尾崎裕哉の弦楽アンサンブルコンサートツアー「尾崎裕哉 Strings Ensemble Premium Concert 2023」が4月7日にスタートする。
2016年9月4日、東京・よみうり大手町ホールで行われた弦楽を交えた「billboard classics 尾崎裕哉 premium concert -『始まりの歌』-」でホールコンサートデビューを飾った尾崎。そこから7年の月日を経て、彼は再び本格的な弦楽アンサンブルコンサートに挑むこととなる。音楽ナタリーでは、ツアーのスタートに向けて準備を進める尾崎にインタビューを行い、本ツアーの音楽監修とピアノ演奏を務めるジャズピアニスト・宮本貴奈氏に同席してもらいながら、コンサートに懸ける思いや期待を語ってもらった。
取材・文 / もりひでゆき
弦楽は聴き手を飽きさせない
──2016年9月4日、尾崎さんはご自身にとっての初ホールコンサート「billboard classics 尾崎裕哉 premium concert -『始まりの歌』-」を東京・よみうり大手町ホールで開催されました。その日は弦楽カルテットにピアノを加えた編成でのパフォーマンスでしたよね。
尾崎裕哉 そうでしたね。あの日の僕はまだデビューしていなくて、コンサートの最中にメジャーデビュー音源のリリースを発表をさせていただいたんですよ。そんなタイミングでいきなり弦楽アンサンブルとともにパフォーマンスするなんてなかなか珍しいことだし、それをやってのけた自分に対しても奇跡的だったなとは思います(笑)。
──それ以降の尾崎さんは弾き語りやバンド編成で、オーケストラとの共演も何度かされています。そんな中、弦楽を加えたコンサートはご自身にとってどんな意味合いがあるのでしょうか?
尾崎 ある意味自分にとっての原点でもあるし、いろんなコンサートのスタイルを経験したうえで言うと非常にぜいたくな座組であるとも感じています。その一方で、音楽のいろんなものをそぎ落とした形が弦楽なんじゃないかなとも思っていて。シンプルという意味では、僕がギターを持って1人で歌う弾き語り以上のものはないと思いますけど、いわゆる室内音楽を楽しむ文化としての歴史が長い弦楽は、弾き語りに比べて、聴き手を飽きさせない部分も大きいですよね。アンサンブルのバリエーションや、そこで見せられる表現もいろいろ作ることができますし。僕と同世代で弦楽のコンサートをやられる方はあまりいらっしゃらないですけど、僕からすると「なんでやらないんだろう?」という思いもあります。
──そこには音楽的な楽しさを強く感じているわけですね。
尾崎 弦楽は音と音の間にスペースがあるんですよ。演奏する方々はクリックを聴きながらやってるわけじゃないから、それぞれの音に呼吸感があったりもします。だから、弦楽はお互いの音をしっかり聴きながらやることが大事になってくる。バンド編成のライブにおいても、それぞれの楽器が呼吸を合わせているのは間違いないですけど、ボーカリストである僕の立場からすると、そこまでバンドの音を聴かなくても、テンポさえわかれば歌えちゃいますからね(笑)。そういう意味で弦楽は非常に集中力が求められるし、音の響きという波に包み込まれるような感覚で歌っていくことになる。それはお客さんに向けても、より歌が届けやすいスタイルのような気がするので、すごく楽しいんです。
──弾き語りやバンド編成とは違った歌が引き出される部分もありますか?
尾崎 弦楽のコンサートをするクラシック専用ホールは音の響きがいいので、モニタにそこまで頼らなくても歌えるんですよ。だから、もちろんマイクは通しますけど、自分がもともと持っている“デカい声”を響かせることをより意識できる側面があります。結果、楽器としての声というか、声楽に近い部分を感じてもらえる歌になっていくような気がしますね。
──楽しさがある一方、弦楽を背負って歌うことへの緊張はいかがですか?
尾崎 緊張はないかな。僕はギターも歌も全部独学でやってきたんですよ。なので僕より音楽IQが高い方々が参加してくれている弦楽スタイルのコンサートでは、ちゃっかりおんぶしてもらおうかなっていう気持ちでやっています(笑)。
まっすぐな歌を邪魔しない音作りを
──そんな尾崎さんにとって7年ぶりとなる本格的な弦楽アンサンブルコンサート「尾崎裕哉 Strings Ensemble Premium Concert 2023」の開催が決定しました。今回のインタビューでは、音楽監修とピアノの演奏を担当される宮本貴奈さんとの音合わせの現場にお邪魔しているわけですが。
宮本貴奈 実は今日、初めて音合わせをさせていただいて。先ほど2曲の音を合わせたんですけど、尾崎さんの歌声にさっそく惚れました。
尾崎 あははは。
宮本 なんてまっすぐな表現をされる方なんだろうって思うんですよね。もちろん音源からも同じことを感じてはいましたけど、生の歌声はまた本当に素晴らしい。そのまっすぐな歌を邪魔しないような音を一緒に作っていけたらいいなと思っているところです。ちょっと話は逸れるのですが、先ほど尾崎さんと私が、かつて同時期にボストンにいたことが発覚しまして……。
尾崎 僕は5歳からの10年間をボストンで過ごしたんですよ。
宮本 私は18年間アメリカで生活していたんですが、ちょうど尾崎さんがボストンにいたのと同じ時期にボストンのバークリー音楽大学映画音楽学科、ジャズ作曲学科に通っていたんです。
尾崎 不思議なご縁ですよね。
宮本 ね。私はシンガーさんのサポートをすることがすごく多いのですが、自分ではその方々の物語を音で描くことが天職であると思っているし、ストリングスやフルートを使った管弦楽というスタイルを通して、シンガーの方の物語やメッセージを鮮やかに描くことができている実感があります。ただ、そういった表現に向いていないアーティストの方がいるのも事実なんです。
尾崎 へえ。
宮本 でも尾崎さんは向いているアーティストだと思うんですよ。ものすごく大きなストーリー性、メッセージ性を持っている方なので、弦楽アンサンブルはまさにグレートマッチだと思っています。
尾崎 うれしいな。ありがとうございます。
──だからこそ尾崎さんの中には、無意識に弦楽と共鳴し、それを欲する感情があるのかもしれませんね。
尾崎 そうかもしれないですね。そもそも7年前の弦楽スタイルのコンサートは人から勧められてチャレンジしたものではありましたけど、客観的に見ても「自分に合っているんだろうな」という感覚はありました。デビュー前の新人時代にやり遂げられたことを考えても、自分には向いているような気がしますね。
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