰囲気になったなと自分でも思います。けっこうキーが高いんですが、曲の雰囲気的に声を張り上げる感じではないので、自然とファルセットをたくさん使う歌い方になりました。全体的にソウルっぽいおしゃれさがあるのに、歌詞はすごくいなたいっていう、そのアンバランスさも結果的によかったのかなと思ってます。
やりたい音楽にはたどり着けていない
──現在の裕哉さんは7年ぶりとなる弦楽アンサンブルによるコンサートツアー「尾崎裕哉 Strings Ensemble Premium Concert 2023」の真っ最中ですが、今後の活動ビジョンをどのように考えてますか?
具体的なことではないんですけど、自分のソングライティングをもっと突き詰めたいと思っている時期でもあるんですよ。そのときどきのベストを出して作品作りはしているけど、自分が思い描く本当の意味でのやりたい音楽にはたどり着けていない感覚があるので。「もっと行けるんじゃない?」という思いを、今年はしっかり具現化していきたいです。
──そこに至るためには何が必要だと思いますか?
さっきも言いましたけど、僕は基本的にアレンジは丸投げタイプなんですよ。今まではそれですごくいいアレンジにしていただけてましたけど、今後は明確な設計図を渡したうえでアレンジしてもらうことも必要かなって思うんです。例えば曲の展開をもっと複雑にしたいというイメージがあったとしても、今の僕はそれをうまく伝えられないところがあって……デモの段階からそこがちゃんと伝わるようにしておくこと、そして、自分のイメージ通りの曲にするためにもう少し全体的にハンドリングするスキルの必要性を感じています。そのためにもっといろんなことをインプットしなきゃなって思いますね。
──そのインプットというのは、いろいろな音楽に触れたりということですか?
いや、僕の場合は楽器を触るってことじゃないかな。そこで鳴った音を使って何ができるかを考えることが自分にとっての刺激になります。基本はギター以外、そんなにいろんな楽器を弾けるわけじゃないんだけど、ピアノを買おうかなとか、メロトロンを買おうかなとか、そんなことはけっこう考えてますね。シンセにしてもパソコンのソフトシンセだけだと音の構造があんまり見えてこない。だからできるだけ実機を触っていこうと思ってますね、今は。
プロフィール
尾崎裕哉(オザキヒロヤ)
1989年東京都生まれ。2歳のときに父でありシンガーソングライターの尾崎豊と死別。その後母とともにアメリカに移住し、15歳までボストンで過ごす。帰国後にバンド活動を開始し、大学生活と並行しながらライブや楽曲制作などを続ける。2010年から2013年に「CONCERNED GENERATION」、2013年から2015年に「Between the Lines」と、InterFMのレギュラー番組でナビゲーターを担当。大学卒業後、2016年7月にTBSテレビ系「音楽の日」で初のテレビ生出演を果たし、大きな注目を浴びる。同年9月には東京・よみうり大手町ホールで初のホールコンサートを開催し、初の配信シングル「始まりの街」をリリース。2017年3月に初のCD作品「LET FREEDOM RING」、2020年10月には初のフルアルバム「Golden Hour」を発表した。弾き語りワンマンツアー「ONE MAN STAND」や、バンド編成でのツアー「INTO THE NIGHT」、フルオーケストラと共演するビルボードコンサートなど、さまざまなスタイルで精力的なライブ活動を行い、2023年4月より弦楽アンサンブルコンサートツアー「尾崎裕哉 Strings Ensemble Premium Concert 2023」を開催。4月5日、尾崎豊の代表曲「I LOVE YOU」「OH MY LITTLE GIRL」のカバーを含む新EP「I LOVE YOU」をリリースした。